『チューくんといっしょ せいかつのおはなし』発売記念! 監修者に学ぶ、子どもが生活習慣を身につけるとっておきの方法|子ども発達学・内田伸子先生

『チューくんといっしょ せいかつのおはなし』発売記念! 監修者に学ぶ、子どもが生活習慣を身につけるとっておきの方法|子ども発達学・内田伸子先生

着替えや歯磨き、手洗い、うがいなどの生活習慣を、小さな子どもに身につけさせるのは簡単なことではありません。どうしたら、もっとわかりやすく生活習慣の大切さを伝えられるだろう。そんな悩みを抱える保護者や保育士のみなさんを助ける、1冊の絵本が誕生しました。

それが『チューくんといっしょ せいかつのおはなし』(ポプラ社)です。「おばけのやだもん」シリーズが人気の絵本作家・ひらのゆきこさんが描く「チューくん」の日常の物語を読み進めるうちに、8つの生活習慣が自然と身につくこの絵本。監修を務めているのは、お茶の水女子大学名誉教授で心理学者(発達心理学・認知心理学)、学術博士でもある内田伸子先生です。今回は、内田先生に絵本の魅力や保育園での活用法、保育士として働くみなさんへのアドバイスなどをたっぷりと伺いました。

チューくんといっしょ せいかつのおはなし

著者名:作・ひらの ゆきこ/監修・内田 伸子
出版社:ポプラ社
2022年3月9日発売

子どもの理解を深める「オノマトペ」に注目!

——『チューくんといっしょ せいかつのおはなし』は、着替えやトイレ、歯磨き、うがい、手洗いといった基本の生活習慣がわかりやすくまとめられていて、小さい子どもたちにも伝わりやすい構成になっていますね。

内田先生:
「歯磨きの習慣を身につけよう!」「トイレトレーニングをしよう!」といった項目ごとに解説するのではなく、「チューくんの楽しい1日」の中に自然な形で生活習慣の基本を組み込んでいるのが、この絵本の特徴です。また、オノマトペやポーズを効果的に取り入れるなど、2~3歳のお子さんに向けた工夫も随所に散りばめられています。

——確かに「ニコニコ」や「もぐもぐ」といったオノマトペは、小さな子どもとコミュニケーションを取るときの大事な手段です。

内田先生:
オノマトペがふんだんに使われるのは、日本語の特徴でもあります。お母さんが赤ちゃんに話しかけるときに「これは犬だよ」ではなく「ワンワンだね」と言うように、みなさん無意識にのうちにオノマトペを使っていますよね。実は、音を反復するオノマトペは、リズミカルで耳に心地よく、とても覚えやすいので、日本語を習得する時期の子どもたちにとってメリットが大きい言葉なんです。チューくんの日常の中でもたくさん使われているので、ぜひ注目してください。

——チューくんのお友だちとして登場する、さまざまなキャラクターについて教えてください。

できる子もいる、できない子もいる。ときには失敗することだってある…。それこそがチューくんが大人たちに伝えたいこと

内田先生:
同じ2~3歳でも、子どもの発達には非常に幅があり、早い子もいればゆっくりの子もいます。子ども自身が、お友だちと自分を比べて落ち込んだりするのはまだ先のことですが、親御さんは「○○ちゃんはできるのに、どうしてうちの子はだめなのかな」と、できる子と比べてしまいがち。だからこそ、個性豊かなキャラクターを登場させることで、保護者の方に「発達のスピードは人それぞれ。焦らないでくださいね」というメッセージを届けたかったのです。

読み聞かせよりも「語り聞かせ」を意識して

「10」までの数字は、日常生活のなかでも目にすることが多く、馴染みがあります。お風呂で歌うように数えるのも楽しい

——子どもに読み聞かせをするときは、どのような点に注意したらいいでしょうか?

内田先生:
2~3歳くらいの子どもには、読み聞かせではなく「語り聞かせ」を意識するといいと思います。大人が朗読するのをじっと聞かせようとしても、お子さんによっては、絵のほうに気を取られたり、集中してくれなかったりするもの。そんなときはひざに抱っこして、表情を見ながら「どこに興味を示しているのか?」を注意深く観察しましょう。そして、絵を指しながら「チューくんパジャマ着てるね」「じょうずにボタンつけられるかな?」など、子どもが興味を示したものについて、一緒に語り合うところからはじめてみてください。

3歳以降は、絵本に書かれている言葉をきちんと読み聞かせるのがおすすめです。絵本には、読み聞かせのために吟味された文章や、何かしらの意図を持った文章が使われているので、書かれている言葉を大事に、丁寧に、正確に聞かせてあげてください。付け加えるなら、日常の会話でもこうした絵本に書かれている文章をヒントに、子どもたちの身になるような言葉遣いを意識してほしいと思います。

保育園で読み聞かせをする場合も、基本的には同じです。ただ、2~3歳クラスだと、保育者1人で3人くらいのお子さんを担当する場合もありますよね。ちょっと大変だとは思いますが、そうした場合でもあぐらをかいてひざに乗せてあげるなど、1人ひとりが絵本に集中できるように工夫しましょう。 子どもたちが安心して絵本の世界に入り込んでいくためには、「ぬくもりを感じる」ことが何よりも大事。その点を意識しながら、読み聞かせ、あるいは語り聞かせをしてください。

保育園で生活習慣を身につけるには? ポイントは「レッツ」と「3H」

——子どもたちに生活習慣を教えるときのコツがあればお聞かせください。

内田先生:
【おかたづけ】で大事なのは「片づけなさい」と命令口調で言うことではなく、「そろそろ給食の時間だからお片づけしよう」といった具合に、保育者が率先して動くこと。絵本の【おかたづけ】のページにも、チューくんのお母さんが率先して片づけをする様子が出てきますが、「命令する」「教える」ではなく、「レッツ(=一緒に)」という思いを大切にしてほしいですね。
【てあらい】のページでは、ひらのさんが手の洗い方を丁寧に描いてくださっています。細菌やウイルスを洗い流すためには、20~30秒かけてしっかり洗う必要がありますが、「ハッピー・バースデー・トゥ・ユー」の歌を2回歌うとほぼ40秒。手洗いを身につけてもらうには、手洗いの手順の絵などをプリントして手洗い場の前に貼り、保育士さんが歌を歌いながら手を洗ってみせるのもいいのではないでしょうか。

わかりやすくて覚えやすい手の洗い方ポスター。「ハッピー・バースデー・トゥ・ユー」を歌いながら楽しく手洗いをしましょう!(「チューくんてあらいポスター」は、下記のボタンからダウンロードできます)

生活習慣を教えるコツとしては、活動が終わった後にかける言葉も大事です。保育士のみなさんにぜひ覚えておいてほしいのは、「ほめる」「はげます」「ひろげる」という「3H」の言葉。「上手に洗えたね」「きれいになったね」「さっぱりしたね」など、3Hを意識した声掛けをすれば、子どもは達成感を感じて、自尊心がぐんと高まるはずです。

——なかには、イヤイヤ期で全然言うことを聞いてくれず、生活習慣を教えるのに苦労している保護者や保育者もいます。その場合は、どのように対処すればいいでしょうか?

内田先生:
「やりたくないという意思表示ができるようになった」と考えれば、イヤイヤ期は成長の証でもあります。そんなときは無理強いしないで、「今日はやりたくないのかな?」と受け入れるようにしましょう。実は、子どもたちも内心では「歯磨きしないとむしばいきんが出てきちゃうかな」と気になっていたりするもの。しばらくしたら、自分から率先してやり始めると思いますので、くれぐれも禁止や命令で子どもを動かすことがないように注意してください。

繰り返しになりますが「イヤイヤ!」と主張し始めたときは、「やりたいことが出てきたんだな」とお子さんの成長を感じてあげること。これがポイントです。

——コロナ禍において、私たちの衛生に対する意識はとても高まりました。同時に、「子どもたちにも高い衛生観念を身につけさせなくては!」というプレッシャーも出てきました。試行錯誤しながら対応している保育士さんたちに、アドバイスをお願いします。

内田先生:
この絵本には、着替えや歯磨きのやり方だけでなく、「なぜそうしなければいけないのか」という理由もきちんと書かれています。たとえば、なぜ歯を磨かなければいけないのかというと、口の中に食べ物のかすがあると、むしばいきんが活躍しちゃうから。虫歯になると歯に穴があいて痛くなっちゃうから。だから歯を磨いて、お口の中をピカピカにしようねといった具合です。衛生観念は普段の生活の中で身につけるしかありませんが、このように理由や根拠、対処方法などがわかると、子どもたちも納得して活動してくれると思います。

とはいえ、お外遊びのときにマスクをしたままだと、息苦しくなって逆に危険を招くケースもあります。あくまでも臨機応変に、状況を見ながら配慮していきましょう。

ポイントを押さえて解説している【おうちの方へ】コーナーは、子どもに理由や活動する意味を説明するときにも役立ちます

保育は、国の文化や社会の担い手に寄り添う尊い仕事

——最後に、保育士のみなさんに向けてメッセージをお願いします。

内田先生:
先日、ある保育士さんから「離乳食をあげるときに、『もぐもぐ』と言っても全然やってくれません」という相談を受けました。「よくカミカミして」「もぐもぐね」と言いながら食べさせても、噛まずに飲み込んじゃうのだそうです。そこで「どういう状態で離乳食をあげていますか? もしかしてマスクしたままあげているんじゃありませんか?」と聞くと、「飛沫防止のためにマスクはしたままです。さらに、透明のボードを立てて、小さな窓から手を入れて食べさせています」という答えが返ってきました。

それを聞いて納得です。私はすぐに「マスクではなく口の動きがわかるマウスシールドを使って、口をもぐもぐと動かしている様子を見せてあげてください」「口角を上げて、柔らかい表情で『もぐもぐもぐ、おいしいね』と話しかけながら離乳食をあげてみてください」とお伝えしました。さらに、「マスクをしているときは、自分の笑顔の写真を首からぶら下げるか、胸元にワッペンみたいに貼り付けるかして、顔がわかるようにするようにすることも大事ですよ」とも。

そして2カ月後、どうなったかを尋ねてみると「アドバイスを実践したら、うまくいきました」との嬉しい言葉が返ってきました。また、コロナ禍で気持ちの余裕がなくなり、笑顔も減っていたことにも気付き、「時々鏡を見て、口角を上げるようにしています」とも話してくれました。

厳しい状況のなかで、子どもたちの発達に寄り添った保育を実践してくださる保育士さんたちは、保護者にとって本当にありがたい存在です。だからこそ、ストレスやプレッシャーに押しつぶされないように、ゆとりをもって仕事に取り組めるような環境を整えていきたいと感じます。

以前、ニュージーランドでレッジョエミリアの芸術教育を実践している幼稚園で、園長のブレンダ先生にお話を伺ったとき、こんなことおっしゃっていました。「保育の仕事は本当に尊い仕事です。保育者であることに私はとても誇りを感じています。なぜなら、今関わっている子どもたちが大人になって、みんなでニュージーランドの文化や社会を担ってくれる。この国の文化の作り手になってくれる。そのスタートの時期に寄り添えるのはとても嬉しいことだからです」と。

私が保育に携わるみなさんのためにできることはそう多くはありませんが、この言葉を伝えることで、ストレスやプレッシャーに負けない勇気を持ってもらえたら嬉しいですね。

取材・文/野口 燈

お茶の水女子大学名誉教授
学術博士、文化功労者。専門は、発達心理学、認知心理学。
長年にわたり「こどもちゃれんじ」の監修に携わり、しまじろうパペットの開発、
商品検証を手がける。教育テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に、
『子育てに「もう遅い」はありません』(冨山房インターナショナル)ほか多数。
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