スキルアップ研修第1回 「多様な子どもたちの発達支援とは」 ~行動の背景や対応方、環境・保護者との関わり方を考える~ 関本初子先生
2023年8月21日に開催されたスキルアップ研修第1回では、関本初子先生より、 「多様な子どもたちの発達支援とは」をテーマに行いました。
近年「気になる」子どもが増えており、1クラスに4~6人はいるという調査結果もあります。そんな「気になる」子どもへの接し方や、その周りの子どもたちとの関係づくり、保護者理解について、お話しいただきました。
参加者のお声
■保護者支援は、なかなかアプローチしづらい所なので、とても参考になりました。
■行動支援表やコミュニケーション支援ボードなどを活用してみたいと思いました。
■発達障がいの子どもに対して保育者の行動は他の子どもへのモデルになっているという点が勉強になりました。
たくさんの方にご参加いただいき、上記のようなお声をいただきました。
実践的な内容が多い研修であったことから、さっそく取り入れてみたいというお声も多く、良い時間になったのではないかと思います。
気になる子どもの理解と援助
私たち保育者は、同年代の集団の子どもと向き合っているからこそ、予測とは違う発言や行動をとったときに、「気になる」と感じることがあります。
気になる子どもの行動の背後には「困ったこと」や「衝動」が影響しています。保育者は子どもたちの特性に敏感に気づき、適切な支援を提供することが必要です。
本当に困っているのは子ども自身
なんでみんなと同じようにできないの?
なんで同じことを繰り返すの?
人と同じであること、雰囲気に合わせて周囲の輪を乱さないことを、親や保育者など、まわりの大人に求められて、注意をされ、気になる子どもはとても困っています。
親や保育者は「治そう」とするのではなく、困っていることに手を差し伸べ、その子が持つ本来の力をできる限り引き出すことが必要になります
発達障がいってどんな障がい?
発達障がいは、脳機能の発達が関係する障がいです。
コミュニケーションや対人関係をつくるのが苦手なことも多く、その行動や態度は「自分勝手」とか「変わった人」「困った人」と誤解され、敬遠されることも少なくありません。
その原因が、親のしつけや教育の問題ではなく、脳機能の障がいによるものだと周囲の人が理解すれば、接し方も変わってくるのです。
子どもを支援する
「気になる」行動に気づいたらなぜ、その子が「気になる」行動をしたのかを分析し理由を探る
「困った」や「不安」を感じて「気になる」行動を取っていることがあり、 「衝動」などその子自身がその理由に気づいていないこともあります。
「気になる子」の周囲との関係づくりでは、保育者が子どもの気持ちを受け入れ、状況や気持ちを説明し、理解を促す姿勢が大切
保育者は、どうして一緒にあそびたくないのか、仲間に入れられないのか、子どもの素直な気持ちを聞き、感情を受け止めましょう。
その上で、気になる子がどうしてそんなことをしてしまったのか、状況や気持ちを説明し、わざとではなかったことを周りの友だちに伝えましょう。
気になる子に対しても、友だちがどんなことを嫌がっているのか、どんな気持ちかを伝えると共に友だちとの具体的な関わり方を説明しましょう。
保育者の接し方がモデルになる
保育者の接し方は、周囲の子どもたちに影響を与えます。
保育者が気になる子に対して赤ちゃん扱いや叱責をすると、その子は「何もできない子」という印象を受ける可能性があります。周囲の子どもたちはこの態度を見て、同じような態度を取ることがあります。逆に、保育者が気になる子を特別な支援が必要なだけでなく、その子の得意なことやできることにも注目し、ポジティブな関わりをすると、他の子どもたちもその子を仲間として受け入れるようになります
他にも、園内の環境整備(落ち着けるゾーンを作ったり、一日の流れを絵で示す)や、外部の巡回相談を利用したり、保育カンファレンスを行うなどして、チームで子どもの支援を行うことも有効です。
質問より(保育者の意識)
「加配保育を行う際に、保育者の意識が他の子どもたちの保育を優先してしまい、支援が必要な子どもたちがクラスの一員として認識されにくくなる問題があります。このような課題に対して、包括的なクラスづくりと要配慮の子どもたちへの個別な関わり方をどう展開すべきか悩んでいます。」
チームでクラス全体を支援することが大切
・「気になる子」がいる場合、過度にその子にかかりきりにならないようにしましょう。
幼児は成長段階が異なるため、全員が気になる子であるという視点を持ち、お互いに影響しながら成長する環境を作ります。
・加配保育士がつくことがありますが”加配保育士の役目”と、他の子どもたちが認識してしまうと、子どもたちが積極的にその子を助けていく機会を無くしていくかもしれません。周りの子どもたちにも「困っているお友だちがいたら助けてあげようと協力を促すこと」も大切です。協力することで思いやりや気配りの心が育ち、クラス全体の成長が促進されます。
支援を必要とする子どもを育てるということ
・成長への見通しが持ちにくい
一般的な発達指標が適用しづらく、「このまま歩けないのだろうか」「話せないのだろうか」といった不安が生じます。
孤立しがちな保護者を支えるため、子育てに関与し、子どもの成長を見守り、次の段階に対する見通しを提供する支援が必要です。
・子どもがもつ『保護者の親らしさ』を引き出す力の弱さ
子どもの独特の反応や意図を理解しづらいため、保護者の親らしさが発揮しにくいことがあります
<保育者は子どもと向き合いながら、保護者とも向き合っていく必要がある >
家庭への配慮・支援のポイント
- 傾聴
話すことは「離す」「放す」にも通じ、自分の気持ちを発散することができます。
保育のプロとして、保護者へ伝えたいことはあると思いますが、まずは話を聞きましょう。 - 「できること」と「できないこと」を把握
特別な配慮を必要とする家庭への支援は、相応の知識と技術が必要になります。
地域の中での様々な支援を理解して、情報提供をしたり、関係機関につないだりすることも保育者の仕事です。 - 弱いところではなく、強みに注目
弱いところや支援の必要な部分に着目しがちですが、健康で健全な部分を併せ持っているのが人間です。その家庭の弱い部分を補完する支援に加えて、その家庭のもつ強い能力や得意な面を伸ばす支援も考えましょう。 - 話を聴くことが心の健康の回復につながる
心の健康が保たれなくなると、人は自分のことしか考えられなくなり、コミュニケーションがうまく図れないこともあります。
しっかりと保護者の話を聴き、表面的な言葉の裏にある本当に伝えたいことを理解することが重要で、それにより心の健康も改善されやすくなります。 - 保護者が過剰反応する背景
保護者が過剰に反応するのは、複雑な思い入れがあり、大事にしているケースがあるので、まずは、受け止めることが大切です。 - 保育施設の特性を生かした支援
他の親子関係をみたり、保育者と子どもの関わりをみたりすることで、保護者が自ら子どもとの関わりを学んでいく機会を提供できます。 - 保護者を「一人の人間」としてトータルに理解
いろんな場面で努力している一人の人間としてトータルにその人を理解する視点も必要です。 - 保護者とともに行動
専門機関の見学や相談、医療機関の受診、学校見学などに保護者と協力して参加し、寄り添うことが大切です。 - 他の保護者にも理解の輪を
気になる子の保護者の許可を得られたら、子ども同士のトラブルの背景にある子どもの特性や共に育ち合う大切さをクラスの保護者とも共有しましょう。 - 就学の支援
就学支援シートに子どもが直面しそうな問題や難しさを予測して記載することで、子どものスムーズな就学をサポート。
本研修にご参加いただき、誠にありがとうございました。
次回以降も、身近かつ実践的なテーマを題材に研修を行ってまいります。
第2回は「子どもの願いをかなえるあそび」について井上さく子先生より研修お話しいただきます。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
~次回の開催情報~
●【日時】
2023年10月16日(月) 13:00~15:00
●【テーマ】
「子どもの願いをかなえるあそび」
~子どもたちの自主性を育む~
井上さく子先生
(保育環境アドバイザー)