対談 井上さく子 × 山本智美 21世紀保育って? 対談 井上さく子 × 山本智美 21世紀保育って?

保健環境アドバイザー 井上さく子 × 株式会社マイナビ 山本智美 保健環境アドバイザー 井上さく子 × 株式会社マイナビ 山本智美
  • 保育環境アドバイザー。
    岩手県遠野市生まれ。1976年目黒区第2
    田道保育園に保育士として勤務。
    目黒区ひもんや保育園園長を最後に38年
    間の保育士生活に幕を閉じる。
    現在新渡戸短期大学非常勤講師。
    近著に「ぜんぶ子どもが教えてくれる
    探しながら自分を生きる―さく子の幼児
    保育―」(サンパティック・カフェ)
  • (株)マイナビ取締役 紹介事業本部長。
    1994年当時の毎日コミュニケーションズに
    入社。大阪支社を経て1997年に東京本社へ。
    就職情報事業や出版事業などでキャリアアッ
    プを果たした後、2002年から紹介事業本部
    に着任。2004年に事業責任者となり、2007
    年分社化・毎日キャリアバンク社長。
    2012年合併後、2016年取締役就任。
    保育園に息子が通うワーキングママ。
  • profile

    井上さく子

    保育環境アドバイザー。
    岩手県遠野市生まれ。1976年目黒区第2田道保育園に保育士として勤務。 目黒区ひもんや保育園園長を最後に38年間の保育士生活に幕を閉じる。現在新渡戸短期大学非常勤講師。近著に「ぜんぶ子どもが教えてくれる探しながら自分を生きる―さく子の幼児保育―」(サンパティック・カフェ)
  • profile

    山本智美

    (株)マイナビ取締役 紹介事業本部長。
    1994年当時の毎日コミュニケーションズに入社。大阪支社を経て1997年に東京本社へ。就職情報事業や出版事業などでキャリアアップを果たした後、2002年から紹介事業本部に着任。2004年に事業責任者となり、2007年分社化・毎日キャリアバンク社長。2012年合併後、2016年取締役就任。保育園に息子が通うワーキングママ。

1保育士を目指した
きっかけは?

本日は対談にお越しいただき、ありがとうございました。


保育環境アドバイザーの井上さく子先生は、園長経験含む38年の保育士キャリア。講演会・朗読コンサートや新聞インタビューでご存知の方が多いですが、新設の保育所が認可をとるためのアドバイスもされています。
山本智美さんはお子さんが保育園にかようワーキングママであり、約600人の部下を持つマイナビの取締役、紹介事業本部長でもあります。今日はいったいどんな意見が飛び出すのでしょうか。


(以下敬称略)

山本 早速なのですがさく子先生はなぜ保育士をめざしたのでしょうか。何かきっかけがありましたか?


井上 私は、岩手の田舎で育ったんですよ。そうするとね、いつもちっちゃい子たちが家に集まってくるの。風が吹いている草っぱらを駆けてきて、本当に「あーそーぼ!」ってね。妹、弟も一緒に面倒を見るので、すでに小学生で保育士みたいでした。そのころは保母さんって言いました。
中3の進路相談が決め手でしたね。担任の先生に、「若いころの苦労は買ってでもしなさい」と言われていて、なぜだか東京に行って苦労しないといけないと思ってしまったんです。おじやおばもいるので、高校から東京へ行くのも不可能ではないとスイッチが入ってしまいました。でも、そのときに父が、「東京の学校なんか受かりっこない! 何を夢みたいなこと言ってんだ!」って言ったんです。売り言葉に買い言葉で「受かって保育を生涯の仕事にする!」と言ったあとに、あ、宣言しちゃった。と思いました。
私は、幼少期におとなしかった分、思春期に色々噴出しちゃったんですよ。その子ども時代に強く思った「私のやりたいことを、私に選ばせて!」という願いはこのときから抱いていました。こうしてみると、ずいぶん若いころからもう保育士になろうと思ってましたね。色々ありましたが、まったく後悔していません。

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山本 保育士は、天職だったと言えそうですね。

井上 カベには何度も当たってますけどね(笑)

221世紀型保育とは?

山本 小学校の遊び体験、中学生の夢。それから保育士としての長い経験を経て、さく子先生がたどり着いた哲学、21世紀型保育とは、どんなものでしょうか?
私も5歳児の母なのですが、現在の保育には改善できる点がたくさんある気がするんです。

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井上 そうですね、大前提として「子どもたちの最善の利益を護る」ということです。そして否定語を使わない、一人ひとり違う子ども個々に共感して対話する「ほっとする実家のような保育園」をめざしたい。子どもと、職員と親御さんと一緒に。
子どもと一人の人間として対話するためには、大人が変わり続けることが必要です。これは、20世紀型の保育を否定するものではないです。私たちの先輩も、一生懸命よい保育をめざしてきました。その昔は資格もなく、指針もなかった。それをみんなで努力して作り、守ろうとしてきました。その時期が過ぎて今、私が問いかけたいのは、保育指針が飾りことばになっていないか? 保育をする者としての目的意識はどこにあるのか? という点です。はじめに考えるべきことは、
「どんな子どもになってほしいのか」
ではないでしょうか? それは、保育士にも母親にも言えることです。
何よりもスケジュールや教育理論・育児書通りに子どもをむりやりあてはめないことが大事だと思っています。
時間割のように大人の都合で子どもの遊びを切っていませんか? 一人ひとりを見ないで、習った教育用語のレッテルを子どもに貼って満足し、考えることをやめてはいませんか?

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環境としては、子どもたちが私たちの感覚でいう実家にいるように安心して、遊ぶ場所と遊ぶもの、遊ぶ人を選べる場所をめざしてきました。今でもめざし続けています。
ソフト面では、保育士や親御さん自身の人としてのありようを考えてほしい。
「100回の言葉より、1回の体験で本物をつかむ」
……大人が何が良いことだと思っていて、どういう大人であろうとしているか。そのありようを、子どもたちにモデル化して見せてあげてほしいと願っています。
たとえば、最近いろいろな人が持っています、キラキラにデコレーションしたり、皮表紙をつけたスマートフォン。便利で私も使っていますが、親や保育士がスマートフォンに夢中になっていて、子どもの話も聞かなかったら、どうして子どもがスマートフォンのゲームをやめるのでしょうか?
少しの間でもいい。手を止めて、「どうしたの?」と言われたときに自分に意識が向いていることに気づくと、子どもは安心します。それは仕事で忙しい場合も同じです。

現代の子どもはすでに21世紀に生まれ、生きています。親世代も豊かな自然や遊びの中で育ってきた人は少なくなり、どんな外遊びをしてきましたかと聞くと、30~40歳代でもノート2行くらいしか書けない人も多くなってきています。
私は地方に呼んでいただく機会がありますが、地方でさえも子どもたちが外で遊んでいない。何をしているのでしょう? ゲーム、ビデオ、習い事、塾など家の中で遊ぶことしかできなくなってきています。また、外に出て知らない人とも交流して遊んでいた時代に比べ、21世紀は「人は信じるな、知らない人とは話をしてもダメ」という親も多い。それは子どもが育ってほしい環境でしょうか? 私はそうは思いません。その社会自体を変えていくということも、21世紀型の保育・教育です。
大人が変わり、子どもが育つためのよりよい環境づくりが課題になっています。
もっと子どもたちが外で自由に、中でも自由に遊べるようになってほしい。そんな環境で初めて育まれるのが子どもの「自分で考え、自分で決める力」だと思いませんか?

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3保育士として当たって
乗り越えてきたカベは?

山本 今までの保育園で体験したことで、「これはカベだったかも?」と記憶に残ったできごとはなんですか?


井上 初めて勤めた保育園が、わらべうた主流の方法で子どもを育てるというコンセプトの公立保育園でした。園長先生始め、園としての方針でした。確かに自分で歌えて、子どもたちにとっていいことだと思いましたが、配属されたクラスで私ともう一人の新人保育士は、棚にあるプレーヤーを見て、たまにはレコードを使っていいと思うこともありました。ピアノもあるのに弾くことはありませんでした。
子どもたちに「レコードかけて」と言われ、かけてあげたときのことです。先輩保育士に「なんでレコードかけたの! わらべうたの保育園だから、レコードはかけちゃだめなのよ!」と怒られてしまいました。納得いかなくて、だんだん緊張状態が続き、そのあと園長先生に相談しました。園長先生は最後まで私たちの話を聞いてくれて、受け止めてくれました。園長先生自ら、突然いけないことになっていたピアノを弾いてくれたのです。職員会議で、なぜわらべうたなのか、なぜそれが大事なのかという理念をみんなで振り返りました。
子どもが自分で口ずさめること。子どもにとって保育士が肉声でやさしく歌ってあげることが心地いい、それがとても大切なこと等々。「わからないこと、納得がいかないことは聞いてみましょう」ということも話してくれました。
完全に腑に落ちたわけではなかったのですが、ある程度受け止めることができました。それからは職員会議で新人2人がわからないことを積極的に質問するようになりました。

そのあと有名なわらべうたの研究会で学び続け、実践でつなぐ日々が続きました。納得するまで学んで、自分でも率先して実践するようになりました。
その結果、わらべうたもピアノも、両方提供してもいいと言う考えに至りました。選ぶのは子どもです。環境構成の中に置いてある以上、子どもは「かけて!」と言う。子どもが願えばそれでいいということです(笑)。
今振り返ると、園長先生の対応は、自分が園長になったときにとても参考になりました。
自分の考えをわかってもらうためには職員へも、親御さんたちへも説明責任が問われてきます。保育のねらいを機会あるごとに丁寧に説明していくと、誤解を元に保護者との溝ができるということにはならないということです。それどころか激減していきます。

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次は保育士になって3年目に先輩とギクシャクしてしまったという身近な事例です。
5歳児の担任で先輩とペアになったときのこと、先輩に「ご飯残しちゃダメ!」と子どもが厳しくしかられて、3年目保育士に抱きしめてもらいたくて走ってくる。その子を抱きしめていると先輩に睨まれてしまう。それが怖くて、ためらいながら子どもを抱きしめている自分がいて、苦しいと相談されました。
私が聞いたことは、「あなたはどこに向かって生きていますか?」ということです。保育士として私に相談した彼女は、
「先輩を気にして生きてきた」としぼり出すように答えてくれました。
「じゃあ、明日からは?」
(しばらく考えてから)
「……子ども、と、向き合おうと思います」
最後は「先輩がどう思うかを気にして行動するのではなく、子どもと向き合います」
と、しっかりと気持ちを入れ替えてくれました。

そこから、彼女は変わりました。びくびくするのをやめて、丸ごとその子の気持ちに向き合い、疑問に思ったことを先輩に「○○した方がいいですか?」と、はっきり聞けるようになったのです。自分が子どもにどうしたいかの答えを見つけるきっかけにもなっていきます。このケースでは疑問をはっきりと提起することで、逆に先輩との関係も好転しました。たとえ好転しなかったとしても、子どもにとってはベテラン保育士も新人保育士も等しく映ります。
「子どもを信じて向き合う」ことなくして保育は語れないと言っても過言ではありません。


山本 子どもが信じて頼りにするのは、そのとき目の前にいる保育士その人だということですね。


井上 その通りですね。

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4これからの
保育園の役割は?

山本 保育園というものは、基本的に公的補助がないと経営が成り立たないところがあって、特に公立保育園は身動きとれないんじゃないかと思うのですが、いかがでしょうか。はたから見て、「ここを工夫したらいいのに!」と思うことも、意見を出してもなかなか変わらないように見えます。また、行政側になにか要望したいことがありますか?


井上 要望としては、いろいろあります。「子どもが生まれたときから誰でも保育・教育を受けられる社会であってほしい」ということです。公立園と私立園についてはイメージでは私立園がいいのかも知れないのですが、実際には公立保育園のほうが人員的にも予算的にも恵まれていることが多いと思っています。
だからこそ公立の役割として、恵まれている状況にどっぷりと漬かっていてはいけない訳です。地域の子育てセンターの核になる。地域の子育てのみならず私立園の研修生を受け入れて一緒に学べる場であってほしいと願っています。多くの公立保育園の職員は、時間内の研修を受けることができます。
私立保育園では一度も研修に行かせてもらったことがないという人もたくさんいます。
公立保育園や恵まれた園は、実践できる環境づくりや自分の園の関係者ではない人に保育方法を共有できるための「公開保育」をもっと積極的に取り組んでいくことが求められていると思っています。
たとえば、ある子どもがほかの子に噛みつく、という事故が起こったとします。でも外にもいけない、毎日決まった遊びしかできない窮屈な環境でストレスを感じると、ほこ先をそばにいる友達に向けて、噛みついてしまったりする。噛みついたのは子どもですが、噛みつかせているのは誰でしょうか?

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私が関わっているある保育研修会にいらした私立法人の理事長が、これからの保育を変えていこうという私の講演を聞いた後に「うちの法人の保育所が一番いいと思ってた」と言いました。良かれと思って、ケガをしない保育に力を入れてきたが「子どもの最善の利益を護る」という21世紀型保育・教育に共鳴したと言ってくれました。70代の理事長が「その保育・教育のためには大人が変わらないといけない、だから自分が変わる! 僕と一緒に変わりませんか?」と全ての職員に向けて宣言していました。その心強いメッセージにとても感動しました。

その結果、法人の中でモデル園を決めて毎月1回公開保育をすることになりました。モデル園の職員から、保育の振り返りをする。他の園の研修生も現場での気づきを出し合いその経験を持ち帰って自園で振り返り実践につなぐ。「学びを実践してこそ本物の学び」になっていくと信じています。

その結果をさまざまな場所でさまざまな機会に子どもたちが教えてくれます。いつでも答えは子どもが出してくれると信じてつき合い、大人は先回りして答えを出さないようにすることで、いつでも自分で考えながら遊べる子どもになっていくと確信しています。

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著書3冊。新刊「ぜんぶ子どもが教えてくれる 探しながら自分を生きる―さく子の幼児保育―」には、豊富な実体験から生まれた保育の知恵がつまっている。

5今の保育士の
みなさんに
対して
ひとこと

山本 では最後に、現役で働いていたり、働こうと思っていたりする保育士たちにひとこといただけますか。


井上 わからないことをわからないままに過ごすと、ストレスの塊みたいになってしまいます。具体的な子どものエピソードをまん中に据えて納得がいくまで心のキャッチボールをしていけるといいですね。
経験が豊かな人は自分の遊びの体験や経験を若い保育士たちに語り継いでほしいと願っています。
迷ったときには、なぜこの仕事を選んだか、原点に立ち返り前を向いて歩き続けてほしいですね。
たとえば子どもが何をやりたがっているのか、何を嫌っているのかをいつでも子ども目線に合わせて、見たり、聞いたり、感じる感性をみがいていくことが必須です。「子どもに何かをしてあげよう!」ではなく、赤ちゃんから年長児まで、全ての子どもたちに心の中で(この私でいいですか?)と真摯に問い、向き合いながら個の育ちの援助をしていける大人であってほしいと心から願っています。
やがて、大人が子どもに成長させてもらっていることに気づくときが……

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