保育現場のマネジメント【前編】

保育現場のマネジメント【前編】

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近年、日本の保育業界においても、管理職が部下のマネジメントを担う体制が増えてきました。しかし、その制度の構築ははじまったばかりの段階。「マネジメント」という言葉を難しく考えすぎてうまくいかなかったり、マネジメントを学ぶ機会、時間が不足していたりと、保育現場にはさまざまな課題があるようです。今回は、保育現場におけるマネジメントの必要性や軸となる考え方について、前編と後編にわけてご紹介しましょう。

保育現場のマネジメントとは?

そもそも、保育現場になぜマネジメントが必要なのでしょうか。その答えを端的にいうなら、「大人の状態が子どもの“今”や“育ち”に影響を与えるため」です。

保育者がいつもイライラしていたり、気分によって対応が変わったりしていては、子どもの不安や心配を助長させてしまいます。また、そうした環境下では、子どもの「自ら育つ力」や「未来の可能性」が失われてしまうでしょう。だからこそ、身近にいきいきと接する保育者がいるのはとても大事なこと。子どもの「豊かな育ち」には欠かせない要素だといえます。そして、そのためにも保育現場におけるマネジメントが必要であり、管理職がマネジメントによって「子どもの成長を促進していく環境」をつくり出していくことが求められるのです。

保育所保育指針」では、すべての保育所に共通する保育の目標を次のように示しています。

・子どもが現在を最も良く生き、望ましい未来をつくり出す基礎を培う
・入所する子どもの保護者に対し、その援助に当たる

つまり、この目標と各現場の実状に合わせた理念・目標を、日々の実践につなげていくのが保育の営みということになります。ではここで、ピーター・F・ドラッカー※1が提示した「マネジメントの3つの役割」を参考にしながら、保育の目標と保育現場のマネジメントについてみていきましょう。

※1 オーストリア出身の経営思想家(1909~2005年)。経営・管理に関する多くの用語・概念を生み出し、「経営学の父」「マネジメントの権威」などと称される。

◎役割その1 組織の使命や目的を果たす

前述の通り、「子どもが現在を最も良く生き、望ましい未来をつくり出す基礎を培うこと」が保育所の目標。保育所は、保育の必要性のある子どもを“ただ預かる場所”ではないのです。子どもにとって望ましい未来をつくり出す基礎を培い、かつ保護者の支援も行う目的を果たす。そのために、保育現場のマネジメントが存在するといってもいいでしょう。

◎役割その2 組織で働く人たちを生かす

働く人にとって、仕事は自己実現をはかる手段となります。だからこそ、働く人を生かすことが、保育所の目標の達成にもつながっていきます。

◎役割その3 社会に貢献する

保育現場のマネジメントは、子どもの今と未来を照らし、社会で活躍する保護者を支えるとともに、仕事を通して職員が輝かせる状況をつくり出すもの。まさに、社会に貢献する役割を担っているのです。

この「マネジメントの3つの役割」が機能すると、保護者や同僚とパートナーシップが築かれ、より良い保育のために学習し続けるチームとなっていきます。それは、職員一人ひとりが強みを生かしながら、自身やチームの課題に主体的に取り組めるようになる理想的な状態ともいえるでしょう。また、子どもにとっても「豊かな人的環境」だといえます。

しかし、マネジメントを通じて保育現場に変化を生もうとする気概があったとしても、そのプロセスは決して容易ではありません。保育や教育現場特有の“内向きになりやすい職場環境”によって、解決すべき違和感や課題について話し合わなかったり、自身の経験を共有するコミュニケーションが不足したりするケースもあるからです。

では、理想に近づくためには、どのようなマネジメントを実践するべきでしょうか?

保育現場のマネジメントでは、「関係的信頼の形成」が特に重要だといわれています。これは文字通り、“関係的”な信頼なので、どちらか一方からの信頼では足りません。そう、「関係的信頼の形成」は継続的な関わりから、互いの理解を深め合う経験を積み重ることで形成されていくのです。そして、その過程に必要なのが、「心理的安全性」。安心して自身を開示し、対話的なコミュニケーションが生まれる場です。

軸となるのは「心理的安全性」

心理的安全性というのは、エイミー・C・エドモンドソン教授※2が打ち出した概念で、「チームのメンバーがそれぞれ不安を抱えることなく、自分の考えを自由に発言できたり、行動に移したりできる状態」のことをいいます。

※2 「心理的安全性」の第一人者であるハーバード・ビジネススクール教授。過去に「世界で最も影響力のあるビジネス思想家50人」の一人にも選ばれている。

これを保育の現場にあてはめるなら、チームメンバー全員が「子どものためになるならば、たとえ相手の意見とは異なる場合も、自身が良いと思う意見を伝えることができる状態」といったところ。話が盛り上がっていても、適切でないと感じた場合には反対意見を言ったり、少しの違和感をいつでも持ち出したりできる環境を指します。

そのためにマネジメントに求められるのは、意見交換の場で衝突が起きたとしても、その後の関係性に影響することなく、意見を言った人が疎外されることのないようにすること。安心安全な場をマネジメントできてこそ、活発な意見交換が実現するからです。

以上をふまえて考えれば、子どもにとってより良い保育を、保護者にとってより良い支援を、同僚にとってより良い職場環境をつくっていくためには、心理的安全性が不可欠だということがおわかりいただけるのではないでしょうか。

マネジメントは具体的に何をするのか?

保育現場でのマネジメントは、まず部下の違和感に気づくことからはじまります。そのためにも、普段から部下の行動に注目しておくようにしましょう。

「心理的危険な状態に気づき、心理的安全な状態に導き、それを繰り返していく」

言葉をかえるなら、これが保育現場のマネジメントの基本といえます。心理的危険な状態というのは、過度なストレスにより、普段はできていることでもミスをしやすくなるような状態。あるいは情緒に左右されて、不適切な言動が抑えられなかったりするなど、自分で自分のことをコントロールできない状態のことです。

ストレス耐性は人によって違うため、ここでは一人ひとりを深く理解したうえでのマネジメントが必要になってきます。部下の様子に注目し、いつもと違うなと思ったら声をかけて話を聞くようにしましょう。

その際に気をつけるべきは、管理職側の視点を一旦脇に置いて、相手の視点に立つこと。そのうえで、相手の意見を聞くことに専念してみてください。話を聞きながら、あれこれと意見したくなるかもしれませんが、それでは「あなたの意見を聞き入れるつもりはない」という態度に見えてしまいます。まずは、相手と同じ立場で最後まで話を聞くことからはじめましょう。

心理的安全な場をつくるためには、“話し合いの際にルールを整えること”も大切です。たとえば、「話し合いの前には、その目的を共有する」というルール。目的の認識がずれていると、意見の受け取り方に差が出て、モヤモヤした気持ちが生まれやすくなります。提案なのか、方針を決めるのか、答えのない対話の場なのか、目的を明確するようにしましょう。

ちなみに、「話し合いの目的共有」を導入した保育現場では、「その場の目的がわかって安心して意見を出せるようになった」「話が白熱して話題がずれても、元の話題に戻る提案がしやすくなった」などの声がありました。

また、話し合いの場では、次のルールも大切です。

・意見を否定せず、意見の違いを一旦受けとめる
・後に引きずらない

これをメンバー全員で共有したうえで、話し合いに臨んでみてください。

マネジメントは1日にして成らず

「マネジメント」という言葉だけをみると、どうしても「難しそう」だと感じてしまうかもしれません。しかし、マネジメントの本質は「一人ひとりの行動に注目し、その変化をキャッチして話し合いを進める」ということであり、誰もが実践できるもの。継続的に取り組むことで、保育現場に定着させていきましょう。

保育現場のマネジメント【後編】では、マネジメントをする側の管理職の考え方、取り組み方に焦点を当ててご紹介しますので、そちらもぜひ参考にしてください。

保育園園長/保育士養成校講師
仙台市内の幼稚園で9年間勤務した後、保育現場の課題と向き合うため独立。
自分の人生をゆたかに生きる人であふれる社会を目指し、講師や保育アドバイザーとして活動。
2018年5月より保育園の立ち上げに参画。2021年3月に開園を迎え、
誰もが自分らしさに向き合える保育園『のいえ保育園』園長となる
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