あなたは保護者支援の「プロ」になれていますか? 保育者が知っておきたい「10の原則」|玉川大学教育学部教授・大豆生田啓友

あなたは保護者支援の「プロ」になれていますか? 保育者が知っておきたい「10の原則」|玉川大学教育学部教授・大豆生田啓友

保育所や幼稚園、認定こども園等に勤める保育者は、子どもの保育のみならず、保護者支援の「プロフェッショナル」という存在です。自身も幼稚園教諭の経験がある玉川大学教育学部の大豆生田啓友先生は、保育者がプロとして知っておきたいこととして、「10の原則」を掲げます。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム)
取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

保育者と保護者の間には大きなミスマッチがある

わたしは、過去に『保護者支援の新ルール 10の原則』(メイト)という本を出版しています。なぜこの本を書いたかというと、「保育者の側には、保護者側のことが見えにくいことも多いのではないか」という思いがあったからです。

幼稚園教諭をしていたときのわたしは、事あるごとに「どうしてこんなにわからずやの親が多いんだ!」と思っていたものです(苦笑)。しかし、わたし自身が親になると、今度は「保育者さんたちは、親の気持ちがわかっていないな」と思う機会が少なくありませんでした。

そのため、「保育者と保護者の間には、大きなミスマッチがあるのではないか」「子どもたちのためにも両者の間にある溝を埋めたい」と考えるようになり、結果としてまとめたのが、保護者とかかわるうえで保育者がプロとして知っておきたい「10の原則」なのです。 では、「10の原則」をそれぞれ解説していきましょう。

【保護者支援のための「10の原則」】
1.自己決定の支援
2.保護者理解
3.守秘義務
4.信頼関係の構築
5.子ども理解
6.受容と共感
7.情報発信
8.つながりサポート
9.同僚性
10.関係機関との連携

◆1.自己決定の支援

1つめは「自己決定の支援」。大切なことは、保育者が親を「変える」と思わないことです。親自身が自らよりよくなることを支援することが保育者の仕事です。たとえ、子どもにイライラしてかかわっている親がいたとしても、こちらが親を強引に変えようとかかわることはむしろ逆効果です。

人は、自分のことをきちんとわかってもらえたり受け止めてもらえたりすると、自分から変わっていきます。「親を変える」のではなく、親を理解し、「親が自分で決めて自分から変わる」ことを支援する。それこそが保育者の役割でしょう。

子どもの側に立って理解すれば、親との関係もいい方向に変わる

◆2.保護者理解

保育者は、「自分が思うほど親のことをわかっていない」と認識することが大切です。なかには、ひんぱんにクレームをつけてくるなど、なんらかの問題行動を取るような親もいます。しかし、園に対してそういった「負のかかわり」をする親には、そうならざるを得ない理由があるもの。そこをきちんと理解しない限り、相手は心を開きませんし、結果的になにも変わりません。だからこそ、親の側に立って相手を理解しようとする意識を持ってほしいと思います。

◆3.守秘義務

これについては、わざわざ解説するまでもないでしょう。保育者というのは、多くの家庭の個人情報に触れる仕事。それらを外部に漏らさないような配慮や意識は必要不可欠です。

◆4.信頼関係の構築

2つめの保護者理解にも通じる話ですが、信頼関係をつくるところからしか保護者は変わっていきません。大切なのは、親の立場になって相手を理解し、信頼関係を築くこと。そうすれば、相手も「この先生には話を聞いてほしい」と思うはずです。子育てに関して悩みが一切ないという親などいません。目の前の「困った保護者だなあ」と思っている方に信頼してもらえるかが、保護者とよりよい関係を築くことにつながります。

◆5.子ども理解

親の立場から見て「この先生はプロだな」と感じるのは、子どもの側に立っている保育者に出会ったときです。たとえば、お友だちに対してひんぱんにかみつきや引っかきをしている子どもがいたとしましょう。子どもへの理解が足りない保育者の場合だと、そういう行動をネガティブにとらえ、「いったいおうちではどんなしつけをしているんですか?」と親を責めるような言動をしがちです。でも、それでは親と信頼関係を築けるはずがありませんよね。

逆に、子どもの側に立つことができる保育者なら、「○○ちゃん、お友だちにかみつくこともあるのですが、もしかしたらこんな不安を抱えているのかもしれません」というふうに、親と一緒になって子どものことを考えられるでしょう。それが、結果的に親との信頼関係につながっていくのです。

相手の気持ちに寄り添い、相手の側に立って相手と接する

◆6.受容と共感

10の原則の六つめは、「受容と共感」です。これについては、これまでお伝えしてきたことのまとめといっていいかもしれません。保育者などの対人援助職に従事する場合、もっとも大事なポイントは、「相手の気持ちに寄り添い、相手の側に立って相手と接する」ことです。それにはとてもエネルギーが必要ですが、問題行動をする子どもにも、イライラしている親にも、「受容と共感」をもって接しないと、問題の解決の糸口を見つけることはできません。

◆7.情報発信

保護者とよりよい関係を築くには、情報発信を通じたコミュニケーションが欠かせません。そのためのツールとして、わたしは「保育ドキュメンテーション」を推奨しています。保育ドキュメンテーションというのは、簡単にいうと写真つきで「子どもたちの学びのプロセスの記録」のこと。日本でも急速に広まりつつありますし、メリットもとても多いので、勤め先の園がまだ導入されていないようであれば、導入の検討をおすすめします。

◆8.つながりサポート

核家族化が進んでいることなどもあって、いまは多くの親が孤立しています。そのため、園という場所を通じて、親同士が自然とつながれるような機会を提供していくことも大切です。その際は、「義務」として参加するPTAのようなものよりも、親たちの特技が生かせたり、やりたいことができたりするような交流の場をつくって、「自発的」に参画してもらうようにしましょう。

◆9.同僚性

親だけでなく、保育者も孤立することがあるでしょう。たとえば、問題を抱える親についての悩みをひとりで抱えてしまうようなケースはありがちです。ですから、同僚同士で密にコミュニケーションをとり、自分の担任クラスの子どもや親はもちろん、それ以外の子どもや親に対する理解や声かけを意識し、園全体で問題解決に臨むことが大切です。

◆10.関係機関との連携

保育者の身のまわりで起こり得る問題には、子どもの発達についての親の悩みや、親たちのなんらかの不適切なかかわりなど、保育者や園の力だけで解決するのが難しいものもあります。そうした問題が起きた場合にスムーズに解決へと向かえるよう、自治体の保健センターや療育機関など、関係機関との関係性を日頃から深めておくことも必要です。

「困った親」が抱える困りごとに目を向ける

ここまで、保育者がプロとして知っておきたい保護者支援の10の原則をそれぞれ解説してきました。このなかで、わたしがもっとも大切だと考えているのは、二つめの「保護者理解」です。

親も子も、それぞれに問題行動をしがちな親子がいる場合、「親がああだから」と思ってしまうことはありませんか? わたしも幼稚園教諭をしていましたから、その気持ちはよくわかります。でも、子どもの問題行動を親のせいにしたところで、なんの解決にもなりません。保育者が「困った親だな」と感じるケースでは、親自身に必ず困りごとがあるもの。親が変わるためには、その困りごとにしっかり目を向ける必要があります。

仕事と子育ての両立に苦しんでいる、あるいは経済的なこと、夫婦関係、子どもの発達やしつけのことなどで苦しんでいる……。そんなふうに、親たちが大きなストレスを抱えやすいのがいまの子育て環境です。そのため、そういう親が子どもにいらだちをぶつけたり、あるいは園にクレームをつけたりすることもあります。

そういう姿をみると、どうしてもネガティブにとらえがちですが、プロとして「子どもの最善の利益」を考えるのなら、問題の根っこにある親たちの困りごとを解決するのが最優先事項。そのことを強く意識すれば、親にかける言葉も自然と温かいものになっていき、親たちもきっと心を開いてくれるはずです。

また、そうやってよりよい関係を築くことで、子どもたちの健全な成長にもつながることでしょう。

玉川大学教育学部教授
1965年生まれ、栃木県出身。専門は乳幼児教育学・子育て支援。青山学院大学大学院教育学専攻修了後、青山学院幼稚園教諭などを経て現職。他に日本保育学会理事、こども環境学会理事も務める。『非認知能力を育てる「しつけない」しつけのレシピ』(講談社)、『園行事を「子ども主体」に変える!』(チャイルド本社)、『日本版保育ドキュメンテーションのすすめ』(小学館)、『非認知能力を育てる あそびのレシピ』(講談社)、「あそびから学びが生まれる動的環境デザイン」(学研プラス)、『保護者支援の新ルール 10の原則』(メイト)など著書多数。