保育現場でできる、「非認知能力を育てる遊びレシピ」6選|玉川大学教育学部教授・大豆生田啓友

保育現場でできる、「非認知能力を育てる遊びレシピ」6選|玉川大学教育学部教授・大豆生田啓友

現場で働く保育者であれば、近年注目を集めている「非認知能力」という言葉を見聞きしたことがあるかと思います。非認知能力は、「社会情動的スキル」ともいわれ、子どもがよりよい人生を歩んでいくためにとても重要な力。教育や子育ての場での注目度は、今後さらに増していくといわれています。そこで、自身も幼稚園教諭の経験がある玉川大学教育学部の大豆生田啓友先生に、非認知能力に対する考え方や保育現場に取り入れやすい「非認知能力を育てる遊び」について教えてもらいました。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム)
取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

子どもが未来に向かうために重要な3つの非認知能力

「非認知能力」とは「社会情動的スキル」ともいわれ、心や社会性などの目に見えにくい育ちの側面です。それと対比されるのが「認知能力」といわれ、目に見えやすい文字の読み書きなどの育ちの側面を指すのですが、この両者は厳密にわけられるものではありません。そして両者は関連しながら育つものです。ただし大切なことは、つい目に見えやすい文字の読み書きなどの認知的な側面を重視しがちですが、非認知的な側面の育ちが重要な基盤となるということです。

非認知能力に位置づけられるのは、社会性や情動性、意志力、自己肯定感、なにかをやり抜く力、コミュニケーション能力、他者に対する思いやり、自分をコントロールする自己制御など。主に心や社会性にまつわる力であり、子どもが人生を豊かにするうえで、とても大切ものだといえます。 非認知能力について、さまざまな整理の仕方はありますが、ここでは大阪府の教育委員会が「未来に向かう力」として取り上げている以下の視点を使って説明したいと思います。

【重要な非認知能力】
1.自分の気持ちをコントロールする力
2.人とかかわる力
3.目標に向かって頑張る力

なお、これら3つの非認知能力を育むためには欠かせないものがあります。それはこの3つの視点の基盤となる子どもにとっての「安全基地」です。

子どもの心身の成長の基盤になるのはアタッチメント、すなわち「子どもがある特定の人にだけ示す情緒的な結びつき」で、「子どもたちは、幼く不安定なころにしっかりと大人にくっつき、たしかな安心感を得ることで、情緒的な絆を形成する」とされています。つまり、安心してくっつくことができる信頼関係こそが安全基地であり、非認知能力を育むためのベースとなるのです。

だから、保育者は子どもの気持ちを丸ごと温かく受け止めることを大切にします。不安のある子にしっかりとスキンシップをしてかかわるといったことです。かみつきやひっかき、物を投げるなどのちょっと困った行動に対しても、単に叱るのではなく、その子の気持ちを受け止めながらかかわることを大切にします。こうするなかで、子どもの心の安全基地や信頼関係をつくるのです。だから、否定的なかかわりではなく、受容的、肯定的、応答的なかかわりが極めて重要なのです。

保育者のかかわり方が、子どもの他者とのかかわり方を決める

保育者にとってまず大切なことは、目の前のさまざまな子どもの心の安全基地と信頼関係をつくることです。これが、非認知的な育ちの基盤となるからです。この視点を踏まえながら、以下の3つの側面について説明していきましょう。

1.自分の気持ちをコントロールする力

これは、「自分の気持ちを切り替える力」といってもいいもので、大人にとっても大切な力です。しかし、子どもにとっては、この切り替えがなかなか難しい。遊びの時間が終わっても、夢中になって遊んでいるような子どももいれば、お散歩の途中で疲れてしまい、「もう歩きたくない」といい出す子どももいます。そう、「歩きたくない」という気持ちから「歩こう」という気持ちにうまく切り替えられないのです。

そんなとき、保育者はどうすればいいでしょう。大事なのは、子どもたちの気持ちを受け止めつつ、声かけなどで気持ちを切り替える方向に促すことです。「もう歩きたくない」という子どもの場合なら、「疲れちゃったね、ここまでよくがんばったもんね」と受容しつつ、「先生と一緒に手をつないで歩いてみる?」や「〇〇ちゃんの大好きな公園があそこに見えるからあそこまでがんばってみようか?」など選択肢を示してあげるといった具合ですね。

そんなふうに声かけをしていけば、子どもたち自身が自分で気持ちを切り替えるようにすることを促せるのです。「歩かないと、置いていかれちゃうよ」は脅しです。脅されて歩いても、それは恐怖からの行動にすぎません。大切なことは、「自分から歩いてみよう」と子ども自身が気持ちを切り替えることです。そして、自分で気持ちを切り替えて歩けたという成功体験が、自己肯定感の向上にもつながるのです。

2.人とかかわる力

これは、社会生活を営む際に欠かせない力です。人間は一人では生きていけません。だからこそ、「人とどうかかわるか」が「人生がどういうものになるか」を大きく左右します。

また、人とのかかわり方は、他者からどんなかかわり方をされたかによって決まっていきます。他者から温かくかかわってもらえれば、他者に対しても温かいかかわりをするようになり、共感されれば共感し、協力してもらえれば協力するようになるでしょう。

だからこそ、子どもたちに対して「思いやりを持ちましょう」と言葉で伝えるだけではあまり意味がありません。先のお散歩の例のように自分の気持ちを保育者から温かく受け止められた子どもは、他の子にも「がんばったよね」と思いやりの気持ちを持つようになるのです。だからこそ、まずは周囲の大人からの温かいかかわりが大切だといえます。それは、他者の気持ちに共感する力、他の子と一緒に協力する力にもつながるのです。

「生きる力」につながる「目標に向かってがんばる力」

3.目標に向かってがんばる力

人生においては、なにかをあきらめずにやり遂げようとする力、つまり「目標に向かってがんばる力」がとても大切です。たとえ目標を立てたとしても、すぐにあきらめてしまったのでは、人生が豊かなものになるはずがありませんから。

そして、わたしが子どもの学びにおいて「遊び」が大事だと考える理由も、「目標に向かってがんばる力」に関係しています。

あきらめずにやり遂げようとする力は、自分が「やりたい!」と思うことに取り組むときにこそ育めるもの。大人だって「やりたい!」と思うことでなければ、そのことに対して意欲を持つことなどできませんよね。

たとえば、みなさんが大好きなアーティストのコンサートに「どうしても行きたい」と思ったとしましょう。ほとんどの人が、チケットを手に入れようと試行錯誤し、なんとかしてやり遂げようとするのでは? それは「どうしても行きたい」という強い意欲を持っているからこその行動であり、それこそが「目標に向かってがんばる力」なのです。

では、子どもが自分から「やりたい!」と思うこととはなんでしょう。大半が「遊び」ではないでしょうか。子どもたちは、好きな遊びだからこそ夢中になって取り組み、うまくいかないことがあっても「どうすればうまくできるかな?」と考えて工夫したり試行錯誤したりします。そして、そういうなかでこそ「目標に向かってがんばる力」が育まれるのです。

もっといえば、この「目標に向かってがんばる力」は「生きる力」にもつながります。

目標に向かってがんばると、結果として「できた!」という達成感が得られます。すると、「チャンレンジすることってこんなに素敵なんだ!」という思いを持つようになり、「チャレンジする力」や自分の未来に対する「希望」が生まれてきます。その「チャレンジする力」や「希望」は、つらいことがあってもしっかりと生きていくための糧となることでしょう。

おすすめの「非認知能力を育てる遊び」

ここからは、非認知能力を高めるために、保育現場でも取り入れやすい遊びをいくつか紹介しましょう 。

◆からだを動かして遊ぼう!

「登ったり降りたり」 なにかを登ったり降りたりすることは、「自分で挑戦しよう!」という意欲を育むことに大きく貢献します。そして、そうした意欲は「目標に向かってがんばる力」に直結するものです。保育室やお散歩先などには、登ったり降りたりできる環境がたくさんあるはずだし、まだ小さい子どもの場合なら、ただの階段だって立派な遊び場になります。からだを動かす際には、登ったり降りたりできるところを探して遊んでみましょう。もちろん、安全面には十分に注意してくださいね。

◆自然と遊ぼう!

「ビニール袋」 ビニール袋を一つ持ってお散歩に出れば、葉っぱや木の実、虫など、子どもたちが気になったものをなんでも入れられます。単純なことですが、子どもにとってはそれも立派な遊びです。子どもたちの意欲をさらに上げたいときは、一人ひとりに専用の「お散歩バッグ(ビニール袋)」を用意してもいいでしょう。この遊びには、興味を持ったものをたくさん入れようと試行錯誤したり集中したりするというメリットもありますよ。

◆つくって遊ぼう!

「お絵かき」 紙バッグや地面など、さまざまな素材、場所を使ってお絵かきをしてみましょう。素材や場所を提供する保育者のセンスも大切ですが、子どもたちはなんでもアートに変えてしまいますよ。ちなみに、これは集中する力に加えて、想像力や創造力につながる遊び。最後までやり遂げられれば、「自分はできる!」と思えるので、自己肯定感の育成につながる可能性もあります。

◆なり切って遊ぼう!

「布」 保育室にいろいろな素材、大きさ、色の布があれば、それらを遊びに利用しましょう。子どもたちは、お姫様のドレスやヒーローのマント、おばけなどに見立てたり、なにかになり切ったりして、楽しく遊ぶはずです。この遊びは、想像力を育むだけでなく、「ごっこ」を通じて他者とのコミュニケーション能力を育むことにもつながります。また、お友だちと布を貸し借りするようなことがあれば、他者への思いやりや自分の気持ちをコントロールする力を伸ばすことにもなるでしょう。

◆絵本を楽しもう!

「絵本の読み聞かせ」 園の場合、集団での読み聞かせが主流になりがちですが、ときには個別に読んであげることも大切です。絵本の読み聞かせは、言葉や想像力の育成だけでなく、保育者と子どもとの信頼関係を形成し、安心感や自尊心の基盤を育む効果も期待できます。そうした効果を得るためにも、からだの触れ合いを意識し、子どもの表情をしっかり見ながら読み聞かせしましょう。

◆大人と遊ぼう!

「触れ合い」 コロナ禍によって、触れ合う、あるいはじゃれつくような遊びの大切さがあらためて認識されています。なぜならそうした遊びが、安心感や大人に対する信頼感といった「安全基地」に必要な要素を育むことにつながるからです。もちろん万全の感染対策をしておくことが前提となりますが、保育のなかでも、くすぐりっこやお馬さんごっこといった遊びを意識的に取り入れたいものです。

玉川大学教育学部教授
1965年生まれ、栃木県出身。専門は乳幼児教育学・子育て支援。青山学院大学大学院教育学専攻修了後、青山学院幼稚園教諭などを経て現職。他に日本保育学会理事、こども環境学会理事も務める。『非認知能力を育てる「しつけない」しつけのレシピ』(講談社)、『園行事を「子ども主体」に変える!』(チャイルド本社)、『日本版保育ドキュメンテーションのすすめ』(小学館)、『非認知能力を育てる あそびのレシピ』(講談社)、「あそびから学びが生まれる動的環境デザイン」(学研プラス)、『保護者支援の新ルール 10の原則』(メイト)など著書多数。

『非認知能力を育てる あそびのレシピ』
大豆生田啓友・大豆生田千夏 著
講談社(2019)