保育士がクレームを受けたときの対処法とは?実際の事例も紹介

保育士がクレームを受けたときの対処法とは?実際の事例も紹介

保育士として働いていると、保護者からクレームを受けることがあります。クレームは対応が難しく、対処を誤ると、さらに大きなトラブルに発展してしまいがちです。そのため、クレーム対応について悩む保育士も少なくありません。

クレームの内容によっては、必ずしも保育士や園の体制に落ち度があるとは限りません。保護者側の身勝手な言い分や、園への度を越した要求からくる理不尽なクレームが増えていることも事実です。

そこで今回は、理不尽なクレームの増えている背景や理由、クレームを受けたときの対処法、実際にあったクレームの事例について紹介します。保護者からのクレーム対応に悩んでいる方は、ぜひ当記事を参考にしてください。

保育士にクレームを言う保護者の心理

クレームを言う保護者の心理には、下記のような共通点があります。

  • 普段から言いたいことを我慢している
  • 気持ちを受け止めてほしいという承認欲求がある

共働き世帯の現代では、保育園不足が深刻な問題となっています。そのため、保護者は保育園との友好な関係づくりのために、トラブルを避けたいと考えることは当然です。

しかし、周りに気持ちを打ち明けられるような信頼できる人がいないため、園に自分の気持ちを受け止めて欲しいといった承認欲求を持っている方も少なくありませんそのような背景から、クレームを言うという行動につながっていることもあります。

保育士が言われることの多いクレームは3種類

保育士が言われることの多いクレームは、子ども・保護者に対する向き合い方や、保育園の運営のあり方に関することです。近年では無理難題に近い理不尽なクレームを言われるケースも、少なからず存在します。

ここでは、保育士が言われることの多いクレームについて、詳しく紹介します。

1. 保育士の対応に関するクレーム

多くの保護者は、子どもの成長を促すために保育士には積極的にサポートしてほしいと考えています。保育士が保護者の感情を深く理解し、十分な対応を取れないことは、下記のクレームを引き起こす原因です。

保育園に対する要望を伝えても、受け流される
送迎に行ってもすぐに対応してくれず、態度が冷たい
・子どものケガにすぐ気付き、対応してくれなかった
・子ども同士のトラブルを相談したものの、放置された
・子どもを叱るときの言葉遣いが厳しい
・保護者から挨拶しなければ、対応してくれない

子どもは時に予期しない行動をとるため、トラブルやケガの発生を完全に回避することは、不可能です。しかし、トラブルやケガの発生後に保護者対応を誤ると、クレームを受けてしまうことがあります

2. 保育園の運営に関するクレーム

保育士は、近所の人や保護者から、保育園の運営に関する苦情を受けることもあります。具体的には、下記のようなものが保育園の運営に関するクレームです。

園庭の木が道路側に飛び出しており、通行の邪魔である
散歩中、私有地に侵入する子どもがいる
イベント時に楽器の音が近所に響き、迷惑である
園庭で遊ぶ子どもの声が響く
保護者の自動車や自転車が道路を塞ぐ
園庭テラスの劣化を放置しており、危険である
・行事の開催時間が長すぎて、子どもに負担がかかっている

保育園と近所の人や保護者の心の距離が広がると、地域の子育て拠点として愛される保育園の運営を行うことが難しいです。保育園の運営に関するクレームを言われた場合は放置せず、上司に相談するなど適切に対処しましょう。

3. 無理難題に近い理不尽なクレーム

近年、理不尽なクレームを受けた経験がある保育士が増えています。今や、保護者トラブルはごく限られた一部の問題ではありません。

劇の配役、お遊戯の内容を変えてほしい
発表会の写真撮影は、わが子がよく映る位置で行ってほしい
外遊び中に汚した服は着替えさせて、保育園側が洗ってほしい
わが子が「給食がおいしくない」と言うため、給食費は払わない
クラス担任が「経験不足」と感じるため、ベテラン保育士に変えてほしい
夜に寝ないと困るため、昼寝の時間帯を変えてほしい

保育士の子どもへの接し方が常に正しいとは限らないため、時には保護者からの要望を受け止めることも必要でしょう。しかし、理不尽なクレームは、そういった常識的な要望とは一線を画します。理不尽なクレームはわが子だけに特別な対応を求めたり、本来家庭で行うはずのしつけを園に丸投げしたりするなど、自己中心的な考え方が目立つことが大きな特徴です。

保育士に対するクレームが増えている3つの原因

保育士に対するクレームが増えている背景の1つは、各種メディアが保育園に対する誤った情報を拡散し、保護者の誤解を招いたことです。また、子育てを相談できる相手がいない保護者は保育園に対する不安をより一層強く感じ、クレームを言うことがあります。

保育士に対するクレームが増えている原因を詳細に把握して、適切な対処方法を考えるためのヒントを得てください。

1. 保育園に対する誤った情報が拡散している

インターネットメディアやテレビ番組では一部の悪質な保育園を取り上げて、保育士の仕事ぶりや設備の不備を報道し、保護者の感情を逆なですることがあります。報道を見聞きした保護者が「わが子を預けている保育園にも同様の問題が存在するのではないか」と感じると、クレームを言いがちです。

また、保護者の中には保育園をサービス業とみなして過剰に期待し、理不尽なクレームを言う人もいます。保護者の感情を受け止める人が身近にいないと自分自身の理不尽さに気付けず、モンスターペアレント化する可能性が否めません。

2. 核家族化や共働き家庭で子育ての相談相手がいない

近年では核家族化の影響で、子育て相談できる相手が身近にいない保護者が増えています。第三者に子育て相談する機会の少ない保護者は日常的に発生する悩みを溜め込み、「辛さを理解してほしい」という心理から、理不尽なクレームにつながるケースもあるでしょう。

共働き家庭の保護者は夫婦で子育ての負担を分担し合うことが難しく、子育てに関する悩みを溜め込む傾向にあります。心の余裕のない保護者は寛容な態度で保育士と接することが難しく、些細なことに対しても敏感に反応し、クレームを言いがちです。

3. 子どもを大切に思う気持ちが強くなっている

2020年度の出生数は84万832人と、2019年度比で2万4,407人も減少しました。2020年時点における合計特殊出生率(1人の女性が産む子どもの人数)は1.34人で、前年度の1.36人と比較し、0.02人少ない値です。

(出典:厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況」/https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/index.html

日本の少子高齢化に歯止めがかからない状況において、保護者の子どもを大切に思う気持ちはより一層強まっているとも考えられます。結果として保護者が過保護、過干渉状態になる傾向があることが、クレームの増えている理由の1つです。

保育士が保護者から​クレームを受けたときの対処法や心構え

クレーム対応は非常に難しく、企業ではマニュアルを準備して社員教育を徹底するなどの準備をしていても、いわゆる炎上をしてしまうケースは後を絶ちません。

クレームは初期対応が重要です。最初に誤った対応をしてしまうと火に油を注ぐ結果となり、さらなるクレームを生んでしまいます。そのため、正しい対処法や心構えを身につけて実践することが非常に大切です

では、保護者からクレームを受けた場合、具体的にどのように対処すればよいでしょうか。
ここでは、保育士が保護者からクレームを受けたときの対処法と心構えについて紹介します。

1. 反論せずに話を聞く

クレームを受けたとき、まずは「反論せずに話を聞いてみる」ことが大切です。理不尽なクレームを受けた場合、反論したくなることでしょう。しかし、反論したくなる気持ちを抑え、聞き役に徹することが、クレーム対策の基本です

保護者の言葉を早口で否定したり、言葉を遮ったりすることはしないように注意しましょう。どれほど理不尽で身勝手な要求であっても、まずは受け止めることが重要です。

受け止めるとは言っても、保護者の言いなりになる必要はありません。ただ事実を受け止め、なるべく共感的態度で相手の話を聞くことがポイントです。そうすることで、相手の怒りは徐々に収まってくるでしょう。

2. 一人で解決せずチームで解決する

クレームを受けた場合、一人で解決しようとはせず、園長や他の職員などに早めに相談しましょう。園の外で言われた場合もその場で解決しようとせず、必ず園に持ち帰ることが大切です。

保護者には「園で話し合ってみます」と伝えることで、安心感を与えることができます。一人ではうまく対処できないことでも、経験豊富な先輩の知恵を借りることで、早期解決が見込めるでしょう。

また、職場全体でクレームについての情報を共有することで、同じようなクレームが起きた場合の対応をスムーズに行うことが可能です。

3. 事実確認をしたうえで必要な場合は謝罪する

クレームに対して、最初からただ謝ればいいわけではありません。保護者のクレーム内容を鵜呑みにせず、実際にはどうであったかの事実確認をすることも重要です。事実確認をしたうえで、必要であれば真摯な姿勢で謝罪をしましょう。

安易に謝ることも逆に頑なに謝らないことも、NG対応となります。事実を確認して園側の非を認めたうえで、必要であれば謝るという毅然とした態度をとることで、場合によっては保護者からの信頼を得ることができるように努めましょう。

4. クッション言葉をうまく利用する

クレームに対して、保護者の望む通りの解決策を提案できれば問題はありませんが、様々な事情により代替案を提案するケースも多く見られます。

代案を提案するときは「クッション言葉」を利用しましょう。クッション言葉には、以下のようなものがあります。

尋ねる場合「差し支えなければ」「失礼ですが」
お願いする場合「お手数をおかけしますが」「恐れ入りますが」
断らなくてはいけない場合「残念ですが」「大変申し上げにくいのですが」「あいにくですが」

上記の言葉を利用することで、保護者の不満を和らげることができます。ただし、代案の提案は、伝え方で相手を怒らせる可能性があるため、言葉遣いには十分に注意してください。

5. 最後は感謝の意を述べてすぐに実行に移す

保護者から受けるクレームから、保育業務の流れや環境を見直すためのヒントを得られるケースもあります。クレーム対応の最後には貴重な意見をくれた保護者に対し、感謝の意を述べましょう。

そして、提案した対応策はできるだけ早く実行することが、円滑なクレーム解決のポイントです保育士側の都合で提案した対応策をいつまでも実行しないと、逆効果になることがあるため、注意しましょう。

解決策や代替案を実行したときにはクレームを言った保護者に報告すると、より丁寧な対応となります。報告を受けた保護者は「自分自身の意見が受け入れられた」と感じ、安心します。また、意見を受け入れた保育士や保育園に対するイメージがよくなると、保護者からの信頼を勝ちとることもできるでしょう。

実際にあったクレームの事例

保護者の身勝手なクレームにうまく対処するためにも、実際にどのような事例があるか知ることは大切です。事例に対してどう対応すればよいのかをイメージすることで、よく似たクレームがきたときに対処しやすくなります。

最後は、実際にあったクレームの中から、とくに多い「子どものケガに関する事例」と「園での行事に関する事例」について、それぞれ解説します。

1. 子どものケガに関する事例

子どものケガに関するクレームは、よくあるクレームの1つと言えます。擦り傷などの小さなケガでも、過剰に反応してクレームを入れて来たり、保育士が虐待していると行政に通報したりするケースもあります。子どもがケガをしたときに、他の子どもや保育士に矛先を向けて全責任をおしつけてしまう保護者もいます。

保育園で遊んでいるときに、足を擦りむいた

このようなクレームを受けた場合は、まずは保護者の言い分をよく聞きましょう。そのうえで、ケガをした状況や事情を説明することで、対処することが可能です。

2. 行事に関する事例

園で行われる様々な行事に対して、保護者から保育士へクレームが入ることも少なくありません。行事に関する事例には、具体的には以下のようなクレームがあります。

発表会の劇での子どもの配役を決めた後に、保護者から「なぜうちの子が主役ではないのか」というクレームが入った

園での行事は子どもにとってかけがえのない想い出です。そのため、行事をよくしたいという想いや「子どもが不当な扱いを受けているのではないか」といった不信感から、このようなクレームが入ることがあります

上記のようなクレームを受けた場合も、まずは保護者の話をじっくりと聞きましょう。そのうえで、決して不当に扱ってはいないことと、行事の趣旨や配役の決め方について丁寧に説明することが大切です。

3. 子ども同士のケンカに関する事例

多くの子どもが同じ空間で活動する保育園では、些細なことをきっかけとして、ケンカが起きます。しかし、子ども同士のケンカが下記のようなクレームにつながるケースもあるため、慎重な対応が必要です。

おもちゃの取り合いで、取られた子どもが取った子どもを押し倒したところ、取った子どもの保護者から「わが子がいじめられた」とクレームを受けた

子ども同士のケンカに関するクレームはまず、ケンカの経緯を正しく伝えて、双方に責任があることを理解してもらう必要があります。そのうえで、保護者に不安を感じさせたことに対し、真摯な姿勢で謝罪しましょう。

4. 保育士の指導に関する事例

保育士は原則、子どもたちに対して平等に接し、しかるべき指導を行います。しかし、保護者の中には特別対応を要求する人がいるため、下記のようなクレームを受けるケースもあるでしょう。

子どもの嫌いな野菜を使用しないで、給食メニューを考えてほしい

保育士の指導に関して理不尽なクレームを言われた場合はまず、保護者の言い分をすべて聞き、怒りや不満を抑制しましょう。そして、保育園として対応できること・できないことを理由とともに、明確に示すことがおすすめです保育園の主張を保護者が理解してくれた場合は「ご理解ありがとうございます」と、感謝の意を述べてください。

保護者からのクレームを防ぐためには?

そもそも、保育士と保護者との関係が良好であれば、頻繁にクレームを受けません。日頃から保護者と十分なコミュニケーションの機会を持ち、よい関係性を築いてください。送迎時に話すことが難しい保護者とは連絡帳を活用し、コミュニケーションをとる方法がおすすめです。連絡帳には保育園での子どもの様子を詳細に記載すると保護者の満足度が高まり、関係性がよくなります。

クレームに対してネガティブなイメージを持つ保育士もいますが、保護者から要求・意見が出ること自体が問題とは言えません。クレームを言ったときに真摯に対処してくれた事実が保護者の心を動かして、信頼関係が深まることもあるためです。

保護者からのクレームは、よりよい保育園を作るための重要なヒントとなります。クレームを受けたときには前向きな気持ちで適切に対処し、子どもと保護者にとって望ましい保育園を目指してください。

まとめ

今回は、クレームを言う保護者の心理やクレームの対処方法、実際にあった事例について紹介しました。

ネットの普及や核家族化により増えているクレームを受けたときは、まずは相手の話を聞くことが大切です。相手の言い分をじっくりと聞き、共感的態度をとったうえで事情を説明することで、相手の不満を和らげることができます。クレームに悩んでいる保育士の方は、ぜひ当記事を参考に保護者とコミュニケーションをとり、信頼関係を築きましょう。

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