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井上さく子先生の 子どもに学ぶ 21世紀型保育
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第27回
孫育て。僕だけの世界をたっぷりと
井上 さく子

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「クック(靴)をはいてお散歩さんぽ! いく?」

足踏みしてはしゃぐ1歳5カ月の男の子、かなちゃん。

この3人目の孫と私の物語はいつも新鮮です。

かなちゃんは『玄関を出たら自分で歩きたい!』と思っています。

歩かせたいところですが、2階から階段下まで私の都合で抱っこをすると、のけぞって「嫌だあ!」と怒ります。

その意思の表れも、喜ばしくかわいいものです。

外に出たら全部ぼくの世界と言わんばかりに、トコトコと歩きだすかなちゃん。

何も言わずに寄り添ったら、この子はどこまで自由自在に探索をするのだろう?

そんな心持ち抱きながら、住宅地の静かな道を歩き始めました。

シーンとしたアスファルトの道に男の子の靴音だけが耳に届く。かなちゃんも歩く音を確かめながらトコトコ、トコトコどこまでも歩き続けています。

『こんなに自由に解放される場所があるんだあ!』

毛糸の帽子に赤と青のコート。かなちゃんの小さな背中から喜びと好奇心があふれ出るようです。

『そう! あなたの行きたいところに行っていいんですよ』そう決めて傍に寄り添っている私。

『まっすぐ行くのかな?』と思いきや、急に変化球。戻ってきて立ち止まり、すぐに振り返り今度は左方向へトコトコトコトコトコと少し早足で進んでいく。

その様子を眺めながら、トボトボと私も歩くと突然止まって向きを変え、袋小路の方へ段差を確かめて進んでいきます。行き止まりって知ってる?

私の方を振り向き「あっ?」とかなちゃん。

歩き出して初めての言葉。その言葉を受け止めて、初めて言葉を添える私。

「行けないね! どうする?」

自分で気持ちを切り替えて、来た道を戻って来ました。段差では必ず止まり、慎重に道に出ると左に曲がって、ひたすら真っ直ぐに。

今度はその先のアパートの外廊下にトコトコトコと入って行くのですが、途中で止まって戻ってきます。そこでも、アスファルトとは違う靴の音を確かめるように、3往復!

『歩くってこんなにも楽しい!』と全身で表し

『見てる?』コールでアピールしています。

見てますよ! 見てますとも。

傾斜や段差に気づくと平坦な道よりも出来るだけそちらを選ぼうとしている様子が伝わってきました。

本当の探索とは、平坦な道よりもデコボコのある場所や段差のある所に興味、関心を示し、自分で試しては確かめながら体験を積み重ねていくこと。

大人は安全を先取りして、できるだけそのような場所を避けようとしがちですが、かなちゃんは繰り返し同じ行動をとりながら、満足するまで確かめていきます。

「あっちへ行こう!」

「こっちにおいで!」

「もう、おしまい!」

と誰にも言われない、自分だけの時間がこんなに心地いいことを体験を通して満喫している様子が伝わってきます。

少し先に広い駐車場がありました。

そのときかなちゃんの目に映ったものは?!

横たわって日向ぼっこをしている猫です。

2m位手前でパタリと足を止めて、「ニャンニャン、ニャンニャン!」と興奮して足踏み。その後ジッと猫を見ていました。もちろん、猫も顔をあげて子どもを見ています。ふかふかの縞々グレーの毛並み。長い尻尾の貫禄たっぷりの猫です。

沈黙の後に、邪魔されてしまった猫はゆっくりとその場所から離れて行きました。

かなちゃんも間隔を置いて、トコトコ付いていくと猫は振り向いては止まります。止まるとかなちゃんも止まります。

3回目で猫は怒って、「ニァーゴー?!」と唸りました。かなちゃんは驚いて立ち止まり、しばらくにらまれていましたが、それでも恐れることなく後から付いていきます。

かなちゃんと猫の根比べにも映りました。

その後、なんとかなちゃんが考えたことは、後ろからではなく、駐車してある車のところをぐるっと廻って猫の正面に立つことでした。

前方からトコトコと現れたかなちゃんに、お年寄りの灰色猫はやれやれといった感じで、そこにジッと座って動きませんでした。かなちゃんはその気配を察してか、少しずつ少しずつ前に進み、右手があと少しで届く位置まで近づくことができました。そこで止まって、じっと見つめ合ってから、納得したようにかなちゃんは、灰色猫に触ろうとせず戻ってきました。

ぴゅっと駆け去ってしまっても良かったのに、付き合ってくれた灰色猫もゆっくり歩いていきました。

一人と一匹が、応答しているかのような風景でした。

皆さんの園では、散歩をどのように捉えて実践しているのでしょうか?

こんなにゆったりの時間は取れないまでも、子どもたちの願いは、誰からも邪魔されない世界なのかも知れません。

グループや集団での散歩では、こんなに余裕をもって寄り添うことは不可能であったとしても本当の子どもたちの願いがここにあると思いませんか?

そうだとしたら、どんなふうに時間のゆとりと心のゆとりを擦り合わせていけばよいのでしょうか?

探索遊びが大好きな今、この瞬間を自分の足で歩いて確かめて、歩めば歩むほど、かなちゃんの世界が限りなく広がっていきます。

孫のお陰で至福のひとときのページ

綴り続けています。

持ち時間は等しくあります。

早くか?

ゆったりか?

どっちがいい?

選ばせてあげる余裕があったら、

子どもたちはどっち?こっち?

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