【食育①】セミバイキング形式の給食やクッキングを導入「さくらぎ保育園」から学ぶ食育の取り組み

【食育①】セミバイキング形式の給食やクッキングを導入「さくらぎ保育園」から学ぶ食育の取り組み

子どもたちが給食を楽しむランチルーム。セミバイキング形式なので、それぞれが食べたい量を盛り付けます。

東京都西多摩郡にある「さくらぎ保育園」は、栄養士と保育士で構成された「食の委員会」を設置したり、子どもたちが食べたい量を自由に決められるセミバイキング形式の給食を導入したりと、食育に特に力を入れている保育園です。セミバイキング形式の給食というのは、とても珍しい取り組みですが、そこにはどのような目的やメリットがあるのでしょうか。インタビューの前編では、「さくらぎ保育園」の園長である宮林佳子さんと栄養士の佐藤瞳さんに、食育や給食に対する思いを聞いてみました。

セミバイキング形式で好き嫌いを克服「認められ認め合う喜び」

――まずは、「さくらぎ保育園」の施設紹介からお願いいたします。

宮林:さくらぎ保育園は、東京都西多摩郡にある保育園です。2023年3月時点の園児数は123名で、0歳〜5歳までの子どもたちが、日々伸び伸びと過ごしています。また当園では、食事を「ただ単に栄養をとるだけの時間」としてとらえるのではなく、「個性を認め意欲を育てるための大切な時間」だと考え、食育には特に力を入れてきました。

食育に関する代表的な取り組みとしては、年齢に合わせて「こねる」「まぜる」「きる」などの作業を行いながら、子どもたち自身がお菓子作りや料理をするクッキング活動や、自分が食べたい量を自由に決められるセミバイキング形式の給食などが挙げられます。

――セミバイキング形式の給食というのは、具体的にどのような給食なのでしょう。

宮林:園児が自分で自分の食べる量を決めるスタイルのことで、20年以上前から導入しています。現在は、新型コロナウイルスの影響もあり、栄養士が盛り付けを行っていますが、4〜5歳の子どもたちは、もともと自分で食べたい量をお皿によそっていました。食事の量は規定量より少なくすることも、多くすることも可能です。

もちろん、苦手な食べ物を食べないという選択もできますが、当園では料理をした人への感謝として、「用意されたものは、一口でもいいのでどれも食べるようにしましょう」と声掛けしています。そうした意識が根付いたおかげなのか、キノコを食べられない子が、栄養士に「この大きさのキノコは食べられないから、こっちのキノコにしてほしい!」とお願いすることもあるんですよ。また、毎日の食事を通じて、それぞれの苦手なものがわかってくるので、栄養士のほうから「今日はこのくらいの量にチャレンジしてみる?」「このキノコは前と同じ種類だから食べられると思うよ」などの声掛けをすることもあります。

「認められ認め合う喜び」が、さくらぎ保育園の理念であることから、職員も栄養士も子どもたちの意見をとても重視しています。ですから、「こんなの食べられない!」と特定の食材を拒否する子がいても、頭ごなしに否定することはありません。幸い子どもたちはみんな素直なので、「一生懸命作ったんだよ」と言うと「じゃあ、ちょっとだけ食べてみようかな」と返ってくることも多いですね。そんなふうに、たくさん食べたい子も、好き嫌いが多くてなかなか食べられない子も、作ってくれた人への感謝を忘れずに食事を楽しんでいるのも、当園の特徴かもしれません。

おかずだけではなく、好きなデザートを自由に選べるデザートバイキングを実施することも。

――なぜ、セミバイキング形式の給食を導入しようと思ったのですか?

宮林:先ほどお話した「認められ認め合う喜び」という理念を、食においても具現化したかったからです。当園には、食事を取るためのランチルームがあるのですが、ランチルームを作る際に、職員全体で給食について幾度も話し合う機会がありました。そのときに、ある男性保育士が「自分にとっては、『いかに早くいかに多く食べるか、好きなものをどれだけおかわりできるか』が給食のテーマだった」と言っているのを聞いて、とても驚いたんです。私自身は、好き嫌いが多いうえに、決められた量を食べることがすごく大変なタイプだったので、「やはり食に対する考え方や、食べられる量は一人ひとり差があるのだな」と実感しましたね。

だからこそ、給食に自分の嫌いなものが入っていた場合や、量が多かった場合は、食事が「マイナスなもの」に思えてしまう。だったら、いっそのことセミバイキング形式を導入して、自分の食べる量を自由に決められるようにしたらどうだろうと考えたんです。セミバイキング形式は自分が食べられるものや、食べられる量を選んでよそえます。例えば食べられる量が適量の半分でも、料理を減らすのではなく、最初に1/4をよそい、美味しければ、また1/4をおかわりしても良いわけです。子どもたちは「おいしかった」「おかわりした」と、給食を「プラスなもの」としてとらえられますよね。おかげさまで、セミバイキング形式を導入して以降は残食もなく、子どもたち一人ひとりの食べる量や食べられる食材も増え、楽しんで食べてくれています。

――食を「プラスのもの」としてとらえられるのは、素敵なことだと思います。ほかに、セミバイキング形式のメリット・デメリットがあればお聞かせください。

宮林:繰り返しになりますが、いちばんのメリットは、それぞれが食べられる量に合わせて食事を提供できることです。子どもたちのなかには、すごく食べたい子やちょっとしか食べられない子、好き嫌いが多い子、少ない子など、さまざまなタイプがいます。ですから、全員に同じ量を盛り付けると、足りなかったり、持て余したりしてしまいますよね。でも、セミバイキング形式であれば、それぞれに食べられる量を調整できるので、全員が無理なく食事を楽しめます。また、食わず嫌いの子も少しの量からチャレンジすることで「あっ!これ美味しい!」という発見もあり、食べられる食材も広がり、食が豊かになります。

食事の時間が苦痛になるような状況は、どうしても避けたかったので、セミバイキング形式にしたメリットは大きいと感じています。加えて、「食べられない自分」を認めたり、認め合えたりすることも、メリットのひとつだと思います。嫌いな野菜があったとしても、「今日は栄養士さんと一緒に選んで、この野菜を食べてみたよ」「今日はキャベツを食べられたよ!」などのやり取りを繰り返すことで、子どもたちは自信がついたり、前向きな気持ちになれたりしますからね。

佐藤:デメリットは、一般の給食に比べて、盛り付けに時間がかかることでしょうか。1クラスが25人程度なので、1人ずつ自分で盛り付けると、どうしても時間がかかってしまうんです。普段は少しくらい時間がかかっても問題ないのですが、発表会や運動会などの行事前は、時間の調節がうまくいかず、デメリットに感じることもあります。なので、そういうときは、子どもたちの活動の様子を見ながら、栄養士が配膳を行うようにしていますね。

また、「苦手なものが多い子は栄養が足りないのでは?」「栄養士が盛り付けたら量を加減できないのでは?」と思う方もいらっしゃるでしょうが、栄養士は毎日子どもたちとコミュニケーションを取っているので、それぞれの好き嫌いや食べられる量をだいたい把握しています。そのため、「この子は小盛りかつ野菜が苦手」「この子は大盛り」といった具合に、調整して盛り付けるようにしているので、一人ひとりに対してバランスの良い食事を提供できます。

――子どもたちから、特に人気だったメニューがあれば教えてください。

佐藤:昨年の12月に実施したラーメンフェスです。子ども達が大好きなラーメンで何か楽しいことができないかと考え、『ラーメンフェス』を行いました。「北海道みそ」「東京しょうゆ」「九州とんこつ」の3つの味を用意して、好きな味を自由に選べるようにしました。子ども達に3つの味と5種類のトッピングが描いてあるチケットを事前に配り、食べたいものに丸をつけてもらったのです。

また、各地のラーメンの特徴がわかるように、日本地図を見せながら「今度ラーメンフェスをするんだよ」「この地域はこんな味なんだよ」とそれぞれの地域の特徴や味についても説明すると、「雪がいっぱい降るところだよね!」「スカイツリーに行ったことあるよ!」と、ラーメンだけではなく、いろいろなとことに興味が広がっていきました。

当日、子どもたちは思い思いにラーメンを楽しんでいました。味やトッピングを自分たちで選んだことが印象的だったようで、ラーメンフェスは大好評。本当によく食べてくれましたね。

ラーメンフェス当日の様子。手作りのご当地シールももらって、ラーメンフェスは大盛況!

――セミバイキング形式の昼食について、印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

佐藤:以前、Kくんという男の子が当園に通っていました。その子は本当に野菜が苦手で、食べられる野菜がとても少なかったのです。それであるときから、「今日の料理には、この野菜とこの野菜が入っているんだな」と、ひと目でわかるようにしてみたんです。たとえば、スープの具材を別の皿の上に乗せておき、その子が確認できるようにするといった具合です。ミネストローネなど、パッと見ただけで何の野菜が入っているかわからないものでも、具材がわかるようにすれば、野菜嫌いの子も安心できますよね。

また、野菜が入っているおかずがあった場合は、時間がかかっても良いので、自分で食べられるものを探して盛り付けるように声を掛けていました。Kくんは、時間をかけていちばん小さなキャベツやニンジンを探していましたね。でも、そうやって自分で納得するまで選んだおかげで、結果的には苦手な野菜でも残さず食べることができたんです。その光景が今でも忘れられなくて、とても印象に残っています。

――セミバイキング形式の給食を提供するにあたって、注意していることはありますか。

佐藤:大きくふたつあります。ひとつめは、さまざまな大きさの食材を用意することですね。いろいろな大きさがあると、「大きいのと小さいの、どっちがいい?」と、子どもたちに尋ねることができます。すると、子どもたちは「こっちがいい!」と自分なりに選んでくれます。そして、自分で選んだものは、苦手な食材でもがんばって食べてくれるのです。小さな工夫ですが、とても大事なことだと思います。

もうひとつは、発注量の調整です。セミバイキング形式の給食では、全員が同じ量を食べるわけではないので、余ったり足りなくなったりしないように、気をつけなくてはいけません。たとえば、子どもたちに人気の肉料理であれば、肉の発注量は通常の量よりも少し多めにする。魚は肉料理ほど人気がないこともあるので、肉よりも少し少なめに発注するなど、常にちょうどいい量を提供できるように配慮しています。

取材・文/タケウチ ノゾミ 編集/イージーゴー

この記事をSNSでシェア