【現場レポート】作業療法士が幼稚園にやって来た!「困り事」を抱える子どもをサポートする新たな視点とは?

【現場レポート】作業療法士が幼稚園にやって来た!「困り事」を抱える子どもをサポートする新たな視点とは?

発達段階において、何かしらの課題を抱える子どもを支援するため、保育や幼児教育の現場に作業療法士がかかわるケースが増えていることをご存じですか?

そうした作業療法士は、各園や運営法人にスタッフとして常駐したり、要請のたびに外部からサポートに入ったりすることで、子どもたちの成長をサポートしています。

ここでは、学校などで作業療法士として活躍する仲間知穂さんが、実際に幼稚園を訪問したときの様子を紹介します。教育現場で「作業療法士ならではの視点」がどう生かされているのか、どんな援助やアドバイスを行っているのか。興味のある方は、ぜひチェックしてください!

作業療法士が訪れた、ある幼稚園での一日

今回、仲間さんが訪問したのは、都内にある私立幼稚園の年長クラスです。

サポートの対象となる2人の園児については、担任の先生が「日頃の園生活のなかで気になる言動や対応」に関する資料をまとめ、事前に仲間さんと共有していました。

Aくん(6歳)

(Aくん似顔絵)
  • 感情の起伏が激しく、以前は人や物に当たることが多かった(乱暴な言葉が出るときも)
  • 最近では嫌なことに向き合えず、逃げ出したり脱力したりする姿が目立つ
  • 人によくぶつかったり、姿勢維持が難しい様子で何かに寄りかかったりする
  • 自分より下とみなした子に対して態度が変わりがち

担任の先生から:周囲と尊重し合える関係を築き、困ったら人に相談できる力をつけてもらいたいです。

Bちゃん(6歳)

(Bちゃん似顔絵)
  • 会話する力はあるが、発言数が非常に少なく本心が見えにくい
  • 実際に嫌かどうかにかかわらず、「嫌!」と奇声を発することが多い
  • 自分で何かを選んだり、動き出したりすることができず、大人のアシストが必須
  • 集団行動への参加が困難で、部屋の隅に行くなど回避しようとする

担任の先生から:自分でできる力は持っているはずなので、安心して活動に参加し、本来の力を発揮してほしいです。

11:15 仲間さんが幼稚園に到着

園長先生や担任の先生にあいさつしたら、該当するクラスの活動内容や対象児について確認。

観察を行う際の注意点(例:記録方法にルールがあるかどうか)も、しっかりと確かめておきます。

(タブレット&ペンを持ちながら、他の先生とMTGする仲間さん)

11:30 2人の観察をスタート!

年長クラスは、園庭で運動の時間。かけっこやなわとびなどで体を動かす様子を観察しながら、仲間さんがメモを取っていきます。その際、仲間さんが注目したのは、膝をスムーズに曲げられず、ときどきカックンとなるような2人の歩き方。

また、Aくんはなわとびをうまく扱えずに何度も失敗し、他のことに気を取られてしまっている様子。Bちゃんのほうは、先生の話を聞くときにみんなの輪から外れ、少し離れたところに立っている姿が特徴的でした。

(ぎこちない表情・動きでなわとびに挑戦するがうまくいかないAくん)

12:05 お弁当の時間に見えてきたこと

昼食の準備で、手を洗ったり食器を用意したりする子どもたち。Aくんは、あちこちで頻繁に誰かとぶつかっており、先生に寄りかかっている時間も多いようです。一方、Bちゃんはどこか所在なさげな様子。

壁際にある「くぼみ」にすっぽりはまって動かなくなったかと思えば、少しの間だけ出てきて準備を進める、といった行動を繰り返していました。お弁当を食べる時間になっても、あまり食が進まないようです。

(他の園児が食事の準備をするなか、壁際のくぼみにスポッとはまるBちゃん)

13:00 おかえりの会のときの様子は?

椅子に座って先生が読み聞かせをしたり、連絡事項を伝えたりする時間。愉快な絵本にクラスのみんなは大笑いしていますが、Bちゃんはリアクションがありません。

かなり緊張した面持ちで座っており、絵本を楽しめていないようです。Aくんは先生の話を聞いている間も、おかえりの会が終わってからもかなり疲れた様子で、ぐったりと壁にもたれかかる姿が見られました。

(絵本の読み聞かせに集中できず緊張した面持ちのBちゃん、姿勢が崩れてぐったりした様子のAくん)

14:00 先生たちとの事例検討会

観察の結果を受けて、仲間さんと先生が事例検討会をスタート。

まずは、先生の届けたい保育をヒアリングしていきます。ヒアリングした内容をもとに、「届けたい保育」を実現するためにどうしたらいいのかを一緒に考えていけるように情報提供を行います。

そして、作業療法のプロとして気になった子どもの動きや様子、その背景として考えられることについて、仲間さんが解説していきます(詳細は下記をご覧ください)。併せて、先生のかかわり方のなかから、「ここは優れている」と感じた点や、今後実施すると良いことについてもアドバイス。みなさん真剣な面持ちで仲間さんの話に聞き入っていました。

AくんとBちゃんの事例検討が終わってから、他の気になる子について相談する先生が多くいらっしゃったのも印象的です。

(マイクを持って2人について話す仲間さんと、それを真剣に聞く先生方)

「気になる子」への対応、作業療法士はどう考える?

事例検討会では、AくんとBちゃんの様子を観察した仲間さんが、先生方にさまざまな見解や助言を伝えました。その内容を抜粋してご紹介します。

Aくんに関するフィードバック

Aくんは自分の体の位置や動きを認知する力が弱いことから、フルパワーでしか動けない状態です。何かに寄りかかったりベタベタ触ったりするのも、自分の手足の位置を確認する意味合いが大きいと思います。ブルドーザーで小道を走っているようなもので、一生懸命運転していたら物をなぎ倒し続けていた、というイメージですね。日常生活全般がうまくいかないことだらけで、それだけにイライラする場面が多いのでしょう。

しかし、先生方が丁寧にAくんとかかわってきたおかげで、暴力的な表現からは卒業しつつあるようです。「僕にもできるかも!」という前向きな心が芽生えたからこそ、失敗を恐れて逃げてしまう場面が目立つのだと思います。まだ集中力は長続きしないものの、先生方の話を聞こうとする姿勢も見られ、心のバランスを調整できるように支援しながら、身体的な発達を見守る時期にきているのではないでしょうか。

すでに先生方との信頼関係は十分だと思うので、「もし座っているのが苦しくなったら、先生に無理って言えるかな?」など、それ自体をミッションにすることで相談を促してみましょう。また、子ども同士の集団に入るとやりとりがうまくいかないことが多く、恐怖心から上下関係を構築しようとしているようです。「全員と仲良く」の前に、小さな関係性をつなげていけるようにアシストしてみてください。花に水をやるなど、力の微調整が不要な役割を与えて、クラスに居場所をつくってあげることも一案でしょう。

Bちゃんに関するフィードバック

Bちゃんが最も困っているのは、「感覚の調整」でしょう。Aくんと同様、自分の手足の位置や状態を把握する力が弱いため、傾いたまま歩いたり、肩ひもや帽子がずれていることに気づかなかったりします。一方で、聴覚や視覚、触覚への外部からの刺激には過剰なほど反応し、他の子どもには何でもない環境でも、彼女にとってはかなりの不快感につながる様子です。

特に、音や振動が反響する室内では不快感が大きく、耐え切れずに部屋の隅に「避難」したり、なるべく最後に教室に入ろうとしたりする姿が散見されました。集団のなかにいるとパニックになりかねないので、屋外では少し離れた位置に立っていましたね。彼女にとっての集団活動は、ホラーが苦手な人をお化け屋敷に連れていって、そこで何かさせるようなものです。現時点では、食事や絵本を楽しむような余裕はないでしょう。

ただ、先生方が無理に集団活動に参加させたりせず、「見て学ぶ」環境をつくってきたおかげで、彼女はできることがとても多いです。壁のくぼみにはまって気持ちを整えたら、また出てきて活動を続けるといった行動も、信頼できる先生方の期待に最大限応えたいという思いのあらわれでしょう。そうやって頑張っているBちゃんには、「教室に入るのはみんなの後でいいよ」といった言葉で安心させてあげることが大切です。また、入り口や壁際など、より安心感を得やすい席にするなども有効だと思います。

<仲間さんからのメッセージ>

私たちの役割は、先生方が届けたい保育・教育の実現をサポートし、子どもたちの元気を応援することです。気になる言動があるときは、そこにばかり着目せず、「届けたい保育・教育をかなえるにはどうすれば良いのか」という視点を持つことで、問題解決の糸口が見つけやすくなります。

保護者に説明するときも、いきなり子どもの課題を列挙するのではなく、「私たちは、〇〇ちゃんにこういう保育を届けたいのです」という希望のある話題から入るほうが、理解を得やすいでしょう。これを読んでいる保育士や幼稚園教諭のみなさんにも、作業療法士との協業について、関心を寄せていただけると幸いです。

1979年東京生まれ。2002年東京都立保健科学大学1期生として卒業。 回復期の河北リハビリテーション病院、沖縄リハビリテーション病院に6年間勤務後、作業療法士の養成学校・琉球リハビリテーション学院で7年間講師を務める。 2009年よりボランティアで学校での作業療法を開始し、2016年作業療法士による学校訪問専門の事業所「こども相談支援センターゆいまわる」設立、代表。3児の母。
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