年長さんが高齢者をもてなす「保育園レストラン」で、地域に元気を届けたい!

年長さんが高齢者をもてなす「保育園レストラン」で、地域に元気を届けたい!

三重県伊勢市矢持町。美しい自然が残る山あいの町には、「保育園レストラン」があります。保育園レストランとは、月に1回、町で唯一の保育園である「みどり保育園」が地域の高齢者を招いて、給食を振る舞う企画のこと。接客や配膳はすべて年長の園児たちが担います。

本記事では、みどり保育園の倉世古園長と保育園レストランの店長を務める新家先生に、取り組みのねらいや園児たちの様子、地域社会に対する思いなどをお聞きしました。

\お話をうかがった方/
倉世古久美子さん 一宇郷福祉会 みどり保育園 園長
新家みち子さん 保育園レストラン 店長

左:新家先生 右:倉世古園長

豊かな自然のなかで情緒を育む「みどり保育園」

——はじめに、みどり保育園についてご紹介ください。
倉世古:1956年(昭和32年)に建てられ廃校になった小学校を園舎として、1979年(昭和54年)に開園しました。現在、0歳児から5歳児まで25名の園児が在園しています。

廃校となった小学校校舎を園舎として利用しています。

矢持町は平家の落人伝説が残る自然豊かな町で、園の目の前には横輪川が流れています。夏はプールの代わりに川遊びをするんですが、年長になると川に飛び込んだり潜ったりと大はしゃぎ。安全な場所を選んで、沢登りを体験したりもします。また、春には田んぼでどろんこになりながら、農業体験も楽しんでいます。そんなふうに、里山ならではの自然を満喫できるのがみどり保育園のよさ。子どもたちには、そうした環境のなかで豊かな情緒を育んでもらえればと思っています。

横輪川での川遊びは、園児たちにとって夏の楽しみの1つです。

田舎で在園児が少ないので、異年齢が入り混じっての活動が多いのも特徴の1つです。年齢の異なる子ども同士で遊んだり、大きい子が小さい子のお昼寝を手伝ったり——。この園では、そんな風景が日常的に見られます。季節ごとの食材を使って園で給食を手作りするなど、食育にも力を入れています。

保育園レストランでは、年長さんが配膳と接客を担当

——保育園レストランを始めようと思ったきっかけを教えてください。

倉世古:ほかの田舎町と同様、矢持エリアでも高齢化・過疎化が進み、1人暮らしのお年寄りが増えています。でも、1人で食事をとるのはさびしいですよね。それで、「保育園で食事を楽しんでもらえれば」「少しでも元気を届けられれば」と思い発案しました。

新家:保育園レストランでは、落ち着いた雰囲気で食事を楽しんでほしいという思いから、しつらいにもこだわっています。基本的に空いている教室を利用するのですが、開催日にはテーブルにはクロスをかけるだけでなく、季節の花や飾り物をあしらったりもするんですよ。

十五夜の時期にあわせて、お月見の飾りつけがされた保育園レストラン。

——保育園レストランは、どのように運営しているのですか。

倉世古:レストランにお越しいただいた方から、1人350円の代金をいただいています。定員は10名で、参加者は市内の高齢者が中心です。いつもはリピーターの方が多いのですが、園児が保護者に「レストランに来て!」とお願いすることもあり、そんなときは定員をオーバーしたりもします。確か17名になったこともありました。

新家:保育園レストランで配膳と接客をするのは年長さんだけ。いわば「特権」なんです。食事の前には、園児が自己紹介をしたり歌を披露したりするほか、参加者に読み聞かせや紙芝居をしてもらったりと、ちょっとした交流も楽しみます。

——今年で10年目だとうかがっています。長い間続けてこられた理由は、どこにあるのでしょう。

倉世古:あえて行事ごとにしなかったからだと思います。行事ごとにしてしまうと、保育者も「何か企画をしなくては」と負担に感じるでしょうし、園児たちも練習に追われるかもしれません。

でも、保育園レストランの場合、園児たちは配膳を終えると「どうぞごゆっくり」といって下がり、参加者と一緒に食事をすることはありません。参加者は、食事をしながら大人だけで世間話に花を咲かせていますが、そのさじ加減がちょうどよかったのかなと思います。

メニューは園児が食べる給食を大人用にアレンジしたもの。みんなで食べると自然と話も弾みます。

保育園レストランにはエピソードがいっぱい!

——保育園レストランを開催するなかで、印象に残るエピソードがあればお聞かせください。

新家:楽しい思い出が、たくさん詰まった10年間です。あるおじいちゃんは、園児たちに手品を披露してくれるのですが、高確率で失敗するんです(笑)。でも、ハーモニカが上手で、おじいちゃんのハーモニカにあわせてみんなで歌ったりもしました。常連のおばあちゃん3人組は、いつもスカーフやブローチなどでおめかしをして、口紅をつけて来てくれます。本物のレストランに行くように、保育園レストランを楽しみにしてくれているのだなと思うと、本当にうれしいですね。

倉世古:普段は気分が沈みがちだというおばあちゃんも、保育園レストランに来ると、とてもいきいきと読み聞かせや紙芝居をしてくれます。最近では園児たちに読み聞かせる本を探しに、書店に行くのが楽しみになったと話していました。

そういえば、地域からカナダに移住した女性が里帰りをした際、カナダで育ったお子さんが、夏休みを利用して遊びにきました。その後子どもから「里山のレストランが楽しかった」という話を聞いたカナダ人のお父さんが、来日にあわせてわざわざ保育園レストランまで来てくれました。

読み聞かせや紙芝居で交流する時間。園児たちも興味津々です。

参加者とのやりとりから、「人との距離感」を学ぶ子どもたち

——保育園レストランを開催しているとき、園児たちはどのような様子ですか?

新家:他の園児たちのペースに遅れがちなおっとりした子が、ニコニコと楽しそうに接客する姿を見て、保育者が喜んでいたことがありました。レストランの来園者は、園児たちがゆっくりゆっくり慎重に配膳する様子を、「かわいいね」「ありがとう!」と温かい目で見守ってくれます。あわただしさがなくて、お互いに心地よいペースなのでしょうね。

——接客や配膳の練習などはしているのでしょうか。

倉世古:がんばりすぎずにやっているので、特に練習などはしません。年長になったばかりの時期には、緊張のあまり泣き出してしまう子がいたり、お金をいただく会計係に立候補する子が多くてもめたりする場面もありますが、そんな光景が見られるのは最初の数か月だけ。夏がすぎた頃には、店員さんとしての振る舞いも板につき、人懐っこく話しかける様子が見られるようになります。

新家:参加者は、園児たちにとって保育者でも家族でもない、新しい関係性の人です。日常の保育にはない活動を通して、漠然と「人との距離感」といったものを学んでいるのではないでしょうか。

参加したみなさんは、かわいらしい店員さんを優しいまなざしで見守ってくれます。

——保育園レストランを通じて、接客や配膳を担当する年長さんたちにはどのような成長が見られますか?

倉世古:働くことやお金に対する意識が高くなるように感じます。実は、食事代としていただく350円は、園児たちのバイト代として貯金しているんです。そして、貯めたお金で、卒園時に在園児たちへのプレゼントを買っています。なので、年長さんは「働いたお金で小さい子にプレゼントをしたい」といつも張り切っていますよ。

また、そんなふうに「年下の子にプレゼントをする」ことで、最上級生としての自覚も育まれているように感じます。ちなみに、これまではボールやキッチンセット、ブロックやパズルなどをプレゼントしました。

保育園レストランから地域を元気にしていきたい

——保育園レストランに対して、給食スタッフの方からはどんな反応がありましたか?

倉世古:思いがけず人数が増えてしまったときなどは、とても申し訳なく感じるのですが、みんな「月1回なら対応できる」「みんなで地域を元気にしましょう」と頑張ってくれています。保育園レストランの日は、野菜がかわいい形に型抜きされていたり、デザートがついていたりと、とても力が入っているんですよ。

矢持町は面積こそ広いですが、人口の少ない地域です。みどり保育園は地域で唯一の保育園ですから、これからも力を合わせてコミュニティを支える役割を果たしていきたいですね。

給食スタッフが腕によりをかけたクリスマスメニュー。

——保育園レストランはこれからも続いていくと思いますが、今後の展望についてもお聞かせください。

倉世古:毎月チラシを作成して、レストランの営業日をお知らせしているのですが、イラスト入りのチラシを楽しみにしてくれている高齢者の方も多いと聞いています。地域の方の「憩いの場」であり、園児たちにとっての「成長の場」でもある保育園レストランを、これからもゆったりと、自然体で続けていきたいと思います。

◆みどり保育園:https://midoris.ed.jp/

取材・文/二階堂ねこ 編集/イージーゴー

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