【保育】小さく生まれた赤ちゃんの成長を見守りながら記録――「リトルベビーハンドブック」に込められた思い

「リトルベビーハンドブック」は、小さく生まれた赤ちゃん(リトルベビー ※1)の成長を記録するために作られた、母子健康手帳(以下母子手帳)のサブブックです。全国の自治体とリトルベビーのママ・パパたちが主体となって制作されており、今年度春には全国の37道府県で配布されることになっています。
ところで、このリトルベビーハンドブックはどういった経緯で生まれ、どのような思いが込められているのでしょう。リトルベビーハンドブックの展開をサポートしている国際母子手帳委員会事務局長・板東あけみさんと、1,412gで赤ちゃんを出産し、現在は滋賀県でリトルベビーサークル「滋賀のCOAYU」の代表、小島かおりさんにうかがいました。
※1 低出生体重児:生まれたときの体重が2,500g未満の赤ちゃん。
\お話を伺った方/
板東あけみさん 国際母子手帳委員会事務局長
小島かおりさん リトルベビーサークル「滋賀のCOAYU」代表
「母子手帳に記録が残せない」リトルベビーを持つママ・パパの苦悩
——そもそも“リトルベビー”は、どんな赤ちゃんを指す言葉でしょうか?
板東:「低出生体重児」は、2,500g未満で生まれた赤ちゃんのことです。1,500g未満で生まれた赤ちゃんは「極低体重出生児」、1,000g未満の赤ちゃんは「超低体重出生児」と呼ばれます。こうしたリトルベビーの多くは、妊娠38週で生まれてくる赤ちゃんよりも身体が未発達の状態。そのため、一定の期間を保育器のなかで過ごす子もいます。
——そうしたリトルベビーの数は、多いものなのでしょうか?
板東:厚生労働省の調査(※2)によると、2021年における体重1,500g未満の赤ちゃんの出生率は0.7%です。1,000人に約7人の計算で、それほど多くないのです。だからこそ、「どうしてうちの子だけ」と落ち込むママが多いのですね。
※2 厚生労働省「人口動態調査 人口動態統計 確定数 出生 」
小島:リトルベビーのママ・パパ達は、思いがけず早く産んでしまったことに大きな不安を抱えています。加えて、楽しみにしていたはずの母子手帳が嫌になってしまうママもいるのです。
普通の母子手帳では、発育曲線の目盛りが身長40cm・体重1kgからなのです。でも、リトルベビーはそれよりも小さく生まれてくる子どもが多いので、記録したくても書く場所がないのです。また、月齢ごとに記入していく「成長の記録」の質問(標準的な成長・発達を確認する質問)の回答も、「いいえ」が多くなりがちで、うれしいはずの母子手帳への記録が、“つらいもの”になってしまうママも多くいらっしゃいます。そうした経験が原因で、「自分の子どもは、国に認めてもらえない存在なのでは」「この先どうなっていくのだろう」と不安に思ってしまう方がいるとしたら……。とても悲しいことですよね。

赤ちゃんの小さな成長を記録できる「リトルベビーハンドブック」
——そうした赤ちゃんとママ・パパのために作られたのが、リトルベビーハンドブックですね。
板東:そうです。リトルベビーハンドブックは、母子手帳のサブブックとして作られている冊子です。発達を記録するページに加えて、先輩ママ・パパのメッセージや、県内の病院、相談機関の連絡先、地元のリトルベビーサークル情報などが記載してあるので、困りごとや悩みごとがあったときに、強い味方になってくれるはずです。最初は2011年に静岡県のリトルベビーサークルが作成し、2018年に静岡県版ができてその後少しずつ全国に広がっていきました。現在は37の自治体から発行され、主にNICU(新生児集中治療管理室)のある病院と他府県で出産したママなどのために市町村の母子保健窓口でも配布されています。もう子どもが大きくなっているけれど希望されるママ・パパも入手できるように、ほとんどの道府県では道府県のホームページで説明などに加えてリトルベビーハンドブックが全ページ印刷できるようになっています。

小島:内容もリトルベビーに合わせてあるのですよ。例えば、身長・体重の目盛りはどちらも0から付けられます。発達の記録は、「初めて◯◯できた日」といったように、月齢ではなくひとり一人の赤ちゃんの成長を感じられるものになっています。また、メッセージも事務的なものではなく、「小さく生まれたけど、こんなに大きくなったよ」など、当事者ならではの温かみのある口調で書かれたメッセージで、安心感があると思います。

——リトルベビーハンドブックは、国や各自治体が主導で作っているのでしょうか?
板東:いえ、多くの道府県ではリトルベビーのママ・パパたちが声をあげて各自治体に作成をお願いすることから始まります。
国や自治体のみで作る印刷物は、どうしても情報が多くなりがちです。しかし、子育てに不安を感じているときに必要なのは、先輩ママ・パパたちの生の声や、子どもの小さな変化を見つけることの大切さを記入しながら学べるものです。また相談先やサークル情報なども書かれています。このため各道府県、地元のママ・パパたちや病院や保健センターなどの関係者の意見や要望を集めて、半年余り相談を重ねて作られます。
そこには、「各地のリトルベビーのママ・パパが安心して子育てができるように」との思いが込められています。
小島:自治体単位で作るからこそ、地元のママ・パパたちの声を掲載したり、身近な相談先の情報を盛り込んだりと、きめ細かな対応ができるのです。滋賀県版のリトルベビーハンドブックを作るときも、イラストを描いてくれたり、メッセージを寄せてくれたりと、多くの方が協力してくださいました。『自分の経験が、同じ境遇の方たちの役に立つのはうれしい!』と、みなさんの自己肯定感も上がっています。

「たくさん書けてうれしい」と、喜びの声が相次いでいる
——リトルベビーハンドブックを使ったママ・パパ達からは、どんな感想が届いていますか。
板東:本当にたくさんの方から、『母子手帳に書けなかったことが書けてうれしい』と言っていただけています。なかには、各ページにびっしりと情報を書いてくださっている方もいるのですよ。また、最近はスマホで情報を探すママも少なくありませんが、リトルベビーハンドブックには「紙の冊子」だからこその良さもあるという声もいただいています。
——デジタル版は用意していないのですよね。それはなぜでしょうか?
板東:子育てに不安を感じているときにスマホで調べようとすると、つい不必要な情報まで見てしまい余計に落ち込んでしまうという声もよくうかがいます。でも紙の冊子であれば、そうした心配もありません。パラパラとめくるだけで、温かいメッセージやこれから起こり得る出来事など、本当に必要な情報に触れられます。病院で手渡しできるのも「紙の冊子」のメリットです。「電子化しないのか」とよく聞かれますが、今のところは紙の冊子だけを考えています。
——確かに、本当にママ・パパ達に寄り添える内容をインターネットで見つけるのは、難しいかもしれませんね。
小島:落ち込んだ気分では、なかなか前向きな情報収集ができません。そんな状況でリトルベビーハンドブックの存在は、リトルベビーのママ・パパたちが、“子育てに前向きに取り組むきっかけ”にもなっているようです。
一人一人の成長スピードを意識しながら、小さな変化を見つけて
——最後に、「ほいくらし」読者へのメッセージをお願いします。
板東:子どもたちの日常から、小さな変化をたくさん見つけてあげてください。リトルベビーの場合、保育園に入る年齢になっても、38週で生まれた子どもより成長がゆっくりなケースがあります。また、リトルベビーのママたちは、わが子と他の子を比べて落ち込んでしまいやすく、小さな変化に気付きにくかったりもします。ですから、保育者の方たちは、口頭でも連絡帳でもいいので、ぜひ『今日はこんなことができました』と小さな変化をしっかり伝えてあげてください。そして、お母さんたちの話を丁寧に聞いて、不安に寄り添ってあげてください。
小島:リトルベビーのなかには、予定より早く生まれたことで、学年が1つ前倒しになってしまう子がいます。そうすると、38週で生まれた子との差が、1年くらいあるなかで過ごすことになります。特に、0~3歳の子のクラスを担当する保育者の方は、『リトルベビーとして生まれた子どもたちにはそういう差があるんだ』ということを踏まえて、接していただけるとうれしいです。
取材・文/シモカワヒロコ 編集/イージーゴー


