安全教育とは|保育における重要性やヒヤリハットを防ぐポイントも

安全教育とは|保育における重要性やヒヤリハットを防ぐポイントも

幼児期の子どもたちは好奇心旺盛で毎日アクティブに活動しますが、自分の身の回りにどのような危険が潜んでいるか、まだ分からない年齢です。そのため、保育園で働く保育士は、保育サービスの提供だけでなく、安全管理や安全教育を行い、子どもたちの安全を守ることも重要な役割となります。

今回は、安全教育の概要や保育現場における重要性から、保育士向けの安全教育の事例、ヒヤリハットを防ぐポイントまでを解説します。子どもたちが安全に過ごせる保育園を実現するためにも、ぜひ参考にしてください。

安全教育とは

教育・保育現場における安全教育とは、日常生活全般における安全を確保するために必要な事柄を理解して、安全な生活を送るための基礎力を養うことを言います。安全教育は、幼児期・小学生・中学生・高校生と子どもの発達段階に応じて行われます。

類似の用語となる安全管理は、事故につながる可能性のある要因を発見して事前に取り除くことや、万一の際に速やかに適切な対処を行える体制を確立することです。

安全教育・安全管理ともに、子どもたちの安全の確保を目指している点では共通しており、基本的には両者セットで行われます。

1. 保育において安全教育が重要な理由

保育現場における子どもたちの事故は毎年のように発生しており、中には死亡事故や重篤な事故の事例も見られます。しかし、子どもたちが日々のさまざまな活動を通して成長していく過程で、怪我などのリスクを一切排除することは事実上不可能と言えるでしょう。

保育現場において安全教育が重要な理由は、子どもたちに危険を回避するための指導を行うことで、事故の発生を減らすことと重大な事故を未然に防ぐことにあります

幼児期の子どもたちに安全教育を行う場合は、辛抱強く繰り返し指導を行うことで、安全管理の知識と危険回避能力を定着させることがポイントです。

ヒヤリハットに気付いた時だけでなく、活動前に都度言葉がけを行うことで、徐々に理解も深まり安全な生活習慣を身に付けることが期待できます。

【保育士向け】安全教育の事例・日常の言葉掛け

幼児期の子どもたちは、どのような行動や場所が危険であるかを認識できない場合があるため、保育士が安全管理の知識を得て園内の安全を守るという意識を持つことが大切です。

保育士が身に付けるべき安全教育は、おもに衛生面と活動面の2つが挙げられます。以下では、それぞれの事例を詳細に解説します。

1. 衛生面における安全教育

衛生面の安全教育とは、食事・トイレ・手洗い・うがいなどの衛生面を指導して、子どもたちの健康を守るための教育のことです。

衛生面の安全教育では、毎日の言葉がけを繰り返し行い、衛生管理を子どもたちの日々の習慣として定着させることがポイントとなります。

衛生面の安全教育では、以下のような言葉がけをするとよいでしょう。

■食事のシーンでの言葉がけ
・食べる前には必ず手を洗ってキレイにしようね
・お箸とスプーンを使って食べようね
・こぼれたらタオルで拭きましょうね

■トイレの際の言葉がけ
・おトイレの後には石鹸で手を洗おうね
・トイレ用のスリッパをきちんと履きましょうね
・ペーパーを使いましょうね

■外遊び後園内に入る際の言葉がけ
・靴や服の砂を払ってから中に入ろうね
・中に入る前に手洗い・うがいをしようね
・服が汚れたら着替えをしようね

2. 活動面における安全教育

保育園では園内・園外でさまざまな活動が行われますが、活動内容によっては大きな事故につながるリスクも潜んでいるため、安全管理・安全教育を徹底することが重要です。

活動面の安全教育においては、都度の言葉がけだけでなく、各活動を行う前に子どもたち全体に呼びかける言葉がけを行うことがポイントとなります。事前に子どもたちに意識させることで、事故を未然に防ぐことにつながります。

活動面の安全教育では、活動シーンに応じて以下のような言葉がけをするとよいでしょう。

■おもちゃを片付ける際の言葉がけ
・おもちゃはやさしく扱おうね
・大きな箱はみんなで持とうね
・ふたはゆっくりしめようね

■椅子やテーブルを並べる際の言葉がけ
・椅子は後ろから両手で持とうね
・テーブルは4人で運ぼうね
・慌てずゆっくり運ぼうね

■製作活動(お絵描き・工作)の際の言葉がけ
・はさみは座って使おうね
・はさみや鉛筆を持ったまま席を離れないようにしようね
・はさみや鉛筆を人に向けないようにしようね

安全教育と同時に行いたい防災教育

防災教育とは、災害の発生理由や備えから対処法まで、災害時に命を守るために必要となる知識と実践力を身につけることです。
(出典:内閣府ホームページ「特集 防災教育 | 防災情報」/http://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h21/01/special_01.html

日本は地震や台風、大雨、津波といった自然災害に見舞われやすい国であり、いつ発生するかは予想できません。災害時に子どもの命を守るためにも、積極的に防災教育に取り組みましょう。

下記は、保育園での防災教育として意識したい点です。

・緊急時には教職員や保護者の指示に従い、安全に避難できる体制を整える
・けがを負ったり、周囲の異変に気付いたりした際は、周囲の大人へ伝えられるようにする

(出典:文部科学省「学校安全資料「生きる力」をはぐくむ学校での安全教育」/https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/04/03/1289314_02.pdf

子どもは災害に対して実感を持てないことも多いため、絵本やイラストを通して防災の重要性について分かりやすく伝えましょう。理解できる内容であれば、子どもの防災へ対する興味関心を引き出すことができます。また、障害物リレーや、暗闇の中で懐中電灯を照らす遊びなど、緊急時に役立つトレーニングもおすすめです。

安全教育・防災教育に生かせる記念日やイベント

政府や団体では安全意識の啓発を目的とした記念日を制定しており、各自治体でもさまざまな取り組みが行われます。下記に、安全教育・防災教育に生かせる記念日やイベントを紹介するため、参考にしてください。

・全国交通安全運動
「全国交通安全運動」は、年2回春と秋に、10日間にわたり実施されます。国民に対して交通安全ルールとマナーの遵守・実践を呼びかけ、交通事故防止に努めることが目的です。各自治体では交通安全教室が実施されており、役所や警察署の指導員による交通安全教室を園内で開催することができます。
(出典:国土交通省「交通安全:全国交通安全運動」/https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/koutu/sosei_safety_tk1_000004.html

全国交通安全運動とは?子どもと一緒に楽しく交通ルールを学ぼう

・119番の日
11月9日の「119番の日」は、国民の防火・防災意識を高め、119番通報について正しい知識の普及を目的とし、消防庁が制定した記念日です。119番の日には、防災訓練の一環として消防隊員を招く保育園もあります。地域住民に対して、火の用心を呼びかける防火パレードを行ってもよいでしょう。

119番の日とは?子どもと学ぶ防災・正しい119番通報の方法

・救急の日
9月9日は「救急の日」であり、同日を含む1週間は「救急医療週間」です。国民の救急医療・業務に対する理解を深め、救急医療関係者の意識向上を目的とし、厚生省(現厚生労働省)により制定されました。
(出典:総務省消防庁「「救急の日」及び「救急医療週間」」/https://www.fdma.go.jp/mission/enrichment/kyukyunohi/kyukyunohi001.html

保育園では、救急箱の中身の確認をしたり、救急に関わる職業について学んだりと、救急についての知識を深めましょう。

救急の日とは?子どもと学ぶ応急処置の方法も解説

上記のほか、「防災の日」や「世界保健デー」といった記念日があります。記念日にちなんだ絵画や工作に取り組んでもよいでしょう。

ヒヤリハットを防ぐためのポイント

保育現場での安全教育は、ヒヤリハットに気付いた際に子どもたちに言葉がけを行うことが基本となりますが、安全教育の質を高めるためにできることがほかにもあります。

ここでは、保育士がヒヤリハットに気付きやすくなり、事故を未然に防ぐポイントを3つ解説します。保育現場の安全性を高めるためにも、ぜひ参考にしてください。

1. 事故に発展する場所を定期的に点検する

ハインリッヒの法則では、1つの事故の周囲には29件の軽い事故と300件のヒヤリハットが存在しているとされています。そのため、保育士がヒヤリハットに気付けるようにするには、事故に発展する可能性のある場所を定期的に点検して、事前にリストアップしておくことが重要です。

幼児期の子どもが直面するヒヤリハットは、大人の目線とは異なるため気付けないこともあります。定期点検を行う際には、子どもの目線に立って危険をシミュレーションするようにしましょう。

2. 職員間で情報を共有する

ヒヤリハットは一歩間違えると重大な事故につながる可能性もあり、些細な事例でも必ず職員同士で情報を共有しておくことが重要です。情報を共有することで網羅性を高められるため、一人では気付くことができなかったヒヤリハット事例も知ることができます。

経験の浅い職員は気付けないヒヤリハットも多く、事例を共有して経験不足を補うことが大切です。子どもたちの危険を少しでも減らすためにも、ヒヤリハット事例の共有は必ず実践するようにしましょう。

3. 過去に起きたヒヤリハットを把握しておく

保育現場で起こりやすいヒヤリハットには、場所や時間などある程度の傾向があります。過去に起きたヒヤリハット事例を記録して、蓄積しておくことが重要です。定期的に職員が過去事例を確認しておくことで、ヒヤリハットが起こりやすいシーンを把握することができます。

過去に起きた事例を軽視せず、同じようなヒヤリハットを繰り返さないようにしましょう。

安全教育を行う際の4つの注意点

安全教育は、子どもの健康と命を守るために必要な指導です。しかし、方法を誤ると、子どもが過敏になったり、保育士に対し不信感を抱いたりする可能性もあります。子どもが危険について正しく理解するためには、いくつかの注意点を守り、適切な安全教育を行うことが大切です。

1. 危険を排除しすぎない

保育現場での危険は、すべてを取り除けばよいというわけではありません。子どもが安全管理能力を身につけるためには、小さな危険を経験しつつ、自分の判断で危険を回避することが必要です。

また、けがを負ったり、判断に失敗したりする中で、思いやりの心や豊かな感性が育まれます。命に別状がなく危険度が低い状況であれば、大人は一歩下がり、子ども自身の判断を見守ることも大切です。

2. 無理に危険な経験をさせない

安全教育の一環として、ルールを設けて火に近づく、刃物を扱うなどの経験をさせることは、子どもの安全管理能力の育成に役立ちます。しかし、子どもが嫌がっている場合は、無理に危険な経験をさせず、子どもの意思を尊重することも大切です。

子どもが拒否することを強要すると、かえって子どもの恐怖心をあおり、安全教育に対してマイナスの感情を植え付けてしまいます。子どもが嫌がっている場合は、「遠くから一緒に見ようね」「大丈夫だよ」などと声をかけ、子どもが安心できる状況を作りつつ、可能な範囲で安全教育に取り組みましょう。

3. 過度に怯えさせる教育は避ける

子どもが安全教育の指導に集中できない場合、「早くしないと鬼が来るよ」「置いていくよ」など、怯えさせるような言葉をかけることもあるでしょう。しかし、子どもを怯えさせる指導は、自発的な行動には結びつきません。また、子どもの心を傷付ける可能性もあるため、頻繁に怯えさせる言葉をかけることは避けましょう。

子どもは、保育士を信頼しつつ危険について学習する中で、自らの安全管理能力を育みます。子どもがふざけている場合は、怯えさせるのではなく、保育士も付き添い正しい行動ができるように導きましょう。

4. スタッフ・保護者もルールを守る

子どもにルールを守ることの重要性を理解してもらうためには、大人が手本を見せる必要があります。安全教育の授業中だけでなく、日頃からルールを守ることが大切です。

子どもは日常生活の中で、保育士や親の行動や判断をよく観察しています。赤信号でもこれくらいよいだろうと自分勝手な判断で信号無視をすると、子どもも真似をするでしょう。子どもに危険性を伝えると同時に、スタッフ・保護者がルールを守り、行動で示すことを心がけてください。

安全教育と並行して安全管理を行う3つのコツ

安全教育は、実際にヒヤリハットの回避に役立ててこそ意味があります。安全管理を知識として学ぶだけではあまり意味はありません。そのため、子どもたちが自分で危険な行動や場所を認識して、危険から身を守れる能力を身に付けるようなアプローチを行うことが重要です。

ヒヤリハットが起こりそうなシーンでの言葉がけも、理由付けをしたり安全に対する思いを込めたりすることで、子どもたちにも伝わりやすくなります。安全教育と安全管理をセットで行うことを意識することで、子どもたちを自己や危険から守り、保育現場の安全性を高めることができるでしょう。

ここでは、安全教育と安全管理を並行して行う際のコツを紹介します。

1. リスクを洗い出し対策を検討する

子どもたちの活動場所や個人の特性を考慮し、起こり得る問題について対策をとりましょう。下記に、園生活におけるリスクと対策の例を挙げるため、参考にしてください。

・園内

リスクの例対策例
・転倒、転落、誤飲など・遊具の故障・けんかによるけが・食中毒・安全な道具の使い方の徹底・遊具や設備の定期点検・子どもの様子を注視・手洗いなど衛生管理の徹底

・園外

リスクの例対策例
・交通事故・迷子・熱中症・交通ルールの遵守・こまめな人数確認・水分補給の時間の確保

・既往症

リスクの例対策例
・アナフィラキシーショック・熱性けいれんの発症・子どもの既往歴を確認、共有・けいれん時の対処法についての講習

・不審者

リスクの例対策例
・不審者による誘拐や性被害・保育園への侵入・セキュリティシステムや警報装置の導入・近隣の不審者情報の共有・周辺環境の確認

いざという場面で迅速に行動できるよう、保育士間で合図を決めておくこともおすすめです。

2. マニュアルを作成する

マニュアルを作成することは、保育士の安全管理スキルを一定化し、どのような場面でも迅速かつ適切な措置をとるために有効です。マニュアルの内容は適宜見直し、保育士の理解を深めておきましょう。

実際のマニュアルでは、配置人数や点検日を具体的な数字で示しており、誰が見ても分かるように症状や疾患別の対処方法などを詳細に記載しています。もちつきやキャンプファイヤーといった特別な行事を行う場合には、イベントごとに衛生・安全管理マニュアルを作成するとよいでしょう。

3. 保護者への対応方針を決めておく

子どもの安全管理を行うことは、「子どもにけがをさせないこと」ではありません。しかし、子どもが保育園でけがをすると、園に対して責任を求める保護者もいるでしょう。保護者に正しく理解してもらえるように対応方針を明確にしておくことは、保護者との信頼関係を保つためにも必要です。

園の安全管理方針や、危機管理能力の育成について、プリントなどを配布し事前に理解してもらいましょう。子どもがけがをしてクレームが来た際は、保護者の話をしっかりと聞いた上で、状況や対応について正しく説明することが大切です。

まとめ

保育園において安全管理を徹底することは、子どもたちの安全を守ることはもちろん、保育園の信頼性にも関わるため重要です。安全教育は、子どもたちの安全管理能力を向上させるためにも必須と言えるでしょう。

安全管理の質を高めるためには、ヒヤリハットに直面した時だけでなく、定期的な点検や事例の共有などを行い、日頃から園内に潜むリスクを把握しておくことが重要です。

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