【対談後編|保育の楽しさってなんだろう?】“教え中心”から“応援中心”の教育へ

2022年3月1日に開催された、汐見稔幸先生と井上さく子先生の対談。後半では、前半で語られた「日本の教育・保育の変化」を前提として、リアルタイムで視聴されている先生や保護者の皆さんから質問を募りました。主体性保育の具体策、プロセス重視の教育の是非など、すぐにでも生かしたい内容が盛りだくさんです。

構成/株式会社京田クリエーション
文/宇佐見明日香 写真/筒井聖子

主体性保育だとわがままな子に育つ?

職員が「主体性保育を行うことで、自分勝手な子が育つのでは?」という懸念を抱いています。

汐見:主体性保育とは、子どもの主体性を保証する保育のことであって、決して、放任保育ではありません。自分のやりたいことをやっているときにそばで見守ってもらったり、やる気になるまで待ってもらったりすることで、子どもがわがままになったりはしませんよね。わがままになりようがないし、自分勝手にもなりようがないんです。

井上:さまざまな現場で、何度も受けてきた質問です。人としての土台を作る時期の子どもたちは、「自分って何者?」と模索する段階にあります。だからこそ、自分のやりたいことに没頭できる環境や、失敗したり間違ったりしても、「大丈夫だよ」と言ってくれる大人が側にいることが、とても大事なんです。子どもたち1人ひとりが自分を発揮し、自分の頭で考え、自分の気持ちを伝えることができるようにしてあげませんか?

汐見:3・4・5歳になったら、子どもの挑戦を見守ることに加えて、子どもたちの日常を対話でつないであげてください。朝、保育を始める前に「今日は、何をしようか?」と子どもに相談するんです。すると、「昨日はここまでやったから、今日はこの続きをやりたい」など、子どもが主体性を持ってプロセスを楽しむことができます。そうやって教育のレベルをアップしていきましょう。

夕方は、帰る前に「今日はどんな遊びをしたの? どんな気持ちだった?」と、自分たちが行ったことの意味を考える時間を与え、意見を交わす機会を作ってあげてください。子ども同士で意見を交換し合い、ほかの子からアドバイスをもらったりすると、他者の存在やそのありがたさを感じられるようになるはずです。

子どもの力を伸ばし、心を育てる関わり方

幼児の「聞く力」を養うためには、どうすればいいですか?

井上:子どもは大人をまねします。だからこそ、まずは大人が子どもの話を聞くようにしてみませんか? そのときに大事なのは、子どもを上から見下ろさず、同じ目線で対話すること。また、傾聴の姿勢で「理解しますよ」と進んで耳を傾けてみませんか? 別の言い方をするなら、子どもの気持ちを引き出し、受け止め、キャッチボールをする姿勢を持つということです。そうすれば、子どもは安心して、気持ちを言葉にできるようになります。そして、子どもが聞く側に回ったときも、同じことができるようになるでしょう。

汐見:井上先生のおっしゃるように、子どもにだけ「人の話を聞きなさい」というのは身勝手です。まずは、保育者が子どもたちの話を聞き続けましょう。おむつを替えるとき、鼻を拭くとき、窓を開けるとき、先生がトイレに立つとき、子どもたちを外に連れ出したいとき、0歳児のうちから「~してもいいですか?」と必ず聞いてください。聞くことで、同時に「決めるのはあなたですよ」と教えることができます。先生が聞くことに徹すれば、子どもたちの聞く力と話す力が同時に育ちますよ。

3歳と0歳の息子を持つ父親です。単身赴任中のため、帰宅できるのは2週間に1度。子どもとの関わりで、どんなことに気をつければいいでしょうか?

汐見:親子関係に、接する時間が長ければ長いほど良いという研究データはありません。要は「質」なんです。お父さんは、毎日でも関わりたいと思っておられるでしょうが、それができないなら会えた日に思いっきり遊べばいい。

私の父も単身赴任で、会えるのは1カ月に1度でした。でも、会ったときには一生懸命に遊んでくれた。父と山登りをしたことは、昨日のことのように鮮明に思い出せます。繰り返しますが、大切なのは量より質。子どもと接するときは、理屈抜きに楽しいことをしてください。

井上:家族4人で遊ぶことも大事ですが、どうしても下のお子さんに合わせたリズムになりがちですよね。ときには、上のお子さんとパパだけで出掛けてみるなど、変化のある関係を作ってみてはいかがでしょうか。

0・1・2歳の主体性保育

小規模保育園で働いています。0~2歳児の「主体性保育」について具体的に教えてください。

井上:0・1・2歳は、大人の都合で忙しくさせないこと。これに尽きます。何を嫌がって、何を面白がって、何に困っているのかを見抜く力を身につけて、1人ひとりに合った対応を心掛けてください。その際は「ぼーっとしている」とか「座ってばっかり」ではなく、「今はまったりしたいんだな」とか「何をするのか考えているのかもしれない」というまなざしを向けることも大事です。

汐見:乳児期の保育に対する定番の理論というのは、今のところないんです。20年ほど前、乳児保育研究会を起ち上げて、理論化を試みた事例もあるのですが、残念ながらうまくいきませんでした。

そうした活動のなかで、フランスと日本の保育を比較研究している人が、日本の保育現場の映像をフランスの保育者に見てもらったそうですが、ある場面でフランスの保育者が目を白黒させたといいます。その場面というのが、ハイハイしている子に「〇〇ちゃん、頑張ってるわね!」と保育者が大きな声で褒めちぎっているもの。フランスの保育者は「どうして日本の保育者は、子どもに自分好みの行動をさせたがるのだろう」と不思議に思ったのだそうです。答えになっていないかもしれませんが、大人の好みで、あるいは大人の都合で、子どもを動かそうとしないことは、しっかりと心掛けるべきかもしれませんね。

「モンテッソーリ教育」を取り入れている保育園の者です。上司の考え方が古く、いまだに「一斉保育」から抜け切れていません。どうすればいいでしょうか?

汐見:悩んでおられるのは、とてもまっとうなことです。モンテッソーリ教育は、イタリアで始まって、本部がオランダにあって、広まっているのはオランダやアメリカ。日本のモンテッソーリ教育は、主にアメリカ経由でもたらされたもので、形が優先になっているのですね。そこで世界モンテッソーリ協会は、形優先を問題にして、モンテッソ-リの子ども観や発達観を大事にした自主的なそれぞれのモンテッソーリ教育を広げようとしています。
上司の方にはそのことをお伝え下されば、と思います。もし、興味があれば「AMI 国際モンテッソーリ トレーニングセンター」のトレーニングに参加するなどして、あらためて考え方や実践技術を学んでみてはいかがでしょうか。

保育者が保護者に向けるまなざし

今後は「プロセスを大事にする教育」が大事とされていますが、社会に出ると結果がすべてです。そのギャップについて、どうお考えでしょうか。

汐見:プロセスを充実させる保育が、結果をないがしろにしているかというと、そうではありません。「結果にたどりつく過程の思考や探求心も大事にするべき」と言っているだけです。

従来の「その通りにやったらできた」という受験型の教育は、応用力に欠けて脆弱です。また、現代社会において、20年も30年も同じものを作り続けている企業はありません。社会のスピーディーな変化に対応するため、企業のプロジェクトのスパンはどんどん短くなっています。つまり、次々に新しいアイデアが出せたり、すぐに気持ちを切り替えて次に挑めたりするような、プロセスに強い人間が求められているというのが現実なのです。

近年は、子どもに興味を持てない保護者が増えているような気がします。まるで「保育園に預けておけばいい」とでも思っているかのよう。そうした保護者を保育に巻き込むにはどうすればいいでしょうか?

汐見:最初に1つだけ言わせてください。「子どもに興味を持てない保護者が増えている」という考え方は見直しませんか。「親がだめだ」という考えで保育にのぞんでいると、園のほうもだめになりかねません。それよりも、「保育者が保護者にもっと深く関われば、変わってくるかもしれない」という希望を持って、子育ての不安を徹底的に語り合うなどの改善方法を模索しましょう。その模索こそが、保育の質を上げることに直結するはずです。

井上:保護者にだって不安はあります。だからこそ、親御さんにも、子どもと同じまなざしを向ける機会があっていいのではないでしょうか。困り事はないか、今どうしたいのかを、ぜひ直接聞いてみませんか?

前編・後編を通して、あらためて主体性保育の重要性を噛みしめることができました。また、「保育は接触時間がすべてではない」という言葉も印象的でした。保育園に子どもを預けて働く保護者のなかには、この言葉に励まされた人も多いのではないでしょうか。

【対談前編|保育の楽しさってなんだろう?】日本の教育・保育はどう変わっていくのかはこちら!

お話を聞いた人

汐見先生

汐見稔幸(しおみ・としゆき)
大阪府生まれ。東京大学名誉教授。
東京大学大学院教授、同教育学付属中等教育学校校長を経て、白梅学園大学・同短期大学学長を2018年3月まで歴任。専門は教育人間学、保育学、育児学。
子どもの教育に幅広くかかわる教育者であり、NHK教育テレビをはじめとする子育て番組などのコメンテーターとしても人気。

井上先生

井上さく子(いのうえ・さくこ)
岩手県遠野市生まれ。保育環境アドバイザー。
元東京都目黒区立ひもんや保育園の園長職を最後に38年間の保育士生活を終える。新渡戸文化短期大学非常勤講師を経て、保育環境アドバイザーとして研修会講師、講演活動、執筆活動を通じて子どもの世界を広く人々に伝える活動にまい進。
『だいじょうぶ~さく子の保育語録集』、『赤ちゃんの微笑みに誘われて~さく子の乳児保育』と著作多数。
また「遠野あとむ」のペンネームで詩作、朗読、イラストレーターとしても活動中。

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