第68回
みんな違うからおもしろい
井上 さく子
「みんな違ってみんないい!」
ということばを保育の世界でもよく引用したり、耳にしたりすることがあります。
とても大切なキーワードだと思いますが、流行りことばのように口にする大人と出会ったときに、なぜか違和感を覚えたことがありました。
もちろん、今でも思うことがあります。
なぜでしょう?
「みんな違ってみんないい!」
と、声を大にしている大人が人間関係でギクシャクしていたのです。
明るくて元気いっぱいの人柄を受け止めつつ、大人のもとに集う子どもたちは、同じ空気を吸って感じると、その刺激を受けて、そのままを再現していきます。
例えば、集団で何かに取り組んだ後、または途中でシュプレキコールの如く子どもたちといっしょに連呼したりすると、
「みんな違っていいみんないい!」
と、ただ言ってるだけ、言わされているだけだとしたらどうでしょう?
その都度、「みんな違ってみんないい!」というよりも、
「みんな違う! ことからすべてが始まっているんだ」
と、心の中で叫び続けている私がここにいます。
一人ひとりの違いがあるからこそ、お互いに縁があってであい、つながりあって豊かな人間性を育んでいけると思いませんか?
一方では、
「違いがあるから面白い!」
ということばも耳にします。確かにその通りだと思います。
ところが、1歳児のやっと歩行ができた子どもたちが、紙パンツを持たされて一列に並んでオムツ交換の順番待ちをしている風景に遭遇して愕然としてしまいました。
なぜ? オムツを持っているのか?
なぜ? 並ぶのか?
なぜ? じっとずっと待たされるのか?
なぜ? が分からなくて友だちに手を出したり、わざとオムツを落としたり、かぶってみたり、待っている間にその度に注意をされて、むっとしたり、怒ったり、泣いたり、押したり、逃げてしまったり...。
ここで何が育つのでしょう?
育つというよりもストレス以外に何も残らないと思いませんか?
個々の育ちの違いや排泄のリズムがみんな違うという視点を据えられたら、一斉にオムツ換えをすることはないと思いませんか?
または、朝夕のあいさつを、ピアノに合わせて歌う、歌わされる子どもたちの風景も同じように捉えてしまうのは私だけでしょうか?
一日何回あいさつをすればいいの?
と、思っても言えない子どもたちの心持ちを知って感じてしまうと空しくなってしまいます。
床にセロテープで3本の線を引き、その度に並ばせようとするのですが、シーソーゲームの如く、動いたり、飛び出したりしているのです。
「みんな違う!」という視点がないと。
例えば、このように子どもたちを動かしてしまうことに...。
子どもの最善の利益の保証とは真逆の世界に誘おとしていませんか?
みなさまの保育現場ではいかがでしょう?
2つのエピソードをどんなふうに受け止めていただけたのでしょう?
もちろん、目の前の子どもたちの発達や個の違いを据えて向き合う大人は、違いにより添って見守ったり、助けたりしている風景もあります。
子どもたちはどちらの大人を求めているのでしょう?
言うまでもありませんが、ありのままのぼくや私を受け止めてくれる大人をよりどころに大きくなりたがっていることに着目していきませんか?
頭では分かっていても、なかなか実践に移せないときはどうしたらいいの? と相談を受けることもあります。
本当に分かっていたら、できることから始められると思いますが、積もり積もって実は分かっていないことに...。
新年度がスタートして、新しい環境にまだ慣れない子どもたちや大人たちの暮らしの中で、一斉に動かす保育ではなく、子どもたちの心持ちを見抜く力を研ぎ澄ましながら、子ども自ら動きたくなる暮らしのデザインを心から願います。
今だからこそ、据えてほしい。
みんな違うということから、全てが始まっていることを!
分からないことに遭遇したら、目の前の子どもたちに聴くまなざしを!
どの年齢の子どもたちでも答えを教えてくれます。
すべての子どもたちの力を信じて向き合う保育こそが、
自己肯定感が豊かなに育まれる保育だと思いませんか?
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大人気講師 汐見稔幸先生×井上さく子先生のコラボが実現しました♩
『リーダー研修 オンライン配信 』
「保育のリーダーとしてのデザイン力を高める2022」を大きなテーマとして、保育業界を牽引する汐見稔幸先生と井上さく子先生がライブ配信で、リーダーとしての保育に関する悩みや迷いに対してアドバイスや回答をいたします。どう考えたら保育が面白くなるのかを研修を通して一緒に学び体験しませんか。汐見稔幸先生、井上さく子先生それぞれのお考えが聞けるだけでなく、他園の先生方とグループワークにて情報交換することが出来るのも魅力の1つです。常に変化を求められる今、現場の中心であるリーダーたちが前向きな気持ちで一歩踏み出せる研修を各回準備しております。
(合計4回ですが、各回異なったテーマとなっておりますので単発参加も可能です)
【開催日時】
第1回 2022年6月7日(火)14:00~16:00
第2回 2022年7月5日(火)14:00~16:00
第3回 2022年8月2日(火)14:00~16:00
第4回 2022年9月6日(火)14:00~16:00
【参加費用】
■全4回分まとめ購入 20,000円(税抜)※1回5,000円
■第1回(6月7日)開催分 5,000円(税抜)
■会場 WEB配信となります。
■詳細・お申込み
https://hoiku.mynavi.jp/seminar/leader_seminar.html/
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コメント(5)
一歳の孫が保育園に通いたくさんの経験をしてくる中で、「じゅんばんばん」という言葉をよく言うようになりました。一歳で順番が理解できるのか、順番という言葉で行動をコントロールされているようで違和感がありました。
集団としてまとめてしまうのではなく、ひとりひとりが大切にされたら、「友達って素敵」って思い「どうぞ」と言える子どもになっていくのだと思います。
"みんな違うからおもしろい"
と言う境地に達するまでに
私はずいぶん長い道のりがありました
一斉に同じ事をさせ、
みんなができることで
ある一定の成果が得られます
親も先生も満足し安心します
それでは子ども一人一人は
決して満足なんかしてなかったんですねー
さく子先生の21世紀型保育に出会い
目が覚めた思いです
現場は離れましたが、孫たちを見ていて
子どもの力を信じて向き合う
保育教育の大切さを実感しています
『みんな違ってみんないい』初めてこの言葉を聞いたときに目から鱗の喜びを感じたのはずっと昔のことになります。まだ保育士の頃でした。一人ひとりを尊重して保育して行くと今迄見えなかった良さが沢山見えてきて保育の楽しさを子ども達に教えられた気がします。少しずつ世の中は変わってきているのでしょうか?小学校の様子を見ても、形は整えられてきたように見えますが、個を尊重した授業は遠いような気がします。保育園も生き残りをかけて園児獲得のための競争が始まっています。保護者の口コミがその最大の鍵になる中で理想と現実を感じています。
自分の場合、例えば小学生時は年度ごとに担任が変わり、その先生毎の時には厳しいルールに戸惑うこともありました。
今客観的に思い返すと、大人や周りに子の本質に向き合う余裕がなく、感情やその場の流れで対応していたのでは…と改めて感じることも多いです。
成長する過程でルールや仕組みに合わせたり学んだりしていきますが、幼い子ほど成長や考え方の幅が大きいと思いますし、せめて大人が強制するのではなく、自分で見て考えて吸収し発信できる環境が少しでも増えていくことを願います。
毎回色々な気付きを頂き、保育士としても母としてもありがたく思っています。
現在1歳児クラスの担任をしています。これまでも何度もしてきました。この年齢の子どもたちは本当にひとりひとりが違っています。その違いを大人の都合でまとめていってしまっていたような気持ちになりました。当たり前の景色に疑問をもつことで、また違った景色が見えてくるように思います。
まずは自分の意識から変えていこうと思います!
今年は中級研修があります。初心を思い出しながら、またさくこさんのエピソードから改めて学び直すつもりです。
いつもありがとうございます。