幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿とは?具体例と保育への役立て方
文: 神戸のどか(保育士ライター)
保育現場でよく聞く「10の姿」とは、幼児期の終わり(小学校就学)までに育ってほしい10の資質や能力を指しますが、5歳児保育だけでなく、子どもに携わるすべての保育士が把握しておくべき内容です。
この記事では、10の姿について具体例とともに紹介します。保育の現場で役立てる方法も解説していますので、子どもと関わる際のポイントを知りたい保育士は参考にしてみてください。
「10の姿」とは?
10の姿とは、幼児期の終わり(小学校就学)までに育ってほしい資質や能力をまとめたもので、以下の10項目が挙げられています。
【幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿】
- 健康な心と体
- 自立心
- 協同性
- 道徳性・規範意識の芽生え
- 社会生活との関わり
- 思考力の芽生え
- 自然との関わり・生命尊重
- 数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚
- 言葉による伝え合い
- 豊かな感性と表現
出典:幼児期の終わりまでに育ってほしい姿|文部科学省
出典:保育所保育指針(4-(2) 幼児期の終わりまでに育ってほしい姿)|厚生労働省
2017年の「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」改訂にともない、保育園・幼稚園・認定こども園における新しい共通指針として追加されました。
10の資質や能力は、適切な遊びや生活を積み重ねることで育まれます。子どもの健全な育ちを支えるために、保育士や幼稚園教諭には10の姿を考慮した保育や教育が求められます。
目的
10の姿は、幼児教育から小学校教育への移行を円滑にするため示された指針です。子どもの発達や学びを小学校に引継ぎ、幼保小の一貫した教育を実現していくねらいがあります。
10の姿を参考にすると、子どもたちの豊かな心と体を育むための援助を行ううえで、発達に合わせた活動内容や関わり方を考えやすくなるでしょう。
5領域・3つの柱とのつながり
10の姿とは、保育における5領域の内容をさらに細かく明確化・具体化したものです。
5領域とは、以下のように保育のねらいを5つにわけたものです。
- 健康
- 人間関係
- 環境
- 言葉
- 表現
幼児期に5領域を育むことにより、その後の小学校・中学校・高等学校において重要な「子どもの時期に育みたい3つの能力・資質(3つの柱)」につながっていきます。
子どもの成長は0歳児から連続的に見る必要があるため、5歳児の担任だけではなく、すべての保育士が「10の姿」を理解しておきましょう。
10の姿の内容と具体例
ここからは、10の姿の各項目を具体的な例とあわせて紹介します。
①健康な心と体
「健康な心と体」は、以下の状態を指します。
保育所の生活の中で、充実感をもって自分のやりたいことに向かって心と体を十分に働かせ、見通しをもって行動し、自ら健康で安全な生活をつくり出すようになる。
保育所保育指針|厚生労働省
【具体例】
- 目標をもち、さまざまな活動に挑戦して困難を乗り越える。
- 遊びの場面で体を動かし、健康な生活リズムを身につける。
- 衣服の着脱、食事、排泄などの身の回りのことを自分で行う。
- 集団での生活を予測し、見通しをもって取り組む。
②自立心
「自立心」は、以下の状態を指します。
身近な環境に主体的に関わり様々な活動を楽しむ中で、しなければならないことを自覚し、自分の力で行うために考えたり、工夫したりしながら、諦めずにやり遂げることで達成感を味わい、自信をもって行動するようになる。
保育所保育指針|厚生労働省
【具体例】
- 生活の流れを予測し、自分でできることは自分で行う。
- 活動や遊びで自分の力で達成し、満足感をもつ。
③協同性
「協同性」は、以下の状態を指します。
友達と関わる中で、互いの思いや考えなどを共有し、共通の目的の実現に向けて、考えたり、工夫したり、協力したりし、充実感をもってやり遂げるようになる。
保育所保育指針|厚生労働省
【具体例】
- 友達と積極的に関わり、思いやりをもって行動する。
- 相手の気持ちを察し、共通の目的に向けて協力する。
④道徳性・規範意識の芽生え
「道徳性・規範意識の芽生え」は、以下の状態を指します。
友達と様々な体験を重ねる中で、してよいことや悪いことが分かり、自分の行動を振り返ったり、友達の気持ちに共感したりし、相手の立場に立って行動するようになる。また、きまりを守る必要性が分かり、自分の気持ちを調整し、友達と折り合いを付けながら、きまりをつくったり、守ったりするようになる。
保育所保育指針|厚生労働省
【具体例】
- よい行動と悪い行動の区別を考え、他者の気持ちを理解し思いやりをもつ。
- 相手の気持ちを大切にし、共感を通して行動する。
- クラスの決まりを守り、共通の目的に向けて協力する。
⑤社会生活との関わり
「社会生活との関わり」は、以下の状態を指します。
家族を大切にしようとする気持ちをもつとともに、地域の身近な人と触れ合う中で、人との様々な関わり方に気づき、相手の気持ちを考えて関わり、自分が役に立つ喜びを感じ、地域に親しみをもつようになる。また、保育所内外の様々な環境に関わる中で、遊びや生活に必要な情報を取り入れ、情報に基づき判断したり、情報を伝え合ったり、活用したりするなど、情報を役立てながら活動するようになるとともに、公共の施設を大切に利用するなどして、社会とのつながりなどを意識するようになる。
保育所保育指針|厚生労働省
【具体例】
- さまざまな人々と親しみをもって接する。
- 家族や地域の人々と触れ合い、役に立つ喜びを感じる。
⑥思考力の芽生え
「思考力の芽生え」は、以下の状態を指します。
身近な事象に積極的に関わる中で、物の性質や仕組みなどを感じ取ったり、気付いたりし、考えたり、予想したり、工夫したりするなど、多様な関わりを楽しむようになる。また、友達の様々な考えに触れる中で、自分と異なる考えがあることに気付き、自ら判断したり、考え直したりするなど、新しい考えを生み出す喜びを味わいながら、自分の考えをよりよいものにするようになる。
保育所保育指針|厚生労働省
【具体例】
- 物の性質や仕組みについて考え、工夫して使う。
- 身の回りの人と関わるなかで、自分と他の人それぞれの思いに気づく。
⑦自然との関わり・生命尊重
「自然との関り・生命尊重」は、以下の状態を指します。
身近な事象に積極的に関わる中で、物の性質や仕組みなどを感じ取ったり、気付いたりし、考えたり、予想したり、工夫したりするなど、多様な関わりを楽しむようになる。また、友達の様々な考えに触れる中で、自分と異なる考えがあることに気付き、自ら判断したり、考え直したりするなど、新しい考えを生み出す喜びを味わいながら、自分の考えをよりよいものにするようになる。
保育所保育指針|厚生労働省
【具体例】
- 自然の大きさや不思議さを感じ、季節や変化に応じて生活や遊びを変える。
- 動物や植物との関わりを通して、生命の不思議さや尊さに気づく。
⑧数量・図形、文章等への関心・感覚
「数量・図形、文章等への関心・感覚」は、以下の状態を指します。
遊びや生活の中で、数量や図形、標識や文字などに親しむ体験を重ねたり、標識や文字の役割に気付いたりし、自らの必要感に基づきこれらを活用し、興味や関心、感覚をもつようになる。
保育所保育指針|厚生労働省
【具体例】
- 数量や図形に関心をもつ。
- 文字を通じてコミュニケーションに興味をもつ。
⑨言葉による伝え合い
「言葉による伝え合い」は、以下の状態を指します。
保育士等や友達と心を通わせる中で、絵本や物語などに親しみながら、豊かな言葉や表現を身につけ、経験したことや考えたことなどを言葉で伝えたり、相手の話を注意して聞いたりし、言葉による伝え合いを楽しむようになる。
保育所保育指針|厚生労働省
【具体例】
- 言葉を使って、保育士や友達と心を通わせる。
- 絵本や物語を通じて、言葉の意味を知ったり表現を楽しんだりする。
⑩豊かな感性と表現
「豊かな感性と表現」は、以下の状態を指します。
心を動かす出来事などに触れ感性を働かせる中で、様々な素材の特徴や表現の仕方などに気づき、感じたことや考えたことを自分で表現したり、友達同士で表現する過程を楽しんだりし、表現する喜びを味わい、意欲をもつようになる。
保育所保育指針|厚生労働省
【具体例】
- 美しいものや出来事に触れ、楽しく表現する。
- 友達との表現を通じて、嬉しい気持ちや面白さに気づく。
10の姿を保育で役立てるポイント
10の姿を理解したら、保育や教育の場で生かしていきましょう。具体的なポイントを3つご紹介します。
「遊びや生活」を軸に豊かな心と体を育む
幼児期は、椅子に座って身につける知識よりも、遊びや生活から得られる経験が大切です。遊びや生活を通じて、想像したり発見したり満足したり、多くの学びを得ていきます。とはいえ、発達に必要となるさまざまな経験をしてもらうには、保育士による適切なサポートが必要です。
具体的には、生き物や植物を育てることを通じて自然に触れる経験や、社会のルールを理解するための課外活動を取り入れるなど、10の姿を意識した活動を展開していくとよいでしょう。
活動を考える際には、子ども自身が主体的に関わりながら、遊びを通して10の姿を総合的に学んでいけることが理想です。
たとえば、積み木で遊ぶ活動では、積み方や並べ方を考える「思考力」だけでなく、友達と協力しながら関わる「協同性」「言葉による伝え合い」、形や数を意識する「数量・図形への関心」を育むことができます。このように、身近な遊びには学びがたくさん詰まっています。保育士は10の姿を踏まえて子どもに寄り添い、子どもの成長を観察していきましょう。
10の姿は達成目標ではなく「方向性」
10の姿は、あくまで「育ってほしい姿」の方向性であり、達成させようと強制するものではありません。子どもにはそれぞれ個性があるため、同じ経験をしても子どもによって育ち方は異なります。10の姿が、必ずしもすべての子どもに共通して見られる姿ではないことは覚えておきましょう。
経験させようと無理強いしても、子どもたちは興味をもてません。まずは、子どもが好奇心や探求心をもって体験できる環境が大切です。発達に合わせて、子どもの「なんだろう」「やってみたい」という興味や意欲を尊重にしましょう。子どもが主体的に取り組む姿勢は、今後の小学校教育における学び方につながります。
小学校との「連携」を意識する
10の姿は就学前だけではなく、小学校入学後も継続して能力を育むことが求められています。しかし、文部科学省の資料によると、幼稚園・保育所・認定こども園の7~9割が小学校との連携に課題意識をもっています。小学校教育と幼児教育の間で、子どもの学びや育ちをつなぐ「幼保小連携」は重要な課題といえるでしょう。幼保小連携の方法として、以下の例が挙げられます。
【幼保小の具体的な連携方法】
- 5歳児クラスが小学校を見学する
- 職員同士で交流会を開き、情報を交換する
- 保育記録を用いて子どもの発達を共有する
- 保育と教育の共通理解のために研修会を行う
- 小学校教諭が保育参観をし、保育士や幼稚園教諭が授業参観する
遊び中心の幼児教育と、時間割や教科書を用いる小学校教育では学び方が異なります。円滑な連携のために、保育士・幼稚園教諭と小学校教諭はそれぞれの保育方法や教育方法を理解することが大切です。
10の姿を理解して日々の保育に役立てよう!
子どもの能力や資質を継続的に育むためにも、小学校との円滑な連携が重要です。幼児教育と小学校教育の違いを理解し、幼児期の終わりまでに育ってほしい「10の姿」についても理解を深めましょう。
10の姿は、子どもと関わる保育園・幼稚園・認定こども園の共通指針です。保育士や幼稚園教諭は10の姿を参考に幼児期にふさわしい活動を考え、子どもたちの成長をサポートしましょう。
保育園で、0歳児から5歳児の子どもたちの保育を5年半担当。
「一人ひとりの個性」や「主体性」を大切にする保育園での勤務経験を活かし、現在は保育士さんや子育て中のママやパパに向けて記事を執筆している。
絵本や歌が大好きで、特に絵本の読み聞かせや手遊びが得意。
保有資格:保育士・幼稚園教諭・認定ベビーシッター
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