ピアジェの発達段階を分かりやすく解説!保育での活かし方と注意点とは

ピアジェの発達段階を分かりやすく解説!保育での活かし方と注意点とは

保育士の勉強中によく目にしたピアジェの発達段階。現場に入ってから改めて学びたいと思った人は多いのではないでしょうか?今回はピアジェの発達段階の詳しい解説と保育現場での活かし方についてご紹介します。

ピアジェの発達段階とは

「ピアジェの発達段階」とは、1980年まで活躍したスイスの心理学者ジャン・ピアジェが提唱した認知発達理論です。フロイトの「リビドー発達段階理論」、エリクソンの「心理社会的発達理論」と並び、3大発達段階説と呼ばれています。

ピアジェは「乳幼児は無能で受動的な存在」とするそれまでの心理学とは異なり、下記のように考えました。

  • 子どもは自ら実験と観察を繰り返しながら「知」を構築している
  • 子どもの知識や理解(認知)が発達する過程は4段階ある
  • 発達段階ごとに表面的ではなく質の異なる思考・行動が生じる

また「個人差はあるものの、この成長順序は普遍的である」としました。

つまり、ピアジェの発達段階を知ることで、子どもが今どのように学ぼうとしているのか、これからの学びに何が必要になるのか予測できるようになるのです。

保育現場で「なぜこんなことをするの?」「この行動にどう対処したらいいの?」と悩んだときは、その子の発達段階がどこにあるのかを確認することが保育のヒントになるでしょう。

まず認知の枠組み「シェマ」を理解する

シェマとは「認知の枠組み」または「認知構造」をさす言葉で外界の事象を認識するために必要なものと考えられています。

生まれたばかりの赤ちゃんは外の世界に対して受動的ですが、自ら体を動かして得た経験や知識を積み重ねながら行動様式を増やしていきます。これを「シェマの獲得」といいます。

例えば「おっぱいを吸ったらミルクを飲めた」→「おなかがすいたら、おっぱいを吸う」というように認知し、シェマを獲得します。そして新たな経験や情報から知識を調整して精度の高いシェマを形成していきます。

ピアジェは子どものシェマを形成する過程(発達の仕組み)について次のように考えました。

シェマの獲得
基本となる認知の枠組みの獲得
「おっぱいを吸うとミルクが出る」→「おなかがすいたら、おっぱいを吸う」
同化
新たな情報が既存のシェマとの共通点を見つけた場合、取り込んで認知を広げる
「哺乳瓶を吸ったらミルクがでた」→「ミルクは哺乳瓶でも飲める」
調節
新情報が既存のシェマに当てはまらない場合、認知を修正し、区別する。
「おしゃぶりを吸ってもミルクがでない」→「おしゃぶりは食事ではない」
均衡化
同化と調節の結果を元にシェマの精度を高め、正確なものにしていく
  「おなかが空いたらおっぱいか哺乳瓶を吸う。おしゃぶりは吸わない」

子どもの発達は、このようにシェマの獲得と新情報との調整を繰り返すことで進むとピアジェは結論づけました。

ピアジェが提唱する4つの発達段階と特徴

ピアジェが定義する発達段階は、感覚運動期・前操作期・具体的操作期・形式的操作期の4つに分類されます。それぞれの目安となる年齢や発達の特徴をみていきましょう。

第1段階:感覚運動期(生後〜2歳ごろ)

 感覚運動期はまだ言葉が話せないため、身体の感覚と動きを通じて世界を認知します。以下の4つの特徴がみられます。

  1. 循環反応
    音がした物に何度も触れるなど、生後1ヶ月ごろからみられる繰り返し運動。握ったり叩いたり反復しながらシェマを修正・調整する。
  2. 対象物の永続性
    「目の前になくてもどこかに存在している」ことを理解する能力。発達することにより「いないいないばあ」を楽しめるようになる。
  3. シンボル機能の理解
    絵やぬいぐるみ、写真など違う対象物の共通点を見つけて「〇〇だ」とイメージできる。
  4. 模倣行動
    周囲の動きや言葉、表情などを記憶して真似できるようになる。

第2段階:前操作期(2歳〜7歳ごろ)

前操作期は複数の情報処理する能力が育つ時期です。ただし、客観的な視点が未熟であり自己中心的な言動が目立ちます。

  1. 自己中心性・中心化
    他者の立場や気持ちが想像できず自分の視点が中心になる。目立つ部分に目がいきやすく全体像の把握が苦手。
  2. 保存性の未発達
    「物の数や量は形が変わっても同じ質量がある」とまだ理解できない。
  3. アミズム的嗜好
    想像力が豊かで現実と想像を混同しやすい。人形やおもちゃ、自然現象などにも命や感情があると考える。4歳くらいから理性的な考え方ができるようになる。
  4. 象徴機能の発達
    他のものを使って物事を表現する力が育ち、実物がなくても言葉などから様子をイメージできる。

第3段階:具体的操作期(7歳〜11歳ごろ)

小学生にあたる具体的操作期は論理的な思考が発達し、実際に試さなくても情報を理解し、解決策を探せるようになります。

  1. 論理的思考
    経験や具体例に基づいて論理的に考えられる。計算や物事の因果関係の理解もできる。
  2. 保存性の習得
    「物の数や量は形が変わっても同じ質量がある」と理解できる。
  3. 脱自己中心性
    他の人の視点や気持ちに共感し、自分とは違う考えがあることを理解できる。
  4. 分類と系列化
    物の分類や順序立て、整理ができる能力。数の大小関係や年齢順などの仕分けができる。

第4段階:形式的操作期 (11歳ごろ〜成人)

小学校高学年以上に当たる形式的操作期になると、抽象的思考や仮説思考ができるようになり、推理や問題解決、将来の計画などの能力が備わります。

  1. 形式的演繹(えんえき)
    物事の原理を理解し、直接的な観察をしなくても仮定から結論を導き出せる。
  2. 抽象的・仮定的な推理
    具体例がなくても抽象的なイメージから結果を推理できる能力。哲学や科学についても考えられる。

ピアジェは「それぞれの発達段階は質の異なるものである」としています。これらの子どもの発達特徴は「前の段階の発展ではなく、まったく違う行為を始める」ものととらえましょう。

保育士が押さえたい生後〜7歳ごろの発達特徴

保育士が関わることが多い生後〜7歳ごろの子どもの発達特徴について、さらに詳しく解説します。

生後〜2歳ごろ(感覚運動期)の発達は6段階ある

生後~2歳までは、もっとも成長が著しく発達段階も細かく変化していきます。先々を予測して、子どもの学びや安全対策に配慮していきましょう。

【第1段階】原始反射:生後すぐ〜1ヶ月ごろ

外部からの刺激で反射的に手足を広げるモロー反射や、指を無意識ににぎる把握反射のように赤ちゃんが無意識に行う動きを通して、五感から周りの世界を認識していく時期です。

【第2段階】一次循環反応:1ヶ月〜4ヶ月ごろ

「見る」と「つかむ」といった2つの認識を同時にできるようになります。感覚的に偶然できたことをもう一度やろうとするなど、自分の行動を再現して繰り返す反応がみられます。

【第3段階】二次循環反応:4ヶ月〜9ヶ月ごろ

自分以外の存在に興味を持ち始める時期です。周りのものに働きかけて、同じ反応を得ようとします。触れたら音が出たおもちゃに何度も触れるなどの行動が特徴です。

【第4段階】二次的行動構造の統合:9ヶ月〜12ヶ月ごろ

複雑な行動が取れるようになり、目的のために知識を使って行動を起こせます。見えないものが今もあると理解して、いないいないばぁを楽しんだり、遊ぶのに邪魔なものをどかしたりできます。

【第5段階】三次循環反応:12ヶ月〜18ヶ月ごろ

自分の行動と結果の相関関係を理解できる時期です。さっきは音が鳴ったけど、違うもので叩いたら音が鳴らなかったと比較したり、分解したブロックを再び組み立てたりできるようになります。

【第6段階】初期の表象的思考:18ヶ月〜24ヶ月ごろ

対象物が目の前になくても存在や形をイメージできるようになり、隠されたおもちゃを見つけたり、見立て遊びやごっこ遊びが楽しめます。

2歳〜7歳ごろ(前操作期)は「自己中心性」がポイント

この年頃の発達には保存性の未発達やアミズム的嗜好などの特徴もありますが、保育で特に押さえておきたいのは「自己中心性」です。

2歳〜7歳ごろの子供は客観的な視点が未熟なため、他者の視点や気持ちで考えることができません。

例えば、ピアジェが行った「三つの山の課題」という実験では、前操作期の子どもは他の人が全然違う場所に立っているにも関わらず「他の人も自分と同じものが見えている」と考えるという結果が出ています。

保育園では「自分が好きなことはお友だちも好き」「自分が面白いものはみんなも面白い」という思い込みから、困った言動をとる子もいるかもしれません。

これは自分のことしか考えない「ワガママ」ではなく、「他者の視点がまだ育っていないから」と理解して丁寧に対処することが大切です。

ピアジェの発達段階を保育で活かす方法

ピアジェの発達段階の知識は子どもたちの成長の助けになります。また、年齢ごとの発達状況や考え方を理解することでより適切なサポートができるでしょう。

実際に経験して学べる環境を作る

子どもが五感から吸収する情報は膨大です。実際に見て・触れて・やってみる機会を大事にしましょう。トラブルもなるべく子ども自身で解決できるように導きます。

学ぶ機会を取り上げない

子どもたちはさまざまな経験から知識を学び取って認識を調整していきます。危ないから、汚れるから、難しいからと遠ざけず、なるべく体験できる環境を整えてあげましょう。

その子のペースに合わせて見守る

ピアジェの発達段階には大まかな年齢が記載されていますが、これはあくまで目安です。子どもの発達は個人差が大きいため「この歳ならできるはず」と決めつけず、その子のペースで見守ることが大切です。

ピアジェの発達段階の注意点

ピアジェの発達段階論は20世紀に発表されたものです。時代の変化や最近の研究によって現在はいくつか足りない要素も指摘されているため、あくまで目安として臨機応変に活用しましょう。

まとめ

「ピアジェの発達段階」は20世紀の心理学者ジャン・ピアジェが提唱した認知発達論です。子どもは生まれた時から経験を通じて認知(シェマ)を獲得し、同化・調節・均衡化を繰り返して段階的に発達していくとされています。。

子どもの年齢ごとの発達段階と特徴を知ることで、行動の理由や考え方の傾向が予測できます。保育の現場では子どもの学びや環境整備、心理面の理解などより良い教育に役立つでしょう。

ただし、ピアジェの発達段階は最新の研究ではいくつか不足点も指摘されています。また子どもの発達は個人差も大きいため、ひとりひとりのペースに合わせてサポートしてあげることが大切です。

監修

保育ライター
保育士・幼稚園教諭資格を持つ2児の母。保育士歴10年、現在はライターとして活動中。
保育士経験を活かし、季節の行事に家族で手作りの飾りつけを楽しむのが趣味。
Instagram:https://www.instagram.com/hoik_aya___/

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