赤ちゃんのうつ伏せ寝の戻し方は?園でのSIDS対策も解説

赤ちゃんのうつぶせ寝による死亡事故は後をたちません。寝返ってしまったら仰向けに戻すのは保育の基本ですが、起こさずに戻すのは意外と難しいですよね。今回はうつ伏せ寝の上手な戻し方とSIDS対策について解説します。
監修
医師 山田 克彦
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赤ちゃんたちと日々向き合い、見守ってくださっている保育士の皆さまに、心から敬意を表します。寝返りやうつぶせ遊びが、赤ちゃんの大切な発達の一部である一方、うつ伏せ寝には、窒息やSIDS(乳幼児突然死症候群)のリスクがあり、どこまで対応するべきものなのか困惑されることもあると思います。今回の記事は、医学的な観点をもとに、「寝返りが増えてきたけれど、戻した方がいいのか?」 「保護者にどう伝えればいいのか?」そんなときのヒントになるよう、最新の推奨内容が整理されています。これからも、赤ちゃんの安全な睡眠環境を支える大切な存在として、皆さまの経験と気づきと思いやりを頼りにしています。
赤ちゃんのうつ伏せ寝が危険な理由
赤ちゃんのうつ伏せ寝が危険とされる理由は、窒息事故やSIDSのリスクがあるからです。
窒息事故のリスク
首を自由に動かせない赤ちゃんがうつぶせで寝ていると、枕やマットレスに顔が埋まり窒息する危険があります。また、顔周りにあったガーゼやおもちゃなどが口に入る事故も起こりやすくなります。
厚生労働省の調査によると平成29年〜令和3年までの5年間で125件の子どもの窒息事故が起きており、その92%は0歳児です。0歳児の事故発生場所の1位はベッド内となっています。
乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスク
乳幼児突然死症候群(SIDS)は健康だったはずの赤ちゃんが睡眠中に突然死する病気です。原因はいまだ明らかになっていませんが、毎年50〜100人前後の乳児が死亡しており、うつ伏せ寝はSIDSの発症率を高めるという研究結果が報告されています。
乳幼児突然死症候群(SIDS)とは
乳幼児突然死症候群(SIDS:Sudden Infant Death Syndrome)は、特に何の予兆もなかった乳幼児が睡眠中に突然亡くなる病気です。生後2ヶ月から6ヶ月までに発症することが多く、まれに1歳以上で発症する場合もあります。
この10年でも年間50〜100人前後の乳児がSIDSで亡くなっており、令和5年も46名の乳児が発症し、乳児期の死亡原因第5位となっています。
SIDSの原因と対策
SIDSは健康状態や既往歴から予測できず、死亡後の調査でも原因が見つからない病気とされ、明確な原因はわかっていません。ただし、これまでの研究結果から3つの要因がSIDSの発症率を高めることが明らかになっています。
- うつぶせ寝
- 母乳を飲んでいない
- 周囲の喫煙
SIDSの予防方法は確立されていませんが、少しでも発症率を減らす取り組みとしてこども家庭庁では下記の3つを推奨しています。
1歳になるまでは「あおむけ」に寝かせる
どの体勢でも発症する可能性はありますが、うつ伏せ寝の赤ちゃんがもっともSIDS発症率が高いとわかっています。医学的な事情がなければあおむけで寝かせましょう。
※顔が横を向いている状態でも胸が下についていたら戻しましょう。
できるだけ母乳で育てる
母乳で育っている乳児の方がSIDSの発症率が低いというデータがあり、無理のない範囲での母乳育児が勧められています。
たばこをやめる
周囲のたばこもSIDS発症要因になります。赤ちゃんの近くでの喫煙はもちろん、妊娠中の受動喫煙もリスクを高めます。
上手なうつぶせ寝の戻し方
やっと寝たところの赤ちゃんを起こさずに動かすのは保育士でも難しいもの。赤ちゃんのうつぶせ寝を上手にあおむけに戻すコツを押さえておきましょう。
寝ついてから10~15分後にあおむけに戻す
低月齢の赤ちゃんはうつぶせ寝の方が呼吸や心拍が落ち着いて寝やすい子もいます。ぐっすり寝ついたタイミングを見計らって、あおむけに戻すのがポイントです。
頭からゆっくり抱いてそっと動かす
赤ちゃんの体全体を急に抱き上げると驚かせてしまいます。頭の下にそっと手を差し込み、頭からゆっくり持ち上げて少しずつそっと体を返しましょう。
できるだけ定期的に確認する
寝返りができる子は、あおむけに戻してもまたうつぶせ寝になってしまうことも多いでしょう。寝ている赤ちゃんからは目を離さず、こまめに様子を確認して戻しましょう。
赤ちゃんのうつぶせ寝を戻すのはいつまで?
寝ている赤ちゃんをずっと見守って、あおむけに戻し続けるのはなかなか大変ですよね。「自分で寝返りができる月齢ならもう平気なのでは?」という疑問もあるでしょう。何歳ぐらいまで戻す必要があるでしょうか?
原則1歳まではあおむけで寝かせる
令和6年現在、こども家庭庁では寝返りができる・できないに関わらず、「原則1歳まではあおむけ寝」を推奨しています。また発達状況に合わせて1歳以上でも同様の対策をするように呼びかけています。
これはSIDS予防だけではなく、常に顔色がわかる姿勢にすることで体調変化を確認しやすくする意味もあります。あおむけ寝は窒息や誤えんの対策としても有効ですので、できる限り続けていきましょう。
預け始め・体調が悪い時は年齢に関わらず注意
保育園に預け始めの子や体調が悪い子は、睡眠中に急変する場合があります。大きい子だからと目を離していると、体調不良でうつぶせから戻れないケースや嘔吐で誤えんする可能性もあります。
年齢に関わらず、顔色が見えるあおむけ寝にしてあげましょう。また、子どもの体調や様子の違いについて保護者とコミュニケーションを取ることも大切です。
保育施設は国や地方自治体による基準がある
保護者に向けた一般的な推奨は「原則1歳までうつぶせ寝はあおむけに戻す」といったシンプルな内容ですが、保育施設の場合は国や地方自治体によって具体的な基準が用意されています。
例えば、東京都世田谷区では区内保育施設に向けて睡眠チェックのタイミングまで基準を設けています。年齢も0〜1歳児だけでなく、3歳以上の子どもまで対象としています。
【世田谷区の基準等における睡眠チェックの間隔(目安)】
0歳児・1歳児:5分ごと
2歳児:10分ごと
3歳児~:15分ごと
※参考:「乳幼児突然死症候群(SIDS)の発症率を低くする取組み及び睡眠中の事故防止」(世田谷区)
この他にも東京都からの通知を元に、照明の明るさや室温、保護者との情報交換、緊急対応策の徹底など安全な睡眠環境のために細かな内容が定められています。自分の職場が自治体の基準を守れているか再確認してみましょう。
赤ちゃんの睡眠時の事故を防ぐ方法
乳幼児が睡眠中に亡くなるSIDSの発症や事故を防ぐには、安全な睡眠環境や早期発見・早期対応ができる体制づくりが重要です。下記の7つのポイントを参考に子どもたちがお昼寝する環境を改めて見直してみましょう。
①あおむけ寝を徹底する
うつぶせ寝の赤ちゃんは窒息やSIDSのリスクが高いとわかっています。事故防止や発症予防、また顔色での体調確認をしやすくするために、こまめにあおむけ寝に戻すことを徹底しましょう。
②見通しがいい固めのベッドに寝かせる
ベッドは子どもの様子がどこからでも見える場所に設置し、ベッド内の様子が隅々まで見える見通しがいいデザインを選びます。また、マットレスや敷布団はうつぶせの時に顔が沈みこまない固めのものにしましょう。
③かけ布団や枕、衣類やおもちゃに注意する
窒息や誤えん事故を防ぐために、眠る子の近くに置くものには十分に注意しましょう。口をふさぐ可能性がある柔らかい布団や枕、ぬいぐるみなどは置かないようにします。また、首に巻きつく恐れのあるスタイや帽子のゴムなど、ヒモ状の衣類も必ず外しましょう。
④厚着をさせず、適切な室温にする
あおむけで寝ていても背中が暑くなると寝返りをうって、うつぶせになってしまいます。乳幼児を寝かせる時は厚着を避け、室温も暑くならない温度に調整しましょう。
⑤照明は顔色が確認できる明るさを保つ
乳幼児を寝かせる時は顔色が判別できる程度の明るさを保ちます。寝やすいようにと暗くしすぎると顔色の悪さに気付けず、対応が遅れる危険があります。
⑥必ず大人が見守り、離れない
最近は見守り用のセンサーやカメラなどもありますが、顔色や呼吸音などの異常を判断するには人の目と耳が一番です。機器の有無に関わらず、睡眠時は必ず大人が見守り、そばを離れないようにしましょう。
⑦救急対応策の周知と訓練をする
保育施設では「救急対応策の徹底」について以下のような内容が国から通知されています。どんな時間帯や職員体制でも緊急時に対応できるように、日頃から十分に備えておきましょう。
- 常時複数職員配置の徹底
- 緊急時対応マニュアルの作成・見直し
- 救急対応訓練の実施
- 救命講習の受講
まとめ
赤ちゃんのベッド内窒息事故やSIDS(乳幼児突然死症候群)は死亡原因の1位と5位になっており、「うつぶせ寝」は両方のリスクを高めることが報告されています。
乳幼児は原則1歳まで、保育施設の場合は自治体の基準年齢まで、あおむけ寝に戻しましょう。預け始めや体調不良の子どもは年齢に関係なく注意が必要です。
うつぶせ寝の上手な戻し方のコツは「ぐっすり寝ついたタイミングで戻す」「頭から順番にそっと動かす」「定期的に確認する」の3つです。
悲しい事故や病気を防ぐには、安全な睡眠環境と救急対応策の整備も重要です。職場の環境や体制を改めて確認しておきましょう。