【脳科学②】保育現場で実践。子どもの「創造力」がぐんぐん伸びる!|脳科学者・西剛志

【脳科学②】保育現場で実践。子どもの「創造力」がぐんぐん伸びる!|脳科学者・西剛志

「先が見えない時代」と言われるいま、「これからの時代を生きる子どもには、どんな能力が必要か?」ということについては、多くの議論があります。そして、そうした能力のひとつとして頻繁に挙げられるのが「創造力」です。脳科学を生かした子育ての研究を行う脳科学者の西剛志さんも、「これからの子どもには創造力が重要」と唱えるひとり。今回は、西さんが創造力を重視する理由と、子どもの創造力を伸ばすために保育士ができることを解説していただきました。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム)
取材・文/清家茂樹 写真/和知明

創造力を伸ばすために欠かせない「遊びのレパートリー」

子ども教育や子育ての場では、「これからの時代を生き抜くためには、『創造力』を伸ばしてあげることが重要だ」ということが盛んに言われています。

なぜなら、数字の入力や事務作業などの単純作業は、今後AIやロボットが行うようになっていくからです。いま世界中で開発が進んでいる自動運転が実用化されれば、タクシーなどの運転手の仕事だってなくなる可能性が高いでしょう。最近では絵を描くAIまで登場して世界を驚かせています。つまり、指示されたことだけをやるのは、AIやロボットの仕事になるのです。

そうしたなか、AIにはできない「創造力」(自分で考えて、新しいことを生み出す力)がとても大切になってきます。なぜなら、AIは人の指示に従うことはできますが、自分で考えて新しいものを生み出すことができないからです。だからこそ、これからの子どもには創造力が重要なのです。

でも、創造力の育成というと、保育現場にいる方にとっては難しいものと思われることもあるかもしれません。実際に現場でたくさんの保育士さんたちと接してきましたが「わたしは創造力がないので……」と自信を持てていない方もいらっしゃいました。しかし、創造力は意外と簡単に生み出すことができることを知っていただけると、多くの保育士さんが安心します。

子どもの創造力を育むためには、欠かせない要素がいくつかありますが、そのひとつが「遊びのレパートリーを増やすこと」です。大人にとっては「知識の量を増やすこと」ということもできます。なぜなら、新しいアイデアは、ゼロから生まれるものはほとんどなく、そのほとんどが既存のふたつのものが組み合わさって生まれるものだからです。たとえば、鉛筆と消しゴムを合体させるだけで、消しゴム付きの鉛筆という立派な発明になります。

スマホだって、携帯電話とインターネットを組み合わせたものに過ぎません。モーターと水槽を合体させれば洗濯機になります。しかし、そのたったふたつの組み合わせが、世界を大きく変えるほどのアイデアになったのです。

子どもはふたつのものを組み合わせることが大好きです。わたしも子どもの創造力についていろいろと研究してきましたが、子どもに勉強させるよりも、遊びを通じて創造力を育んであげるのがいちばんでした。

遊びを通じて創造力を育む

そのための方法が、先にもお伝えした「遊びのレパートリーを増すこと」です。何人かの子どもに同じおもちゃを与えた場合、ひとつの決まった遊びしかしない子もいれば、そのおもちゃを使ったいろいろな遊びをする子もいるでしょう。その違いを生んでいるのが、遊びのレパートリーなのです。

多くのレパートリーを持っている子は、スマホの例のように、何かと何かを組み合わせたり、少し変化させたりしていろいろな遊びを思い付きます。まさに、しっかりと創造力を発揮しているわけです。

ですから、保育士のみなさんには、たくさんの遊びのレパートリーを子どもたちに教えてあげてほしいのです。折り紙で遊ぶ場合なら、定番のものを折るだけでなく「こんなものもできるよ!」というふうに、いろいろな種類の折り紙を教えてあげてください。時には、子どもには難易度が高そうなものを教えてもいいと思います。

保育士さんが生み出すそれらの折り紙を見て、「やってみたい!」「この折り方とさっきの折り方を組み合わせてみたらどうなるかな?」と、子どもたちの創造力は大きな刺激を受けて確実に伸びていきます。遊びを通じて、知識の量を増やすことに喜びを感じるようになれば、将来的にさまざまな知識を得ようとする人間に育ってくれるでしょう。

偉人の伝記から「常識を疑う心」を育む

創造力を育むためには、「常識を疑う心」を持つことも大切な要素です。創造性とは、誰も考えていないようなところ——すなわち、常識ではないところに存在するものです。誰もが思い付くようなものを見たり聞いたりしても、創造性があるとは感じませんよね。

しかし、残念ながら日本人には、この「常識を疑う心」が欠けているという特徴があります。日本人は、「集団バイアス」と呼ばれる「みんながやっていることは自分もやりたい」「みんながやっていることは正しい」という思考傾向が強い民族だからです。

「みんながやっていることは自分もやりたい」「みんながやっていることは正しい」と考えるのは、常識を疑うどころか常識に従うことです。

そこでおすすめしたいのが、世界の偉人を題材とした絵本の読み聞かせです。発明王・エジソンは、子どもの頃に「1+1=2」と教える先生に対して、「どうして? ふたつの泥のお団子を合わせるとひとつになるよ」と言ってしかられたという話を残しています。まさに常識を疑ったエピソードですよね。 エジソンに限らず、過去の偉人たちには個性的な人が少なくありません。そのため、伝記の読み聞かせを通じて、子どもたちは「こんなこともやっていいんだ!」と気付き、集団バイアスの影響から抜け出すことができるでしょう。そうして「常識を疑う心」が育まれるわけです。

リラックスしていなければ創造力は発揮されない

創造力を育むには、子どもたちがリラックスできる環境を作ってあげることも大切です。なぜなら創造力は、リラックスしている状態でないと発揮されにくいものだからです。

みなさんが、何かいいアイデアを思いついた時のことを思い出してみてください。その多くは、「よし、いいアイデアを考えるぞ」と思って頭を悩ませていた時ではなく、何も考えずに、シャワーを浴びたりコーヒーを飲んだり、ボーッとしたりしていた時ではありませんか?

脳には、それまでにインプットした情報を自動編集し、リラックスしている時に自分でも考えてもいなかったアイデアをアウトプットしてくれる特性があります。

子どもたちがリラックスするには、「アタッチメント」と呼ばれる肌と肌の触れ合いが欠かせません。いまは新型コロナウイルスの関係で難しいかもしれませんが、それが許される園であれば、できるだけ子どもとスキンシップを図るように心がけてみましょう。もし難しい場合は、親御さんに対して、子どもとなるべくスキンシップを図るように伝えてみてください。 リラックスしたなかで創造力を発揮し、「先生、すごいことを思いついちゃった!」と報告をしてくれる子どもたちが急増するかもしれませんよ。

■関連記事
【脳科学①】じっとしていられない子が静かに話を聞けるようになる。子どもの「集中力」を高める方法|脳科学者・西剛志
【脳科学③】子ども、同僚、親御さんとのコミュニケーションが劇的改善。伝えたいことが伝わる「伝え方」|脳科学者・西剛志

脳科学者(工学博士)
分子生物学者
1975年4月8日生まれ、鹿児島県出身。脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、知的財産研究所に入所。2003年に特許庁に入庁。その後、自身の夢をかなえてきたプロセスが心理学と脳科学の原理に基づくことに気付き、世界的に成功する人たちの脳科学的なノウハウを企業や個人向けに提供するT&Rセルフイメージデザインを2008年に設立。現在は脳科学を生かした子育ての研究も行い、大人から子どもまで、才能を伸ばす個人向けサービスから、幼稚園・保育所の教諭・保育士・保護者向けの講演会、分析サービスなどで1万名以上をサポート。横浜を拠点として、全国に活動を広げている。著書シリーズ累計10万部突破。主な著書に、『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』、『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』、『低GI食脳にいい最強の食事術』(いずれもアスコム)、『子どもの自己肯定感は3・7・10歳で決まる』(PHP研究所)、『脳科学的に正しい 一流の子育てQ&A』(ダイヤモンド社)がある。
この記事をSNSでシェア