第4回スキルアップ研修 「保育業界の今後とは」 ~こども家庭庁創設、2025年問題~ 汐見稔幸先生

昨年の8月から隔月で行われてきたスキルアップ研修も今回で最終回となりました。
今回のテーマは「保育業界の今後 ~こども家庭庁創設、2025年問題~」です。
令和5年4月1日「こどもまんなか社会」の実現を目標に掲げ、子育てや少子化、児童虐待、いじめなど子どもを取り巻く社会問題に対して本質的な対策を進めるため、こども家庭庁が創設されました。こどもに特化した省庁が設置されるのは日本の歴史で初めてのことです。このこども家庭庁の設立により、今後の保育業界はどのように変わるのでしょうか?
汐見先生の知見やエピソードを交えてお話しいただきました。
はじめに
2025年頃、保育所に通っている子どもの数はピークに達し、その後は、少しずつ減少していくと言われており、これを「2025年問題」と呼んでいます。
ここ20年、各行政や自治体は待機児童問題解消のために、保育士の数をどんどん増やしてきました。その結果、保育士数の増加とともに保育の質が低下してしまうという状況が生まれ、最近は新聞やテレビで”不適切保育”という言葉も聞かれるようになりました。
しかし、今後は児童数減少に伴い、2025年を境に待機児童問題は解消されていきます。これからの保育業界では、保育士の数を増やすのではなく、保育の質を向上させる努力しなければいけない過渡期にさしかかっています。2025年に向けて、こども家庭庁の施策のもと新しい保育が始まります。
こども家庭庁発足で保育現場への影響と今後の課題
1.子どもの権利条例を園でも
国は各自治体に対して独自の「子どもの権利条例」を作ることを要請しています。これは神奈川県川崎市が、世界で最も広く受け入れられている人権条約である「子どもの権利条約」(日本は1994年に批准)を元に、子どもの権利に関連する独自の条例を作った2000年の前例に基づいています。当時、子どもの権利に関する総合的な条例が作られたのは初めてのことで、条例案の作成に市民が参加し、200回を超える会議が開催され、子どもの権利について多くの人が真剣に語り合ったこの取り組みは大きな話題を呼びました。
これを自治体のみならず、保育園や幼稚園の各園でも取り組むべきだと考えています。
子どもたちが真に大切にされるためには、子どもが自分にはこういう権利があるのだと自覚できることが重要です。この自覚を促すのは保育や教育に携わる大人の仕事です。
みなさんの園でも、子どもたちの権利が一目でわかるような掲示物を入口近くに掲示してみてはいかがでしょうか。具体的には「私たちの園では子どもたちは次のような権利を持っています ①子どもは自分の意見を言うことができます ②……」といった内容がいいでしょう。貼り紙として目に付くところに掲げておけば、日常的な意識づけだけでなく、学期ごとにそれらの権利が実現されているかをチェックすることもできます。
2.子どもの関連縦割り行政による弊害を解消・是正できる?
日本ではこれまで、子どもに関する所管が幼稚園は文部科学省、保育園は厚生労働省、こども園は内閣府と様々な省庁がまたがっていたため、担当部署や子どもの年齢で施策や支援が分断される「縦割り行政」の状態にありました。児童虐待や少子化など子どもに関する課題は、まったなしの状況です。そういった課題についてシームレスに対応するために、内閣府の外局という位置づけでこども家庭庁が設立されました。
保育園・こども園は同じこども家庭庁の管轄になりましたが、幼稚園は依然として文科省が管轄しているため、現状では縦割り行政が完全に解消されているとは言えません。
国もこの縦割り行政問題を認識しており、連携を取るために、こども家庭庁の課長職に文科省の職員を配置するなどの人事配置をするなど努力はしています。
ヨーロッパ諸国では保育園、幼稚園、こども園を文科省が一元管理をしています。ヨーロッパでは教育への意識が高く、子どもに関わるすべての機関を文科省の管理にまとめて教育に力を入れられる組織作りをしているのです。将来的には日本も同様に、幼稚園、保育園、学校といったすべての教育に関する機関が文科省の一元管理になるだろうと考えています。
3.子どもたちはどの施設でも等しく保育や教育を受けられる?
幼稚園・保育園・こども園のどの施設に通っても、子どもたちは等しく保育や教育を受けられるのでしょうか?
そもそも、各園の文化はかなり異なります。例えば、保育園では1人の先生が25人の4歳以上の子どもを担当しますが、幼稚園では35人です。このような前提の違いから等しい保育や教育を受けられるとは言えないかもしれません。
実際に幼稚園の数は減少傾向にあります。以前は15,000箇所ほどあった幼稚園数は今では10,000箇所を下回るほどに減っています。幼稚園が減る代わりに増えているのが、こども園です。その理由としては、幼稚園に通える子どもは3歳以上に限定されているのに対して、こども園には0歳から5歳までの子どもが通うことができるため、児童数の確保が容易であり、またこども園には国からの支給される助成金が高いことが挙げられます。これからはこども園が増えていくことで、文化の差は徐々に均されていくでしょう。
また、全国に設置が進みつつある幼児教育センターも、等しい保育や教育の実現に向けて重要になってくるでしょう。幼児教育センターとは、保育者への研修・相談業務、市区町村や幼児教育施設に対する指導助言、支援などをしている機関です。全国で幼児教育センターの設置が進み適切に機能していけば、保育や教育の質の向上が期待できます。
加えて、来年度(2024年度)からは「こども誰でも通園制度」という新たな制度が始まります。これまで保育所の利用には、親が働いていなければいけないという要件がありましたが、親が働いている子どもしか幼少期に保育や教育を受けられないというのは明らかな差別だろうということで、新しく始まるのが「こども誰でも通園制度」です。この制度発足の背景には、これから子どもの数が減っていき保育園経営が大変になるだろうという2025年問題の影響もあります。この制度が具体化し広がっていけば、どんな家庭環境の子どもでも等しく保育や教育を受けられる環境づくりの一役を担うことができるでしょう。
最後に
保育に携わる大人たちができる一番のことは園づくりです。
子育てについてなんでも相談でき、子どものことを親御さんたちと楽しく語り合えるような園を目指しましょう。また、子どもが自分の通っている園を好きだと思えることも大切です。そのためには日頃の保育を見直してみましょう。子どもが自分の意見を聞いてもらえると実感できる園になっているでしょうか?できるだけ子どもに寄り添い、観察して子どもの思いを感じ取り、保育者の子どもへの願いとの接点を探るような丁寧な保育を心がけましょう。
本研修にご参加いただき、誠にありがとうございました。
来年度もスキルアップ研修を実施していく予定です。今回の研修で寄せられた保育士の皆様からの声を元に、より実践的な研修を行えればと考えています。
今後とも、マイナビスキルアップ研修をよろしくお願いいたします。
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