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井上さく子先生の 子どもに学ぶ 21世紀型保育
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第12回
涙が水とともに

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大きなタライに水を入れて

しゃがんで大泣きしている2才の女の子。

その傍らに大人がちゃんと寄り添っています。

その光景に着目を!

なぜ泣いているのか?

なぜこれほどまでに激しく泣いて訴えているのか?

その訳を知りたくて、保育士と女の子の対話に耳を澄ましていました。

どうやら、タライの水を自分で運びたいと訴えていることが伝わってきました。

そうこうしているうちに、他の子どもたちが、次から次へとやってきて、タライの水をじょうろやペットボトルに入れて持っていこうとします。

女の子はタライの水が他の子にすくわれるたびに、叫ぶようになおも泣き続けていました。

大人はじっとずうっと寄り添っています。水を運んでいく友だちの後ろ姿を目で追いながら、同意をもとめるように傍に寄り添う大人の目を見ていました。

その時に

「どうする?」

と小声で囁いている空気を感じることができました。

泣きには訳があることを知らずして、

「どうして泣くの?」、「泣いていたらわからないでしょ!」

「泣き終わったら聞くね」、「泣かないでちゃんと話してごらん!」

等々、大人の都合で畳みかけがちなこの風景、皆さんだったらどのように受け止めるのでしょうか?

心のゆとりと時間のゆとりがあれば、しっかりと子どもと向き合うことができるかもしれません。

ゆとりがあっても、受け止めようとしなければ、泣きを子ども自ら切り替えることができないと思いませんか?

さみしいかな、

大人の都合で泣き止ませてしまう光景を保育現場で目にすることがあります。

泣き止ませることよりも、その訳をひも解き、泣いている子どもの心持ち知って感じて、言葉にして添えてほぐしてほしいと願います。

大人と子どもの心持ちが繋がったときに、ホッとして泣きを切り替えることができるようになります。

まさに、そのことを見せてくれたタライの水と2才の女の子の物語です。

あれほど全身を使って、泣いて訴えることができる女の子を見守りつつ、保育士がそれを受け止めている関係性を目の当たりにして、全ての子どもたちの自我の芽生えをこんなふうに受け止めてくれる大人がいてくれたら、それだけで幸せな心持ちになれると痛感しました。

その女の子の行方は?

タライから友だちが水を運んでいってしまったことが幸いして、水の量が減り、自分の力でタライをズリズリと押し始めたのです。

途中から他のクラスのお姉ちゃんに助けてもらい、タライを持ち上げて砂場まで運んでいました。

お姉ちゃんと女の子の身の丈のバランスがなんともほのぼのとする景色です。

『傾いたタライから残り少ない水が溢れますよ!』

長泣きの時間に比べると、その水は砂場に一瞬にして消えていったのです。

女の子の願いはこうして叶えられました。

その後の食事の風景で、2才の女の子と目が合いましたが落ち着いて食事に向かっている様子は実にさわやかでした。

さまざまな体験を通してもがき葛藤しながら、心持ち豊かに育まれたエピソードでした。

第12回涙は水と共に.jpg

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