第47回
学んだことを現実に。廃屋を利用した森の幼稚園
井上 さく子
何年か前に安曇野から新幹線あずさに乗って、毎月一回環境部会に通い続けていた後輩がいます。
保育現場で抱えているたくさんの課題をその場で提案したり、ワークをしながらそこでの気づきを保育現場に持ち帰り実践に繋ぎながら、都内の仲間たちとずうっと学び続けてきました。
長野県から毎月、継続して参加することに周りの参加者も大きな刺激をもらい続けていました。
ただ学ぶのではなく、何のために学ぶのか?
誰のために学ぶのか?
言うまでもなく、本人は目的意識を持って臨んでいました。問題意識も高く、自分の実践に置き換えて、振り返り、分からないことは納得行くまで洗い出し、また安曇野に戻っていくという学び方です。
目的意識を据えて学ぶ、学ぼうとする方の成長の仕方が大幅に違うこともその後輩から学んできました。
もちろん今でも。
今では分からないことがあっても、わざわざ足を運ばなくても学べるネット社会があります。が、便利さは本物の学びにつながるのかしら?と改めて振り返っています。
特に、子ども相手の仕事に携わっている大人は便利さを優先していると自己啓発に繋がらないどころか、人と対話しなくても仕事ができると勘違いしている方が増えていると感じています。
大人自身がコミュニケーション能力を啓発しないと人との関係性が廃れていき、子どもとの距離も遠のいていくと思いませんか?
子どもたちと丁寧に向き合うことよりも、「早くて楽」だと、たたみ込んでしまうことを選びがちです。
いかがかしら?
積極的に人に出会い、人と関係性を持ちながら、たくさんの刺激を受けて生きる力を構築しようとしている子どもたちにとっても、対話に消極的な大人に魅力を感じなくなると離れていきます。それどころか、敢えてそういう大人に飛び込んでいかないことも確かです。
大人にも子どもにも共通して言えること
それは、
興味や関心、疑問に思ったときに、
「なぜ?」を不思議がり、面白がることが大切だということ。
大人は私自身も含めて、いとも簡単に諦めてしまうことが多々ありますが、子どもは常に「なぜ?」を知りたがりながら成長を遂げていきます。
そこに寄り添いながら、子どもの心持ちを知って、感じて手助けしていく能力を磨いていくためにも考えていきませんか?学ぶことを諦めたり、さぼってしまうとどうなるのでしょう?
安曇野の後輩は、将来の夢を描きながら、子どもたちの環境について学び続けていたことを後々になって知りました。
それは安曇野の廃屋を再利用して、幼稚園園舎をリニューアルすること
「森の幼稚園」を立ち上げることでした。
ここでも、目的意識の高い人は学ぶ姿勢が違うことを感じることができました。
立ち上げ準備に向けては、後輩を心から応援したい!するよ!と共感していた私ともう一人の友だちが東京から駆けつけ、廃屋の掃除から始め、夜な夜な環境をデザインしていきました。
できるだけ、後輩のイメージに即し、多くを語らずひたすら環境整備に力を注ぐことに集中していたときのことを、思い出す機会をもらっています。
どんな子どもたちになってほしいのか?
そのために、園舎を取り巻く森の自然環境をどう取り込んでいくのか?
幼稚園ですから、親御さんの力を如何に借りて巻き込んでいくのか?などを想定しながら着々と環境が整っていきました。
入園式は園舎から登って行った先の広場で、
普段着に長靴を履いて、帽子をかぶって、車座になって座ります。
子どもたちの周りを囲むように、親御さんもお客様も同席しての式の始まりです。
後輩はもちろん園長先生です。
野の花を花束に!
手にしながら、入園した全ての子どもたちの名前を呼びながら丁寧に言葉を添えて行きました。
その後、わらべうたあそびを取り入れて親子でアットホームな触れ合いを。
短時間でシンプルな式が終わった後に、さらに足を伸ばして森の探索です。
新しく入園してきた親子だけではなく、他の参加者もほっこりするのどかな風景に浸っていました。
そのときに、この子たちは森と共生していく環境にあることがどれだけ幸せなことかと感慨深く思ったものです。
森の幼稚園が立ち上がり、スタートしてからも何回かお邪魔してきました。
庭には、大人も乗れる大きなぶらんこがあったり、いろりを囲んでコーヒーを沸かせるところがあります。いろりでその日のランチを用意したりしながら、森から帰ってくる子どもたちのために準備をして待っていてくれるのです。
その瞬間に私もこの森の幼稚園の園児になりたい!と素直に思いました。
一番に子どもたちの願いを引き出して受け止めて行くこと
毎日、街から車でいろは坂のような山道を通って、送迎してくれている親御さんたちです。「共同体」でできることを擦り合わせていっている保育にふれて理想的な環境にあると痛感しています。
雨や雪が降らない限り、保護者会や面談も外のいろりを囲んで取り組んでいました。そんな風景に遭遇すると、急遽私もその輪の中に参加することになりました。
初めてお会いした親御さんたちとは思えないほど、すぐに心の窓がオープンになったことを思い出しています。
自分の心の窓を開けずして、相手の窓を無理に開けようとしていませんか?
人として生きていくための環境は、みんな違って当たり前です。
今ある環境や今置かれている環境を、違う視点で捉えて見ませんか?
見直してみよう!
相談してみよう!
工夫してみよう!
考えてみよう!
変えてみよう!と。
森の幼稚園にこそならないまでも、
そこから刺激や気づきをもらい、子どもたちが置かれている環境を洗い出していきませんか?
今一度
子どもの心持ちを据えて
子どもの目線に合わせて
「自然が豊かだからできるのよね!」と思っていないと信じて、敢えて相談です。
親御さんの力を借りて巻き込みながら、子どもたちが少しでも心地よい環境で豊かに成長を遂げていくために、できることは何かしら?
できることから、始めて見ませんか?
「有言実行」
心から願わずには、いられません。
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~さく子ゼミの参加者募集~
コメント(9)
素敵です!森の幼稚園を見てみたいです。きっと皆さんの思いがあふれている温かい園でしょうね。
大人が、どんな子どもになって欲しいのか、そのためにどんな環境が良いのか、どのように関わっていくのかなど、思いを出してすり合わせていく過程が楽しいと思います。
研修会や公開保育などの学びでも、学んだ事を自園の事に置き換えて出来ることからすぐにやっていきたいです。自然の力は無限大ですね。
自然の偉大さに感謝しながらも、それに甘んじることなく、子どもと共に自分はどうありたいかを常に問う
そんな在り方を感じました
何処に居ようと、どんな存在であろうと、先ずは自分自身!素直に感じる心をもって、身の丈に合った暮らしを大切にすること、学び続けること〜
できることをコツコツ積み重ねていきたいと思います
そうですね。効率性を求める社会で、それが正しく当たり前という感覚の道に入ってしまうと、そこから抜け出すのは、大変ですよね。でも、森の幼稚園さんは、自然なからだのリズムにあった、本来の生活を思い出させてくれるのでしょうね。
保育士さんではない、我々のような仕事でも
同じように目的意識をもって参加するということは非常に重要だと思いました。
受動的なのか、能動的なのかによって全然学べるものが変わってくるのだなぁと改めて認識しました。
いつも素敵な気づきをありがとうございます。
森の幼稚園、いってみたいなぁと素直に思いました。コロナ禍で制限は多いですが、こどもたちは今ここにいて、毎日保育園にきてくれている。今ある環境の中でできることを、大人の智恵を出しあい、こどもたちの願いを受け止めて保育していきたいなぁと思いました。
目的をもって学び続けることを面白がって努力していると聞くだけでワクワクしてきます。大変なこともそのまま、子どもたちと生きる力の学びに変えていくのでしょうね。
置かれていく環境は異なりますが開拓していきたいワクワク感は都会にもあります。迷ったらさく子先生の教えを羅針盤に、子どもたちと、保護者と保育者たちと毎日を丁寧に、楽しく過ごしていきたいと思います!
学ぶ、ということを目的意識を持ってするようになってから、いろいろなことが見えるようになり、人との関わりが広がりました。仕事に限らず、それは自分の人生を豊かにしたのではないかと思います。もっと早くそんな気持ちになっていればよかった……と思うこともありますが、思い立ったときがその時だったのだと今は思っています。
そして学びを形にすること、学び続けることをこれからもしていきたいと思います。
それにしても読んでいるだけでわくわくするような、すてきな幼稚園!行ってみたいです。
森の幼稚園、一度行って見てみたいです。やはり実際にみるのが一番だと思います。子どもたちが大きくなって大人になってから必要とされる、感性や考え方、物事の進め方は小さいころ養った経験が活かされると僕は思っています。自然の中で身に着けたルール、なりわい、季節感や感性はきっと大きくなってから、物凄く役に立つと思います。森の幼稚園を実際にはじめた先生の実行力、とても見習いたいと思います。色々な環境の中で保育園は運営されていますが、今まで以上に自然に触れ合う機会が増えるといいなと思います。
いろいろな工夫をして保育をするけれど、自然にはかなわないなぁと感じます。子どもにとっては次々とおもしろいことがでてきて夢中になってしまいます。私も子どもの頃、外で遊んで気づくと日がくれていて、慌てて帰って母に叱られるということを繰り返していました。(のんびりした時代でした。)自然に囲まれての保育の場に憧れながらも自分はずっと都会の真ん中で保育を続けてきました。改めて森の幼稚園までの道のりにどれほど力を注がれたのかと、心を動かされます。都会の中にはいますが、少ない自然のなかにも子どもたちはいろいろな発見をし、私たちも一緒に驚いたり、感激したりがあります。まだまだ出会っていないこともたくさんあるはず。そして、子どもの生活も自然であることってどうあるべきだろう…と考え続けていきたいです。