第49回
子どもに自分で対応できる力を
井上 さく子
小学一年生のお兄ちゃんがいて、私は妹のさくらです。
年中組です。甘えん坊で、泣き虫だけど、頑固な女の子!と人は言います。見られています。
私はそんなことを一度も思ったこともないし、感じたこともありません。
なぜなら、いつもいつのときも、自分で感じたことや思ったことも嫌だったことも全部ぜんぶをあるがままに出しているからです。出せているからです。
でも、友だちも周りの大人たちも私のことをわがままなんだから!頑固なんだから!と言います。
なぜ?
わがままじゃいけないの?
頑固じゃいけないの?
私には分かりません。
もちろん、分かろうとなんて思いません。
いいも〜ん!
こうなったら、と
どこまでも怒ってプンプン!してしまうことが、数えきれないほどあります。
でも、なんだかいつもと違う。何か違う。何が違うの?と感じるようになってきたのです。
どんなふうに?
私は女の子だけど、お兄ちゃんが大好きです。家ではお兄ちゃんと一緒に過ごしているうちに、お兄ちゃんのやること成すことに興味、関心をもつようになりました。
だから周りが言う女の子の遊びよりも、男の子の遊びが大好きです。
その前にそのまえに、私には分からないことがあります。
教えてください。
男の子の遊びとか
女の子の遊びとかって
誰が決めるのかな?
どうして大人たちは
勝手に決めてしまうのかな?
それだけでも、ストレスになってしまいます。
選ぶのも、決めるのも私です。
保育園では、どちらかというと男の子たちと遊んでいました。
年中組の最初の頃は、それがあたりまえでした。それが普通でした。
だから
何も困らず、ケンカもしないで、後からついていったり、いつのまにか遊びの仲間入りしていました。それでも、誰にも文句も言われずに、夢中で遊んでいました......。
......私が保育園で見ていたさくらちゃん(仮名)はこんな風に毎日を過ごしていました。でもある日のこと、激震走るほどのさくらちゃんの怒りの場面に遭遇したのです。
園庭で秘密基地づくりをしている男の子のグループに、いつものようにさくらちゃんが入ろうとしたときのことです。
「さくらちゃんは、女の子だから仲間に入れてあげない! だから、あっちへ行って!
俺たちだけでやるんだから!」
突然の宣告に!?
園庭中に響き渡る「ギャァ〜ッ!」というさくらちゃんの泣き声が......
その場から、泣きながらテラスの方へ走ってきて、仲間の方に向かって座り込み、膝を抱えて泣いていました。
その前にケンカをしてしまっていて、男の子の方もまだ怒りが収まっていなかったようです。
全身で悔し泣きをしているさくらちゃんに、周りの大人たちはすぐに駆け寄らず、遠くに近くに見守っている風景がありました。
私もその一人です。
大泣きの声は収まっても、膝を抱え込んで揺らいでいるポーズは変わらずにそこにありました。
さくらちゃんが、時間と共に顔をあげて基地づくりの仲間の方へ視線を向けていることも伝わってきました。
担任はさくらちゃんの様子を想定内にしています。
さくらちゃんが動き出すまで、待ち続けていたのです。
すると自分からスッと立ち上がり、誰も居ないホールの隅に場所を移動していました。
その後、そこから四つ這いの姿勢で園庭をのぞいては、スッと身を隠すことを何回も繰り返していました。
その行動がさくらちゃんらしいなとクスッと笑ってしまう私がいます。
ホールから、ダルマさんが転んだ!の遊びポーズで私と目が合うと固まって、知らん顔をしているのです。タイミングを見計らって視線を寄せると驚いたことに、私のすぐそばに立って居たのです。
パソコンに向かっている私のスキを狙って?
さくらちゃんはそれを楽しんでいるかのようでした。
こうして、自分の心持ちを切り替えようとしている物語に触れて、見えない心模様を知ることができました。
でも心持ちはまだまだ、頑なです。
「泣きたいときには、泣いていいんですよ!
思いきっり泣いた後はすっきりしませんか?」
と言葉を添えると
「泣いてなんかいない!
やだあ!泣かないもん!」
と強がるさくらちゃんです。
心の中で、『そんな簡単に素直になれない心持ち分かってるよ!分かってますよ!』と思いながらその言葉を受け止めて、見守り続けました。
しばらくすると私のそばに立って、
「何してるの?」
私の仕事に興味を持ち始めました。
さくらちゃんが心を開いた瞬間です。
このタイミングを逃さずに、
「どうしましたか?」と訊ねると
「仲間に入れてもらえなんて嫌だ!」
と話してくれました。
長いながいもがき、葛藤の世界から、自力で乗り越え、「あのね だってね...」と語るさくらちゃんの表情が爽やかでした。
これからどうしますか?
「お部屋に帰って、お食事をする」
あれからどれだけの時間が過ぎようとしているか?そんなことよりも何よりも、これだけかけて自分の心持ちを見事に律することができたのです。
さくらちゃんの心の中に、また一つ「生きる力」「豊かな心持ち」が育まれた物語でした。
子ども同士でもめたときに、すぐ仲裁に入りたくなります。でも少し待って、自分たちで解決できるよう、見守ることも必要です。
みなさんは、もがき、葛藤する子どもたちの世界をどのように、受け止めているのでしょうか?
どれだけ、待てるのでしょうか?
どのタイミングで関係性をつくっていくのでしょうか?
もがき、葛藤するこのプロセスに、
とても大切な意味が含まれているということをさくらちゃんが私たちに教えてくれていると思いませんか?
「子どもの力を信じて待つ」
キーワードにしていきませんか?
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コメント(2)
自分で決めて自分で遊ぶ、自分の思いを出して葛藤しながら大きくなっていく。シンプルな事なのに、私の園では、大人が口出し、手出ししすぎていると感じました。子どもを信じて待つ、どういう事なのか職員と考えていきます。
子どもの力を信じると保育も楽しくなります。規律とか安全を建前に保育者の思うようにさせようとすると、自分の言うことを聞かない子どもに本気で諭す保育者になります。一寸待って‼子どもはホントは何をしたかったの?を共感できません。見ていなかったのに「また‼」と決めつけて一方的に叱り続ける保育者の怒りの感情はもはや保育者の思う答えを出させるまでおさまりません。子どもの思いに寄り添える保育者の関わりは、子どもも保育者も周りも皆も幸せな気持ちにしてくれます。叱られている子の悲しみ、叱っている保育者の姿、怖いから従うけどホントは子どもたちは気づいているように思います。どんな大人になってほしいのか、自分たちはどんな手本になっているのか皆で振り返りたいと思います。