脳科学者・中野信子先生の子ども悩み相談 #02 ~「ひいき」について~
脳科学者でベストセラー著者としても知られる中野信子先生が、幼少期から思春期の子どもが抱きがちな悩みに対して、脳科学の見地からアドバイスを送ります。子どもたちの悩みやイヤな気持ちを上手に汲み取って、保育の現場でぜひ活用してください。
連載第2回目は、子どもたちが家庭や学校で抱く不満——「ひいき」についてです。「ひいき」には、ネガティブなイメージがありますよね。しかし、多くの人に「愛されたい」「認められたい」、ひいては「ひいきされたい」という欲求があるのではないでしょうか?
心の成長期にある子どもたちは、なおさらでしょう。ただ、「ひいき」もとらえ方次第。自分の気持ちを認め、その気持ちをうまく活用することが、世の中にある「不条理」に対処する方法となるようです。
Q:子どもの悩み
担任の先生が、特定の人をひいきしているような気がする……
中野信子先生からのアドバイス
もしかすると、あなた自身も「ひいきされたい」と思っているのでしょうか? そうでなかったとしても、ひいきされているかもしれない人を見て、なんだかズルいと感じたり、自分だってもっとできるのだからせめて公平に扱ってほしいと思ったりするのは、ごく自然なことです。
「誰かに気に入られたい」というような人間関係の悩みは、これからの将来もずっと続きます。「ひいきする先生はよくない!」というのは簡単ですが、「承認欲求」(他人から認められたいという欲求のこと)を持つ人間がつくる社会に生きていく以上、納得できないことはどこにだって転がっているのです。
あなたは、そんなことをほかの友だちよりも早く経験しているのかもしれません。だから、「これが社会なのか」と気づけたのを、むしろラッキーだと捉えてほしい。そのイヤな気持ちが、「あなたなら乗り越えられるよ」とサインを送っていると思ってほしいのです。
他人から評価を得るのが得意な人は、それを一生懸命にやって、いつも誰かにひいきされて生きるのも戦略です。でも、もしひいきをイヤだと感じるのなら、できるだけほかの人に影響されない生き方を考えるのもひとつの方法です。「わたしはなにが得意なんだろう?」と、自分をじっくり見つめてください。
ひいきしている先生にやきもちを焼いたり、自分も好かれたいと思ったりするかもしれないけれど、好き嫌いの気持ちは自分だけでは決められません。相手が自分のことを気に入ってくれないと、自分ではどうしようもないのです。
また、もしもあなたが先生からひいきされたら、それはそれでしんどいかもしれません。あなたが感じていたのと同じようなイヤな気持ちをまわりの人に感じさせることになり、場合によっては攻撃の標的になってしまうかもしれないからです。
それよりは「自分を変える」ほうが早いでしょう。自分なりの戦略を立てて、若いうちから「自分はこうやっていこう」と方針をしっかり描くのです。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 協力/長野真弓 写真/川しまゆうこ
※この連載は、『中野信子のこども脳科学 「イヤな気持ち」をエネルギーに変える!』(フレーベル館)をアレンジして掲載しています。
中野信子のこども脳科学「イヤな気持ち」をエネルギーに変える!
著者名:中野信子
出版社:フレーベル館
2021年8月発売
東京大学工学部卒業後、同大学院医学系研究科修了、脳神経医学博士号取得。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。現在は、東日本国際大学などで教鞭を執るほか、脳科学や心理学の知見を活かし、マスメディアにおいても社会現象や事件に対する解説やコメント活動を行っている。
著書には、『サイコパス』『不倫』(ともに文藝春秋)、『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)、『空気を読む脳』『ペルソナ』(ともに講談社)、『脳を整える 感情に振り回されない生き方』(プレジデント社)などがある。