世界2,700か所の砂場を調査したどろだんご先生が考える、子どもにとっての「最高の砂場」とは?<前編>

世界2,700か所の砂場を調査したどろだんご先生が考える、子どもにとっての「最高の砂場」とは?<前編>

土に触れる楽しさを知ってもらおうと、世界2,700か所以上の砂場を訪れ、独自の視点で砂場の研究を続ける人物がいます。その名はどろだんご先生、肩書きは「砂場研究家」です。

砂場を「子どもの発達にとって欠かせない存在」と位置づけ、最高の園庭づくりを目指すどろだんご先生は、保育施設に向けて砂場づくりのアドバイスや、泥だんごを使ったワークショップなども実施。日々、砂場に関する正しい知識の啓蒙や、砂場遊びのアップデートに取り組んでいます。とまぁ、こんな話を聞いていると「最高の庭園、最高の砂場ってどんなものだろう?」と興味がわいてきますよね。

そこでほいくらしでは、どろだんご先生にインタビューを依頼し、砂場に関するさまざまな話をうかがってみることにしました。インタビュー前編となる今回は、どろだんご先生が考える砂場の魅力や砂遊びの楽しさ、海外と日本の砂場の違い、日本の砂場の課題などを紹介していきます。

\お話をうかがった方/
砂場研究家 どろだんご先生

世界2,000か所以上の砂場を見てきたどろだんご先生。

待機児童問題解消への挑戦が、砂場研究家への第一歩

——どろだんご先生が、「砂場研究家」として活動するようになったきっかけを教えてください。

どろだんご先生:保育園づくりに関わったことがきっかけです。2016年、保育園の抽選に落ちた親御さんの「保育園落ちた日本死ね」という言葉が、ユーキャンの新語・流行語大賞でトップテン入りしたのを覚えていますか? 保育園の待機児童問題が深刻だったその頃、私は小児科医が会長・理事長を務める医療法人で、広報や経営企画の仕事をしていました。そして、あるとき「待機児童問題に寄与できないか」と、その法人において保育園をつくるプロジェクトが始まり、私がそのプロジェクトの責任者になったんです。

私は、「やるからには、最高の保育園をつくろう!」と意気込み、保育室や給食室などすべての設備にこだわって計画を進めていたのですが、そのなかであることに気づかされました。それは、園庭が子どもの発達に大きな影響を与えるということです。それで、「園庭も最高のものにしよう!」と思い、いろいろと調べたり考えたりするうちに、砂場の面白さにどんどん魅了されていったんです。

——最高の園庭を目指すなかで、遊具ではなく砂場に興味を持たれたのはなぜですか。

どろだんご先生:保育園の園庭をつくるにあたって、さまざまな理論や実例を調べた結果、「園庭のなかでも特に築山と砂場は子どもの発達に不可欠な存在ではないか」と考えるようになりました。体のバランスをとる、体を移動させる、用具を操作するなどの動きは、幼児期に獲得することが推奨されていますが、砂場と築山があればそうした動きが網羅できると感じたからです。

もちろん、ジャングルジムでバランス感覚や筋力が鍛えられたり、すべり台でスピードに対する体の使い方が身についたりと、他の遊具にも大事な役割があります。でも、砂場はただ砂があるだけのシンプルな遊具でありながら、ポテンシャルがとても高いんです。さきほど話した機能のほかにも、遊んでいるうちに手足の指の力加減が身についたり、子どもたちの発想力や想像力をかきたてたり——。おかげで、知れば知るほど砂場の魅力にとりつかれてしまいました。

どろだんご先生は世界の砂場を調査しています。こちらはオランダで出会った砂場。

——どろだんご先生は、子どもの頃から砂場がお好きだったんでしょうか。

どろだんご先生:いいえ、まったくです(笑)。私は名古屋の都会部の出身で、親には「砂場は汚いから触ってはダメ」と言われて育ちました。砂場で遊ばせてもらえなかった幼少期を経て、今は砂場研究家になっている。冷静に考えると、不思議ですよね。

海外の砂場は「遊びファースト」なのに、日本は「管理ファースト」

——砂場好きが高じて、世界中の砂場を訪れたとうかがっています。すごい行動力ですね。

どろだんご先生:2019年に実業家の前澤友作さんが、100人に100万円のお年玉をプレゼントする、「月に行くならお年玉」という企画を実施されたんです。それに応募したところ、「ぜひ、砂場の研究に使ってください。僕も久しぶりに砂場で遊びたいな」と100万円を投資していただき、砂場巡りを実現できました。

100万円を握りしめて、まず向かったのはヨーロッパです。砂場の起源はドイツにあると伝え聞き、ドイツを皮切りにオランダ、ベルギー、デンマークなど、ヨーロッパ各地の保育施設や小学校の園庭・校庭、公園を見学に行きました。その後もアメリカやアジアなどさまざまな地域を巡り、現在では2,700か所以上の砂場を調査しています。

——そのなかで、特に印象に残っている砂場について教えてください。

どろだんご先生:ベルギーの「ランアーケン公園」の砂場は最高でした。粒子が均等でサラサラで、寝転がってもまったく痛くないんです。子どもたちが砂場に全身でダイブして遊んでいる姿は、とても印象的でしたね。

ベルギーのランアーケン公園で、砂場にダイブして遊ぶ子どもたち。

本来、砂というのは0.075mmから2mmまでのものを指すのですが、日本の砂場の砂は粒子が大きくて、砂より大きな礫(れき)が混ざっているものが多いんです。なので、砂だけを使っているランアーケン公園の砂場は、遊びやすさが全然違います。

また、この公園の砂場は日本のように柵などで囲われておらず、子どもたちは砂場から他の遊具へと自然に移動できます。公園の管理者に話を聞いたところ、子どもたちの興味は砂場からトランポリンへ、トランポリンからすべり台へと変わりやすいので、興味の移り変わりに合わせて、シームレスに遊具を配置しているのだそうです。

このほか、ドイツのメーアブッシュにある公園も印象に残っています。住宅地の中にある小さな公園なのですが、砂場のなかに水道の蛇口が設置されているんです。砂遊びに水は欠かせない要素ですが、日本の公園だと砂場と水道が離れていることが多く、バケツで水を運ぶ必要がありますよね。でも、メーアブッシュ公園では子どもたちが砂遊びをしながら、すぐに水を使える。よく考えられていると思いました。

水が出る仕組みも工夫されているドイツの「メーアブッシュ公園」。

もう1つ挙げるとしたら、デンマークのコペンハーゲンにある保育園の園庭でしょうか。そこには、砂場だけでなく「泥場」も設置されていたんです。砂と泥はそれぞれに粒子が違うので、まったく異なる遊びになります。その両方を体験できる環境なら、子どもの感性はより豊かになるだろうなと感心しました。

——海外と日本の砂場と比較した場合、いちばんの違いは何でしょう。

どろだんご先生:海外の砂場は子どもの視点に立っており、発達段階や遊びの特性を踏まえた配慮があります。言葉にするなら、「遊びファースト」といったところでしょうか。対して、日本の砂場は砂場を管理する大人の視点に立っており、囲いがあったりブルーシートが敷かれたりして、「管理ファースト」に見えます。加えて、日本では公園に砂場を設置する義務がなくなったため(※)、砂場の数は減少傾向にあります。公園に砂場がないと、子どもはわくわく感が減るではないでしょうか。

※かつては児童公園に砂場の設置が義務づけられていましたが、1993年の都市公園法改正により、児童公園の名称が消失し、砂場の設置義務が廃止されました。

遊びに適した設計をするだけでなく、きちんと遊び方を伝えることも大事

——どろだんご先生は、砂場の設計も手がけています。砂場づくりにおいて最も重要な要素は何ですか。

どろだんご先生:砂場づくりで大切なのは、子どもの遊びに適した設計がなされていることです。特に重視しているのは、砂の粒子の大きさと砂場の深さで、砂は建築用の砂ではなく珪砂や川砂を選んでいます。一方の深さについては、1m掘り下げて底に大きい砕石を入れ、真ん中に通水シートを敷いて水はけを良くしたうえで、50cmの深さまで砂を入れるようにしています。

ただし、いくら良い砂場をつくっても、遊び方がわからないと砂場の面白さは伝わりません。ですから、砂場が完成した後のセレモニーでは、必ず遊びのワークショップを行っているんです。

保育園の場合であれば、先生たちに砂の粒子と水の関係を説明しながら、「本気の砂遊び」をレクチャーします。具体的には、「砂遊びのコツは、水をしっかり使うこと」「ケーキのような“重ねる造形”をつくれるように、底が抜けている道具を使うと楽しい」「飲料用の紙パックを使うのもおすすめ」といった具合ですね。

底が抜けた植木鉢などを使うと、重なる造形がつくれて砂遊びをより楽しめます。

そうやって先生たちが覚えたノウハウで砂遊びをリードしてあげると、子どもたちも先生をまねて遊び始めます。本気の砂遊びができるようになると、子どもたちの遊びへの集中力が全然違うんですよ。園長先生から「子どもたちの遊びが圧倒的に変わった」とうれしいお手紙をいただいたこともあります。これを読んでいる保育士さんにも、ぜひ試してほしいですね。

◎後編では、子どもたちの発育と砂場の関係についてうかがいます。

■SUNABA inc.:https://sunaba-inc.com/

取材・文/二階堂ねこ 編集/イージーゴー