書籍紹介『こどものみかた 春夏秋冬』保育の仕事は、時間をかけて磨き上げる「泥だんごづくり」のよう──。
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子どもと過ごす一年は長いようであっという間。移りゆく季節のなか、子どもたちと過ごすかけがえのない日々の様子を綴ったエッセイ『こどものみかた 春夏秋冬』(福音館書店)は、保育の仕事の原点を思い起こすことができる一冊です。
春夏秋冬、それぞれの季節で感じる子どもたちの成長を通して、保育士としての喜びややりがいを実感できる本書は、「子どもの味方」になるための「子どもの見方」のヒントが満載です。
子ども自身が「どう育っているか」に着目すると、保育はもっと面白い!
「お母さんと離れたくない!」とのけぞりながら泣き叫ぶ子どもを無理矢理抱き抱える保育士と、不安そうにその場を離れる母親の姿……。春の風物詩といってもいいほど、4月の保育園や幼稚園でよく見られる光景ですね。保育士にとっては毎年のことですが、子どもたち一人ひとりにとっては人生で初めてお母さんと引き離される一大事でもあります。
5月、6月と時が経つにつれて、ケロッとした表情で「ママ、ばいばーい」と教室に駆け込むようになることはわかっていても、入園したての子どもたちの不安な気持ちにはできるだけ寄り添ってあげたいものです。保育施設「りんごの木」の設立者である柴田愛子先生は、本書『こどものみかた 春夏秋冬』(福音館書店)のなかで、次のように述べています。
子どもには子どものつもりが、おとなにはおとなのつもりがあり、それは決して一致しないのかもしれません。でも、子どもたちは懸命に今を生きています。子どもを見る、そして、子どもの味方になるということは、発達途上にある子どもの人生を応援するということなのだと思います。
引用:『こどものみかた 春夏秋冬』(柴田愛子 著/福音館書店)
「どう育てたいか」ではなく、子ども自身が「どう育っているのか」に着目して子どもの心に寄り添いたいと思ったことが、りんごの木の保育の始まりなのだそう。すると、「子ども側に視点を置いてみたら、なんと子どもは面白い!」と気づいたのだといいます。
子どもたちは、園生活を通してさまざまなことを学び、たくさんの経験を積み重ねていきます。その姿を間近で見ることができる保育士という仕事は、なんと楽しく、刺激的なのでしょう。そして何より、保育士自身の成長にもつながるのです。柴田先生は、保育士が子どもを通じて成長する姿を、「泥だんごづくり」と重ね合わせます。
新しい砂をかけて、手でこすり、砂を落ち着かせてはまた重ね、丹念に磨いていく。保育という仕事は、一年一年を繰り返しのせていく、私作りでもあるのです。
引用:『こどものみかた 春夏秋冬』(柴田愛子 著/福音館書店)
子どもたちを送り出すたびに思います。「大きくなっておめでとう。そして、私を育ててくれてありがとう」と。
保育士という仕事は、肉体的にも精神的にも負担が大きく、ときにくじけそうになることもあるでしょう。しかし、柴田先生のこの言葉のように、子どもの成長に携わることができた充実感や達成感と、自分自身が磨かれていく喜びは、何ものにも変えがたいはず。このことを忘れないようにしたいですね。
自らの感性と体験を通して、子どもは自分で育っていく
保育士と子どもたちの関係と同じくらい大切で、重要な経験となるのが「子ども同士の付き合い」です。本書では、お友だちとのやりとりから多くのことを学ぶ子どもたちの姿が、印象的なエピソードを通じて伝わってきます。
子どもが複数集まれば、必ず起こるトラブル。遊びに夢中になるとつい「いれて」「いいよ」が言えなくなったり、どっちが勝った負けたとぶつかり合ったり、怒ったり知らんぷりをしたり……。もめごとがなく、最後まで楽しく遊ぶのは想像以上に難しく、保育士のみなさんも手を焼いていることでしょう。
しかし柴田先生は、「けんかをする子はいけない子ではない。けんかをしながら、心は十分育っている」といいます。日々トラブルを繰り返しながら、子どもたちの間では暗黙のルールが生まれることもあります。遊ぶ楽しさを知っているからこそ、子どもは自分で解決方法を見つけ出すのです。
そして成長した後、この幼児期の本気のぶつかり合いが経験として活きるのです。柴田先生は、大学生へと成長した卒園生から「思いっきりけんかをさせてくれたことを、いま、感謝しています。勝つとか負けるとかじゃなくて思いっきりやることの大事さを学んだ気がするんです」と聞かされて驚いたそうです。そして次のような答えを導き出しました。
子どもは何を糧に育っていくのか予想がつきません。大きくなって明かされることは、ほとんど私が思ってもみないことが多いのです。覚えているできごとも私と子どもたちとでは随分違います。
引用:『こどものみかた 春夏秋冬』(柴田愛子 著/福音館書店)
子どもは自らの感性と体験を通して、子ども自身で育っていくということでしょう。子どものためにと考えすぎるより、私は私らしく、子どもとちゃんとつき合っていくしかないのかもしれません。
保育の仕事は大変なことも多く、目まぐるしく過ぎていく日々のなか、ひとつひとつの出来事をじっくりと振り返ることは難しいでしょう。しかし、子どもがぐんと成長するこの時期に、大切な存在として関わっていけることはこの上ない幸せです。柴田先生の子どもに対する好奇心や、子どもの気持ちに寄り添い続ける姿を通して、保育士として大事なことに気づくことができる本書『こどものみかた』。保育に携わるすべての人におすすめします。