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井上さく子先生の 子どもに学ぶ 21世紀型保育
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第8回
葛藤しながら

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「じゃんけんで順番を決めよう!」

年長の男の子6人が、しゃがんで頭をくっつけています。何を決めるのかその言葉に耳を澄ましてみると

どうやら、タッチボールという遊びの順番を決めるためのじゃんけんであることが分かりました。

6人の中でリーダーシップをとるのが、つばさくんです。

一斉に「最初は、ぐー!」で始まります。

「勝った人はこっち!」

「負けた人はこっち!」と指示出し。

大人顔負けのテンポで、さっさと決めていきます。

その言葉に従ってスッと2つのグループに分かれていました。

「今度は勝った人同士でじゃんけんして!」と言われると、一瞬のうちに言われていない負けたグループもじゃんけんをします。

ここまでは、とてもスムーズに進んでいき、大人を必要としないやり取りを感じることができました。が、この後から仲間関係に少しずつズレが生じてきたのです。

じゃんけんを最後までやり通さずに、残すところあと一回というところで

「ここからは僕が順番を決めていくからいい?」

と言うのです。

仲間の返事を待たずに

「1番、2番、3番、4番、5番、6番、はい! この順番にするよ。......はい! まあるくなって今の順番で並んで」

『なんのためのじゃんけんだったの?』と、誰も言葉にこそ出しませんでしたが、一人ふたりと友達の顔が曇り始めていました。でも知ってか知らずかつばさくん、

「僕の説明を聞いててね! はい、って隣の人にボールを渡すのね。落とさないようにね。落としたらおしまいだよ!」

言われた通りに、ボールは手から手へと渡され、動いていきました。

1周り、2周りまで、いい感じでボールはまわっていたのですが、3周目になってから、アクシデントが起こりました。

ボールを持ったけんたくんが最後のおさむくんに渡そうとしたときに、突然一緒にいたみことくんが

「わざと取れないボールを投げると絶対外すよ!」

と言い、聞いたけんたくんは高く投げてしまいました。

「ほらね、外したでしょ!」

『なぜ?』と思いましたが、子どもたちは誰よりも仲間の力関係を知っています。

『最初から気持ちよく遊びがスタートしていない葛藤をここで出しちゃったの?』と思わずにはいられませんでした。

良いことだけではなく、さまざまな場所で、遊びで、こんなふうに心持ちを表現するのも子どもたちの世界です。子どもたちは、楽しいことも、つまらないこともシビアな遊びの世界で学んでいくのです。

案の定、おさむくんはキャッチできませんでしたが、すぐにボールを追いかけていき、両手で抱えながら屈託のない笑顔で戻って来ました。

おさむくんは気にしていないように見えましたが、仕掛けたみことくんは力関係を試しているかのようにも見えました。

その時です。

外すように投げたけんたくんが

「やーめた!」

と言ってその遊びから抜けて、脇に座り込みました。すると、外す投げ方を指示したみことくんも同じようにやめて、けんたくんと並んで座り込んだのです。そしてタッチボールを続けている友だちに向けて小声で

「やーめた! やーめた!」

と何回も繰り返しアピールしました。

でも、相手にその声が届いていないことに気づくと更に、大声で

「やーめた!」

と言いながらその場を離れて、2人だけでキャッチボールを始めていました。

2人はリーダーシップをとっているはずのつばさくんに不満を抱いているようにも感じました。

つばさくんは、抜けた2人に動じることなく4人で次の遊びの相談をしていました。ここで「なんで!?」のことばが飛び交うのかな? と思っていましたが、想定外でした。

ここでも、子どもたちの内面の育ちを見た気がしました。

次の遊びは、どうやら「赤玉ボール遊び」のようです。

どんな遊びなのでしょう?

同じようにつばさくんが、説明をしようとしていました。が、友だちは

「赤玉ボールはむずかしくて無理!」と言います。

「わかったから、わかったよ! 要するにこうなの。ぼくの説明を聞いてくれる?」とつばさくん。

言葉の出し方に大人っぽさを感じますが、内面の育ちはいかに?

ボールを抱えながら、跳んだり跳ねたり、止まったりしながら動いて見せて説明をしていきます。しかし他の3人も、

「よけい分からなくなったから、やめる!」

と言ってつばさくんから離れて行ってしまいました。

つばさくんは、だからと言って、怒ったり引き止めたりすることなく、サッカーゴールのネット裏に隠れて友だちの様子をながめていました。

大人がいなくても自分たちで相談して遊べるかのようでしたが、この傍らに大人が寄り添っていたら、この場の風景はどのように変わるのか、変わらないのかと思ったエピソードです。

一方では、一人ひとりの遊び力や内面の育ちの違いを感じました。

『いつもケンカがないのが良いことなわけじゃないから、内面に秘められたもがきや葛藤をもっと納得いくまで真っ向からぶつかり合ってもいいんだよ! そこを乗り越えたときに、仲間関係が強くなっていくんだよ!』

と、心の中でエールを送り続けていました。

リーダーシップをとろうとしたつばさくん、今回は自分の思い通りに仲間を動かしたい心持ちが先行してしまい、遊びは長く続きませんでしたが、またこれを機会に何かを考えたり感じたりしたかもしれません。

仲間関係のやり取りの中で、子どもたちはその関係性を鋭く見抜く力をもっていることにも気づかされた一つの物語でした。

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