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井上さく子先生の 子どもに学ぶ 21世紀型保育
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第67回
自分の力で心の窓を開くまで
井上 さく子

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年少組の孫は、新しい環境を自分で受け入れるために
約半年の月日を要しました。

最初は新しい家がうれしくて心持ちが踊り、喜びを全開にしていたのですが、保育園が決まると現実に直面していきました。

いままでは、都内の保育園で
自宅からも歩いて10分くらいの場所に通っていました。
雨の日は長靴をはいて、
傘をさしてワクワクしながら登園していたのです。

ところが転居先はどうでしょう?
すぐには入園できず、しばらく家庭で過ごしていました。
最初はゆったりまったりの暮らしに浸っていましたが、そのうちに体力が有り余ってくるとむずむずしてきます。

跳んだり、はねたり、動きまわったりと全身で
サインを出してきました。
思うように発散できないと日に日に
それがストレスになってきていることも?

一人で遊ぶことの限界を見たときに思うこと

「友だちほしいなぁ!」
「あんなにたくさんの友だちがいたのに」

引っ越してきて、はっと気づいたのです。

「友だちに会いたいなぁ」
「東京の保育園に行きたいなぁ」
「なんでぼくはここにいるの?」

こうして現実と向き合う物語に直面していきます。

足踏みしながら、やっと保育園に通えるようになりました。
残念ながら、地元の保育園ではなく電車に乗っていった先の保育園へ。
初めての体験です。

改札口を出るとおかあちゃんは東口の保育園(職場)に、
孫は西口の保育園へと別々のコースへ。

おかあちゃんの都合で、
ときどき私が保育園へ送っていくことがあります。

ここから、試し試される物語が始まります。

孫に「どこの駅で降りるか教えてくださいね!」と言うと

すかさず返ってきたことば
「ぼくはこのまま池袋まで行きます!」と、言い切るのです。

こうと決めたら頑固一徹な孫ですから、
一瞬(さてどうしましょう!?)と思いました。

添えたことばは「今そんな気持ちなの?」と。

すると「気持ちじゃなくて、池袋に行くの!」

ますますどうしましょう? と思う私の心持ちを
試し、試されている感が伝わってきました。

分かりました。
私は「次の駅で降ります」と言ったきり、何も言わずにいたら、
何事もなかったように目的の駅で降りることができました。
やれやれ...。

次に試されたこと
「上りのエスカレーターで降りたい!?」と

(えっ!?)

下りのエスカレーターではないことを承知の上で
私がどう出るか? を試していることも察していました。
「これで下にいけるかしら?」

間を置いて、「どうしますか?」と尋ねると
「階段で降りる」と言ってくれました。

「数えながら降りよう!」と孫の思いがけない
ことばに曇りのち突然晴れマーク!?

その願いをすぐに受け止めると大きな声で
「1.2.3...10!」
10まで何回も数えながら、降りることができました。

なぜか?
私と階段の上り降りをするときの日課になっています。

知っていてもわざと、
「保育園まで連れて行ってくれますか?」と言うと、

「バーバは大人なんだから、わかってるでしょう!?」
またもや試されたのです。

「ハイ!」とは言わず、素直になれなず、
もがき葛藤する孫の心持ちが痛いほど伝わってきますが、
ここはお互いに踏ん張りどころと肝に銘じて
孫の足取りを辿って保育園に到着できました。

決して早足ではなくトボトボ、トボトボと。
背中にも心持ちが映っているような...。

コロナ禍だから?
普段から?


朝の受け入れは玄関のみです。
どんな環境で暮らしているのかはネットを介しての連絡ノートでしか把握できません。

なおのこと、孫のつぶやきが貴重になるのですが、
自分から口にしない日が長く続きました。
それでもこちらから敢えて聞き出そうとせずに、本人が話したくなる日を待ち続けることにしました。

保育の世界では、待つことが大事

一方では「どこまで待てばいいの?」
こんな現実に遭遇することがたくさんあります。
皆さまはどんなふうに捉えて、受け止めているのでしょうか?

なんと、9:00までに登園予定が、2〜3分過ぎての到着で、
担任以外の先生に開口一番「あらっ!? 遅かったわね!」と言われて愕然としてしまいました。心が折れるとは、このこと!?
そのことばで園の縮図を見た思いがしたのです。

ここに辿り着くまでの
葛藤する孫との物語を巻き戻して再生したい心持ちでした。

朝の受け入れは、貴重な一日の始まりでもあると思いませんか?
接遇が大切であることを分かっているつもりが、

つもり積もってマニュアル化されていませんか?
孫を送り届けて、引き返しながら重い足取りに。
今度は私がトボトボ、トボトボ...と。

子どもたちを取り巻く朝の物語は、保育園が始まりな訳ではなく、

「おはよう!」と子どもが目覚めた瞬間から始まっていること。

お支度できて、保育園にたどり着くまでのプロセスが物語の始まりであることを想定内にできる接遇を意識化していますか? していきませんか?

もちろん、すでに実践なさっていると信じています。

あれから
それから
半年後に待ち続けた甲斐がありました。
その日がやってきました。

それまでは友だちの名前も一切口にせず、

「メガネをかけた男の子がぼくに意地悪をしたんだ!」
「ぼくはなにも悪いことしてないのに、いやだったんだぁ!」と。

「そうだったのね! お友だちの名前は?」と聞くと、
「わかんない!」と言う。

「同じように髪の毛が長い女の子が、
ぼくの遊びをじゃましていやだったんだぁ! 意地悪な子は嫌い」

「意地悪しないで」
「壊さないで」
「じゃましないで」
と、ちゃんと言えたのかしら?

「何回言っても聞いてくれなかったの...。
だから保育園なんかいきたくない!」とまで。

その日は突然やってきました。
それが一転して、友だちの名前を自分から教えてくれたのです。
クラスの友だちだけではなく、
担任の先生の名前まで全部教えてくれました。

本当はホントは知っていたと思いますが、
何か言われたり、聞かれたらすることに、とても敏感に反応していたような気がします。

保育園で歌っている歌を口ずさみながら、遊ぶ姿に変わってきました。
孫のつぶやきに救われていることばがあります。
私と一緒に就寝まえに
誰が教えたわけでもないつぶやき

それは――

「きょうもいちにち たのしかったあ!」

必ずつぶやくことば。
至福の瞬間でもあります。

私たち大人にとっては、とてもシンプルなことでも、子どもたちにとっての生活の変化は、どれだけ心持ちを不安にさせ、葛藤させてしまう要因になっているのかを、孫から教えられています。

「安心の居場所ですか?」
「安心のよりどころになれる存在ですか?」
あなたも私も。

全ての子どもたちが、本当に願っていることは、
「安心して暮らせるくらしの保証」だと思いませんか?

新年度のスタートラインに立ち、すべての子どもたちの歩幅こそ違えども、自らの力で始めの一歩を踏み出せるように!

心からそう願っています。

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