公務員保育士は大変なことが多い?私立との違いや転職の注意点を解説

公務員保育士は大変なことが多い?私立との違いや転職の注意点を解説

公務員保育士は「安定職」として長年人気です。しかし最近は保育関連の政策変化もあり、そうとも言えなくなってきたようです。この記事では公務員保育士を目指す前に知っておきたい私立の保育士との違いやデメリットなどについて解説します。

公務員保育士とは

公務員保育士は、地方自治体に採用されて公立の施設に勤める保育士です。保育士試験とは別に自治体の公務員試験があり、様々な施設に異動しながら働きます。

私立の保育士との違い

公務員保育士と私立保育士の大きな違いは以下の6つです。公務員保育士は給与や待遇に期待できる一方で就職が難しく、異動があり、保育園以外の職場があるのも特徴です。

公務員保育士私立の保育士
就職方法自治体の職員採用試験を受験。合格後、配属連絡を待つ。1年連絡がなければ再度採用試験を受ける。運営会社HPや求人サイトなどから応募し、面談後採用決定。比較的短期間で就職が可能。
勤務先自治体が運営する保育園・子ども園・子ども総合センター・子ども家庭支援センター・児童館・児童相談所・一時保護所など応募した保育施設のみが一般的
異動の有無3〜4年に1回程度の間隔で異動あり。基本的に異動はなし。複数の保育施設を持つ運営企業では異動の打診を受ける場合もある。
保育方針全ての保育施設が同じ保育方針で運営される。園ごとに異なる保育方針で運営する。
勤務時間公務員の標準時間に基づいた一定の勤務時間。延長保育や休日保育がない施設が多い。園独自の保育標準時間に基づくシフト制。ニーズに応えるため公立より長めの勤務時間、延長保育や休日保育を実施する園も多い。
福利厚生地方公務員の基準が適用される就職した企業や園ごとに異なる
給与
※出典:令和6年度 幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果<速報>(こども家庭庁)
平均月額 365,542円
・賞与含む/各種手当別
・平均勤続年数10.6年/正社員
平均月額 348,119円
・賞与含む/各種手当別
・平均勤続年数11.2年/正社員

公務員保育士になる方法

公務員保育士になるには保育士資格を取得後、自治体の公務員試験【福祉(保育士等)Ⅱ類またはⅠ類】に合格しなくてはなりません。

試験内容は自治体ごとに異なりますが、令和6年度の新宿区の福祉Ⅱ類試験では1次選考で筆記試験と作文、2次選考に面接が行われました。

募集時期や選考実施日、募集人員は毎年変わります。また、受験資格には年齢制限の記載もありますので自治体のホームページで詳しい情報をチェックしましょう。

東京23区の採用情報はこちらから確認できます。
TOKYO23区特別区人事委員会採用試験情報

知っておきたい公務員保育士の大変なポイント

「待遇がいいから」という理由だけで公務員保育士を目指すと思いがけない苦労をするかもしれません。私立の保育士にはない大変なポイントも理解しておきましょう。

高倍率の公務員試験

公務員保育士の採用は毎年非常に少ないため、かなり狭き門です。保育園がもっとも多い東京23区でも令和6年度の公務員保育士(福祉Ⅱ類)の募集があったのは10区のみ、各区の募集人数は5〜25名程度でした。

合格後も採用されるか分からない

「公務員試験の最終合格=採用」ではない点にも注意しましょう。また内定しても配属は翌年度以降です。採用までの流れと必要期間を押さえておきましょう。

<採用までの流れ>

  1. 最終合格
  2. 採用候補者名簿に登録
  3. 各区への提示(推薦)を待つ
  4. 提示を受けた自治体で面接
  5. 採用内定
  6. 翌年度4/1以降に採用

「採用候補者名簿」には原則1年の有効期限※があり、期限内に採用内定がもらえなければまた試験からやり直しです。職場の欠員状況によっては年度内に「提示」されないケースもあります。

※令和6年度から東京23区Ⅰ類合格者は名簿有効期限が3年に延長されました。各自治体ごとに試験の種類や詳細は異なります。最新情報を欠かさずチェックしましょう。

保育園以外の勤務先も多い

私立の保育士の職場は一般的な保育園がほとんどですが、公務員保育士の勤務先は保育園以外の児童福祉施設も多くあります。

発達障害や複雑な事情を抱えた子どもたち、乳幼児より大きな子どもたちのケアをする場合も珍しくありません。事務仕事や学業サポート、精神的なケアも求められるでしょう。

社会的養護や心理学などの専門知識を活かせる仕事ですが、健やかな乳幼児と触れ合うつもりで保育士になった人はイメージと違う職場になるかもしれません。

数年ごとに転勤がある

保育士にも地方公務員の転勤制度が適用されるため3~4年程度で異動辞令が交付されるのが一般的です。転勤先には保育園以外の施設も含まれ、保育以外の仕事を任される場合もあります。

度重なる環境変化、人間関係の再構築、未経験の仕事への挑戦が繰り返される負担も視野に入れておきましょう。

職場の上下関係が明確

公務員という特性上、経験年数で役職が決まるため私立の保育園よりも上下関係がはっきりしている職場が多いようです。民間より長く勤める先輩保育士が多いため、若い保育士は意見を言いにくい雰囲気があるかもしれません。

理想の保育ができない可能性がある

「保育観の違い」は保育士が辞める理由のひとつですが、公務員保育士が理想の保育を実現する道のりは険しいでしょう。

  • 公立保育園は全て同じ保育方針で運営される
  • 定期的な異動で一つの職場に長く留まれない
  • 若手保育士の意見が通りにくい職場も多い

社会福祉や幅広い年齢の子どもとの経験を積みたい人には向いていますが、乳幼児保育への信念がある人は共感できる保育観の私立保育園を探す方が近道です。

公務員保育士への転職は民営化に注意

この十数年で公立保育園は民営化が進み、公務員保育士の職場は減り続けています。安定を求めて公務員保育士を目指す人は自治体の方針を確認しておきましょう。

公立保育園民営化の現状

共働き世帯の増加に伴う待機児童問題や施設の老朽化、多様化する保育ニーズに行政の予算だけでは応えきれず、各地で公立保育園の民営化が進んでいます。

2022年の東京新聞の調査結果によると東京都ではこの18年で約200の公立園が閉園しており、私立園の割合が増え続けています。板橋区の例では令和6年から令和10年までに9つの園の民営化が予定されています。

民営化による公務員保育士の減少

東京23区の令和6年度の公務員保育士の募集人数は全区合わせても135名程度でした。多くの自治体が保育園の民営化を計画している現状をみると、将来的な職場の減少は明らかです。

勤めている保育園が民営化される保育士は他の児童福祉施設に異動になります。もし保育士の職に空きがなければ役所職員など保育と関係のない部署への配属もあるでしょう。

「保育士として働けないのであれば」と転職する公務員保育士も増えています。今後の自治体の動きや将来のキャリアまで考えて備えることが大切です。

保育士資格が活かせる待遇がいい仕事

待遇の良さで公務員保育士を考えているのであれば、資格が活かせる他の職種も探してみましょう。今は保育士の待遇が社会的に見直されており、高待遇の職場がたくさんあります。

公務員では実現できない「自分に合った職場を選べる」「ひとつの仕事に集中できる」「子どもを卒園まで見守れる」といったメリットも見逃せません。

待遇が期待できる保育士の職場

保育士専門の求人サイト「マイナビ保育士」の情報を元に高待遇の求人の傾向をまとめました。時期やエリアなどによる違いは出てきますが、現時点でも公務員保育士に負けない待遇が多数見つけられました。

職場給与の目安特徴
都心部の私立保育園月収約25〜36万円保育士不足が深刻な首都圏の保育士求人は高待遇が多い。園ごとの保育方針に特色があり質の高い保育を経験できる。
企業主導型保育園月収約25〜36万円大手企業の保育園はICTなどの設備や施設も充実し、効率的な業務ができる職場が多い。同じグループの他園や福祉施設に異動希望を出せる職場もある。
病院内保育所月収約25〜30万円夜勤もあるが手厚い手当が多数あり、充実した研修制度、給食やワクチン費用負担などの福利厚生がある場合も多い。立地がよくマイカー通勤ができる職場もある。
児童発達支援児童養護施設月収約25〜36万円専門知識が活かせて強いやりがいがある。研修制度も充実し、支援計画の作成など仕事の幅も広い。児童指導員としてスキルアップが目指せる。各種手当が手厚く高給与になりやすい。
※2025年3月現在の情報

転職で悩んだらアドバイザーに相談すると安心

公務員保育士の仕事内容や状況は自治体によって大きく変わります。しかし行政の情報はタイミングよく掲載されるとは限らず、事前に調べるのが難しいことも多いでしょう。

保育士の転職で悩んだら、公務員を目指すのであっても一度キャリアアドバイザーに相談すると安心です。

業界に精通しているアドバイザーであれば、保育関連の最新情報にも詳しく、理想の働き方ができる場所はどこなのか的確なアドバイスがもらえます。転職サイトの無料相談などで試してみましょう。

まとめ

公務員保育士は安定職として人気がありますが、高倍率の地方公務員試験、合格しても採用ではない、内定しても翌年以降の配属、数年おきの異動などデメリットも多くあります。

特に近年は公立保育園の民営化が進み、公務員保育士が転職せざるを得ないケースも増えています。その一方で、民間の保育士の待遇は改善が進み、高待遇の職場が増えてきました。

公務員保育士を目指すには、自治体の動向や将来のキャリア計画を踏まえて行動することが大切です。自分らしい働き方ができる場所はどこなのか、一度キャリアアドバイザーに相談してみましょう。

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