講師や他園の先生と交流しながら、保育のやりがいを再確認! 保育者のためのイベント「Gakken保育夏フェス」を徹底レポート

講師や他園の先生と交流しながら、保育のやりがいを再確認! 保育者のためのイベント「Gakken保育夏フェス」を徹底レポート

2024年8月10日(土)、Gakkenの保育雑誌『あそびと環境0.1.2歳』『ほいくあっぷ』が、保育者を応援する「Gakken保育夏フェス」を開催しました。イベントには、年齢も性別も勤務する園もさまざまな100名以上の保育者が来場。学びあり、エクササイズあり、出会いありと盛りだくさんの内容で、大いに盛り上がったイベントの模様をレポートします。

 “夏フェス”と呼ぶにふさわしい充実のプログラム!

レストランのテーブルでノートパソコンを使っている人々

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1人で参加した方も多数いらっしゃいましたが、すぐに打ち解けて和気あいあいとした雰囲気に。

新たな保育のあり方を知りたい、他園の先生とつながりたい、保育のモチベーションを上げたい——。そんな保育者特有のニーズに応えるために開催されたのが、「Gakken保育夏フェス」です。Gakkenはこれまで、保育者を対象にした講習会を毎年夏に実施してきましたが、“夏フェス”と銘打ったイベントは初めて。講師によるトークに加え、参加者や講師との交流が楽しめるグループワークやセッションなど、“夏フェス”の名称にふさわしい充実のプログラムが用意されていました。

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販売・展示コーナーには、Gakkenの保育書籍がずらりと並んでいたほか、遊具の販売も行われていました。

会場となった学研ビルの多目的ホールには、100名以上の保育者が続々と来場。参加者の多くはホールの入り口付近に設けられた販売・展示コーナーで足を止め、ブースに並ぶ保育書籍・グッズを手に取ったり、現役保育士インスタグラマー345さんこと松本さやさんのシアター展示に見入ったりと、講演開始までの時間を思い思いにすごしていました。

0歳〜2歳児に安心を与えてくれる大人に出会うことが、心の成長につながる

午前10時になると、Gakken『ほいくあっぷ』編集長の三谷加奈子さんのあいさつで「Gakken保育夏フェス」がスタート。最初に登壇したのは、乳幼児教育実践研究家の井桁容子さんです。

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井桁容子(いげたようこ)さん
保育SoWラボ代表、非営利団体コドモノミカタ代表理事。実践を通じた保育の研究機関である東京家政大学ナースリールームにおいて、42年間にわたって0・1・2歳児の保育の実践と研究に従事。NHK Eテレ「すくすく子育て」「まいにちすくすく」の助言者として出演。著書に『子ども主体で考える かみつき・ひっかき』(Gakken)などがある。

井桁さんの講演のテーマは「0・1・2歳児保育の面白さと重要さ」。冒頭で井桁さんは「これからの時代を生きる人間に求められていることについて、考えたことはありますか?」と参加者に問いかけます。

実を言うと、井桁さんは子どもの頃から、学校でよい成績の子ばかり褒められることに違和感を抱いていたのだとか。なぜなら、学校のテストでは、教科書を暗記すればよい点数が取れてしまうからです。暗記する能力があるのはすごいことだけれど、それだけではつまらない。人の得意なことはそれぞれ違うし、その違いこそがすばらしいのだ。その思いは成長し、研究者になってからも変わらなかったそうです。

会議室にいる人たち

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「テクノロジーが進展した時代だからこそ、これからの人間に必要なのは暗記する力ではなく“心”です」と話す井桁さん。

「人は、赤ちゃんのときからそれぞれに違っています。ですから、赤ちゃんの前にいろいろなおもちゃを置いて、この子はどれを触るだろう、どう使おうとするだろうと観察していると、その子が持って生まれた特性が見えてくる。その特性に保育者がどう関わるかによって、性格がつくられていきます」

そこで保育のプロに求められるのは、その子がなぜ泣いているのか洞察し、原因を突き止めて解決してあげること。「『また泣いた、困った子ね』などと言って、とりあえず抱っこしてあやすのは、プロのすることではありません。泣いている子に必要なのは、スキンシップではなく安心感を与えてあげることです。睡眠は十分か、水分は取れているか、トイレは大丈夫かと相手の様子を探り、不安を取り除いてあげてください」と井桁さんは話します。

また、「0・1・2歳児のときに安心を与えてくれる大人に出会うことが、3・4・5歳児になったときの心の成長にもつながる」と言う井桁さん。「0・1・2歳児の保育で安心を与えられた子どもは、3・4・5歳児の保育を終えたときに『僕たちだけでやるから、困ったときだけ先生が助けて』と言える、自立心のある子どもに育ちます。そんな保育を提供し続けることができれば、不登校の問題も解決に向かうかもしれないと思っているんです」と、0・1・2歳児保育の重要性を強調しました。

「自立に必要な生活の技術」を育むには、3歳〜5歳児の体験が大事

次に登壇したのは、大阪総合保育大学特任教授の神長美津子さんです。神長さんは3・4・5歳児の保育について、自ら実践してきた保育や研究の結果をもとにお話をしてくださいました。

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神長美津子(かみながみつこ)さん
宇都宮大学教育学部附属幼稚園にて20年勤務の後、文部省初等中等教育局幼稚園課教科調査官、東京成徳大学教授、國學院大學教授を歴任。幼児期から児童期への発達と教育について実践的な研究に取り組んでいる。平成20年度幼稚園教育要領、平成28年度幼稚園教育要領、および幼保連携型認定こども園教育・保育要領の改訂委員。現在、国立教育政策研究所教育課程研究センター上席フェロー。

2017年3月、幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領が改訂され、「幼児教育において育みたい資質・能力(※2)」に焦点が当てられるようになりました。神長さんはそうした資質・能力を「人間が自立するのに必要な生活の技術」と定義。その基礎をつくるのが、3・4・5歳児での体験だとし、それぞれの発達過程を「のびのび3歳児」「たじろぐ4歳児」「きらめく5歳児」と表現します。

※2 :要領・指針では、「知識および技能の基礎」「思考力・判断力・表現力等の基礎」「学びに向かう力・人間性等」を3つの柱としています。

3歳児は、4歳児や5歳児と比べても自由で、1人ひとりが自分の世界を持っています。たとえば、神長さんが3歳児のクラスの担任をしていたとき、ある男の子が割り箸を2本手に持って揺らしながら、1人で遊んでいたそうです。神長さんは、何をしているんだろうと思って眺めていましたが、男の子に「先生も乗っていいよ!」と言われて、ようやく遊びの意味に気づいたのだとか。その男の子がしていたのは、車の運転ごっこで、両手に持った割り箸は、車のワイパーだったのです。

「私が『乗りました』と言うと、その子は『先生、ドア閉めて』と言うんです。この子には見えないものが見えているんだなと、感心しました。そんなふうに自分の頭にあるイメージを表現できるのは、すばらしいことですよね。だからこそ、保育者にはそれぞれの子が持つ世界に寄り添い、一緒に楽しんであげてほしいと思います」

テーブルを囲んでいる人達

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「人が社会人として自立するために必要な資質・能力の基礎をつくるのが、3・4・5歳児での体験なのです」と神長さん。

一方、4歳くらいになった子は、周囲をよく観察するようになります。他者への関心が深くなり、友だちと自分の思いの違いに気づいて、たじろぐようになるのもこの頃です。神長さんは、「だから『たじろぐ4歳児』なんです」と言いながら、再びご自身の経験談を教えてくださいました。

「4歳は、他者には自分とは違う世界があると知り、他者の世界から自分を見ることができるようになる時期です。ただし、個人差がありますから、会話に齟齬が生じた場合は、『あの子はこう言っているんだよ』と保育者が助け船を出してもよいかもしれません」

それが5歳くらいになると、「これまでの経験が自信につながり、何にでも挑戦しようとします」と神長さん。そんな「きらめく5歳児」は、保育園でも自分たちだけで試行錯誤しながら遊ぶようになり、そのなかでクラスの一員としての意識も培われていくのだと言います。

もちろん、今回お話していただいた3・4・5歳の発達のあり方は、1つの傾向にすぎません。しかし、「保育者はそうした子どもの発達に合わせて関与の仕方を変えたり、発達に合わせた遊びや学びを提供したりする必要がある」と神長さんは言います。

「多様な『体験』が自信を育て、子どもの育ちを支えます。そのためにも保育者は保護者も巻き込みつつ、子どもと一緒にさまざまな体験をつくってあげてくださいね」

15分間のワークアウトとグループワークで、会場の雰囲気はヒートアップ

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『つまぷるで腹ペタ!』(Gakken)のみっこ先生によるYouTube動画を見ながらみんなでエクササイズ。

トーク終了後は昼休みに入り、会場ではこの時間を利用して、「『保育筋』を鍛えてほぐす! 10分間ワークアウト」が実施されました。ワークアウトは自由参加だったものの、開始時刻には、ほぼ全員の参加者が会場へ戻ってスタンバイ。みっこさんの『つまぷるで腹ペタ!』、中村光太郎さんの『タンデム歩行』、mieyさんの『股関節ムーブ』など、Gakkenの人気書籍でおなじみのエクササイズで、日頃の運動不足を解消しました。

ワークアウトの後は、参加者のみなさんが楽しみにしていたグループワークの時間。会場に並ぶ4人掛けのテーブルに座った4名が1組となり、ワークを行いました。

テーブルの周りに集まっている子供たち

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ワークのお題に合わせ、みなさん真剣な表情で考えながらシートに記入していきます。

参加者は、配布されたシートの中央に名前を書き、その周囲に「自分の好きなもの」を8つ書いていきます。そして、シートが完成したら、隣に座っている人とシートを見せ合いながらおしゃべりし、次に向かいの人とシートを見せ合いながらおしゃべり。最後に、斜め前の人とシートを見せ合いながらおしゃべりするといった形で進行していきます。

初対面の人同士がグループになるケースが多かったため、ワークが始まった直後は遠慮がちに話す光景も目立ちましたが、打ち解けるにつれて会場の雰囲気はヒートアップ。最初のワークが終了する頃には、まるで数年来の同僚に聞かせるように、どの参加者も自分の好きなものについて熱く語っていました。

テーブルで食事をしている人達

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シート記入後のおしゃべりタイム。各テーブルでにぎやかな会話が繰り広げられていました。

ほかにも、自分の仕事上の悩みや失敗を語るワークでグループのメンバーと語り合ったり、自分のキャリアを振り返るワークで真剣に考えたり……。ワークには井桁さんや神長さんも加わり、各テーブルを巡回していらっしゃいましたが、穏やかな表情で参加者の悩みに耳を傾ける姿が印象的でした。

約30分の予定時間をすぎるとワークは終了。みなさんの「話し足りない」という熱気が会場に立ち込めるなか、最後のプログラムである井桁さんと神長さんへの質問コーナーが始まりました。

井桁さん&神長さんへの質問タイムで、日ごろ感じている悩みを解消

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ご自身の体験談をまじえながら、質問に回答する井桁さんと神長さん。

質問コーナーでは、あらかじめ会場のホワイトボードに寄せられた質問に井桁さんと神長さんが回答したほか、挙手制の質疑応答も行われました。ここでは、質問と回答をいくつか抜粋して紹介します。

Q:保育への温度差を感じる職員が園にいます。その人に対して疑問を感じることも多いのですが、どうやって付き合っていけばよいでしょう?

井桁:「自分はどうありたいか」を考えてみてはどうでしょう。合わない人がいたときに、その人のことを悪く思ったり、悪く言ったりする自分がいいのか、「そんな人もいるわよね」と言って済ませられる自分がいいか。その両方を客観的に比べてみるんです。私の場合は、後者のほうが美しいと感じるので、そうあろうと努力してきました。

ただし、単に価値観が違うだけでなく、相手の考えややり方が保育に悪影響をもたらす場合、その人との対話が必要になってくると思います。その際に気をつけたいのは、相手と「討論」するのではなく、あくまでも「対話」するということ。白黒つけるためではなく、相手を知るためにするのが「対話」です。「私はこう思うけど、あなたはどう思いますか?」と丁寧な対話を続けていくうちに、相手に対する理解が深まって、付き合い方も変わると思いますよ。

神長:おそらく温度差のない職場なんて存在しないと思いますし、職員がすべて同じやり方で子どもに関わる必要もありません。ですから、私の場合は苦手な人と距離を取るようにしていました。そうやって自分の精神を穏やかにしておいたほうが、保育にとってプラスだと考えていたんですね。

ただ、井桁先生もおっしゃっていたように、保育観の違いにどうしても気になることがあるときは、相手とコミュニケーションを取る必要があります。そんなとき、私がおすすめしたいのは文字によるコミュニケーションです。言葉で「そのやり方はおかしい」とストレートに指摘するのではなく、振り返りや日誌のなかに付箋をたくさんつけて、その日自分が見た子どもの姿や気づいたことを細かく書いていく。そして、同じことを相手にもしてもらうんです。

そのなかで「先生と私はここが違いますね。次からはこうしませんか?」とコメントしたり、「◯◯に気づいてくれてありがとう」と感謝の気持ちを伝えたりすれば、お互いに理解が深まるのではないでしょうか。

テキスト, 手紙

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会場のホワイトボードに寄せられた参加者からの質問。質問大会で採用されたものもあります。

Q:まだ乳児なのに大人の顔色を見る習慣がついてしまった子どもや、5歳児になっても人の話が聞けない落ち着きのない子どもがいたとします。そんなふうに「この時期にはこう育っていてほしい」という姿からかけ離れた子どもに、保育者として何をしてあげればよいでしょうか。

井桁:私からは大人の顔色をうかがう乳児のケースについてお答えします。人は生後9カ月くらいから、自分の行動に対する周囲の大人の反応を確認し、物事の善悪などを判断するようになります。たとえば赤ちゃんが近くにあるコップに手を伸ばしたときに、大人がネガティブな反応を示したら手を離し、ポジティブな反応を示したら安心してその行動を続けるといった具合です。

心理学では「社会的参照」と呼ばれており、赤ちゃんが大人の顔色を見ること自体は自然な行為です。ただ、大人が激しい反応を示したり、思いがけない表情や言葉が飛んできたりすると、その原因となったものを見ただけで逃げるような子どもに育つこともあります。しかし、そうした習性は一生なくならないわけではありません。特に幼い子どもは脳細胞の新陳代謝が活発なので、周囲の大人の反応が変わればすぐに修正できると思いますよ。

神長:では、私は落ち着きのない5歳児についてお話します。人の話を聞けない、落ち着きのない幼児は結構いますが、難しいのはそれが問題行動なのかの判断です。担任から見たら落ち着きがなくて、お友だちの輪に入られないような子でも、違う立場の人から見たら独創的な子だね、好奇心旺盛な子だねとなることもある。

だからこそ、子どもの発達について考えるときは一面的な見方をせず、多面的に見る習慣を身につけるべきでしょう。ご質問のケースに限って言うと、そのような印象を受けました。

新しいネットワークもできて、参加者のみなさんにとって収穫の多いイベントに!

すべてのプログラムの終了後、参加者全員で記念撮影をして、「Gakken保育夏フェス」は終了です。最後に手渡された豪華お土産を手に、参加者のみなさんが名残惜しそうに帰路につく姿がとても印象的でした。

井桁さん、神長さんから貴重なお話をたくさん聞けたのはもちろんのこと、新しい友人や保育者ネットワークをつくる場にもなったため、参加したみなさんにとっては収穫の多いイベントになったのではないでしょうか。

ほいくらしでは、これからもイベントをはじめ保育まわりのさまざまな情報を発信していきます。ぜひご期待ください。

取材・文/岸良ゆか

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