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井上さく子先生の 子どもに学ぶ 21世紀型保育
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第33回
保育園を変える本気度、それは子どもから学ぶ視点
井上 さく子

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現役時代「現場を知らずして、保育は語れない」とずっと思い続けてきました。そして、園長先生の存在が保育現場を大きく左右すると考えて、子どもたちの日常に関わってきました。それが園長としての役割と信じてきたからです。

現場を離れてもなお、その視点をブレずに心に据えて、さまざまな保育現場に関わらせてもらっています。

机上論、理想論を語る前に、

目の前の子どもたちが何を求めているのか?

何に困っているのか?

何に興味、関心を抱いているのか?

子どもたちのシグナルをしっかりと見抜き、受け止める目を確かなものにしていくことや、確かな目を養い続けることが大事です。

子どもたちが何を求めているかが、見えてくる

子どもたちが何に困っているか、分かる人になる

子どもたちが、何に興味、関心を抱いているかが分かるようになる

大人が感性を研ぎ澄ますとは?

子どもたちの目に見えない心持ちを見抜けるようにすること。

子どもたちの声なき声に耳を澄まして、共有、共感していくこと。

この全てが真逆の保育世界に遭遇することがありました。

そこでのエピソードです。

新保育指針が施行される時期に、21世紀型の保育を目指したいと言う相談をある園長先生から受けました。努力しても公的な保育園の認可が取れないので、アドバイスが欲しいということでした。

初めてその園にお邪魔して、玄関に一歩足を踏み入れたときの環境と空気感。ただそれだけでその園を見た思いがしました。

保護者だけが「おしゃれだ」と喜びそうな、棚も壁面もただただクリーンで清潔な景色に、『ここは子どもたちの居場所ですか?』と思いました。

そしてどこの保育室にお邪魔しても、子どもたちが自ら選べる玩具、道具が見当たりません。掃除しやすそうな何もない「きれいなお部屋」。

カルチャーショックの心持ち、ばれないように、全ての保育室を回っていきました。

その中でも、1歳児の保育室でのエピソードを紹介します。

「壁にペッタンコ!」と言われるとそれが日常の風景を物語るように、大人といっしょに座る1歳児たち。全員一斉に同じことをするように教えられているのです。

壁際にまとまってじっと座っているよう命じられた子どもたちの前に、保育者がしっかりしまわれていたコンテナ風の入れ物を運んできます。

3カ所に3種類のブロックが、その入れ物から大きな音と動きの中で、床にざあっと出されていきます。

1歳児はその度に反応をして、遊びたい気持ちでいっぱいに飛び出そうとします。その都度、「まだでしょ!」と保育者に呼びとめられます。同じ位置から、その光景を見ている私の心持ちは、裂ける程に痛くなりました。

自分で!

自分が!

自分の!

自我の芽生えのはじまりのとき、この瞬間にどれだけ、やりたいことを我慢させられているのかしら?

そんな中で4月生まれの男の子は、待てずに私の膝の上に移動して座り、ブロックよりも遠くに見える棚の上の絵本に興味を示し、確かめた上でその場に小走りに走っていきました。

側に行って見上げても、つま先立ちして背伸びしても、高い棚にきれいに片付けられた絵本に触れることができませんでした。その子は戻ってきて、私の膝の上に座り、『確かにある、あそこに!』と分かると、また走っていきました。

幸いにも一冊だけ、パタンと倒れている絵本の角がその子の手に触れることができたのです。

なんと、その瞬間にパタン!と一冊の本が床に落ちました。ここで大人に注意されたらその子の願いが叶えられずに終わったと思いますが、誰も気づかなかったおかげで、男の子は私の膝に戻ってきて

「んーで!」と一言

「読んでなの?」と聞くと「うん!」と言う。

本は男の子がページをめくるとすぐに終わってしまいました。でも、読むと言うよりも見ると言うよりも、この子は、心のよりどころを求めていることに気づかされました。

また、「んーで!」と言われて、「もう一回?」と人差し指でサインを送ると、その子が突然険しい表情で声を潜めて私に「シーッ!」と言ったのです。

その時の衝撃を、どう表したらいいでしょう。

子どもは保育者の行動を真似します。この子が「シーッ!」と私に言ったということは、この1歳の子が日常的に繰り返し遊びの場で、そう言われ続けているということです。

何回も何回でもやってほしいの「もう一回!」というシグナルでなく、大人都合の「静かに!」という子どもを押し込めるサインになっていたのです。

よごれないおしゃれな保育室で、言われた通りの静かな遊びしか許されない子どもたちの日常風景を想像してしまいました。

このシンプルな子どものサインに奮い立ち、もう一度子どもたちが願っているであろう、私たちが願う保育を目指していくきっかけとして、その保育園の職員研修に環境づくりや遊び方などを提案させてもらいました。

毎月一回、昼に夜に継続して、学び合いました。

職員集団の関係性の中で、本音と建前論をうまく使い分けているとしたら、子どもたちの育ちから学ぶ視点は生まれないと思いませんか?

同じように良かれと思って実践してきたことだったのかもしれませんが、ここで子どもたちの願いとエピソードを真ん中に据えて、学び続けていくうちに、園全体の環境構成が見事に変わっていきました。

そして、子どもたち自ら、主体的に選べる環境になっていきました。

それまでの、「子どもや道具を動かす保育」から「主体的な子どもをめざす保育」に大きく変化し、進化し始めた結果、認証園から一年で認可園になったのです。

子どもたちを変えようとするのではなく、大人が変われば子どもたちものびのびとした世界で生活をし、遊べるのです。

時間がないとか、予算がないとか、人間関係がうまくいっていないとか。

できない、ないないだらけと思ったり、葛藤しているその時々でも、全ての子どもたちは休むことなく、成長を遂げていることに、

気づいていくこと、

気づこうとすること。

気づける人は、変われると信じています。皆さまの保育現場は、いかがでしょう?

今こそ、全ての子どもたちに「心の忘れもの」をさせないプロセスを歩ませるための本気度が問われるときです。

一例であげましたこの保育園のように、

「本気で変わりたい!」と心持ち一つにできたら

人はいつでも、どこからでも変われると思いませんか?

変われます。

何もない何もしない何も変えようとしない、

そんな環境に子どもたちが暮らしているとしたら、それはいずれ虐待につながっていくと思いませんか?

たった一度の子ども時代、「忘れもの」をさせたら、大人になってからその時代の心の成長を取り戻すのに何倍もの時間を要することを意識していきませんか?

子どもたちは毎日を一生懸命、生きています。

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