【対談前編|保育の楽しさってなんだろう?】子どもを確実に伸ばす「やりたい」気持ち

汐見稔幸先生と井上さく子先生の対談、今回は「コロナ禍における保育で大切にしたいユーモア」についてのお話からスタートしました。熱心な保育者ほど陥りやすい幼児教育のミスリードや脳科学的に正しいアプローチ方法も! 今回も両先生方の豊富なご経験や最新の保育現場事情、研究データに裏打ちされた貴重なお話になりました。

構成/株式会社京田クリエーション 文/宇佐見明日香
タイトル写真/筒井聖子 本文写真/ブライトンフォト(和知 明)

ユーモアが子どもの心を照らす

井上:現在、半分はリモート研修になってしまいましたが、もう半分は今も現場での研修に関わらせていただいています。多くの保育現場で、私は子どもたちから「魔女さん」と呼ばれています。名前を聞かれた時、自ら「魔女です」と名乗っているからです(笑)。

「キャー! 怖い」と逃げる子もいれば、「魔法はかけられるの?」「ほうきはどこに置いてきたの?」と矢継ぎ早に質問をしてくる子もいます。何回か会って慣れてくると「今ここで僕たちに魔法をかけて!」とお願いしてくる子もいたりして。

いつもは「ほうきを忘れちゃったから、また今度ね」と逃げ回っているのですが、たまには先生方に協力してもらって、願いをかなえてあげるんです。子どもと人差し指を合わせて念じ「お昼寝から起きたら、教室の何かが変わっています」と意味深に言って、その場を去ります。

先生方には子どもたちが寝ている間に、いつも置いてある場所から別の場所に花瓶を移動してもらうなどして、起きてから誰がどんな風に反応したか、研修の振り返りの時間に教えてもらいます。起きるのを楽しみに布団に入る子、「魔法は本当だったんだ」と驚きを隠せない子、そんな子どもたちのほのぼのとした様子を報告されるたび、もうしばらく魔女でいようと思うんです。

汐見:コロナ禍における大人の神経質な態度やネガティブな会話は、子どもの心の深い所にまでじわじわと届いて、言葉にならない不安を醸成します。

実際、過敏にマスクを強制する家庭において、その7割の子どもにネガティブな変化があったという海外の研究データもあるほどです。目に見えない敵と闘う、ピリピリした緊張が続く今こそ、さく子先生のようなユーモアで子どもに接することが大事です。

乳幼児期は「生きるって面白い!」「生きるって楽しい!」という原体験をどれだけ豊かに味わえるかにかかっている、といっても過言ではありません。叫び出したいほどうれしい気分の時に「つばが飛ぶから、大声を出しちゃダメ!」なんて言われたら、子どもはどんな気持ちになるでしょう?

ユーモアを持つのは何も難しいことではありません。保育者自身が保育を楽しめばいいんです。子どものさりげない仕草やつぶやきなど、注意していないと見過ごしてしまうようなちょっとした場面に、「あの子はなんであんなことを言ったんだろう?」「なぜあんな発想が出てくるんだろう?」と立ち止まってみる。そして、なるべく多くの先生方とその出来事を共有します。

すると、子ども自身が「どう生きたいか」という願いが感じ取れるようになり、子どもが生き生きするとする言葉が掛けられるようになる、そういう態度で接することができるようになります。今だからこそ保育者自身が保育を面白がるべきなんです。

幼児教育は「やらせる」から身につかない

汐見:子育てに熱心な保育者や保護者ほど「〇歳になったんだから××できるようにしてあげなければ」と子どもの育ちを誘導しようとします。しかし、脳は内側から脳幹(生命脳)・大脳辺縁系(感情脳)・大脳新皮質(理性脳)という三層構造になっていて、この3つの分野の回路がつながって初めてスキルや知識がきちんと身につくんです。

つまり「やりたい」という強い欲望に突き動かされてやったことは、ワクワク・ドキドキしながら試行錯誤できるし、その結果しっかりと身につく。逆に「やりなさい」と言われて、やりたくないのにやったことは身につかないというわけです。

井上:大人の願いよりも子どもの願いを優先させることが、子どもの育ちにとっても有効だということですよね。子どもの願いを知ろうともせず、大人の願いで無理に引き上げたり、集団で動かそうとしたりしていないか、常に自らに問いかけて、都度、軌道修正して欲しいと切に願います。

汐見:「ありのままの自分でいいんだ」という感覚を自己肯定感といいますが、子どものありのままは、夢中になって遊んでいる時や、思いっきり泣いている時でもあります。そんな時に、「それでいいんだよ」と受け止め、思い切り遊ばせてくれる、思い切り泣かせてくれる大人がいなければ、自己肯定感は育ちません。

また、子どもは自らがコレと決めた、ひとつのことにハマって没頭する時期があります。モンテッソーリでいう敏感期、脳科学でいう臨界期がそれです。その時期に脳の動きが活発になって、様々な回路がつながっていくということがわかっています。大人がすべきは、子どもが「今、やりたいこと」に没頭できる環境を作ることのみです。

モンテッソーリはもうひとつ、子どもはカオス(無秩序)からコスモス(秩序)を作るのが好きだと発見しました。初めてつみきを与えられた子が、教えてもいないのに同じ形を選んで高く積み重ねてみたり、一直線に並べてみたりする。

何もない無秩序な状態から自らルールを見つけ、そのルールに従って秩序立てていく本能があるというんです。

最初はみんな「片づけられる子」

汐見:子どもは「片づけなさい」と言われないと片づけられないと思い込んでいませんか? 答えはNOです。ある園では、時間で急き立てず、ゆったりとしたスケジュールと雰囲気づくりをした結果、子どもたち自身で、次の行動の見通しを立てるようになり、次の行動のために必要と感じたら自ら片づけたり、準備をしたりするようになったそうです。

もともとのスケジュールに余裕を作れば、見通しを立てやすくすれば、子どもたちは自ら動ける。保育者のルールに子どもを追い込んでいくのは、元から備わっている本能を無視して、片づけられない子どもをつくるばかりか、子どもはもちろん保育者も楽しいと思えませんよね。

井上:「0・1・2歳の子どもたちは全く片づけない、やりっぱなし、散らかしっぱなし、いたずらしっぱなし。どうしたらいいですか?」と質問を受けることが多いんですね。

汐見先生がおっしゃってくださいましたように、子どもたちは必要とあれば自ら片づけられる本能がある。ただ、0・1・2歳はまだ、その時期ではありません。大人がものをどう扱ったらいいのか、どう片づけたら気持ちいいのかを率先して見せてあげる時期です。

床にブロックが散らばっていて、それを踏んだ子がイラっとしてお友だちに当たったり、おもちゃ箱の中にお人形が無残な姿で突っ込まれていたり。「教室の状態は、先生の心の状態ですよ」と言うとドキッとされる方が多いんですよ。

子どもたちがその遊びに没頭できる場所に、道具やおもちゃがつい手に取りたくなるような姿で並べられている、片づけられているのが理想です。

汐見:以前、訪れた園でのこと。何もモノが置かれていない2歳児クラスの教室に、先生が大きな袋を持って現れ、その袋に入った大量のプラスチックレゴを教室の真ん中でばら撒いてこう言ったんです。「さぁ、遊びなさい」と。

先生自身がおもちゃを大切に扱う様子もなければ、その一つひとつのおもちゃにまったく価値を感じていないようでした。そういった大人の態度を見て育った子どもは、片づけはおろか、ものを大切に扱うこともできません。

井上:私が非常にショックを受けたのは、普段、食事やおやつ、机上遊びで使用しているテーブルを滑り台として併用している現場でした。園は家庭の延長線上にあります。その先生に「家でもお子さんに同じことをさせますか?」と聞いたら「させません」と答えました。

汐見:日本の保育の中には、多少乱暴でも「活発に遊ぶ子が良く育つ」という思い込みがあるのかもしれませんね。なんでもかんでも楽しく遊べばそれでいい、というような……。

井上:活発な子が教室を走り回っていたとして、みなさんならどうしますか? 「走るのをやめなさい」と子どもの気持ちを畳み込みますか? 追いかけて捕まえますか? 「園庭で走ってきなさい」と言いますか?

私なら「今、走りたいんですか?」と聞きます。「ここは走っていい場所ですか?」「じゃ、どこだったら走っても大丈夫ですか?」と。聞かれた子どもが、ハッとして立ち止まり振り返って、自分で答えが出せるようになってほしいからです。

汐見:対談の後半では「子どもの主体性を尊重する保育=子どもに聞く保育」について、参加者の方々の質問を交えながら掘り下げていきましょう。

子どもの主体性を育てたいと言いながら、大人が「やらせたいこと」を押し付け、子どもが「やりたいこと」を取り上げていたかもしれない……。保育者も保護者もハッとさせられるお話の連続でした。後半は「異年齢保育」や「問題行動」など、参加者の方々のリアルなお悩みに汐見先生と井上先生が答えます。お楽しみに!

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お話を聞いた人

汐見先生

汐見稔幸(しおみ・としゆき)
大阪府生まれ。東京大学名誉教授。
東京大学大学院教授、同教育学付属中等教育学校校長を経て、白梅学園大学・同短期大学学長を2018年3月まで歴任。専門は教育人間学、保育学、育児学。
子どもの教育に幅広くかかわる教育者であり、NHK教育テレビをはじめとする子育て番組などのコメンテーターとしても人気。

井上先生

井上さく子(いのうえ・さくこ)
岩手県遠野市生まれ。保育環境アドバイザー。
元東京都目黒区立ひもんや保育園の園長職を最後に38年間の保育士生活を終える。新渡戸文化短期大学非常勤講師を経て、保育環境アドバイザーとして研修会講師、講演活動、執筆活動を通じて子どもの世界を広く人々に伝える活動にまい進。
『だいじょうぶ~さく子の保育語録集』、『赤ちゃんの微笑みに誘われて~さく子の乳児保育』と著作多数。
また「遠野あとむ」のペンネームで詩作、朗読、イラストレーターとしても活動中。

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