【体験①】子どもたちの“にんげん力”を育む「裸足保育」のメリットとは?|中里どろんこ保育園

【体験①】子どもたちの“にんげん力”を育む「裸足保育」のメリットとは?|中里どろんこ保育園

子どもたちだけではなく、スタッフも裸足で過ごします。

東京都清瀬市にある「中里どろんこ保育園」は、子どもたちが裸足で過ごす「裸足保育」を取り入れている保育園です。裸足保育は珍しい取り組みですが、そこにはどのようなねらいがあるのでしょうか。また同園では裸足保育のほかにも、火起こし体験や魚の解体ショーなどさまざまな体験カリキュラムを実施し、子どもたちの“にんげん力”を育んでいます。インタビューの前編では、「中里どろんこ保育園」の施設長である小川 愛さんに、裸足保育のメリットや体験型プログラムの内容について話を聞いてみました。

注目の自然保育や体験型保育を実施「中里どろんこ保育園」

――まずは、「中里どろんこ保育園」の施設紹介からお願いいたします。

中里どろんこ保育園は2018年に開園した、清瀬市のなかでは比較的新しい保育園です。定員は0歳児が6名、1歳児が16名、2歳児が18名、3歳児から5歳児が20名ずつの合計100名で、比較的規模は大きいです。

当園がある清瀬市はとても緑が豊かで、自然環境に恵まれた地域。園の近くには雑木林や川があり、春には桜並木、秋には紅葉が見られるなど、四季の移ろいも存分に感じられます。そのため、子どもたちが自然のなかで遊んだり、学んだりする機会がとても多いんですよ。

自然が豊かな場所にある中里どろんこ保育園。園庭には築山もあります。

――裸足保育を取り入れていると伺っていますが、裸足保育とはどのような取り組みなのでしょう。

その名の通り、靴下を脱いで一日中裸足で過ごす保育のことです。裸足保育の目的は、足の指で地面をつかむ力を身につけて、立つ、走る、跳ぶ、よじ登るなどの動作が、しっかりと行えるようになること。どろんこ会グループとしては、1998年の創立当初から取り入れています。 また、当園では裸足保育だけでなく、草履保育も行っています。草履は、もともと冬の寒い時期のために用意していたのですが、草履の感触が好きな子も多く、なかには一年中履いている子や、草履で登園・降園している子もいます。子どもたちは裸足で生活することで、足から伝わってくるさまざまな感触を楽しんでいるようです。

裸足保育では、足の指でしっかりとつかむ力を身につけられます。

中里どろんこ保育園に聞いた「裸足保育」のメリットとは?

――裸足保育のメリットについてもお聞かせください。

足指でしっかりと地面をつかんで歩いたり、足指を使って木登りをしたりすると、土踏まずが形成されやすくなります。土踏まずには衝撃をやわらげる、体のバランスを取りやすくするといった役目があるのですが、最近は体を動かす機会が減っていたり、靴や靴下を履いていたりするために、土踏まずが形成されにくくなっているんです。また、靴や靴下で足を締めつけてしまうと、足指が広がらなくてすぐに足が疲れたり、つまずきやすくなったりもします。そうした問題の解消につながるのが、裸足保育のいちばんのメリットですね。

当園ではスタッフも裸足で過ごして、「子どもたちはこれくらいの土の温度を感じているんだな」「冷え込んだ朝は地面がかなり冷たいな」など、子どもたちと同じ感覚を味わっています。足裏から温かさや冷たさ、地面のでこぼこなどを感じ取ることは、脳への良い刺激になっているのではないでしょうか。

――子どもたちや保護者からの反応はいかがでしょうか。

保護者の方からは、「以前に比べて体が強くなった」というお言葉をいただくことが多いですね。「泥の中に含まれる常在菌に触れると免疫力が高まる」という研究結果もあるそうですが、実際に子どもたちが病気にかかりにくくなるのを見ていると、毎日のように土の上を駆け回ったり、泥遊びを頻繁に行ったりしていることが、体に良い影響を与えているのかもしれません。

泥のなかで遊ぶ子どもたち。全身泥だらけです!

魚の解体ショーや火起こしなど「体験」が育む「にんげん力」

――裸足保育のほかにも、さまざまな体験型カリキュラムを導入されているそうですね。

魚の解体ショーや火起こし体験、炊き出し、停電体験などを行っています。火起こし体験や炊き出し、停電体験は、災害発生時にライフラインが途絶えた場面も想定しての活動です。もし、災害で電気やガス、水道が止まってしまったとしても、自分で火起こしをしたり、川に水をくみにいったりした経験があれば、焦らずに対応できますよね。当園では、子どもたちが自分で考えて行動する“にんげん力”を育むことを重視していて、こうした体験もその一環なんです。

――火起こし体験は、幼い子どもには難しい部分もあるかと思います。どのような形で実施されているのでしょうか。

年齢ごとに作業を分担するようにしています。マッチを扱う作業は5歳児クラスしか行いませんが、木を拾ってくる作業や木を組む作業には、すべての園児が携わります。そんなふうにひとつの体験のなかで、1人ひとりができることを担当してもらう形ですね。 加えて、やけどをしない最低のラインを子どもたちに知ってもらうようにもしています。前回、たき火をした際には、子どもと手をつないでギリギリの場所まで一緒に行ってみたんです。すると子どもたちは「顔が熱い」「ちょっと怖い」などさまざまな反応を見せていました。一方で「安全な距離を取っていれば、熱さは感じられない」ということも知ってもらえたので、こうした活動が火遊びの予防につながるのではないかと感じています。

マッチを扱うのは5歳児。火の熱さ、恐さも直接体験して学びます。

――さまざまな体験プログラムを実施するにあたって、にんげん力の育成のほかに重視していることがあれば教えてください。

子どもたちを無理やり参加させないことです。自分から「やりたい」と思わなければ、身にならないと思うので、やりたくないと感じている子を無理に参加させることはありません。もちろん「この体験をしたら、こんな楽しいことがあるかもよ」と誘いはしますが、本人がやりたくない様子であれば、本人の気持ちを大事にし、無理に参加を促すようなことはしません。

それと、子どもたちの「やってみたい」と思う気持ちを伸ばしてあげることも大事にしていますね。たとえば、紙飛行機を使った遊びで盛り上がっている場合は、次の日にそっと紙飛行機の作り方の本を置いておいたり、縁側に輪っかを取りつけて、そこに紙飛行機を通せるようにしておいたりといった具合です。言葉をかえるなら、子どもたちが見据えている未来に向けて、保育士が種をまいておくイメージでしょうか。このように、当園ではさまざまな場面で、子どもたちの意思を尊重するようにしています。

取材・文/タケウチ ノゾミ 編集/イージーゴー

この記事をSNSでシェア