【対談後編|保育の楽しさってなんだろう?】コロナ禍における逆境を上手に生かして

2021年10月8日に開催された、汐見稔幸先生と井上さく子先生の対談。後編は視聴者である現場の先生や園長先生からの質問におふたりが答えます。その話題は「安心・安全の定義」「騒音問題」「自主性を育む行事」「園長の仕事」「1・2歳児への接し方」など、実にリアルで切実なものばかり。おふたりの回答にも熱が入りました。

構成/株式会社京田クリエーション 文/宇佐見明日香
タイトル写真/筒井聖子

誰のための安心・安全か

参加者:安心・安全を確保しながら、子どもたちにイキイキとしてもらう保育へのアドバイスをください。

汐見:子どもは10の力を持っているとしたら、12のことに挑戦しながら成長していきます。今ある能力よりもちょっと上のことに挑戦することで、そこに潜むハザード(危険性)を知り、それを避けながらリスク管理を覚え、生きていく力を身に付けるんです。

ある園には、自由に何を作ってもいい部屋があります。部屋にはペットボトルや木、石、貝などさまざまな材料と、ナイフやはさみ、ホッチキス、のこぎりなどの道具が置いてあります。先生方は最初に道具の使い方だけ教えて、使ったものは元に戻すというルールを伝えたら、あとは子どもたちに任せているそうです。

切れる包丁の方がケガをしないといいますよね? よく切れると知っているから、指を切らないよう慎重になるんです。この園での取り組みで子どもたちにケガがないのは、本物の道具を使うことで慎重になり、その一切を任されているという状況にいい意味で緊張しているからです。 大人が安心・安全の意味を取り違えて、子どもたちに切れない包丁を与えてしまうと、かえってケガをさせてしまいます。園で掲げる安心・安全が、子どもの挑戦や成長を阻むものになっていないか議論されてみるといいと思います。

参加者:室内での自由遊びの際に、追いかけっこや鬼ごっこをする園児がいます。ぶつかってケガをさせたくないのですが……。

井上:自由に遊んでいいと言っているのに、規制するのはよくありませんよね。だから、「やめて」ではなく「どうしたらみんなが安心して遊べるかな?」と子どもに聞いてみませんか。追いかけっこをやめて他の遊びをするのも、外に移動して追いかけっこを続けるのも、子どもが自ら選択できるように聞いてあげてください。

汐見:そもそもの話、家(の室内)で暴れるのはダメで、保育園や幼稚園の教室だったら暴れていいというのがおかしな話。室内はもの作りをしたり食事をしたりする空間で、思いっきり体を動かすのは外という原則を作ってみてもいいと思います。

世界で一番騒音レベルの高い日本の保育現場

参加者:子どもへの声の大きさはどのくらいが適切でしょうか? 常に大声で子どもに接する職員に対し、どう注意すればいいか悩んでいます。

井上:その場、その場に必要な声量と声のトーンがありますよね。子どもは大人をモデルに学ぶわけですから、まずは大人自身が、必要な場面で必要な声を出しましょうと注意されてみてはいかがですか? 大人が手本を見せれば、子どもは大声を出さなくても先生や友だち、パパやママに声が届くんだと学習し、コントロールできるようになります。同時に私たち大人は子どもの前で、肯定的な言葉を意識化することも心掛けましょう。

汐見日本の保育現場は、世界で一番騒音レベルが高いといわれています。騒音の原因は先生や子どもたちの発する声。音響学の専門家を招いて調査したところ、夕方で90デシベルを超える騒音がありました。その騒音レベルは東京の地下鉄に電車が入ってきた時と同じ。普通の話し声ではまったく聞こえません。

子どもが大きな声を出すと、先生はもっと大きな声を出す。すると、子どもはもっともっと大きな声を出すという悪循環。人は何かに集中している時は静かなものです。子どもたちがうるさいということは、本当の意味で熱中したり、没頭できていないという証拠かもしれませんね。

それともうひとつ。園が大声で溢れる背景に、大声を出すような元気で活発な子がいい子だという錯覚があるような気がします。子どもの大声を問題にしないことが、そもそもの問題なんです。さく子先生もおっしゃったように、悪循環を断ち切るためにも、まずは先生から「みんなちょっと聞いてくれる?」と小さな声で呼びかけてみてください。子どもは何事かと注目して聞きますよ。

参加者:運動会やお遊戯会の園行事で、子どもたちの自主性を育むにはどうすればいいですか?

井上:行事の狙いや目的はなんですか? 行事ありきで、行事を真ん中に据えるのではなく、子どもたちの育ちを真ん中に据え、今ある力がより豊かに育まれ、親御さんたちに共有・共感してもらえる行事にしたいですね。子どもたちの意見を聞いている風ではなく、そもそも行事自体をやりたいか・やりたくないかも含め、子どもたち自身が選択できるようになるのが理想です。

汐見:そもそも運動会やお遊戯会をなぜやるのかが、多くの現場で議論されていないように思います。明治時代に始まった行事を、未だに一生懸命やっているというのは、ある意味、異常なことかもしれません。世界でも珍しいことのようで、日本の運動会やお遊戯会を知った海外の人は「社会に出てから何の役に立つの?」と不思議がるそう。といいつつ、僕自身は、みんなで盛り上がれる行事が好きなんですけどね。でも、ちょっと見方を変えてみると「やること前提」を疑ってみてもよさそうです。

コロナ禍で、運動会の演目を減らさざるを得なくなり、「どれを残して、どれをやる?」と子どもたちに聞いた園がありました。すると、子どもたちから「これはママたちが喜ばないと思う」など意見が飛び交い、子どもたち自身がやりたいと言ったものだけを残した。すると、練習しましょうと言う前に、子どもたちが自ら練習し始めたそうです。親御さんたちも子どもたちが自ら考え、取り組んだものだから興味を持って見られる。コロナ禍における逆境を上手に生かしているなと思いました。

人的環境を高める園長の仕事

参加者:園長になって立場が変わり、保育の見方が多様になりました。先生方に対しては「いいじゃん! それやってみよう!」と言う役割だと認識しています。人的環境を高めるため、園長ができることはなんでしょうか?

井上:今までと現場の風景が違って見えますよね。全体像が見える。また、対外的な役割を果たすことも増えると思います。それでもなお目の前の子どもの育ちから学ぶ視点をぶれずに据えていきませんか?

子どもたちも、先生方も、一人ひとりが違う。違っていいとか悪いとかではなく、まずそれぞれが違うということを認めること。その上で、一人ひとりの力を信じて任せることです。一人ひとりに得手不得手があり、完璧な人間などいません。園長先生が先生方に対してやるべきは、子どもたちのことを語り合える場を作ることです。対話できる環境を作ることが、人的環境を高めることになります。

汐見:質問者さんはいい園長先生になりそうですね。今の幼稚園・保育園・子ども園はいろんなものがシステム化されていて、運営している人の姿勢で様変わりします。それぞれの教室で勝手にやっていた時代ではなく、現在は園長先生の役割がとても大きい。

園長先生は、先生たちに「あなたは来年どんなことに挑んでみたい?」と聞いて、それを面白がってあげる。そして、「時間をあげるから、参考になりそうな場所に行って見てきてごらん」と上手に保証してあげる。そして、さく子先生のおっしゃるように、先生方全員で子どもたちの面白いエピソードを語り合える場を設けてあげることです。

乳児クラスの先生と幼児クラスの先生が、お互いにやっていることを知らないのは一番まずい。子どもたちのことを語らう中で、先生方が挑んでいることまで語り合えるような雰囲気を作っていくことが、人的環境を高める大きな一歩ではないでしょうか。また、その話し合いの場で、先生たち自らが、古いやり方に気づき、新しいやり方を模索していけたらいいですね。頑張ってください。

落ち着かない1歳児には見通しを持たせること

参加者:おむつ替えや靴下替えを待っている1歳児に、落ち着いて待っていてもらうためにはどうしたらいいですか?

井上:1歳児を集団で動かさない事を大原則に(理想は3人くらいずつの小集団)、「靴下をはいたらお外に行こうね」など、声掛けというよりも、一つひとつの行動には意味があるということを伝えましょう。ごく短くわかりやすいセンテンスで、これが終わったら、次に何をするという見通しを持たせるのです。それでも1歳児は落ち着きませんが(笑)。そういう時期なんです。

汐見:さく子先生のおっしゃるように、1・2歳児は、見通しを持って行動を学ぶ時期です。0歳からでも大いに構いません、先生が窓を開ける行為ひとつとっても「暑いから窓あけていい?」と必ず子どもに聞きましょう。そして、「窓を開けたから涼しいね」と因果関係を教えてあげて欲しい。

他クラスを訪れる時は、「〇〇クラスの先生ですけど、入っていいですか?」と許可を取ってもらいたいし、目の前の子どもの反応を察して「〇〇ちゃんがこうしてくれたから嬉しいんだよね」と言葉にして共感してください。自分自身と子どもたちの一挙手一投足を丁寧に言葉にして説明して欲しいんです。

すると、驚くことが起こりますよ。「〇〇だから〇〇なんだよね」と子どもたちから言い出すようになるんです。物事の因果関係がわかると、思考力と行動力がつく。そのためにも先生方が丁寧に言葉にしていくことが大切です。

古い文化や習慣といった“当たり前”を、子どもたちの意見を取り入れながら見直していく。そんな取り組みに対して「新型コロナによる逆境を上手に生かしている」と話す汐見先生。子どもたちの言動や行動、成長のすべてを面白がる保育が、ピンチをチャンスに変えるのかもしれません。

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お話を聞いた人

汐見先生

汐見稔幸(しおみ・としゆき)
大阪府生まれ。東京大学名誉教授。
東京大学大学院教授、同教育学付属中等教育学校校長を経て、白梅学園大学・同短期大学学長を2018年3月まで歴任。専門は教育人間学、保育学、育児学。
子どもの教育に幅広くかかわる教育者であり、NHK教育テレビをはじめとする子育て番組などのコメンテーターとしても人気。

井上先生

井上さく子(いのうえ・さくこ)
岩手県遠野市生まれ。保育環境アドバイザー。
元東京都目黒区立ひもんや保育園の園長職を最後に38年間の保育士生活を終える。新渡戸文化短期大学非常勤講師を経て、保育環境アドバイザーとして研修会講師、講演活動、執筆活動を通じて子どもの世界を広く人々に伝える活動にまい進。
『だいじょうぶ~さく子の保育語録集』、『赤ちゃんの微笑みに誘われて~さく子の乳児保育』と著作多数。
また「遠野あとむ」のペンネームで詩作、朗読、イラストレーターとしても活動中。

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