誰もが知る昔ながらの遊びに、子どもの「自制心」を育てる効果があった|EQWELチャイルドアカデミー主席研究員・浦谷裕樹

誰もが知る昔ながらの遊びに、子どもの「自制心」を育てる効果があった|EQWELチャイルドアカデミー主席研究員・浦谷裕樹

みなさんは「EQ」という言葉を知っていますか? これは「Emotional Intelligence Quotient」の略語で、日本語では「心の知能指数」と訳され、具体的には「共感力」と「自制心」というふたつの力です。今回は、そのうちの自制心について、幼児教室・EQWELチャイルドアカデミーの主席研究員である浦谷裕樹さんにお話を聞きました。浦谷さんによると、子どもの自制心を伸ばすには、昔ながらの「ある遊び」が効果的なのだそうです。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム)
取材・文/清家茂樹 写真/榎本壮三

変化が激しい時代だからこそ求められる自制心

ご存じの通り、「自制心」とは、「自分の気持ちや欲求を理解し、そのうえでコントロールできる力」のことです。

私は、この自制心こそが、これからの時代にとても重要になると見ています。なぜなら、これから先は「変化が大きな時代」になると予測されるからです。「先行きが見通せない」といった表現もされますが、今後はわずかな時間の流れのなかでも、さまざまなシステムや価値観が変化していくでしょう。

また、そうした時代だからこそ、大きなピンチが訪れることもあれば、大きなチャンスが訪れることもあると考えられます。そして、そんなときに求められるのは、いかに冷静さを保って適切な対応をしていくかということです。

大きなピンチに見舞われ、不安にさいなまれたときに、適切な対応をするのが難しいのは当然のことです。一方、大きなチャンスが訪れたときに、気持ちが高ぶり過ぎて冷静さを欠いてしまえば、足をすくわれてしまうかもしれません。

だからこそ、どんなときにも自分の気持ちを理解し、しっかりとコントロールすることが大切で、それこそが変化の大きな時代をたくましく生きていくために不可欠な力なのです。

まず自分を「止める」ことが自制心を育む第一歩

ここからは、子どもの自制心を育むための方法をお伝えしましょう。保育現場で実践することを考えて、遊びの要素があるものをピックアップしてみました。

まずおすすめしたいのは、みなさんもご存じの「だるまさんがころんだ」です。

「だるまさんがころんだ」では、鬼が「だるまさんがころんだ」と言って振り返った瞬間に、自分の動きを止めなければなりません。実は、この「止める」という行為が、自制心の発達に大きく関連するのです。

園での生活において、子どもが自制心を働かせなければならない場面には、どんなものがあるでしょうか? たとえば、遊びの時間が終わって先生の話をしっかり聞かなければならないといった場面も、そのひとつですよね。

そのとき、子どもたちは夢中になっている遊びを止めなければならず、それができなければ先生の話は聞けません。つまり、自分の気持ちをコントロールする最初の一歩は、何かを「止める」ことであり、そこにこそ「だるまさんがころんだ」をおすすめする理由があります。

「止める」という意味では、私が「ストップゲーム」と呼んでいる遊びもおすすめです。「ストップゲーム」は、「何をしていようと、『ストップ!』と言われたら、両手を胸の前でクロスさせて行動を止める」というゲームで、このルールが浸透すると、走りまわって遊んでいるときにも、保育士さんが「ストップ!」と言うだけで子どもたちは面白がって行動を止めるようになります。

もちろん、子どもがきちんと止まれたら「しっかり止まれたね!」とほめてあげてください。そうすれば、子どもたちはゲームを楽しみながら、ぐんぐんと自制心を伸ばしていくはずです。

子どもを叱るには、事前に叱るルールを伝えておく

自制心を育むという視点で言うと、「否定」で子どもをコントロールしようとするのはNGです。

子どもがおもちゃを散らかしっぱなしにしたときなどは、「駄目でしょ!」と否定の言葉で叱りたくなるかと思います。しかし、そうやって頭ごなしに行動を否定された子どもたちは、自制心が伸びにくくなります。自分で考えて行動をコントロールするのではなく、「考えなくてもいいや」「言われたことだけやればいい」と思うようになるからです。

叱りたくなる場面では、保育士の側が冷静になって、「どうしてほしいのか」を具体的に伝えることを意識しましょう。前述のケースであれば、「散らかしちゃ駄目でしょ!」ではなく、「このおもちゃはあの箱に入れようね」と伝えるのです。

そして、このことは「叱り方」にも通じます。基本的に否定はNGですが、園での生活においては叱ることが必要な場面もあるでしょう。やりたい放題で自由にさせておくのは、子ども自身の将来のためにもいいこととはいえません。

だとしたら、どう叱るのがよいのでしょうか。「こういうことをしたら、先生、鬼になって怒っちゃうからね」といった具合に、子どもに対して事前に「叱るルール」を伝えておいてください。そうすれば、子どもたちは「これはしちゃいけないんだ」ということを学んでくれますから、必然的に叱る場面も減っていくでしょう。

また、「叱るときには過去のことを持ち出さない」というのも大切なポイントです。同じことで何度も叱ってきた子どもがいたら、つい「何度言ったらわかるの!」と言いたくなるかもません。しかし、この言葉は「あなたは何度言ってもわからない子」だと、子どもにレッテルを貼る言葉でもあります。そのため、言われた側の子どもは「自分は何度言われてもダメな子だから、もういいや」と感じて、そのあとも同じことを繰り返すようになってしまいます。

ルールを破ったことを叱りつつも、過去のことは持ち出さない。それを徹底しつつ、「こういうときはこうしてね」と根気よく子どもに対して伝えてほしいと思います。

EQWELチャイルドアカデミー・日本赤ちゃん発育学研究所・
新未来教育科学研究所主席研究員
1972年7月31日生まれ、東京都出身。工学博士、理学修士。京都大学理学部卒。同大学院修士課程を修了。教育分野における能力開発に従事し、専門学校講師、文部科学省委託プロジェクトメンバー等を歴任。EQWEL転籍後は研究活動も行い、2016年、子どもの呼吸誘導装置の研究成果が認められ、大阪工業大学大学院より工学博士(生体医工学)を授与された。現在は、「楽しく、わかりやすく、ためになる」をモットーに全国で講演活動中。主な著書に『子どもの天才脳を育てるコツ』、『ポジティブ育児メソッド』、『赤育本』、『子どもの未来が輝く「EQ力」』(いずれもプレジデント社)がある。
この記事をSNSでシェア