【保育・地域】確かな未来のために——。保育現場のリアルな声を伝える「出前授業」

【保育・地域】確かな未来のために——。保育現場のリアルな声を伝える「出前授業」

慢性的な人材不足が課題となっている保育業界。全国各地で人材の確保や育成、労働環境の改善が進められるなか、広島県健康福祉局安心保育推進課では、大学や専門学校に保育士を派遣する「出前授業」に取り組んでいます。

出前授業の目的は、保育士を目指す人材に対して、普段の授業や実習ではわからないリアルな声を届け、保育現場で働くやりがいや魅力を伝えていくことです。この取り組みがはじまってからは、県内の保育現場に「大きな変化」が見られたそうです。そこで今回は、安心保育推進課で参事を務める妹尾克佳さんに、出前授業を立ち上げたきっかけや、授業によってもたらされた変化などについて話をうかがいました。

「保育現場の魅力を伝えきれていない」という思いが企画の発端

広島県では、2017年4月から安心保育推進課を発足させ、保育に関わる人材の確保や育成、待機児童の対策、保育現場の処遇改善などに取り組んできました。そうしたなか、保育士を養成する県内の大学、専門学校などが17校集まった「保育士確保会議」からあがってきたのは、「保育士という仕事の魅力や現場の働き方について、もっと近い距離で学生に伝えたい」という声でした。

保育現場で実習を行っても、保育業務を学ぶことに必死で、あっという間に時間が過ぎてしまう。また、実習中は緊張していることもあり、気軽に働き方などについて質問をすることができない——。

養成校の先生方が感じているこうした課題を乗り越えるには、保育現場のリアルをお伝えするための「身近な場」が必要ではないかと考え、議論を重ねた結果、出前授業の前身となる企画をスタートさせることになったのです。

企画を実施するにあたって最初に行ったのは、気軽に立ち寄れる場所で養成校の学生と現場の保育士の方々が気軽に話し合える場をつくることでした。安心保育推進課の催しとしてはこれまでにないスタイルでした。これは養成校の授業だけではわからない保育現場でのリアルな働き方や実習先の選び方、家庭と仕事の両立の仕方など、さまざまな話題が飛び交い、私たちが想像していた以上の盛り上がりとなりました。 その後、関係者の方々と話し合うなかで、「もっと多くの学生に、あのような催しに参加してもらいたい」という考えが多いことを知り、本格的に出前授業に取り組むことになりました。出前授業を行う際、いちばん重視したのは「学生に出向いてもらうのではなく、こちらから出掛けていく」ということです。その形式であれば、多くの学生に思いを伝えられ、保育業界へ進もうとする若い力を育てられると考えたからです。

トークセッションでは真剣な質問が飛び交い、時間を超過することも

出前授業では、参加する学生の年齢や学年、実習経験の有無など、学校ごとの状況に応じた授業を展開しています。出前授業の中心となっているのは、保育士の方と学生数人によるグループセッションで、そこでは特別なテーマを設けず、学生が聞きたいことを聞いてもらうスタイルをとっています。

ときには「(結婚の)出会いはありますか?」「子どもを出産した後も働こうと思っていますか?」など、かなり踏み込んだ質問も出ますが、保育士の方は現場のリアルを伝えようと、常に真剣に回答してくださいます。互いに真剣なトークを交わすため、終了時間になっても質問がおさまらないことも多々あり、第一回目から、非常に活気のある取り組みとなっています。

広島県安心保育推進課で参事を務める妹尾克佳さん

当初の企画から、出前授業へとバージョンアップしたことで生まれた変化も少なくありません。例えば、「こちらから出向く」という形にしたことで、参加する学生が気軽にトークを楽しんでくれるようになったのも変化の1つです。「自分の学校で開催されている」という安心感が、積極性につながっているのでしょう。また、参加メンバーを数人単位にまとめるグループセッションを採用したことで、1人ずつの質問時間が増え、学生の満足感も高まっているようです。

基本的には、出前授業を実施する養成校のOGやOBの保育士の方を派遣しているので、「あの先生はどうだった?」「この授業はもう終わった?」など話題の共通点も多く、よりリラックスした雰囲気で授業を進められているのも、出前授業のよさだと思います。

授業後は、質問タイムに。現場のリアルを知るための質問が多い

出前授業を保育業界全体が「将来を考えるきっかけ」にしたい

2019年にスタートした出前授業は、オンラインでの実施を含め、これまでに10校、約400名ほどの方に参加していただきました。授業の前後には、毎回アンケートを実施しているのですが、そこでは保育に対する熱い思いや将来に向けての決意を書いている方も多く、出前授業の目的や思いがしっかり伝わっていると実感しています。

何より、授業が終わった後に、広島県が運営する保育総合支援サイト「ほいくひろしま」のアクセス数が格段に増えるので、「学生のみなさんは、将来保育現場で働くことを真剣に考えているのだな」とうれしくなります。

出前授業による変化は、学生だけでなく、授業に協力してくださった園長先生や保育士の方たちにも広がっている状況です。学生のリアルな声に触れたことで、保育士の働き方や若者のライフスタイル、仕事観について考えるようになり、時代に即した環境整備に向けて動き始めた保育施設もあると聞きます。そうした動きを起点にして、県内にある他の保育施設にもよりよい変化が生まれることを期待したいです。 保育士本来の魅力は、子どもの成長に寄り添い、さまざまな方を笑顔にできること。その笑顔や感動が継続するような環境を育み、関係者全員が保育の仕事に希望を感じられるように、私たちもこの取り組みに全力を尽くしていきます。

広島県の保育情報を見るなら「ほいくひろしま」

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【お問合せ先】
広島県健康福祉局安心保育推進課
電話:082-513-3174

取材・文/橋本 未来  編集/イージーゴー

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