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井上さく子先生の 子どもに学ぶ 21世紀型保育
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第17回
ごっこ遊びで創る自分の世界と他者の心持ち

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三輪車の女の子が、乗って今から走ろうかな?
そこへ男の子が駆けてきて、

「それぼくが使ってたあ!」と言う。
「違う私が使っているの!」
『三輪車を取り合うのかな?』と思いながら見ていました。ところが、

「じゃあ立って乗って!」

「立てないけどいいよ」
「やっぱり座る。座ってもいい?」
「うんいいよ!」
確かめないうちに、三輪車が動き出し男の子も確かめずに座ろうとしたら、すとんと尻もちをついてしまいました。

怒ることなく、「待ってまってよー!」と追いかける。
どうするのかな?
どうしたいのかな?
どうなっていくのかな?

おもしろがってこだわり続ける。
その私に気がつくと三輪車から降りてきて
「こんにちは! かぶとむしです。よろしく! ホラ、頭の上に角があるでしょ。」
「こんにちは!クワガタでふ。よろしく!」
と笑顔であいさつをしてくれる2人。

「こんにちは!」
「これからどちらへ?」
「あっちにいくの」と言いながら、2人で三輪車に戻っていきました。
いつのまにか三輪車に乗っているのが、男の子
女の子はここ持ってと言われて両手でハンドルをもって引っ張る役に替わっていました。

そのままぐるっと園庭をまわり、乗り物の可動遊具へ移動して、その場で三輪車を手離すと、
中に入ったり出たり、窓越しにのぞいたりしていました。


そうっとのぞき込みながら、小さな声で「クワガタさんの本当のお名前は?」と聞くと
「クワガタです。」と言いきって笑う。
「クワガタさんの本当のお名前は?」
今度はあきと答える。
「あきちゃんって言うんですね」
「うん、クワガタです。」

「かぶとむしさんはどこに?」とたずねると
「かぶとむしもあっちだよ!」

言葉のやり取りを楽しんでいたはずの私が
かぶとむしとクワガタに試されている構図になっていました。

かぶとむしの男の子は、その場所から昇り降りを楽しめる遊びに移っていきました。

女の子は砂場の方へ駆けていき、器に水を入れていました。側に寄り添う私に、
「お待たせしました。ジュースとプリンです!」と運んできました。
ジュースは飲むまねをしてプリンは食べるまねをすると
「違うの違うのプリンも飲んで」と言う。
もしかして、クワガタのお仲間は、おやつも樹液のように飲むからかしら? ちゃんとイメージして作って運んでくれた女の子の心持ちを深く読み取れない自分にハッとしました。
その後もガス台に鍋をのせて、水を入れて砂を加えて、お玉でかき混ぜたり、すくったり、移し替えたり、実に丁寧な再現遊びに触れて、誰にも邪魔されない世界、その子だけの世界、没頭できる世界とはまさにこういうこと、と思いました。
私だけで留めていたら、もったいないエピソードでした。

いつの間にか、かぶとむしはお食事へ。
クワガタの女の子は大人に昼食場所にうながされ、相談をかけられても、いっこうにその場から動こうとしません。
クワガタの本当の名前は八重ちゃん。担任からそうっと教えてもらっていましたので、仕掛け人になってみました。
「八重ちゃん、私が先にお食事行ってもいいですか?」と声をかけると
「ダメ!」と言って飛び上がり、一目散に園庭の水道に行って手を洗っていました。

蛇口に口をつけて飲もうとする八重ちゃんに
すかさず、「うがいですか?」と言葉を添えると
本当にガラガラと音を立ててうがいをして見せてくれました。
手も洗ってうがいもして、汚れた足はテラスのタライで洗い、着替えてからみんながいる席につきます。
食事の風景にお邪魔して、「クワガタさんおいしいですか?」と聞いたとたんに首を左右に振りながら笑顔で返ってきた言葉が、

「もう今はクワガタじゃないの、八重ちゃんっていうのよ!」


何歳児であることも本当の名前も教えてもらわずに、ずっとずうっとこだわり続けていたら、
2歳児の2人に私が試されて仕掛けられていたというなんとも頼もしい物語のページでした。

かぶとむしとクワガタの役を演じ切った2人の世界にあっぱれ!

するりと元の自分に戻った2人におかえりなさい!

遊びの途中で役割(クワガタ・かぶとむし)が変わることなく、イメージの世界を楽しむ2人の遊び心に触れて、豊かな心の育ちを感じることができました。

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