第38回
子どもの心のゆとりを育む保育~かっぱおやじからの手紙
井上 さく子
ある日の年長クラスのエピソードです。
秘めた力をたくさん蓄えている愛子さん(仮名)の誕生日に仕掛けることになりました。
目的地の公園で、さんざん遊びほうけて帰ってきた子どもたちに、担任と用務と園長、主任と相談して、保育園すぐ近くの公園の大木にかっぱおやじのお手紙を貼っておくことに。
何時頃に、その公園を通過するのかを連絡を取り合い、用務の大人が指定の場所に手紙を仕掛けて帰ってきました。
その公園の中を通った時のこと
「あっ?!」
「あそこに何か貼ってあるよ!」
「なになに?」
担任がジャンプをして手にしたものは、かっぱおやじからの手紙でした。
「なんて書いてる?」
「早く読んでよんで!」
と子どもたち。
なんとそれは愛子さんへのお誕生日メッセージだったのです。その場で読み上げてもらった愛子さんは驚きながらも笑顔が。
子どもたちは正直に言葉を発します。
「いいな!いいな!」
「ずるいかっぱおやじ、僕の誕生日のときにも来て欲しかったあ!」と。
その後です。
年長児が「ただいまあ!」と元気に戻ってきました。全員が事務所に駆けてきて、
「園長先生、愛子ちゃんにね、かっぱおやじからお手紙が届いたんだよ! なんで愛子ちゃんの誕生日知ってたんだろうね?!」
仕掛け人は私たち
決してばれないようにするために、気取って驚き、子どもたちの驚きに吸い込まれるようにいっしょに驚き、愛子さんの方を見て言葉を添えました。
「忘れられない6歳のお誕生日になりましたね。
お誕生日おめでとうございます。」
みんなに囲まれて、部屋に戻っていく子どもたちでした。
仲間の誕生日をみんなでお祝いできた幸せを
誰よりも何よりも一番に喜んでくれた愛子さん。
実は読み聞かせの名人でもあります。
異年齢交流の中で、3歳児の子どもたちに
「これ読んで!」と指名されるほどです。
かっぱおやじは、様々な保育現場に現れていたずらをしては消えていきます。つかめそうでつかめない存在、見つかりそうで見つからない存在にやきもきしながらも、そのスリル感を存分に楽しんでいる子どもたちです。
たった一度の子ども時代に、架空の物語に出会い、架空のかっぱおやじにであった子どもたちは、ワクワク、ドキドキ感が止まりません。
それどころか、
「今度はいつ頃?」
「どこにどうやって現れるんだろう?」
「今度こそ、絶対見つけてやろうぜ!」
「今度こそ、みんなで力を合わせてつかまえてやるからな!」
子どもたちの相談は、いつまでも続きます。
大人たちも一度仕掛人になったら、癖になってやめられなくなってしまいます。
遠足の当日に、
「ママにお願いしてかっぱおやじの好物のきゅうりをタッパーに入れて持ってきたんだ!」という子ども。
「なぜかと言うと、僕たちのお弁当を食べられないようにするためなんだよ!」
心のゆとりと時間のゆとりをなかなか持ちにくい現状の中で、せめてこんなふうに子どもたちと一緒に物語のページを綴り続けて見ませんか?
コメント(9)
心のゆとりと時間のゆとり、重い言葉です。ゆとりを持つために雑務他の効率化をはかり、それでゆとりを生み、そのゆとりの時間を子どもたちと一緒に物語を綴り続ける。
何故ゆとりが時間を持てないのか。
私は会社員時代に自分のしていた様々な仕事内容を5項目に分け改善提案をした経験があります。
1、私はこんな業務をしています。
2、その業務をするにあたっての現在の方法
3、不都合に感じている点
4、自分自身で改善できるかもしれない点
5、でも会社(園・行政)にこんな改善をしてもらえると飛躍的な時間短縮が考えられる。
そして、同じ業務をしている人達と共有する。
自分一人で悶々と疑問を感じながら続けていた業務も共有した段階で解決した事もありました。
でも、みんなの意見として上に上げた事で上が動いてくれた内容もたくさんありました。
忙しい忙しいと言う前に何故忙しいのだろう?まずは自分から発信してみんなで共有したいです。
せっかくせっかく大好きな子どもと関わる職業を選んだのだから!
かっぱ親父に誕生日をお祝いしてもらった愛子さんの嬉しそうな顔が浮かびます。一生のうちで特別な日になったと思います。
大人が楽しみ、子どもはドキドキしながらイメージを広げ、また、大人が仕掛けていく。
豊かな心を育むことを大事にしていきたいと思いました。
ゆとり。心にゆとりを持てると人に優しくなれる。遊び心は保育には大切なもの。人間相手なのだから思い通りにはならないし、マニュアル通りにことは進まない。
かっぱ親父からお誕生日をお祝いしてもらう展開は、子ども達がどきどき心を踊らせたでしょう。愛子さんの驚きや嬉しさも想像してしまいました。大人が楽しみ、子どもの言葉や心の揺れに共感し保育が紡がれていく、心を育てていく保育や教育を進めたいですね。
大人もどきどきする暖かいエピソードに、こんなしかけもあるのかぁと思いました。
やってみたいと思いました。
子どものころ、見えないけれどいるかもしれない、そんな存在にワクワクしたものでした。
それは、多くが遊び心のある大人に仕掛けてもらった、イメージへの世界の扉だったな、と思います。
大人も子どもも、かっぱおやじの存在で、一緒にわくわくし、一緒に物語を紡いでいけるって、本当に素敵です。
子ども時代に想像の世界に浸り、そこからイメージが広がり、そこに対する気持ちが幾重にもなって続き、想像の物語が子どもたちと大人たちの手によって展開され、つくられていく。
こうした共有や共感、目に見えない宝物を大切にする体験が豊かな心をつくっていくのだと感じました。
そういう柔軟さや子どもと共に面白がることのできる大人でいたいなと思いました❣
読む人をこんなに楽しい世界に巻き込んでしまうのだから仕掛けている全職員はもっともっと楽しい心持なのでしょうね。さく子先生は、子ども達が真に育つ魔法の種を振りまいてきたのですね。
子どもと生きることを面白がる!ということは、正にこのことですね~
読みながら私もワクワクしました♪
手紙を仕掛けた用務員さんもワクワクしたに違いないだろうなぁ!?...
きっと『この位置で見えるかな~?』とか『高さはどうだろう!?』等とカッパからの手紙を貼るのに、子どもの姿を想像しながら楽しんでいただろうなぁ...とその姿が目に浮かんでくるからです
面白がるに加え、こうしたストーリーを子どもと、それに関わる大人が共につくりだす...
そんな保育の醍醐味を感じました