【脳科学③】子ども、同僚、親御さんとのコミュニケーションが劇的改善。伝えたいことが伝わる「伝え方」|脳科学者・西剛志

【脳科学③】子ども、同僚、親御さんとのコミュニケーションが劇的改善。伝えたいことが伝わる「伝え方」|脳科学者・西剛志

保育士は、子どもたちや同僚、保護者など、多くの人とのコミュニケーションが欠かせない職業です。しかし、なかには「自分の発言に自信がない」「伝えたいことがなかなか伝わらない」など、コミュニケーションに苦手意識を持っている方もいることでしょう。そこで、脳科学を生かした子育ての研究を行う脳科学者の西剛志さんに、脳科学的見地から「保育士のコミュニケーションを改善する方法」を教えていただきました。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム)
取材・文/清家茂樹 写真/和知明

コミュニケーションギャップの要因、「脳タイプ」とは?

自分の考えや主張がうまく相手に伝わらない現象、すなわちコミュニケーションギャップが起きる要因は、「脳タイプ」というものにあります。

わたしたちは、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚を使って情報を処理していますが、ニューヨーク大学の教育学者・リースマン博士は、1996年に「人それぞれ学習する時に、異なる感覚器を優先して使っている」と発表しました。その特性をもとに分類されたのが以下の3つの脳タイプです。

【3つの脳タイプ】
・タイプ1:視覚を優先する「視覚タイプ」
・タイプ2:聴覚を優先する「聴覚タイプ」
・タイプ3:触覚、味覚、嗅覚などを含めた体の感覚を優先する「体感覚タイプ」

園で子どもたちが何か新しいことに取り組むというケースを考えてみましょう。そうした時、保育士さんは子どもたちに言葉で指示を出しがちです。その内容は、聴覚タイプの子どもにはしっかり伝わるかもしれませんが、視覚タイプや体感覚タイプの子どもたちにはどうでしょう。こちらが望むようには伝わらないはずです。

視覚タイプの子には、これからやることを絵で見せるといった方法が有効ですし、体感覚タイプの子には、とにもかくにもまずやらせてみるのが早いのです。

脳タイプが違えば、見ている世界も違う

「海に遊びに行った時のことを思い出してください」と言われたら、みなさんの頭にはどんなことが浮かびますか? 海の深い青色が思い浮かんだ人なら視覚タイプ、波の音が思い浮かんだら聴覚タイプ、潮の香りや照りつける太陽の熱さが思い浮かんだら体感覚タイプという可能性が高いと言えます。

つまり、まったく同じ経験をしていても、脳タイプによってとらえ方が異なるのです。それこそ、「脳タイプが違えば、見ている世界も違う」と言っていいでしょう。違う世界を見ているのだから、コミュニケーションギャップが起きるのも当然ですよね。

ただし、コミュニケーションギャップが起きるのが当然だからといって、「わかり合えない相手とは、わかり合うことをあきらめましょう」と言っているわけではありません。むしろ、わかり合えないからこそ、わかり合おうとすることが重要だとわたしは考えています。

そのための鍵となるのが、脳の「ミラーニューロン」と呼ばれるものです。“鏡の神経細胞”という名前の通り、ミラーニューロンには、他人の行動を目にした時にそれを記憶し、まるで自分も同じ行動をしたかのような反応をさせる働きがあります。

その反応の代表的なものが、もらい泣きです。ミラーニューロンは脳の視覚野と体感覚野をつないでおり、泣いている人がいると、その人の体感覚が見ている側にも再現され、涙が出てきてしまうのです。

「ミラーニューロン」が他者とわかり合えるための鍵

そうした働きから、ミラーニューロンは「他者とわかり合えるための神経細胞」とも呼ばれています。そのことを詳しく解説するために、一旦脳タイプの話に戻りましょう。

それぞれの脳タイプを知るには、複数の質問に対する回答から診断するのが一般的ですが、話すスピードで判断するという簡易的な方法もあります。実は、視覚タイプの人は話すスピードが速く、体感覚タイプの人はゆっくり、聴覚タイプの人はその中間くらいといった特徴があるのです。

みなさんは、誰かと話していて「この人、話すのが速くて何を言っているかよくわからないな」「話すのが遅過ぎてなんだかイライラする」などと感じた経験はありませんか? それはおそらく、相手との脳タイプが違っているからです。すでにお伝えしたように、脳タイプが違えばコミュニケーションギャップが起きて当然ですし、相手の話すスピードに違和感を覚えた時点で、コミュニケーションがうまくいっているとは言えません。

だからこそ、うまくコミュニケーションを取りたいと思う相手には、自分が話すスピードを相手の話すスピードに合わせてみることをおすすめします。相手からすると、先に挙げたような違和感を覚えることがなくなるため、こちらが話すことが伝わりやすくなるでしょう。

そして、このことはミラーニューロンの働きによってさらにいい効果をもたらします。話すスピードを相手に合わせると、相手のことを不思議なほど理解できるようになるのです。「相手のためを思い、相手と同じスピードで話すことで、相手の感覚が自分のなかで再現されやすくなる」と言えばわかりやすいでしょうか。

また、相手の側もミラーニューロンによって、「この人は自分のことを思ってくれている」という感覚が自分のなかに再現されます。こうして、鏡と鏡が無限に反射し合うように相互理解が深まるため、ミラーニューロンは「他者とわかり合えるための神経細胞」と呼ばれているのです。

子どもが言ったことをそのまま返してあげる

ここまで脳タイプやミラーニューロンの話を紹介してきました。では最後に、保育士のみなさんのコミュニケーションギャップを解消する方法について、子ども、親御さん、同僚といった対象別にお伝えしましょう。いずれのケースでも重要となるのは、信頼関係を築くということです。

まず、相手が子どもの場合には「リフレクティブリスニング」を行うことをおすすめします。リフレクティブとは「反射する」を意味する言葉で、それをコミュニケーションに当てはめると、「子どもが言ったことをそのまま返してあげる」ということになります。例えば、子どもが「昨日、公園でブランコに乗ったんだ!」と言ったなら、「そうなんだ」で終わらせるのではなく、「公園でブランコに乗ったの? よかったね、楽しかったね」と返すのです。

そうすることで、子どもは「自分のことを理解してもらっている」という安心感を得ます。加えて、リフレクティブリスニングをしてくれる人を信頼するようになり、良いコミュニケーションが取れるようになっていくでしょう。

親御さんに対しては、「今日、〇〇ちゃん、お友だちにすごく優しくできたんですよ」「こんな工夫をして遊んでいました」というふうに、子どものよかったところを積極的に伝えるようにしましょう。

いまは新型コロナウイルスの影響で、園に対する親御さんからのクレームが増えていると聞きますが、わたしの調査によると、子どもの良かったところをこまめに親御さんに伝えている園や保育士さんに対しては、そうしたクレームが少ないようです。親御さんの立場で考えてみれば、「子どものことをきちんと見て、きちんと報告してくれる園・先生なら大丈夫」というふうに、信頼を寄せやすくなるのでしょう。信頼関係が深まれば、それだけコミュニケーションもいい方向に向かいます。

同僚に対しては、互いの共通点をたくさん見つけてみてください。これは心理学において「信頼関係の法則」と呼ばれるものですが、自分との共通点が多い相手に対しては、自然と信頼しやすくなるのです。みなさんには、相手の出身地や出身校が自分と同じだったことで、初対面なのに会話が盛り上がったという経験はありませんか? それがまさに共通点の力です。

「うまくコミュニケーションをとれない」「何となく苦手だ」という同僚がいる人は、その同僚のことをよく知らないだけかもしれません。相手を知る努力をして共通点を見つけられたら、それだけで相手とのコミュニケーションが良化するはずです。

脳科学者(工学博士)
分子生物学者
1975年4月8日生まれ、鹿児島県出身。脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、知的財産研究所に入所。2003年に特許庁に入庁。その後、自身の夢をかなえてきたプロセスが心理学と脳科学の原理に基づくことに気付き、世界的に成功する人たちの脳科学的なノウハウを企業や個人向けに提供するT&Rセルフイメージデザインを2008年に設立。現在は脳科学を生かした子育ての研究も行い、大人から子どもまで、才能を伸ばす個人向けサービスから、幼稚園・保育所の教諭・保育士・保護者向けの講演会、分析サービスなどで1万名以上をサポート。横浜を拠点として、全国に活動を広げている。著書シリーズ累計10万部突破。主な著書に、『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』、『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』、『低GI食脳にいい最強の食事術』(いずれもアスコム)、『子どもの自己肯定感は3・7・10歳で決まる』(PHP研究所)、『脳科学的に正しい 一流の子育てQ&A』(ダイヤモンド社)がある。