【対談後編|保育の楽しさってなんだろう?】質疑応答スペシャル②

2022年1月14日に開催された、汐見稔幸先生と井上さく子先生の対談は、質疑応答スペシャルです。対談後編では、本対談のインターネットライブ配信をリアルタイムでご視聴いただいている園長先生や先生からの質問にお二人が答えます。「0歳児の保育」「コロナ禍の保育」「室内環境のつくり方」など、気になるトピックスが飛び交います。

構成/株式会社京田クリエーション 文/宇佐見明日香
汐見先生・井上先生写真/筒井聖子

0歳児の保育のねらい

0歳児クラスの担任をしています。身の周りの簡単なことが自分でできるよう、保育者が援助しながら自立を促すという月のねらいを立てました。しかし、園長から0歳児の成長過程で、そのねらいを掲げるのは早すぎるのではないかと指摘を受けました。私は納得ができなかったのですが、先生方はどう思いますか?

井上:私も園長先生と同意見です。0歳児には、大人の助けを全面的に借りながら「よく食べ、よく寝て、よく遊ぶ」という心地のいい毎日を過ごしてもらいたい。泣くことでしか表現できない時期でもありますから、保育者は目の前の子どもがなぜ泣いているのか、一人ひとりの理由の違いをしっかりと見極め、受け止め、心地よく過ごさせてあげることに徹してみてはいかがでしょうか。

汐見:「外=社会」から求められているものと、「内=子どもの気持ち」から求めているもの。この2つの優先順位を間違えないようにしたいですね。保育者が優先すべきは、子どもの気持ちです。その子が何に興味を持っているのか、その気持ちが形を成すための丁寧な援助が、僕は保育だと思います。

保育のねらいを外から持ってきて、社会的な能力を身に付けさせるための援助としてしまうと、それらを子どもがクリアできたか、できなかったかという評価につながり、管理することが保育の主体になってしまいます。そこはちょっと注意してほしいなというのが、この質問に対する私の感想でした。

「まとめたい大人」と「まとまらない子どもたち」

マスク着用が当たり前の時代。制限も多い中、保育で一番大切なことは何でしょうか?

井上:保育で一番大切なことは、コロナ以前も今も変わりません。子どもたちがたった一度の子供時代を毎日楽しく過ごせているか。そのための保育になっているかです。

コロナ禍という理由で、遊びに制限をかけている園では、子どもが思う存分遊べず、食事の時間になっても、まだお腹が空かない。そこで、食べたくないと主張すると、ある現場では「今、食べなかったら、もう後で食べることはできないけれど、それでも食べたくないわけ?」と先生が子どもに言いました。言葉って大切ですよね。このようにコロナ禍の制限に大人の都合で輪をかけて、子どもの心を畳み込んでいませんか? せめても「じゃあ、いつだったら食べられますか? 」とか「どうしますか?」と、その子自身に考えさせ、自分で答えが出せるように導いてあげられたらと願います。

汐見:子どもたちが、自由に、思い切り、遊びほうけたり没頭することができない状況に追い込まれていてる中にあってもなお、「生きるって面白いぜ!」と感じられる関わり方、環境をつくってあげること。現状を常に見つめ直し、子どもたちがいい顔をして、楽しく遊べる状況へとつくり変えていくことが大切ではないでしょうか。

4歳児クラスの担任をしています。3 学期が始まっていますが、なかなかクラスがまとまりません。どうしたらクラスをまとめることができるのでしょうか?

井上:同じような質問をたくさんいただきますが、どんな場面においても、先生が舵取りをするのではなく、その都度、子どもに相談しながら取り組んできたクラス運営だと、なかなか「まとまりません」という結論にはならない気がするんですね。

まとまらないという現実があるのだとしたら、むしろ子どもたちを巻き込み、子どもたちの力を借りて、「このことについてどう思う?」「どうしたらいいかな?」と具体的に相談してみてはいかがでしょうか。大人主導で管理しようとすればするほど、子どもたちはまとまりません。子どもたちがまとまらない原因は、一体どこにありますか?

汐見:質問者さんの言われる「まとまる」というのが、どういう状態を指すのか、逆にうかがいたくなるような質問です。先生が話し始めたら、全員が静かに話を聞くとか、そういった意味合いのことであれば、そもそもボタンをかけ間違えているのではないでしょうか。

同じクラスの仲間から刺激や学びを受けて、仲間同士がつながるという意味のまとまりであれば、子どもたちの経験を共有し合うのがいいと思います。例えば、帰りの会で「〇〇ちゃん、今日は▲▲遊びしていたけど、何が面白かった? どういうふうにやったの?」と聞いて、クラス全員で共有する。すると、「そんな遊び方があるのか!」と子どもたちの遊びが発展したり、一緒に遊ぶ仲間ができたりするんですね。語り、聞き、共有し、高め合っていく。子どもたちだけでなく、先生同士にもおすすめしたいことです。

子ども主体の保育と環境

子ども主体の保育を学ぶ上で、子どもを見る目を養う研修やワークを行う際に、アプローチの仕方や参考文献など、画期的なお考えがあれば教えていただきたいと思います。

井上:目の前の子ども以上の参考書はありません。1歳児はかみつくといったまるで常識のように語られることや、ご自身の経験則など、大人のものさしで子どもを測るのではなく、目の前の子どもの育ちと願いをしっかり観察し、見抜く力を日々養っていかれるのが、子ども主体の保育への一番の近道であり、保育の面白さに開眼する唯一の方法だと思います。

汐見:子ども主体の保育とは、子どものことを面白がれる保育のことです。子どものこんな行動・言動・反応に驚いた、感動した、発見したといったことを、毎日、先生同士で振り返り、共有してください。子ども主体の保育について、観念的ではなく具体的にまとめた厚生労働省の「保育における自己評価ガイドライン」はPDFでダウンロードできます。解説本もありますから、ぜひ読んでみてください。

0 歳児の担任をしています。室内遊びがマンネリ化していますので、新しいものを取り入れてみたり、手作りおもちゃを作ってみたりと試行錯誤中なのですが、なかなか遊びを充実させてあげられずに悩んでいます。先生方がお勧めの室内遊びのアイデアがあれば、ぜひ教えていただきたいと思います。

汐見:おもちゃというよりも、空間が大事だと思います。僕たち、私たちは、ここでいつも生活するんだ。ここでいつも遊ぶんだという「安心できる居場所」を丁寧に作ってあげてください。モンテッソーリは、子どもは秩序が大好きだと繰り返し強調しています。「このスペースでは、いつもこういうふうにすればいいんだ」とわかる、秩序のあるレイアウトを工夫しましょう。危ないからといって何も置かず、ただ広いだけの空間は、子どもにとっては無秩序で、不安で、落ち着きません。

井上:私がずっと関わってきたある園では、「静と動」の室内環境を見事に実現していました。静かに遊びたい子のスペースと、飛んだり跳ねたりしたい子のスペースを分け、静のスペースには、一般的に危ないとしまわれてしまうテーブルを出し、動のスペースには低い階段やトンネルを配置。それらが子どもにとってわかりやすく「見える化」された環境がデザインされていました。子どもたちが今、何をしたがっているのか、何に困っているのかを見極めながら、「ここまでおいで」という保育者の願いを添えて、空間を見直してみてはいかがでしょうか。

「先生やって」という子どもへの対応

2歳児クラスの担任をしています。4月から生活習慣の流れに見通しが持てるよう関わってきました。それでも「先生やって」と自分でやろうとしない子どもには、どう関わり、言葉をかければいいのでしょうか?

井上:やってあげたらどうですか? 2歳児クラスで、今の時期ですと、3 歳になっている子たちがたくさんいて、ほぼ身辺自立ができていると仮定してお話しします。本当は自分でできるけれど、大好きな先生に「やって」と言ってみたら、「先生はどう思うかな?」「どうするかな?」と試しているんです。

「今日だけ特別だよ」と言葉を添えながら、全部やってあげようとすると、「全部はいい! 自分でできるもん」となることも多いでしょう。子どもは自分の成長に揺らぎながら、葛藤しながら、仕切り直しながら、本物の自立を獲得していきます。その揺らぎをしっかり受け止めていただけたらうれしいですね。

汐見:「自分でやりなさい」という反応は、その子の求めていることじゃないですよね。僕ね、保育というのは、この子が何をしたがっているのかと、この子は私に何を求めているのか。この2つを直感的に感じ取りながら、丁寧に対応していくことだと思うんです。子どもにさせたいことをさせるのは保育ではない。この子がしたいこと、求めることを保証するのが保育です。時には、先生に求めることが「今は見守っていて」かもしれない。「先生、ちょっと手伝って」と言われたなら、応えてあげればいいんですよ。

安心できる居場所づくりという室内環境へのヒントや、一直線ではない子どもの成長と、その揺らぎを受け止めることの重要性。また、先生方の対談で毎回といっていいほど出てくるキーワード「大人の都合」を優先していないかどうか。コロナ禍だからこそより大人の都合で、子どもたちの心を畳み込まないようにしたいと思いました。

【対談前編|保育の楽しさってなんだろう?】質疑応答スペシャル①はこちら!

お話を聞いた人

汐見先生

汐見稔幸(しおみ・としゆき)
大阪府生まれ。東京大学名誉教授。
東京大学大学院教授、同教育学付属中等教育学校校長を経て、白梅学園大学・同短期大学学長を2018年3月まで歴任。専門は教育人間学、保育学、育児学。
子どもの教育に幅広くかかわる教育者であり、NHK教育テレビをはじめとする子育て番組などのコメンテーターとしても人気。

井上先生

井上さく子(いのうえ・さくこ)
岩手県遠野市生まれ。保育環境アドバイザー。
元東京都目黒区立ひもんや保育園の園長職を最後に38年間の保育士生活を終える。新渡戸文化短期大学非常勤講師を経て、保育環境アドバイザーとして研修会講師、講演活動、執筆活動を通じて子どもの世界を広く人々に伝える活動にまい進。
『だいじょうぶ~さく子の保育語録集』、『赤ちゃんの微笑みに誘われて~さく子の乳児保育』と著作多数。
また「遠野あとむ」のペンネームで詩作、朗読、イラストレーターとしても活動中。

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