「IQ」ならぬ「EQ」とは? 子どもにとってのその重要性|EQWELチャイルドアカデミー主席研究員・浦谷裕樹

「IQ」ならぬ「EQ」とは? 子どもにとってのその重要性|EQWELチャイルドアカデミー主席研究員・浦谷裕樹

ご存じの通り、「IQ」は「Intelligence Quotient」の略語で、「知能指数」を表す言葉です。では、みなさんは「EQ」という言葉を聞いたことはありますか? EQとは、日本語で「心の知能指数」と訳される言葉で、他人の感情を感じ取る能力や、自分の感情を上手にコントロールする能力のことです。幼児教室・EQWELチャイルドアカデミーの主席研究員である浦谷裕樹さんは、子どもが将来的によりよい人生を歩むためには、このEQがとても重要だと言います。EQの重要性はどんなところにあり、どうすればそのEQを伸ばせるのでしょうか——。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム)
取材・文/清家茂樹 写真/榎本壮三

EQを構成するのは、「自制心」と「共感力」

「EQ」とは、「Emotional Intelligence Quotient」の略語で、「知能指数」を意味する「IQ(Intelligence Quotient)」に対して、「心の知能指数」と訳されます。

この言葉が世界的に広まったきっかけは、アメリカの心理学者であり作家のダニエル・ゴールマンが、1995年に発表した著書『EQ こころの知能指数』でした。それまでは、「社会的な成功を収めるにはIQこそが重要」だと考えられており、実際、成功者にはIQの高い人が多い印象がありました。しかし、世の中にはIQが高いにもかかわらず、幸せな人生を歩んでいるとは言い難い人が多くいたことも事実です。

そこでゴールマンは、社会のなかで自分の思いを実現し、自分にとってよりよい人生を歩むためにはIQ以外に大きな要素があるのではないかと考え、その要素こそがEQだと述べたのです。

では、EQとは具体的にどういった能力を指すのでしょうか。EQを正しく理解するには、ふたつの要素に分けて考えるのが近道です。ひとつめは、自分の気持ちや欲求を理解し、そのうえでコントロールできる力。簡単に言えば「自制心」のことです。

そしてもうひとつは、自分ではなく他人の気持ちや欲求を推察し、良好な人間関係を築くためによりよい対応をする力。つまり、「共感力」です。

ここまでを読んで、あることに気付いた方もいるかもしれません。そう、「自制心」と「共感力」は、みなさんもよく見聞きしているであろう「非認知能力」に含まれる力です。ですから私は、やり抜く力や折れない心、自己肯定感、リーダーシップ、創造性など他のさまざまな力を包含する非認知能力を「EQ力」、そのなかの自制心と共感力をEQというふうに定義づけています。

これからの時代に増していくEQの重要性

親御さんだけでなく、保育士のみなさんのなかにも、「子どもの将来のためにIQを伸ばしてあげたい」と考える人は多いでしょう。もちろん、IQは高いに越したことはありません。世の中でイノベーションを起こしているような人たちの多くは、基本的にIQが高い傾向にあります。しかし、前述したように知能指数が高いからといって、必ずしも幸せな人生を送れるとは限らないのも事実です。

シカゴ大学の経済学博士であるジェームズ・ヘックマンは、アメリカの貧困地域で2年間の幼児教育を受ける60人のグループと、幼児教育を受けない60人のグループを追跡調査しました。すると、幼児教育を受けたグループはそうでないグループに比べて、大人になったときの学歴や年収、持ち家率が高く、生活保護受給率や犯罪率が低いという結果が出そうです。つまり、それだけ幸せな人生を送っていたと言えるわけです。

そして、この幼児教育によって伸びたものが何だったのかを調べたところ、それこそがEQ(自制心と共感力)を含む非認知能力だったことがわかりました。

これからの時代は、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(あいまい性)」の頭文字をとって、「VUCA(ブーカ)」の時代と呼ばれているように、先行きが不透明な状況にあります。実際、コロナ禍やウクライナにおける戦争、世界的なインフレなどが起こることを、どれだけの人が予測できたでしょうか。

そんな不確実な時代においては、IQではなく心の強さのほうが断然重要なものとなっていくはずです。

どれだけIQが高くても、周囲の変化に対して強い不安を感じて心を乱されてしまえば、せっかくのIQを生かすことが難しくなります。だからこそ、感情を抑えるべきときには抑え、冷静に情勢をつかみ、向かうべき目標が定まったら周囲の人たちと協力しながら、目標達成に向かって突き進んでいく——。そうした自制心、共感力の重要性がどんどん増していくと思います。

子どものEQを育む「3つのT」

では、子どものEQを伸ばすためには、どうすれば良いのでしょうか。0〜2歳頃までの子どもに対しては、「情動調律」を意識して行動をすることを心がけてほしいと思います。

情動調律というのは、「相手の行動や状況から感情を推察し、その感情に対して反応する行動」のこと。たとえば、子どもが泣くことでなんらかのシグナルを発していたら、「どうしたのかな?」「寒いのかな、おなかがすいたのかな?」といったように、すぐに反応してあげるのです。

言葉を変えるなら、たとえ会話ができない0歳の子どもが相手でも、しっかりやり取りをしましょうということです。それによって子どもの脳は発達し、EQやコミュニケーション能力といった力がどんどん伸びていくでしょう。

逆に、子どもが発信するシグナルを無視するのは絶対にNGです。子どもは、自分が発したシグナルに対して大人が反応してくれることで、「自分が働きかければ問題を解決できる」という自信や、「大人は信頼できる」という信頼感を持ちます。そして、その自信と信頼感は、大人とのコミュニケーションを通じて、EQを育むために欠かせないものになるのです。 子どもがもう少し大きくなって、使える言葉が増えてきたら、下に示した「3つのT」を心がけてください。

【3つのT】
1.Tune In(チューン・イン):子どもの興味に寄り添って一緒に話す(遊ぶ)
2.Talk More(トーク・モア):多様な言葉をたくさん話す
3.Take Turns(テイク・ターンズ):子どもと交互に話す

子どもが夢中になって遊んでいたら、「何をやっているの?」と話しかけて、会話をはじめます。仮に「お医者さんごっこ」と答えたら、「お人形でお医者さんごっこをしてるんだね」「患者さんは誰かな?」というふうに、たくさん話しかけてください。ポイントは、多様な言葉をたくさんかけることと、子どもと交互に話すようにすること。それによって会話のキャッチボールが生まれ、子どものEQやコミュニケーション能力が伸びていくでしょう。

EQWELチャイルドアカデミー・日本赤ちゃん発育学研究所・
新未来教育科学研究所主席研究員
1972年7月31日生まれ、東京都出身。工学博士、理学修士。京都大学理学部卒。同大学院修士課程を修了。教育分野における能力開発に従事し、専門学校講師、文部科学省委託プロジェクトメンバー等を歴任。EQWEL転籍後は研究活動も行い、2016年、子どもの呼吸誘導装置の研究成果が認められ、大阪工業大学大学院より工学博士(生体医工学)を授与された。現在は、「楽しく、わかりやすく、ためになる」をモットーに全国で講演活動中。主な著書に『子どもの天才脳を育てるコツ』、『ポジティブ育児メソッド』、『赤育本』、『子どもの未来が輝く「EQ力」』(いずれもプレジデント社)がある。
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