【脳科学①】じっとしていられない子が静かに話を聞けるようになる。子どもの「集中力」を高める方法|脳科学者・西剛志

【脳科学①】じっとしていられない子が静かに話を聞けるようになる。子どもの「集中力」を高める方法|脳科学者・西剛志

保育士の話をきちんと聞いてくれない、工作や体操といったプログラムになかなか取り組んでくれない……。保育現場ならではの悩みとして、よく耳にするのが「子どもの『集中力』が足りない」というものです。「まだ、子どもだから仕方ないよね」と言ってしまえばそれまでですが、保育士としては少しでも子どもの集中力を高めて、予定されたスケジュールをスムーズに進めたいですよね。そこで、脳科学を生かした子育ての研究を行う脳科学者の西剛志さんに、脳科学的視点から子どもの集中力を高める方法を伺いました。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム)
取材・文/清家茂樹 写真/和知明

子どもはなかなか集中できないのが当たり前

人間の「集中力」は、脳のなかのふたつの部位によって左右されます。そのうち、子どもの集中力に大きな影響を与えているのが「前頭前野」です。前頭前野は、「考える力」や「記憶する力」に加えて「セルフコントロール力」を司っており、子どもがいまやっていることを我慢して、本来やるべきことに集中するような時に必要となる存在です。

この前頭前野には、年齢とともに発達していくという特徴があります。0歳ではほぼ未発達。3歳くらいで急激に発達しますが、その後は緩やかにじっくりと時間をかけて、20〜28歳くらいまで発達し続けます。

つまり、20代の若い保育士さんのなかには、まだ前頭前野が成長途中という人もいるということ。子どもに対して、つい「イラッ」としてしまうなど、自分の感情をコントロールできないことがある方は、それこそ前頭前野が成長途中なのかもしれません(笑)。

話を子どもに戻すと、前頭前野がほとんど発達していない幼い子どもは、なかなか集中できなくて当たり前だということです。

もちろん、前頭前野の発達にも個人差がありますから、幼くてもしっかりと大人の話を聞けるような集中力を持った子どももいます。そういう子は、他の子よりも前頭前野の発達が進んでいる可能性が高いでしょう。 いずれにせよ、多くの場合は年齢とともに前頭前野が発達し、集中力も高まっていきます。ですから、保育士のみなさんにまずお伝えしたいのは、子どもの集中力が足りないからといって、心配し過ぎる必要はないということです。

集中力は、「食事」の影響を大きく受ける

しかし、なかなかじっとしていられず、まわりの子に迷惑をかけてしまうような子どもに対しては、「少しでも集中力を高めてあげたい」と思う保育士さんも多いことでしょう。そのためには、子どもの前頭前野を活性化させることが大切です。

その鍵は、食事にあります。前頭前野を活性化させるには、血糖値を一定レベルにまで上げなければなりません。簡単にいうと、おなかがすいている子どもは集中できないということです。

とはいえ、たくさん食べて、とにかく血糖値を上げればいいというわけではありません。例えば、ファストフードなどの「GI(Glycemic index:食後血糖値の上昇度を示す指標)」が高い食品を食べると、急激に血糖値が上昇します。すると、血液中の余分な糖を処理するためにインスリンというホルモンが多量に分泌され、今度は一気に血糖値が下がってしまいます。

ですから、集中力を高めるためには、GIが高過ぎない食品を選ぶのがおすすめです。とくに低GI食品は、血糖値をゆっくりと上げた後に緩やかに低下させるため、長時間にわたって血糖値を安定したレベルに保つことができるでしょう。

代表的な低GI食品は、リンゴ、ミカン、グレープフルーツ、イチゴなどの果物やニンジン、サトイモなどの野菜、豆類など。パンよりもお米のほうがGIは低いということも覚えておいてください。ただし、10歳くらいまでの子どもの脳は大量のエネルギーを消費するため、ずっと低GI食品をとり続けるということではなく、高GI食も取り入れながらGIを下げるという方法が効果的です。給食制の園なら、低GI食品を取り入れたメニューにする、弁当制なら親御さんになるべく低GI食品も入れてもらうようにアドバイスをする、といった工夫をしてみるのも良いでしょう。

親御さんにアドバイスする時は、朝食に牛乳やヨーグルトなどの乳製品を加えることを提案してみてください。乳製品自体も低GI食品ですが、乳製品に含まれるカゼインというタンパク質には糖の吸収を抑える働きがあるため、他の食品によって血糖値が急激に上がるようなことを防いでくれます。

集中力を高めるトレーニング「感覚の遮断」

前頭前野とは別の視点からも、子どもの集中力を高める方法を紹介しておきましょう。ひとつは、「音楽を利用する」というものです。

例えば、移動してほしい時にそうしてくれない子どもがいる場合には、「移動の音楽」を決めて、移動する時にはその音楽を毎回かけるのです。おすすめは、テキパキと元気に移動するようなイメージのテンポの速い音楽です。

音楽には、脳の思考パターンを変える効果があるということが、脳科学の研究によってわかっています。つまり、テンポの速い音楽を聴くと、速くテキパキと行動しようとするのです。逆に、ゆっくりとしたテンポの音楽を聴くと、自分でも気付かないうちに行動もゆっくりになります。

みなさんのなかにも、ランニングなどの運動をする時のために、自分のテンションが上がるような曲でプレイリストを作っている方がいるのではないでしょうか。そして、それらの曲の多くは、テンポの速い音楽ではありませんか? ヨガが趣味という人なら、ゆったりとした音楽を聴きながらやっているかもしれませんね。脳の思考パターンを変えるという音楽の効果を知らないままにやっているかもしれませんが、脳科学的には正しいことだと言えます。

「音楽を利用する」ことの他には、「感覚を遮断する」という方法もあります。例えば、遮音性の高い耳栓で子どもの聴覚を遮断して、保育士さんがジェスチャーで表現したものを当ててもらうゲームをしてみましょう。聴覚を遮断された子どもは、保育士さんのジェスチャーをじっと見つめて、視覚だけに集中することになります。そして、それは集中力を高めるトレーニングになるのです。

ここまで、子どもの集中力を高めるための食事、音楽、感覚の遮断という3つの方法を紹介しました。どれかひとつでも良いので、園の活動に取り入れて継続してみてください。きっと、これまでじっとしていられなかった子どもも、静かに話を聞いてくれるようになってくれるはずです。

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脳科学者(工学博士)
分子生物学者
1975年4月8日生まれ、鹿児島県出身。脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、知的財産研究所に入所。2003年に特許庁に入庁。その後、自身の夢をかなえてきたプロセスが心理学と脳科学の原理に基づくことに気付き、世界的に成功する人たちの脳科学的なノウハウを企業や個人向けに提供するT&Rセルフイメージデザインを2008年に設立。現在は脳科学を生かした子育ての研究も行い、大人から子どもまで、才能を伸ばす個人向けサービスから、幼稚園・保育所の教諭・保育士・保護者向けの講演会、分析サービスなどで1万名以上をサポート。横浜を拠点として、全国に活動を広げている。著書シリーズ累計10万部突破。主な著書に、『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』、『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』、『低GI食脳にいい最強の食事術』(いずれもアスコム)、『子どもの自己肯定感は3・7・10歳で決まる』(PHP研究所)、『脳科学的に正しい 一流の子育てQ&A』(ダイヤモンド社)がある。

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