【対談後編|保育の楽しさってなんだろう?】困ったり焦ったりしたら、まず子どもに聞くこと

汐見稔幸先生と井上さく子先生の対談、後半は保育者・保護者の方々のお悩みに答えます。今、保育の現場でもっとも重要視されている「子どもの主体性の尊重」とは、具体的にどういった言葉や態度で子どもたちと接することなのか。まるでその現場に自分もいるような臨場感のあるお話の数々と、やさしくも厳しい回答が刺さります。

構成/株式会社京田クリエーション 文/宇佐見明日香
タイトル写真/筒井聖子 本文写真/ブライトンフォト(和知 明)

大人のマスクの子どもへの影響

参加者:0・1・2歳の異年齢保育で大事にすべきことはなんですか? 怪我をすると危ないからと制限ばかりになってしまっている現状があります。

井上:話の腰を折って申し訳ないのですが、私は0・1・2歳の異年齢保育そのものに疑問を感じます。0歳には0歳なりの、1歳には1歳なりの、2歳には2歳なりの、年齢に応じた発達を存分に発揮できる環境や、その発達を受け止め、次のステージに進めるよう促してもらえる環境が必要だと考えるからです。

ですから、年齢別保育をベースにして、お隣のクラス(異なる年齢のクラス)が気になるようになったら個別に行き来するなど、子どもの興味・関心に合わせた自然な関わり合い方でもいいような気がします。汐見先生はいかがでしょう。

汐見:0・1・2歳だけの異年齢クラスを作ることは僕も無理があると思いますが、僕は異年齢保育という考え方には賛成です。その方が人間社会の自然なありかたに近くて、ひとことで言って自然だからです。実際、シュタイナーやモンテッソーリを筆頭に、異年齢保育や異年齢交流は少しずつ増えています。それともし、異年齢保育をやるなら、できたら0~5歳までの縦割りにすると面白い。

自分が一番という時期の0・1・2歳に、小さな子のお世話をしたいという自然な感情が育ってくる3・4・5歳を交えた縦割りにすることで、大きい子が小さい子のフォローにまわり、余計な対立や危険も回避できますし人間関係力の育ちもちがってきます。

参加者:コロナ禍で保育者がマスクをしていることによる0・1・2歳児への影響はありますか?

汐見:「学ぶ」の語源は「真似る」です。脳の中で模倣を専門にしている神経細胞・ミラーニューロンによって、私たち人間は理屈を超えて模倣しながら学びます。

ご懸念通り、保育者の口元がマスクで常に隠れていたのでは、口の動きを真似ることもできませんし、実際、マスク生活下では言葉の発達が遅れるというデータもあります。

また、相手の表情から感情を学ぶ幼児期に、表情の大部分を隠してしまうマスクがいい影響を与えるはずもありません。私が責任編集を務めている保育誌『エデュカーレ』の103号(2021年5月号)でも、”大人のマスクが子どもにどんな影響を与えるか”について取り上げました。京都大学大学院教育学研究科教授・明和政子さんが詳しく語ってくれていますので、もしよければご覧ください。

私としては、子どもに保育者の口の動きや表情が伝えられるよう、フェイスシールドとマウスシールドを二重にするなどの対応で、早急にマスクから切り替えるべきだと思います。

問題行動こそ自主性を育てるチャンス

参加者:2歳の園児が、砂場にある大きなスコップを両手に持ち、振り回すのを止めません。モデリングしながら一緒に遊んだりもしてみましたが、そばを離れるとまた振り回して…。周りの子にケガをさせるといけないので、スコップを隠してしまったこともあったのですが、その件では、逆に私が上司から注意を受けました。一体、どうすればいいでしょうか?

井上:私だったら「(そのスコップを)振り回したいの?」とまず子どもに聞きます。その子にとって、スコップは従来の使い方をするよりも振り回すほうがよっぽど楽しい道具なのでしょうね。その気持ちを一旦、まるごと受け止めます。

その上で「ほかのもの(振り回しても安全なもの)を振り回してみるのはどう?」と相談します。「嫌だ」と言うかもしれません。それでも、無理に制止したり、スコップを隠したりするのではなく、代わりになるものを一緒に探しながら「お友だちみんなと安全に遊んで欲しい」というこちらの願いを相談し続けるんです。

汐見:さく子先生のおっしゃる通り、困った時や焦る時ほど、まずは子どもの気持ちを聞くことですよね。子どもの主体性を育てる保育の基本原則に立ち返るんです。子どもの方でも「意見を聞かれる=配慮されている」とわかり、わがままばかりではまずいと気づいて相談に乗ってくれます。

個人差がありますから、今のような状態が3、4歳まで続くこともあるかもしれません。でも、年齢が上がってきたら、子ども同士で議論してもらうこともできますよね。お友だちの意見は、大人の意見とは違う響き方をするはずです。

参加者:14名の1歳児がひとつの部屋で過ごさなければいけない状況です。いい空間の使い方、保育のアドバイスをいただきたいです。

井上:それは……大変ですね。まずは3、4人ずつの4グループに分けて、時間差行動や別行動を取りましょう。14人を一斉に行動させようとすると大きなストレスがかかります。その負担は1歳児の噛みつき、ひっかき、押し合いを容易に誘発します。少人数だと次の行動の見通しが立てやすく、落ち着いて生活できるようになります。

子どもたちが作る理想的な空間

参加者:読書・パズル・アートなどの「コーナー遊び」作りには、どのような工夫が必要ですか?

井上:コーナー作りの具体的な方法論を語るよりも先に、子どもが本当に望んでいるかについては話し合われましたか? 0・1・2歳なら子どもの遊びを観察し、3・4・5歳なら子どもと相談しながら、子どもの願いと大人の願いをすり合わせて、本物の環境構成を目指してください。

汐見子どもに聞くことなしに作られたコーナーは、子どもの居場所を狭くしてしまうことが多いんです。コーナー作りは、子どもと相談しながら、必要に応じてどんどん変化させていくのが基本です。

ある小学校の1年生の話なのですが、「”ここが自分たちの居場所だ”と思えるように、生徒同士で話し合って、教室を自由にレイアウトしていい」と言ったら、ロッカーを移動して教室の真ん中に仕切り&目隠しにして、教室の後方に先生から見えない空間を作ったそうです。そこには畳を敷いて、こたつを置いて、自習する時は、こたつに入ったり、寝転がったりしながらプリントをやる。

子どもながら、いつも先生に見られているというのはそれだけで疲れるんですね。また、いつもピシッと姿勢を正していなきゃいけないのも嫌なわけです。だから、教室内にオンとオフを切り替えられる空間を作った。担任の先生は、子どもたちに任せると気づきが多く、勉強になるとおっしゃっていました。

遅れている学校教育に感じる不安

参加者:2歳になる我が子は、好き嫌いが激しく、好きなものしか食べません。保育園でお友だちが食べても興味を示さないそうです。どうすればいいでしょうか?

井上:実は……私がそういう子どもでした。その上、この年になっても食べられない野菜がたくさんあります(笑)。

2歳はこだわりが強い時期で、食べ物だけでなく様々な事にこだわり、そうやってこだわり続けた先に、次の成長を迎えます。だから、今は嫌いなものを食卓に上げながらも無理強いせず、ちょっとでも食べた時に見逃さず「ちゃんと食べたね」「おいしいよね」と言葉を添えて共感してあげてください。いつか食べられますようにという願いを持ち続け、優しく見守ってあげてください。

汐見:昔と違って今は、様々な食材が一年中手に入りますから、食材の種類も量も少なかった昔のように「何でも食べなきゃ」という時代ではないような気がします。また、最近は栄養バランスよりも腸内環境の方が大事ともいわれていますよね。

何でも食べられるに越したことはありませんが、色の好みがあるように、食にも好みがあると割り切ってもいいのではないでしょうか。

参加者:最近の保育現場では「子どもの主体性の尊重」が強調されており、私自身も強く同意しているのですが、日本の学校教育では、いまだに一斉に行動するといった、昔ながらの教育方法を行っているように感じます。保育園と小学校の教育方針のギャップに不安を感じます。

汐見:小学校では去年4月から、今年は中学、来年は高校で学習指導要領が変わります。変更の一番重要なポイントは、今、保育園や幼稚園が先陣を切って行っている「子どもの主体性を尊重する教育」です。多少時間はかかるかもしれませんが、世界に追いつけと今必死の変革を行っているのは事実です。

私たちはよい方向にかじを切った学校教育を世論として支えながら、子どもたちの未来を見据え、保育現場で引き続き奮闘していきましょう。

汐見先生の『子どもの方でも「意見を聞かれる=配慮されている」とわかり、わがままばかりではまずいと気づいて相談に乗ってくれる』という話は、そのまま大人の人間関係にも通じるような、当たり前でいて、ついないがしろにしてしまっていることに気付かされました。

【対談前編/保育の楽しさってなんだろう?】子どもを確実に伸ばす「やりたい」気持ちはこちら!

次回(第6回)の対談は、
2021年10月8日(金)18時30分~20時30分での開催を予定しています。
ふるってご参加ください!

汐見稔幸先生×井上さく子先生 対談型WEBセミナー
「保育の楽しさってなんだろう?」
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お話を聞いた人

汐見先生

汐見稔幸(しおみ・としゆき)
大阪府生まれ。東京大学名誉教授。
東京大学大学院教授、同教育学付属中等教育学校校長を経て、白梅学園大学・同短期大学学長を2018年3月まで歴任。専門は教育人間学、保育学、育児学。
子どもの教育に幅広くかかわる教育者であり、NHK教育テレビをはじめとする子育て番組などのコメンテーターとしても人気。

井上先生

井上さく子(いのうえ・さくこ)
岩手県遠野市生まれ。保育環境アドバイザー。
元東京都目黒区立ひもんや保育園の園長職を最後に38年間の保育士生活を終える。新渡戸文化短期大学非常勤講師を経て、保育環境アドバイザーとして研修会講師、講演活動、執筆活動を通じて子どもの世界を広く人々に伝える活動にまい進。
『だいじょうぶ~さく子の保育語録集』、『赤ちゃんの微笑みに誘われて~さく子の乳児保育』と著作多数。
また「遠野あとむ」のペンネームで詩作、朗読、イラストレーターとしても活動中。

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