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井上さく子先生の 子どもに学ぶ 21世紀型保育
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第3回
言葉のもどかしさと葛藤の中で

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園庭の端に赤い屋根の小屋がある。その回りにテーブル1台と青と赤の牛乳ケースが積み上げられている。
無造作に重なりあっているケースを足場に登ったり降りたりしていた。そのときにつとむくんが大きな声で仲間を呼ぶ。その声に気がついたゆりちゃんが、
「どうしたの?」と聞いてから、ケースを移動していた。
やっとの思いでつとむくんの足場ができてその場をしのげた。
でもつとむくんの乱暴な口調と大きな声に怖がる空気も漂う。
この遊びに着目して、限りなく寄り添う。

赤い屋根をまたいで座ったり降りたり、3~4人で関わっている様子は掴めても何をイメージして遊んでいるか定かではない。

突然目の前で2人の男の子がケンカを始めた。
ごっこ遊びが白熱し、小屋が火事になると思ったらしい。「小屋の窓に広げてさしている傘をたたんで傘立てに入れて!」と、つとむくんが何回も強く命令する。
すぐに答えずに「何でだよう!」と抵抗する男の子。
激しくぶつかり合った先で、つとむくんは、思いっきり友だちを叩いて泣かせてしまった。

かなり感情的になっていて、叩かれた子どもは泣きながらなおも
「だからなんでかを言ってよ!」
と訴え続ける。
2人のぶつかり合いこそが「大火事」になっているよう。

激しいぶつかり合いの場面に、『担任が居合わせていたらどんなふうに関わり援助するのだろう?』と思いながら見守る。
つとむくんは感情的になりすぎて自分でもどうしていいのか途方にくれている感が伝わってきた。
その言葉はさらに激しくなり、とうとう「小学校に行ったらボコボコにしてやる! 覚えてろよ!」

泣いている友だちはさらに傷つく。そこへ待ってましたとばかりに担任がきて、泣いている子どもにその訳を聞いていた。
つとむくんも呼ばれていきさつを聞かれていた。
お互いに叩いたことも叩かれたことも言わず、火事と傘について話していた。

納得はしないままに、食事の前の片づけが始まる。
それでも子どもたちは、次の活動に向かっていく。

激しいぶつかり合いの中で、とことん「なぜ?」を知りたがり、「なぜ?」に答えようとする5歳児の世界。

大人が介入しない世界で必死に「何とかしよう!」「何とかしたい!」と、もがくプロセスに大切な育ちの芽があるということに気づかされた。

皆さんだったら、この状況をどのように受け止めて援助するのでしょう?

とことんぶつかり合った先の答えは子どもたちが出せるように導くことこそ、プロの役割だと思いませんか?

つとむくんの育てられている環境もみてみると、父親のしつけが厳しく、受験をひかえていること、やがてお兄さんになることなど、家族の風景がここにある。
『もがき葛藤し、自己コントロールができなくなることもあっていいのよ』と受け止める器を大きくできますか?
そんなふうに問われているエピソードでもあります。

集団生活の中で、仲間と共に育ち合う体験こそが、生きる力の土台づくりになっていくと信じています。

個の育ちがこのような激しい葛藤も含めて、受け止められて保障されて初めて、集団生活が成り立つことの「本物」が成り立つと思いませんか? 
それを一緒につかんでいきませんか?
第三回補正済イラスト.jpg

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