「現場復帰が不安……」この10年で保育の現場はどう変わった?

「現場復帰が不安……」この10年で保育の現場はどう変わった?

近年は、共働き家庭の増加などの影響で保育需要が上昇。保育者の働き方や働く環境への社会的な注目度も高まってきました。また、子どもの教育にかける保護者の意識が向上していることで、保育園や保育者に対する期待もどんどん大きくなっています。
そうした中、結婚や出産などで、長期にわたって保育の現場を離れている“潜在保育士”の確保が話題になることも増えましたが……。潜在保育士の側からは、社会の変化に不安を感じ、「現場復帰に向けて一歩踏み出す勇気が出ない」という声が漏れていることも事実。ここでは、そんな人たちのために「現場復帰を目指す保育者が押さえておきたいポイント」について解説していきます。

保育所・保育者に求められる「質向上」とは

はじめに、「この20年で保育に関わる制度はどのように変化していったのか」について、厚生労働省の「保育所保育指針解説」を参考にまとめてみましょう。

◆平成9年
児童福祉法改正(平成10年4月施行)により、保育所は措置制度から利用者が保育所を選択できる契約方式に変わった。また、保育ニーズの多様化に対応するため、さまざまな特別保育が実施されるとともに、家庭や地域の養育機能の低下により、子どもの保育だけでなく、入所している子どもの保護者への支援および地域における子育て支援を行うことが、児童福祉法において努力義務とされた。
◆平成15年
保育士の資格が法定化。さらに、子どもの保育だけでなく、保護者への保育に関する指導が保育士の業務とされた。
◆平成27年
子どもの健やかな成長を支援していくため、全ての子どもに質の高い教育・保育を提供することを目標に掲げる「子ども・子育て支援新制度」が施行された。

こうした流れから読み取れるのは、保育所の役割が年々多様化し、拡大しているということ。加えて、現在は「保育の質向上」が重視されており、保育所の職員一人ひとりのレベルを上げる取り組みがなされています。

とはいえ、「保育の質向上」は、一朝一夕に実現できることではありません。白梅学園大学学長・東京大学名誉教授の汐見稔幸先生が、著書『2017年告示 新指針・要領からのメッセージ  さあ、子どもたちの「未来」を話しませんか』(小学館)の中で、「なんの工夫もなく、ほかの人が作った指導計画を丸写しにするとか、行き当たりばったりで活動を行なって、自分の実践の評価や改善を行わずにいたら、活動の質はほとんど上がっていきません」と述べているように、質向上に取り組むにはそれぞれの園が工夫してカリキュラムを組み立て、計画的に実施する必要性があるでしょう。

また、汐見先生は同著において、2017年改定の幼稚園と認定こども園の要領に加わった「カリキュラム・マネジメント※1」を例に挙げ、そのためのPDCAサイクルを組織的、かつ計画的に行えるように提案しています。

※1 責任者や時間を決めて、計画案作りや改善のための実りある会議を行ったり、保育ドキュメンテーションやポートフォリオなどで記録を可視化して評価をしやすくしたりすることで、保育の質向上を図ること。

その一方で、政府も2017年に「子育て安心プラン」を発表し、保育士の業務負担軽減のための支援(ICT化※2)について提言。これにより、保育士の負担がぐっと軽減され、子どもと向き合う時間が増えました。

※2 パソコンやタブレットなどの電子端末を通して業務支援に役立つシステムを利用できる環境を整えること。

「非認知能力」を育むための保育に重点を置く意味

このように、ここ数年は「保育の質向上」を目的とした保育現場の改革が着々と行われています。では、子どもたちの“教育の中身”についてはどうでしょう。キーワードとなっているのは「非認知能力」です。

ご存じの方も多いと思いますが、非認知能力というのは、知能検査などで測定できない「目に見えない力」のこと。記憶力や思考力など、知能検査や学校のテストで測れる能力を「認知能力」と呼び、目に見えない感情や心の働きのような数値化できない分野の能力を「非認知能力」と呼びます(意欲、協調性、粘り強さ、計画性、創造性などがそれにあたります)。

これまでの社会では、学力やIQ、運動能力といった目に見える結果が重視されてきましたが、さまざまな研究・調査によって非認知能力の高い人のほうが、大人になってから社会的、経済的に成功している人が多いということが判明。「幼児期から非認知能力を養うのがいい」という傾向が世界的に強まってきました。

日本においても、非認知能力はこれからの幼児教育の重要なテーマになるとされており、その考えを反映したのが、2017年に実施された「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」の改訂です。特に、幼稚園教育要領に示された「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」は、今後さらに重要度を増すと考えられるので、現場への復帰を目指す方はしっかりと頭に入れておく必要があるでしょう。

これまでの経験や知識は必ず役に立つ!

このように保育の制度やシステム、教育環境は利用者や保育者にとって“より良いもの”になるべく、日々進歩しています。そして、そうした進歩はこれからも続いていくでしょう。

しかし、時代が変わろうとも保護者と保育者が大切な子どもを見守り、一緒に育てていくという“根本”は絶対に変わりません。また、保育という仕事のやりがいや子どもたちの笑顔も、時代によって変わったりはしません。

先に述べたように、保護者が保育園・保育者に求める「保育の質」のレベルが上がっていたりするため、「今の保育現場の変化についていけるか心配」と不安を感じる気持ちもわかりますが……。過去に保育者として培った経験と知識は、現在、そして今後の保育の現場にも必ず生かせるはず。自信をもって再チャレンジしてみてください!

文/保育ライター 野口 燈

[参照]
厚生労働省|保育所保育指針解説
汐見稔幸(2017),『2017年告示 新指針・要領からのメッセージ  さあ、子どもたちの「未来」を話しませんか』,小学館.
厚生労働省|「子育て安心プラン」について

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