食育とは?必要性や子どもが学ぶメリット、実践例を紹介!

食育とは?必要性や子どもが学ぶメリット、実践例を紹介!

子どもの健やかな成長を支援する保育士や、子どもを育てる保護者の中には、「食育」という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。食事は生きる上で必要なものですが、食育の定義や重要性がいまいち理解できないという人もいます。

この記事では、食育の定義や食育が重要視されるようになった理由について解説します。食育を勉強するメリットや、食育の具体的な実践例についても併せて確認した上で、毎日の保育現場や家庭での生活に食育を上手に取り入れましょう。

食育とは?

「食育」とは、食べ物や食事に関する知識を学び、食への興味関心を育むことで、子どもたちが一生を通じて健康的な食生活を送れるようにするための教育です。農林水産省・文部科学省では、それぞれ食育を下記のように定義しています。

食育は、生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるものであり 、さまざまな経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実現することができる人間を育てることです。

(引用:農林水産省「食育の推進」

子どもたちが食に関する正しい知識と望ましい食習慣を身に付けることができるよう、学校においても積極的に食育に取り組んでいくことが重要となっています。

(引用:文部科学省「食育って何?」

食育を知る上で欠かせない要素の1つが、学校給食です。すべての子どもに向けた学校給食は第二次世界大戦後に始まり、当初はGHQやユニセフなどの援助を受けながら実施されました。1954年に制定された学校給食法では、子どもの健全な発達を促すため国庫負担による学校給食について定めています。

2005年には「食育基本法」、2006年には「食育推進基本計画」が政府によって制定され、保育園や幼稚園、学校などでも食育の実践が推進されるようになりました。その後、2008年に学校給食法が改正されたことにより、食文化の継承や地産地消を意識した給食が提供されるようになっています。

食育基本法とは?

食育基本法とは、子どもたちがさまざまな経験を通じて食に関する知識とよりよい食を選ぶ力を身につけ、健全な食生活を実践する力を伸ばすための法律です。学校や家庭における具体的な食育の目標などについては、農林水産省などが5年ごとに作成する食育推進基本計画によって定められています。食育基本法の概要は、次の通りです。

1. 食育基本法の目的

食育基本法の最大の目的は、食育を通じて健康かつ文化的な国民生活と活力あふれる豊かな社会を実現することです。近年の食生活の変化に伴い、子どもたちが食に関する適切な判断力を身につけ、心身の健康づくりと豊かな人間性づくりを実現することは大きな課題となっています。また、食育基本法の第1章では、子どもたちが食に関する自然の恩恵や人々の活動に対してありがたみを感じられるようになることの重要性についても触れています。

そのためには、まず保護者や教育者が食育の重要性を十分に理解し、積極的に食育を進めることが欠かせません。家庭や学校にとどまらず地域ぐるみで食育の機会を設け、子どもたちが伝統文化・環境・地域活性・食料需給について知るきっかけを増やすことも大切です。

2. 食育基本法の基本的施策

食育基本法において国や各自治体が進めるべきとされる食育推進施策の概要は、次の通りです。

・家庭や教育現場における食育の推進
子どもや保護者が楽しみながら食に関する関心・知識を得られるよう、妊産婦向け栄養指導や親子料理教室などを実施する。教育現場では郷土料理や行事食を取り入れた給食、調理実習や農林漁業体験などの食育活動、そして食育指導にふさわしい教職員の配置などを通じて食育を推進する。

・地域における食育関連の取り組みの推進
健康増進・生活習慣病予防のための食育啓発イベントや食育関連専門職養成・活用の支援などを通じて、医療機関や事業者などの食育推進活動をサポートする。

・食に関する産業の活性化、食に関する産業と環境の調和
生産者と消費者の交流促進などを通じてお互いの信頼関係を構築し、食に関する関心・理解の促進、食の安全性確保、食料資源の有効利用などを促す。

・地域・伝統文化と結びついた食育の推進
その地域ならではの食文化や伝統行事・作法と結びついた食文化を絶やさないよう、食文化継承のための活動を支援する。また、地産地消の重要性や地域活性化に関する知識・関心を深める。

・食育に関する調査・研究やデータベース整備などの推進
全国民の適切な食生活の選択に役立てるべく、国民の食習慣、食品の生産・流通・消費と安全性、食品廃棄物の発生と再生利用などについて調査・研究を行う。

子どもに食事への興味を持ってもらうための秘訣は、第1回 子どもの食育はまず大人から!食事への興味を引き出す場作りの秘訣 栄養士|笠井奈津子 の記事にて紹介しています。栄養士として経験豊富な笠井奈津子先生が食育の重要性について語っています。

食育の重要性が高まっている理由

食育の重要性が高まっている背景 

食育の重要性が高まっている背景にはさまざまな理由がありますが、食育には子どもの健康状態や学力、体力の向上を図るという目的があります。

最近では、核家族化や食事の簡素化が進み、家庭生活において家族が別々のものを食べる「個食」や、1人で食べる「孤食」が増えてきました。栄養が偏っている人や朝食を食べる習慣がない人も多い傾向にあります。この問題は子ども世代でも深刻で、政府の調査によると、朝食を毎日食べない小学生・中学生が全国に一定数存在すると報告されています。

朝食は、生活リズムを整え、1日を活動的に過ごすために重要な食事であり、朝食の摂取率は学力や体力の高さとも相関があるといった報告もあります。子どもたちの健やかな成長をサポートし、未来への可能性を育むためにも、食育は非常に重要性の高い教育であると言えるでしょう。

(出典:農林水産省「令和元年度 食育推進施策第2部 食育推進施策の具体的取組」/https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/wpaper/attach/pdf/r1_wpaper-4.pdf

現代日本人の食育に対する意識

農林水産省は、全国の20歳以上の男女5,000人を対象に「食育に関する意識調査」を実施しました。調査結果の概要は、次の通りです。

(1)食育への関心度関心がある…83.2%関心がない…15.9%
(2)健全な食生活への心がけ心がけている…75.7%心がけていない…23.6%
(3)主食・主菜・副菜がバランスよく揃った食事を1日2回以上食べる頻度ほぼ毎日…36.4%週に4~5日…26.3%週に2~3日…24.5%ほとんどない…12.2%
(4)朝食を食べる頻度ほとんど毎日…81.3%週に4~5日…5.7%週に2~3日…4.4%ほとんど食べない…8.3%
(5)食事のマナーや地域・家庭の食文化を受け継いでいるか受け継いでいる…65.9%受け継いでいない…34.0%
(6)次世代・地域に食文化を伝えているか 伝えている…76.4%伝えていない…20.1%

食育基本法の制定などを機に少しずつ食育の認知度が高まっており、調査では8割以上の回答者が食育について何らかの関心を持っています。また、調査では全体的に男性よりも女性のほうが食育に対して高い関心を持つことが明らかになりました。家庭において主に料理や育児を担う女性が多いこと、健康や美容のために食を重視する女性が多いことなどが大きな理由と考えられます。

(出典:農林水産省「食育に関する意識調査(令和3年3月)」/https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/ishiki.html

子どもが食育を学ぶメリット4選

食事は、頭や体の活性化につながるエネルギー源となるだけではなく、心の栄養にもなる生活習慣です。食育を学ぶことは、子どもにとって非常に多くのメリットがあるため、保育の現場でも家庭でも積極的に食育を実施するとよいでしょう。

ここでは、子どもたちが食育を学ぶことの主なメリットを4つ紹介します。食育の魅力を理解した上で食育を実践し、子どもたちの食への興味・関心を伸ばしてあげましょう。

1. 学力や体力の向上が期待できる

保育園や学校などで行われる食育では、毎日決まった時間に3食とることの大切さや、栄養バランスを心がけることの重要性を学びます。特に、朝食の重要性について子どもたちに理解させる必要があります。

食育を学ぶことで、子どもたちは自発的に栄養バランスのとれた規則正しい食生活を心がけるようになります。栄養バランスの整った食事を十分に摂取することで、脳や筋肉に必要な栄養素が行き届くと考えられるため、学力や体力の向上を期待できるでしょう。

2. 栄養バランスについて勉強できる

食事の材料に含まれる栄養素や、栄養バランスを考えた献立の組み立て方に関する基礎知識を学べることも、食育を受けるメリットの1つです。従来の家庭科といった教科や、給食の献立表などでも、5大栄養素や3色食品群といった栄養について学ぶ機会はありました。しかし、食育では栄養素やカロリーの知識にプラスして、理想的な献立の立て方や栄養バランスのとり方、適切な食事量なども学習できます。

栄養バランスのとれた食事を適量摂取することで、肥満や生活習慣病、栄養失調といった健康上のトラブル・病気を予防し、良好な栄養状態をキープすることが可能です。健康な生活を送るためにも、食育は重要な役割を果たしていると言えるでしょう。

3. 社会性を身につけられる

食育では、家族や友人と食事を一緒に作ることや、他の人と食事を共にすることの楽しさ・大切さを学びます。手洗い・配膳・片付けといった食事に関する各段階では、他の人と協力し合うことが多いため、協調性を身につけることができるでしょう。

また、食事中の会話や調理・食事準備の際のコミュニケーションなどから、人間関係を作っていく力が育つことも期待できます。このように、社会性や人間性を育める点は食育の大きな魅力の1つと言えるでしょう。

4. 食事のマナーを身につけられる

食事は1人で食べることもありますが、未就学児や小学生・中学生の場合、家族や友人と食べる機会が多いでしょう。社会に出ると、結婚式などの式典やビジネスシーンなどで会食に参加する機会も増え、他人と食卓を囲むことが増加します。基本的な食事マナーを身につけることは、同じ食卓を囲む人と楽しく食事を行うためにも重要なポイントです。

■食育を通して学ぶ食事マナーの例

  • 箸使い(スプーン・フォーク・ナイフの使い方)
  • 会話の内容や話し方
  • 食事の際の姿勢
  • 食事前後の挨拶
  • 咳やくしゃみといった飛沫に関するエチケット

食育では上記のような内容も学ぶため、子どものうちから適切な食事のマナーを身につけられると期待できます。

食育を学ばないとどうなる?考えられるリスク

1.食を通じた健康維持が難しくなる

食育を勉強しないことによる最大のデメリットは、食を通じた健康維持が難しくなることです。成長や健康づくりに必要な栄養素についての知識がないと、栄養状態の悪化による発育不良や生活習慣病などのリスクが上がります

また、食育の不勉強は、食をもたらす自然の恵みや人々の努力を軽んじることにもつながります。動植物の命に感謝せず食材の無駄を増やすことはフードロスに直結し、「残さずきれいに食べよう」と意識しなければ食事のマナーも身につきにくくなるでしょう。「家族に食事の準備や後片付けをしてもらって当然」といった考えは家族関係の悪化も引き起こしかねません。保護者や教育者が食育について十分理解していない場合は、子どもたちへの指導も難しくなります。

2. 食事において注意したい9つの「こ食」

食育を実施しない場合、9つの「こ食」にも注意する必要があります。「こ食」は、現代日本における食生活の乱れを表す言葉です。「こ食」が示す内容とそれぞれの問題点は、次の通りです。

孤食子どもが1人で食事をすることで、食事のマナーや社会性が身につかなくなる。
個食家族の食事の献立がばらばらになることで食に関する共通の話題が減り、料理を作った人への感謝の念を持ちにくくなる。
固食好き嫌いして特定の食べ物ばかり食べることで栄養バランスが崩れやすくなる。
粉食パン・麺などの粉ものばかり食べることで、噛む回数の減少や食べすぎなどにつながる。
小食食への無関心や過度なダイエット志向などのために少量しか食べないことで、慢性的な栄養不足や無気力につながる。
濃食加工食品など味の濃いものばかりを食べることで素材の繊細な味や食感を感じにくくなり、味覚の鈍化や糖分・塩分・食品添加物などの過剰摂取につながる。
子食子どもだけで食べることで親子のコミュニケーションの機会が減り、偏食や食事のマナーの乱れにつながる。
戸食外食ばかり食べることで栄養バランスの乱れを招き、料理を作ってくれる人への感謝の念を持ちにくくなる。
虚食朝食を食べないことで日中精力的に活動しにくくなり、間食の食べすぎや生活リズムの乱れなどを招いて悪循環に陥る。

核家族化や共働き世帯の増加などによって家族団らんの機会が減ると、さまざまな「こ食」のリスクが高まります。これらのリスクを補うためにはまず保護者が「こ食」についての知識をつけ、家庭環境に合わせて対策を講じることが大切です。

具体的な食育の実践例

食育の目的や概要、食育を行うことのメリットについて解説しましたが、保育や教育の現場では、具体的にどのような食育が実施されているのでしょうか。保育園や学校で実際に行われている食育の具体的な実践例は、下記の通りです。

■食育の実践例

・農作物の「生産」から「消費」までの食サイクルを体験する
子どもが苗植えや草むしり、水やり、害虫駆除といった農作物の生産に関わる体験活動に参加し、収穫するまでの大変さ・楽しさを学びます。農業体験で収穫した農作物は保育園や学校で調理し食べることにより、食事に関する知識や興味を高めることにつながります。

・伝統的な食文化の継承を行う
食育は、日本特有の食文化や地域に伝わる伝統的な食文化を保護・継承する役割も担っています。地域に伝わる郷土料理の作り方や配膳の仕方を学ぶことで、伝統的な食文化に親しみます。

このように食育は、食事や栄養バランスだけではなく、地域の文化や農作物を育てることを学ぶことにもつながります。

【年代別】家庭における食育の実践方法

食育は、保育園や学校などの保育・教育機関だけではなく、自宅でも実践することができます。家庭で食育に取り組む際には、子どもの年齢や学年区分によって、食育の内容やアプローチが異なることに注意が必要です。ここでは、家庭でできる食育の実践方法を年代別に解説します。

未就学児に対する食育

小学校入学前の幼児に対する食育では、「食事をとる意欲を育てる」ことを目標にしましょう。「子どもが好きな食べ物を少し多めに入れる」「食べ切れそうな量を出し、食べられたらおかわりしてもらう」といった工夫が必要となります。暮らしの中で食材の購入や調理を一緒に行うことも、幼児期における食べ物への関心を育む上で効果的です。

小学生に対する食育

心身ともに成長期にある小学生には、「基本的な食事の習慣を身につけること」を主な目的とした食育を行いましょう。食事のリズムや食材をバランスよく食べることの重要性を伝えることが大切です。また、正しい配膳の方法や食事のマナーを学ぶことも重要となります。毎日の食事を一緒にとる中で少しずつ伝えていきましょう。

中学生・高校生に対する食育

勉強や部活動、遊びなどで生活習慣が乱れがちとなる場合が多い中学生・高校生には、食生活の大切さを伝えましょう食事を中心として健康な生活を送れるよう、「3食決まった時間に食べる」「主食・主菜・副菜をバランスよく食べる」などがポイントとなります。将来的に自分自身で食生活や健康管理をマネジメントできるように導きましょう。

食事は、健康的に生活する上で重要な役割を果たします。保育園や学校、家庭で取り組める食育を実践し、子どもの食に関する興味・関心をしっかり育ててあげましょう。

食育の知識を学べる資格

「親として子どもに食育をしっかり学ばせたい」という場合は、食育に関する資格を取ることも考えてみましょう。次の資格は、食育関連の仕事や知識習得を通じた自己啓発などに役立つ資格の一例です。

・食育アドバイザー
一般社団法人日本能力開発推進協会が主催する食育アドバイザーは、食育や食品の安全性に関する正しい知識を身につけて健全な食生活の実践に役立てる資格です。資格を取るためには、認定教育機関で指定のカリキュラムを修了し、検定試験で得点率70%以上を達成する必要があります。また、上級食育アドバイザー資格を取得すると食育イベントの開催や食育セミナーの実践などが可能となります。

・食育インストラクター
NPO日本食育インストラクター協会が主催する食育インストラクターは、食育の知識を日常生活に役立てつつ指導者として活躍する力を得るための資格です。資格は5段階に分かれており、最も難易度の低いプライマリーは通信級育講座によって取得できます。4級以上については、指定教育機関での研修・実習や検定試験などによる取得が可能です。

・MIIKUマスターコース
一般社団法人日本味育協会が主催するMIIKUマスターコースは、食べ物のおいしさや味覚の役割などについて正しく知るための資格です。資格を取るためには、東京会場または大阪会場で2日間の講座を受講する必要があります。

食育に関する資格は、それぞれ目的や学習内容が異なります。自分が何を学びたいのか、子どもに何を教えたいのかを考え、どの資格を取得するのか選ぶとよいでしょう。

まとめ

「食育」は、健康的な生活を送るために必要な食に関する知識や体験を通して、食や健康に対する興味や関心を育む学びです。食育には「学力・体力の向上」「栄養に関する知識の習得」「社会性の育成」といったメリットがあるため、保育や教育の現場、家庭などで積極的に取り組みましょう。

保育園や家庭で実践できる食育など、保育や育児に関する情報を知りたい際には、保育関連情報サイト「ほいくらし」をご利用ください。食育以外にもさまざまな保育情報を紹介しています。

第9回「食べる」がもっと好きになる一工夫入れた食育の時間 栄養士|笠井奈津子

【食育①】セミバイキング形式の給食やクッキングを導入「さくらぎ保育園」から学ぶ食育の取り組み

【食育②】園内で育てた野菜を自分たちで収穫!「さくらぎ保育園」から学ぶ食育の取り組み

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