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井上さく子先生の 子どもに学ぶ 21世紀型保育
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第71回
ぜんぶ子どもがおしえてくれる
井上 さく子

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「きのうの続きつづき!」
2歳児クラスの子どもたちが、絵の具を使って楽しんでいる風景から物語が始まります。

2歳児になると、「友だちと関わって遊びたい!」「関わりたい!」の願いが全面に映し出されます。
他の場面でも、「続きを取って置きたい」と自分の意思を伝え、取って置いてもらうことで、安心して次の行動に移せるようになるのもこの年齢です。

ところが、そのような子どもたちの願いをいとも簡単にたたみ込んでしまう大人たちがたくさんいることに気づかされているのは、私だけでしょうか?

「片付けてって、さっきいったよね!」
「それはわがままっていうんだよ!」と。

このようにやり取りをしている傍で、心の中で泣いてしまいます。
子どもの願いを受け止めようとするどころか、大人の理不尽な立ち振る舞いを見て、『どっちがわがままなんでしょう!?』と、代弁できたら幸せと思いながら、その子自身を守ってあげられない歯がゆさに自己嫌悪感を......。

続きのある遊びが子どもたちの世界を、どれだけ豊かにしてくれるのか? 立ち止まって考えていきませんか?

絵の具の物語に戻っていきます。
保育室の水道に近い床に、模造紙2枚分が置かれていました。

すでに、大人と子どもたち数人が活動を始めていました。
大きな紙の上に乗って、手足が絵の具だらけになっている子どもたち。

筆やローラーを使って色を載せては、コロコロ、パタパタ、ベタベタ、ヌルヌルと、表現の感触と、音と動きと笑い声が止まることなく楽しむ子どもたち。

エスカレートすると、大人のTシャツにまで、色を載せてはしゃぎまくる子どもたちの満面の笑顔から、これほど楽しいことはないと全身で表現している様子が伝わってきました。

Tシャツにペンディングされても、避けようとしたり、逃げようとしたり、注意したり、嫌がったりせずに、子どもたちの「やりたい!」を丸ごと受け止めている大人も「すごい!」と、思いました。

何よりも子どもたちが弾けて喜んで、話しながら、笑いながら、夢中になっている様子をおもしろがり、肯定的に受け止めている大人の感性が素晴らしいと思わずにはいられませんでした。

物語はまだまだ続き、こだわり続けて観ていくことに。
全員が一緒に活動している訳ではなく、やりたい子どもたちが始めている風景でした。

他の子どもたちは、違う場所で乗り物遊び、お絵かき、絵本に触れるなど、好きな場所で好きな遊びをしながら、ときどき絵の具のコーナーを覗きにきては、また戻っていき遊びが展開されていました。

子どもたちの足も手も絵の具で染められていきます。誰かが塗ったところに、さらに上書きするように手や足で色をのせていくと、たちまち変化していきます。

偶発的にそのことに気づいた子どもは、「なんでなんで?」と色の変化をおもしろがり、不思議がりながら、つぶやいていきます。

すると、そのつぶやきを拾った友だちが、「えっ!? なんでなんで?」とさらにつぶやいていました。

「なぜ?」を、おもしろがり、不思議がる世界の扉を開けた瞬間でもあるかのように、観ていてもワクワク感が伝わってくるのです。

私たち大人はつい、絵の具の使い方から筆の扱い方や操作の仕方までも、先に説明ありきの保育が当たり前にまかり通っているような気がしています。

いかがでしょう? 表現活動の一貫として、絵の具を取り入れた保育や体験をと据えがちですが、このような風景を目のあたりにしたら、それが通用するでしょうか?

子どもたちにとっては、「これほど魅力的な遊びはない!」と新たな発見をしたかのようにも映ります。

何よりも、「五感を使って絵の具の素材を楽しむことから始めよう!」「やってみよう!」と、その世界に没頭していました。

何度も繰り返していくうちに、道具があることに気づき始め、筆やローラーを手にしながら次々と友だちの色に重ねていました。

紙の上には、空白は1つもなく、数人の子どもたちによって、芸術的な色に変わっていきます。それどころか、水と絵の具と子どもたちの力で紙の端がびしょびしょになって、破けてしまいました。破けたところをさらに足の力で試そうとする様子を捉えて、注意することなく、その上に真っ白な紙が載せられていきました。

またもやはしゃぐ2歳児たちです。
飽きることなく――

「いつまで続く?」
「どこまで続く?」

ずうっと見守っていたら限りなくやり続けそうな空気が漂ってきました。

食事の時間が近づくと大人たちは、さり気なくことばを添えて、使った道具を水道へ運び、子どもたちといっしょに洗い始めたり、周りに付いた絵の具を雑巾で拭き始めました。

大人たちの動きに気づくと、子どもたちも同じように床を拭き始めたのです。

水道では一瞬、その場を離れた大人の隙をみて絵の具の蓋を開けて、水を入れるスリル感を!? ただでは終わらない2歳児のいたずら、片付けまでも遊びにしちゃういたずら名人に、思わずくすくすっと笑顔が。

見えない心持ちまでも弾けて動く。

そのようなオーラを吸って感じて読み取ることができました。

その後は、絵の具だらけの洋服から着替えに入るときにも、少人数で着替えコーナーできれいな洋服に。

大人もきれいなTシャツに着替えていましたが、子どもたちの手で染められたTシャツは、世界で1枚のデザイン! 洗わずに宝にしてほしいと祈る思いでした。

手を洗った子どもからテーブルにつき、食べ始めていましたが、食べる姿勢やマナーが2歳児の育ちとは思えないほどに、落ち着いている風景に驚きました。

大人の都合で遊びをたたみ込まれていたら、このように食事に向かえるでしょうか?

大人と子どもたちの関係性を通して、振り返ってみました。
子どもと、大人の信頼関係が成立していること。
遊びや生活の場の空気を壊さないように、大人が意識化していること。
1つ先を見通せるようなことばを添えていること。
いっせいに子どもを動かしていないこと。
少人数で時間差をつけた活動の方法を取り入れていること。
この一つひとつが、子どもたちの確かな育ちにつながっていること。

「やりたい!」
「やってみたい!」
「おもしろい!」
「取って置きたい!」
「つづきをやりたい!」
「楽しい!」
「不思議!」

それらのすべてが、絵の具の素材に触れて満喫できた2歳児の物語でした。続きがあるからおもしろい!

今日も明日も明後日も「つづき、つづきがしたい!」子どもたちの願いを受け止められる器を用意していきませんか? 決めるのは、子どもたちです。

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