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井上さく子先生の 子どもに学ぶ 21世紀型保育
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第15回
晴天の園庭に早朝から集う子どもたち

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第15回←第17回晴天の園庭.jpg

吹く風は頬に冷たく感じる、冬の気温。

それでも子どもたちにとっては、どこ吹く風と言わんばかりに、水道の水を出したり止めたり運んだりと忙しく遊んでいます。

寒くて動けないと思ったり、冷たい風さえやんでくれたらと思うのは大人だけ。

風の冷たさも触れて知って感じて取り込み、水の冷たさも夏とは違うことも、触れて本当の冷たさを知ろうとする子どもたちです。

指先が赤くなってもやめようとしない子どもたちに、どこまで見守り言葉を添えていくのか、いかないのか?

夏とは違う水遊びの風景を大人たちはどのように感じて受け止めるのだろう?

ふと大人の感度に興味、関心をいだきたくなります。

少なくとも今日行った保育園では、危険が伴わない限り子どもの力を信じて寄り添っています。

大人に止められたり、注意されたりしない安心の世界で、一つのことを飽きるまで取り組める解放感を抱ける子どもたちは、こうした体験を重ねながら力加減をコントロールしていきます。

水道の蛇口をひねり、空きペットボトルに水をためようとする1歳児。

蛇口から出る水が風に揺られて、ボトルの口から外れてしまう様子を遠くで観察していると、誰に助けを求めることなく、何回もあきらめずに試していました。

自分よりも大きいお兄さんやお姉さんが当たり前にできることであっても、ぼくはまだその途上で葛藤しています。

できるとかできないとかではなく葛藤しながら、なんとかペットボトルいっぱいに水を入れて運びたいという願い。そのプロセスに意味があることに気づける大人はどれだけいるのでしょうか?

とかく大人の都合で蛇口をコントロールしがちな世界ですが、子ども自ら蛇口の操作ができるようになると出しっ放しから、出したら止める、止めたらまた出す力が蓄えられていきます。

そうなると心から子どもの力を信じて向き合う大人になれます。なっていけます。

全体の園庭の風景を見渡しながら、移動した先は、さっきまで異年齢交流が盛んだった遊びから、食事に向かう子どもたちです。

1人、2人と園庭から保育室に戻っていく子どもたちを想定内にして、築山の周りに置き去りにされているタイヤを目にして何かを仕掛けたくなりました。

その結果、数あるタイヤの中から紐付きのタイヤを見つけて、築山の周りにタイヤの跡を残していきました。タイヤの大きさや幅の分でタイヤの跡がついていくと、2歳の男の子が駆けてきて一言、「乗りたい!」と言います。

「どうぞ!」の言葉でタイヤの中に座り地面に尻もちをついて、自分の両足で地面をトントンしながらバランスを取っていました。

タイヤを引っ張る私を見て、にっと笑っています。タイヤに直接座らないところに、その子の心と身体の育ちが伝わってきます。

少し進んだその先で「ぼくも乗りたい!」と言って入ってきた子どもはタイヤの上に座ってバランスを維持していました。

築山の周りから、さらに動きを広げて、鉄棒の下をくぐり抜け、また築山の上を目指して引っ張っていたときのことです。

今度は同じ2歳の女の子たちが4人で駆けてきて

「引っ張りたい!」と言ってきました。

2人から6人になり、手伝ってくれたのは良かったのですが、だんだん傾斜がきつくなり重くなってきました。

女の子たちといっしょに「重い重い」と言いながら引っ張っているとタイヤに乗っている男の子たちは「重くない重くない」と言いながら、身を任せていました。

それぞれが言っていることばが繋がっているようでいて、繋がらないところが2歳児らしいと思いながら。

あと少しで築山の頂上に着くというところで、その様子を見ていた大人がそばにきて、さり気なく力貸してくれたのです。

『気づいてくれてありがとう!』と心から思ったこと、大人同士が気づき合うとは正にこの瞬間の場面を指して言えること。

素直に感謝の心持ちを抱きました。

そのときです。

男の子たちを乗せたタイヤを引っ張る1人の女の子が私につぶやいた言葉が、さらに私の心持ちを幸せにしてくれたのです。

「わたしたちトナカイなの!

のっているのがサンタさんなの!」

思わず物語の世界に吸い込まれました。

なんて素敵! まさしくメルヘンの世界でした。

子どもたちのつぶやきを耳にするたびに、子どもたちの感性の素晴らしさに大いに刺激されました。

仕掛けたつもりのタイヤの世界の始まりが

こんなふうに展開するとは想定外でした。

子どもから学ぶ視点をぶれずに据えていくことの本物を2歳の子どもたちから教えてもらいました。

大人の願いがきっかけに、子どもの願いがきっかけに、どこかでその願いが重なりあったときにこんな風に物語が生まれてきます。

すべての子どもたちは、毎日、物語の中で大きくなりたがっていると思いませんか?

(12月は2回更新のため、次回更新は2月1日です。お楽しみに!)

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