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井上さく子先生の 子どもに学ぶ 21世紀型保育
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第9回
シンプルな世界で本物探し

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0歳児クラスのときに出会ったじょうくんは、先日再会したときには1歳児クラス所属の2歳になっていました。

初めて出会った赤ちゃんのときは、まだ歩行もままならぬ様子で、私が仕掛け始めた世界を遠くからずうっと見ていたじょうくんです。

そのとき私は、子どもたちがつかまり立ち・つま先立ちをし、手を伸ばしてやっと届く高さの衝立の上に、身近に転がっていたひも通しの道具を一つひとつ並べていました。

ゆっくりとゆったりと並べる私の動きを遠くから目で追っていることも想定内にしていると、並べ終わった瞬間に遠くからハイハイで移動してきました。

つかまり立ちして、背伸びして、片手を伸ばして、一個の道具に指が触れるとその度にポトン! と床に落ちてコロンコロンと転がるのです。音を耳にした瞬間に

「あっ?」

とかわいい声を上げ、同意を求めるように私の目を見ます。

「落ちちゃったね!」

とことばを添えると床の方に目を向けます。一個いっこ確かめては、何回も同じことを繰り返し私の反応を見て、

笑い、

「あっ?」

と声を出します。

こうして、試し試されながら、本物をつかんでいる、またはつかもうとする一瞬一瞬を受け止めて共有、共感ができる大人であり続けたいと思っています。

じょうくんが2歳になってからも、時々しか会わない私を覚えてくれています。必ず、私を見つけると駆けてきます。

そのときの儀式(?)があるのです。砂場道具のカップを持ってきて、ごちそうに見立てて「どうぞ!」と渡してくれるのです。

「いただきます」

「ごちそうさまでした」

のやり取りから、ことばを変えて渡していきます。

「あまーい!」

「からーい!」

「あっつい!」

「にがーい!」

など、感情を込めて違うことばを添えるたびに、足踏みをして笑って喜びます。

タイミングを見て

「ごちそうさまでした」

と言うと

「違う違う! やって!」

と怒ってしまいました。

ここまでは、1対1のやり取りでしたが、いつの間にか1人、2人と子どもたちが集まってきました。何回も食べた後の反応を試しては、一緒に笑いながら、お互いの顔を見合っていました。

一通り体験すると、今度は子どもたち同士でやり取りを楽しんでいます。

道具と手は止まっていますが、言葉のやり取りだけではしゃいでいます。

屈託のない笑いの世界がなんとも幸せなひとときです。

大人は退いてその場を見守ることにしました。

子どもは2歳の声をきくと、こんなふうに刺激を取り込み、再現をして、「大人よりも友だちと一緒が楽しい」を学んで力を貯えていきます。

子どもたちの関係性を見ていると、求めていることや必要としていることは、実にシンプルです。こうして気づかされることがたくさんあります。でも気づこうとしなければ、気づくことができないことも確かです。

このシンプルなやり取りや繰り返しの体験を通して、豊かな感性が育まれていくと思いませんか?

0、1、2歳の時期の子どもたちを、まだまだ一斉に活動させざるを得ない保育の風景を目の当たりにすることがありますが、子どもたちを動かすのではなく、子どもたちが主体的に動き、自ら選んで遊べる環境をデザインしていきませんか?

"どうしたらいいの?"

―――子どもを観察する力をつけることによって、答えは目の前の子どもたちが教えてくれると信じています。

第9回修正初校.jpg

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