
第73回
孫のつぶやき
井上 さく子
「ぼくはかわいいと言われるより、かっこいいと言ってほしい」
「かっこいいと言われた方が嬉しい」と。
急につぶやかれて、
「あらっ!? そうなの? かわいいのことばも素敵だと思うけど」
「かわいいと言われてもちっとも嬉しくない。だからかっこいい! と言ってほしい」
友だちや仲間関係の刺激だけではなく、TVで見るヒーローに憧れて、かっこいい! のことばを使ってみたくなったりしているのかも知れません。そう言われて、内面の育ちに変化が起きているように思いました。
素直に分かりました。
「今度から気をつけるね!」
その後、孫はLaQで作品を完成させて見せてくれました。カタログを見ながら、どんどん組み立てていきます。ときどき、このパーツをカタログを見ながらつくってほしいと頼まれることがあります。
沢山の種類の中から、カタログを参考に見つけては組み立てようとすると違いに気づき、私に「ようく見てごらん?」と言いながら、見事に説明をしてくれるのです。
LaQそのものが細かく、同じ色でも微妙に形が違ったりします。
その違いを瞬時に見極めて、手先も器用に使いこなす術をどこで覚えたのかしら?
思わず、「どうして見ただけでできちゃうのかしら?」
とつぶやくと、嬉しそうに「ぼくはなんでもできるのさ!」と言う。
真剣に取り組んでも、任されたパーツを完成できないでいると、またもや、カタログを見ながら説明をしてくれるのです。
実に分かりやすい。
5歳の声を聞く前は、こんなにスムーズに作れず、できない自分にイラッとして、むしろ感情をあらわにすることもありました。
保育園や子ども園でも、年長クラスにLaQを提供しているところがたくさんあります。
床に沢山落ちていても、大人も子どもも拾ったり、自ら片づけようとしない風景に唖然とすることもあります。
子どもたちはLaQが好きなんですよね。
特に男の子たちが...。そのことばを耳にすると、確かにそうかも知れませんが、集団生活で取り上げる教材と言うよりも、個人又は少ないお友だちとの関係性、又は落ち着いた環境だからこそ集中して遊べるように思えるのは、私だけでしょうか?
さまざまな道具や素材、教材を提供していくときに、
『子どもたちが好きだから...』の理由で依存していませんか?
特に、ブロックの種類に同じような心持ちを抱きます。
先日もある園で、『今はブロックと絵本だけです』『好きなものを選んで遊んでください』と、言い切っている大人の振る舞いに驚きました。
皆さまの園では、いかがでしょう?
選ぶのも決めるのも子どもたちなのに、たった2つから選んで! はあまりにも理不尽だと思いませんか?
集団だから家庭環境だからではなく、その子自身の願いが叶えられるかどうかが私たち大人にかかっていると思いませんか?
孫と向き合いながら、ふと振り返っていました。
色は同じでも、形が違うでしょう? と
5歳の孫に言われる年齢になったか? と苦笑しながら
思わず「素敵!」と言ってしまいました。
すると、すかさず「かっこいい! と言って欲しかったなあ...」と不満そうな表情に。
「かっこいい!」と言われたい願望は、何をきっかけに芽生えたのかしら?
思わず聞いてみたくなることもありますが、そこは無理に入り込まずにシンプルに受け止めようと思いました。
ことばだけではなく、さまざまな葛藤を経てきたからこその内面の育ちを垣間見ることができたと思っています。
第2段のエピソードもとてもほっこりします。
弟が誕生して、早1歳7カ月になりました。
お兄ちゃんのやること成すことに興味関心を示し、次から次へと手を出してしまいます。
「やめてください! と言っても、聞いてくれないんです」と訴えることも...。
とうちゃんとかあちゃんは、お兄ちゃん仕立てをしない方針を抱いていますので、弟が邪魔したり、意地悪な振る舞いをしたときには、しっかり注意してお兄ちゃんの遊びを守ってくれてます。
そのお兄ちゃんが長い夏休み明けの保育園のお迎え時に、自転車の後ろに乗りながら、おかあちゃんにつぶやいたこと、それは――
「きょうから、ぼくのことを名前で呼ばないで、
おにいちゃんかニーニと呼んでほしい。
だって弟がぼくのことを名前で呼ぶようになるでしょう?
だから、お兄ちゃんかニーニって呼んでほしいんだ」と。
それまでは、弟がかわいいと言われるたびに、葛藤していました。
おかあちゃんは、とても嬉しいエピソードがあると教えてくれたのです。
お兄ちゃんなんだから、お姉ちゃんなんだからと仕立てなくても、自分で受け入れる心持ちが整ったときに、ことばで表現できると言うことを教えてもらったエピソードでした。
かわいいよりはかっこいい!
名前よりお兄ちゃんと呼んでほしい!
内面の心持ちを知って感じて、
集団生活で暮らしている子どもたちの育ちの違いを丁寧に観ていくことの大切さを洗い出したきっかけになりました。
子どもによって、大人が成長させてもらっていることに気づけるかどうか? その心持ち次第で関わり方が大きく変わってくると思いませんか?
皆さまは、どんなふうに受け止めたでしょうか?
-------------------------------------
\\途中の回、単発での参加も大歓迎//
【さく子ゼミ オンライン配信 】
全国の保育現場の環境改善に奔走する井上さく子先生が、
WEBを通して参加者の『保育に関する悩みや迷い』に答えます。
【開催日時】※各回とも開催時間は18:45~21:00
第5回:2022年10月24日(月)
第6回:2022年11月21日(月)
第7回:2022年12月19日(月)
第8回:2023年1月23日(月)
第9回:2023年2月20日(月)
第10回:2023年3月27日(月)
https://hoiku.mynavi.jp/seminar/sakuko_seminar.html/
-------------------------------------
コメント(6)
さく子先生のお話いつも自分を振り返る場として読ませていただいています。
最近の私が、まさしく部屋の散らかりが気になり、レゴなどが落ちている時拾いながら遊びを見ていたことを振り返っていました。私は部屋に色々落ちているのは嫌なので、拾いながら子どもたちにも声をかけたりしていました。私の様子を見ても大人は気にしていませんが、昨日私の様子を見て、なんだか手伝いだしてくれていたEちゃん。しばらく私が用事でそばを離れていたら、先生きてーと手を引いてくれ、ブロックのところへ。落ちていたのが全て綺麗に片付けられていたのでした。褒められたいという思いもあったのかもしれないけど、綺麗にしてくれて嬉しかった、気持ちいいよねを共有し、お母さんにもその話をすると嬉しそうなEちゃんでした。
子どもの身の回りの環境は、きれいに整えつつ、あそべたらと改めて振り返らせていただきました。
ありがとうございます。
昨日、今日と2日続きで孫の幼稚園とこども園で運動会。どちらも昨年はママだけの参加でしたが、今年はパパとママが参加できるようになりました。コロナと共存していくしかないようです。ばあばも一緒に参加できたコロナ禍前が遠い昔のように感じます
孫3人姉妹の真ん中の次女にとって、今日の運動会はパパとママを一人じめできる唯一の日になりました。毎日姉と妹に譲りがまんしてます。今朝は張り切って出かけて行きました。
ばあばは、姉と妹とお留守番です。
娘たちの子育てを見て、ばあばは昔の子育てを思い出しながら、反省しつつ、しっかり育ってくれた娘たちを応援してます
さく子先生とお孫さんが向き合って?肩を寄せあって?LaQを組み立てている温かな穏やかな光景を思い浮かべていました。何気ない一瞬に子どもの成長を感じることが保育の面白さでもあると思いますが…子ども達が好きだから、子どもがそう言うから…と、ひと括りに考えてしまうことがどんなに多いことか。保育者が導かないと、教えていかないと…と、言葉でたたみ込むことが、どんなに多いことか。子どものことをわかっている気になっていたり、決めつけてしまったりしていないか…。子どもを信じて待てる保育。子どもからわき出る思いや言葉をしっかり捉えて、向き合える保育。保育者が感度を高くもって、そんな丁寧な保育を目指していきたいです。できることが増えることだけではない、子ども達の成長を目の当たりにできる保育の面白さを園の先生達と共有していきたいです。さく子先生からの言葉の余韻が残る今の園内なら、できそうな思いでいます。
4歳を過ぎる頃になると本当に「かわいいじゃない‼カッコいいでしょ‼」と言ってきますね。誇らしげな姿が微笑ましく成長を感じる瞬間です。遊びの環境は、学んでも実践に繋がらないのが悲しい。えっ?だからなぜ玩具が押し入れから出るの?「先生、お絵かきする紙下さい」って紙は何処?こちらは絵本の読み聞かせ。読み終わると当たり前のように絵本を押し入れに?。えっ‼手に取って自由に読めないの?押し入れには私物の絵本がズラーっ。園予算で買いましょうよ‼あら‼このクラスはキャラクターのぬり絵三昧。保育者が家で山のように印刷してきたの?学んでも学んでも中々実践に繋がらない現状に愕然とします。ホントは全部頭から否定したくなりますが「相談していい?」と根気よく。保育者の思いを受け止めながら、ここからですね?と取り組んでいます。
こどもは知らないうちに体も心もどんどん成長していくんですね。かっこいい、にーに、心持ちを言葉にして周りの大人に伝えるお孫さんの姿は、日頃の関わる大人の心持ちによって変わるのだと思いました。成長していきたい子どもの思いが、素直に出されて、受け止めていく大人でいたいと思いました。
きっと、シンプルな事でしょうね。大人が子どもを信じて心持ちを受け止めていく。私もそんなばあばでいたいと思っています。
「かっこいい」「ニー二」!!自分のことは自分で決める!
大人が決めつけず、子どもの気持ちが整うまで待っていることが大事なのですね。お孫さんに言われた言葉、私も体験出来るようなことがあったら心の中でガッツポーズつくります!